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第七章
7-4 村に迎え入れられる
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村の外れにある家で、マルコさんたちを迎えた奥さんは、僕の顔を見ると満面の笑みになった。
「あらあら、お客さんなんて久しぶりだわ。いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
そう言って、軽い足取りで台所へ向かう。
「ほらな。客がくると機嫌がよくなるって言っただろう」
急に押しかけて迷惑じゃないかと心配していた僕は、マルコさんの言葉にホッと胸を撫でおろした。奥さんのエラさんは料理好きだそうで、たまの来客には自慢の料理を振る舞えると喜ぶのだそうだ。
エラさんの後を追うように台所に入った。
「あら、座ってていいのよ」
「いえ、僕にも手伝わせてください。普段は僕が食事の担当をしているので、座っているだけでは落ち着かなくて」
そう言うと、エラさんはくすりと笑った。
エラさんがソーセージを焼いてくれているうちに、兎肉のトマト煮込みとサラダを盛り付ける。
大きいパンをスライスして軽く炙ると、エラさんが焼いたソーセージと一緒に皿に置く。挟んで食べても良さそうだ。さらにその脇にクリームのようなものを添えた。これはこの地方のチーズなのだそうだ。
「クーちゃんにソーセージはダメよねぇ。兎肉もトマトと煮込んであるし……」
ミアちゃんと寝転がりながら待っているクーの方を見ながら言う。エラさん、クーのご飯まで気にしてくれている。
「あ、大丈夫です。クーのご飯は僕が――」
いつもの調子で言おうとして留まった。
普段は僕のバッグから生肉を出してクーに与えている。でもこのバッグから生の肉を出したら、このマジックバッグの性能がバレてしまう。
昨日はそれで失敗したんだから、気を付けないと。
普通のバッグの様な振りをして干し肉を出し、エラさんに見せた。
「あら、そんなに少しでいいの?」
「普段はクーが自分で何か獲ってくるんですけど、宿に泊まる時とかはこれで我慢してもらっているんです」
「そうなのね。兎の骨が残ってるけれど、これは食べるかしら」
「ありがとうございます。きっとクーは喜びます」
「クゥ?」
名前が出たことに気付いたのか、頭だけあげたクーがこちらを見た。
* * *
トマト煮込みの肉はとろける程に柔らかくなっていた。そしてよく味が染みている。
パンの皿に添えたクリームのようなチーズは、しっかりした濃厚な味で、ヨーグルトに似た酸味を感じた。パンに塗ったり、ソーセージと一緒に食べたり、トマト煮込みに合わせても良いそうだ。
クーも僕の足元で、兎の骨を齧っている。最初に干し肉を見せた時には不満そうな態度をとっていたが、兎の骨で納得してもらえたみたいだ。
家の外の慌ただしい物音に気付いたのは、食事があらかた終わった頃だった。
「何やら騒がしいな。どうしたんだ?」
そう言ったマルコさんが様子を見ようと立ち上がる。扉に辿り着く前に、外から扉が叩かれた。
「マルコさんはいるか? ポーションを売ってくれないか?」
マルコさんが開けた扉から、慌てた様子の青年が飛び込んできて言った。
「ジョンが怪我をして戻ったんだが、ポーションの在庫がつきちまった。もしかして、お前んとこが王都から仕入れてきてないかと思ったんだが……」
「いや、すまない。今回、ポーションは仕入れられなかったんだ」
青年の深刻な様子で、その怪我が軽くはないことが良くわかる。
マルコさんだけでなく、エラさんも不安そうな顔をしている。きっと怪我をしたその人は、彼らにとっても大事な村の仲間の一人なんだろう。
「あの、ポーションなら僕が持っています」
「うん? お前は?」
話に入り込んだ僕に、青年は不思議そうな顔を向ける。
「こいつは俺の客だ。ラウル、使ってもいいのなら助かるが、それはお前の旅に必要な分じゃないのか?」
冒険者であれば、ほぼ必ずポーションを携帯している。魔獣を相手にするのだから当然だ。マルコさんが心配しているのは、僕の言ったポーションがそれではないかということだ。
「僕、調合もしているので、余計に持ち合わせているんです。だから大丈夫です」
「金なら払う! 頼む!」
「症状に応じたポーションが要ると思います。どんな傷ですか?」
「森に入って獣に噛まれたんだ。最近この辺りに出る森狼の――」
「クゥ?」
狼と言われて、自分が呼ばれたと思ったのか、部屋の隅で大人しくしていたクーが声を上げる。それを見た青年は怯えた声をあげた。
「うわあああ!! なんで狼がここにいるんだ?!」
「あああ! この子は僕の従魔ですから、大丈夫です!」
「そうだよー クーちゃんはお利口なわんちゃんだから大丈夫だよーー」
そう言って、ミオちゃんはクーの首元をぎゅっと抱きしめた。
「え? い、犬……? す、すまない。慌てて勘違いを」
うん。犬と思ってくれるのなら、敢えて訂正はしないでおこう……
「えっと、噛み傷ならこのポーションを使ってください。あと、森狼が病気を持っているといけないので、これも飲ませてあげてください」
マジックバッグから必要なポーションを取り出して金額を告げると、男性は驚いたような顔をした。
「そ、そんな安くていいのかい?」
「一晩ですがこの村にお世話になりますから、その分おまけしておきます」
「わかった。明日もってくるから!」
男性はポーションを持って、また慌てたように家を飛び出していった。
「ありがとう。助かったよ」
「役に立てたなら良かったです」
「すごいわね、ラウルくん。調合もできるのねぇ」
