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第七章

7-1 待ち合わせ

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 王都の北門からしばらく歩くと、道が二股に分かれている場所がある。待ち合わせ場所はここで良かったはずだ。

 城からここ王都の近くまでは、大鳥になったヴィーさんの背に乗せてもらった。
 王都の門に入ってすぐの場所に乗合馬車の旗が出ていたのをよく覚えている。『北部地方行き』と書かれていて、ああ町を出てこのまま真っすぐに街道を進むんだろうと思ったことも。
 だから僕が入ったのは、王都の北側の門だってことに間違いはない。

 ヴィーさんは別に用事があると言って、セリオンさんの元婚約者さんからの依頼の件は、僕と月牙狼ルナファングのクーに託された。アリアちゃんの城に保管されていたセリオンさんの騎士服の腕章を預かってきたので、それを彼女のもとへ届けて礼金を受け取った。

 ついでの買い物は先に済ませておいたので、その後はすぐに王都を出た。
「届け物が終わったら、すぐに町を出ろ。厄介ごとに巻き込まれるのを避けるためだ。大金も持っているし、良からぬヤツらに目を付けられても面倒だからな」
 そう言ったのはヴィーさんだ。でもそのヴィーさんが待ち合わせ場所に現れない。

 昼過ぎにと言われていて、それからだいぶ時間が経っている。
 目立たぬようにというのなら、道の真ん中で待つわけにもいかない。道がかろうじて見える場所にある大木の下、日陰になる場所を選んだ。
 ここから道行く人は良く見えるけれど、向こうからは下草で見えにくいはずだ。もし僕が見逃したとしても、クーが気付いてくれるだろう。

 マジックバッグからお弁当を取り出して、クーと分け合って食べる。これも貴族の屋敷に行く前に買っておいたものだ。道中に食べるかと思っていたのに、まさかこんな場所で食べることになるとは思ってもいなかった。

 食べ終わると、クーは大あくびをして昼寝をはじめた。
呑気のんきだよなぁ~」
 ついぽろりと口から出た。その声にクーの耳がピクリと動く。でもそれだけで、やっぱりクーは体を丸めたままだ。

 うん、お腹が膨れて眠くなる気持ちはわかる。ヴィーさんのことは気になるけれど、貴族の家を訪問した時に変な緊張をしたせいか、どっと疲れが出ている。
 いつもふざけてばかりのヴィーさんだけど、あの人もかなり強い。でもだらしがない人でもある。何か困るような事があったんじゃなくて、遅刻しているだけだろう。

 そんな事を考えていると、うとうととまぶたが重くなってきた。だめだ、寝ちゃいけない。
 眠気と戦いながら、膝をかかえて座り直した。

 * * *

 生暖かいものを頬に感じて目が覚めた。
「クゥーー」
 クーが一生懸命に僕の頬を舐めていた。僕が目を開けたのに気付くと、僕の顔をのぞき込んで尻尾を振る。

 しまった。うっかり眠ってしまったらしい。どのくらい時間がたったんだろう。
 空を見上げると、日の場所はさっきの位置から少し傾いたくらいだ。ほんの少しの時間だったらしい。よかった。

 でも……
「ヴィーさんはどうしたんだろう? 僕はどうしたらいいんだろう?」
 強いヴィーさんに何かあったと考えるよりも、別の可能性として……
「もしかして、先に行っちゃったのかなぁ?」

 そっちの方がありそうだ。昼過ぎと言われていたけれど、僕らがここについた時間は決して早くはなかった。先に着いていたヴィーさんが、僕らが先に行ったと思って出立してしまったのかもしれない。
 それとも、僕とクーがうとうとしていた間に、通り過ぎてしまったのかもしれない。

「うん、仕方ない。自力で城に帰ろう」
 幸いにも、あの地図でみた城の場所は覚えている。さっきこの国の地図を見掛けたので買っておいた。それと見比べれば大丈夫だろう。
 そうと決めたら、ここでゆっくりはしていられない。もしもヴィーさんが後から追いかけることになっても、あの人が鳥になれば僕らなんてすぐに見つけてくれるだろう。

 街道の近くまで出ると、クーと一緒に北に向かった。

 * * *

 街道を歩いている内に日が傾いてきた。
 結局ヴィーさんとは出会わなかった。それならそれとして、暗くなるまでに寝る場所を確保しないと。

「ジャウマさんから教わったことが、こんな所で役にたつとは思わなかったなぁ」
「クゥ!」
 誰にともなく言ったつもりの独り言に、クゥが元気に返事をした。

 寝る場所を探して、街道を少しだけ逸れる。岩肌に開いたほら……というか、くぼみを見つけて、そこに入り込んだ。
 おあつらえ向きに、程よい広さになっている。しかも入口は茂みの陰になっていて、外からは見えにくい。岩壁に背を付けて座り込んだ。

 まだここは王都に近い。誰かに見つかると面倒だから、火は使わない方がいいだろう。マジックバッグに入れてあった、パンを取り出して、干し肉と一緒にかじる。

 このマジックバッグもアリアちゃんが作ってくれた物だ。
 皆と離れて、クーと二人きりなことを思い出して、じわりと涙がにじみそうになった。

 と、その時。僕の隣で干し肉を齧っていたクーが、何かに気付いたようにバッと立ち上がる。洞の外にある茂みの方に向けて、グルグルと警戒のうなり声を上げた。
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