マルコさん、エラさんご夫婦のまっすぐな感謝に、心がほっと暖かくなっていく。
あれで治ってくれたらいいんだけど。素直に、そう思った。
「あらあら、お客さんなんて久しぶりだわ。いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
そう言って、軽い足取りで台所へ向かう。
「ほらな。客がくると機嫌がよくなるって言っただろう」
急に押しかけて迷惑じゃないかと心配していた僕は、マルコさんの言葉にホッと胸を撫でおろした。奥さんのエラさんは料理好きだそうで、たまの来客には自慢の料理を振る舞えると喜ぶのだそうだ。
エラさんの後を追うように台所に入った。
「あら、座ってていいのよ」
「いえ、僕にも手伝わせてください。普段は僕が食事の担当をしているので、座っているだけでは落ち着かなくて」
そう言うと、エラさんはくすりと笑った。
エラさんがソーセージを焼いてくれているうちに、兎肉のトマト煮込みとサラダを盛り付ける。
大きいパンをスライスして軽く炙ると、エラさんが焼いたソーセージと一緒に皿に置く。挟んで食べても良さそうだ。さらにその脇にクリームのようなものを添えた。これはこの地方のチーズなのだそうだ。
「クーちゃんにソーセージはダメよねぇ。兎肉もトマトと煮込んであるし……」
ミアちゃんと寝転がりながら待っているクーの方を見ながら言う。エラさん、クーのご飯まで気にしてくれている。
「あ、大丈夫です。クーのご飯は僕が――」
いつもの調子で言おうとして留まった。
普段は僕のバッグから生肉を出してクーに与えている。でもこのバッグから生の肉を出したら、このマジックバッグの性能がバレてしまう。
昨日はそれで失敗したんだから、気を付けないと。
普通のバッグの様な振りをして干し肉を出し、エラさんに見せた。
「あら、そんなに少しでいいの?」
「普段はクーが自分で何か獲ってくるんですけど、宿に泊まる時とかはこれで我慢してもらっているんです」
「そうなのね。兎の骨が残ってるけれど、これは食べるかしら」
「ありがとうございます。きっとクーは喜びます」
「クゥ?」
名前が出たことに気付いたのか、頭だけあげたクーがこちらを見た。
* * *
トマト煮込みの肉はとろける程に柔らかくなっていた。そしてよく味が染みている。
パンの皿に添えたクリームのようなチーズは、しっかりした濃厚な味で、ヨーグルトに似た酸味を感じた。パンに塗ったり、ソーセージと一緒に食べたり、トマト煮込みに合わせても良いそうだ。
クーも僕の足元で、兎の骨を齧っている。最初に干し肉を見せた時には不満そうな態度をとっていたが、兎の骨で納得してもらえたみたいだ。
家の外の慌ただしい物音に気付いたのは、食事があらかた終わった頃だった。
「何やら騒がしいな。どうしたんだ?」
そう言ったマルコさんが様子を見ようと立ち上がる。扉に辿り着く前に、外から扉が叩かれた。
「マルコさんはいるか? ポーションを売ってくれないか?」
マルコさんが開けた扉から、慌てた様子の青年が飛び込んできて言った。
「ジョンが怪我をして戻ったんだが、ポーションの在庫がつきちまった。もしかして、お前んとこが王都から仕入れてきてないかと思ったんだが……」
「いや、すまない。今回、ポーションは仕入れられなかったんだ」
青年の深刻な様子で、その怪我が軽くはないことが良くわかる。
マルコさんだけでなく、エラさんも不安そうな顔をしている。きっと怪我をしたその人は、彼らにとっても大事な村の仲間の一人なんだろう。
「あの、ポーションなら僕が持っています」
「うん? お前は?」
話に入り込んだ僕に、青年は不思議そうな顔を向ける。
「こいつは俺の客だ。ラウル、使ってもいいのなら助かるが、それはお前の旅に必要な分じゃないのか?」
冒険者であれば、ほぼ必ずポーションを携帯している。魔獣を相手にするのだから当然だ。マルコさんが心配しているのは、僕の言ったポーションがそれではないかということだ。
「僕、調合もしているので、余計に持ち合わせているんです。だから大丈夫です」
「金なら払う! 頼む!」
「症状に応じたポーションが要ると思います。どんな傷ですか?」
「森に入って獣に噛まれたんだ。最近この辺りに出る森狼の――」
「クゥ?」
狼と言われて、自分が呼ばれたと思ったのか、部屋の隅で大人しくしていたクーが声を上げる。それを見た青年は怯えた声をあげた。
「うわあああ!! なんで狼がここにいるんだ?!」
「あああ! この子は僕の従魔ですから、大丈夫です!」
「そうだよー クーちゃんはお利口なわんちゃんだから大丈夫だよーー」
そう言って、ミオちゃんはクーの首元をぎゅっと抱きしめた。
「え? い、犬……? す、すまない。慌てて勘違いを」
うん。犬と思ってくれるのなら、敢えて訂正はしないでおこう……
「えっと、噛み傷ならこのポーションを使ってください。あと、森狼が病気を持っているといけないので、これも飲ませてあげてください」
マジックバッグから必要なポーションを取り出して金額を告げると、男性は驚いたような顔をした。
「そ、そんな安くていいのかい?」
「一晩ですがこの村にお世話になりますから、その分おまけしておきます」
「わかった。明日もってくるから!」
男性はポーションを持って、また慌てたように家を飛び出していった。
「ありがとう。助かったよ」
「役に立てたなら良かったです」
「すごいわね、ラウルくん。調合もできるのねぇ」
マルコさん、エラさんご夫婦のまっすぐな感謝に、心がほっと暖かくなっていく。
あれで治ってくれたらいいんだけど。素直に、そう思った。
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