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第六章
6-10 ロックドラゴンとの戦い
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マジックバッグから取り出したポーションの蓋を開けて、カルロさんに飲ませる。体を確認すると、左腕と脇腹の傷が特に深そうだ。ポーションは傷に振りかけても効果がある。特に酷い部分には直接振りかけた。
「高価なポーションを、すまない」
「これは僕が採集した薬草を自分で調合したものですから、大丈夫です」
そう言ってもう1本、ポーションの口を開けてカルロさんに手渡した。
ポーションを使ったからといって傷が塞がるわけではない。なんとか出血は止まったが、まだまだ傷跡が痛々しい。でも自分でポーションを口元に運べる余力があるのを見て、少しだけホッとした。
今まさに、ギガントロックドラゴンと戦っているジャウマさんとヴィーさんに視線を移す。
大岩と見紛うような姿をした、見上げるほどの竜の体に、ジャウマさんが愛用の大剣で斬りつけたところだった。大剣は固い竜の鱗にはじかれてしまう。
ドラゴンが噛み付こうとするのを、ジャウマさんは手に持った大盾で弾き、叩き返す。その衝撃でドラゴンの頭は一瞬不安定に揺れるが、またすぐに体勢を戻した。
あれじゃいつまでも勝負がつかない。
「ラウル、そっちが落ち着いたら、こっちに来て助けてくれ!」
ヴィーさんが僕を呼んだ。
「はい! 何か必要ですか?」
「あいつの体が硬くて俺の矢がなかなか通らねえ、何かねえか?」
「えっと、毒薬や痺れ薬があります。矢に仕込んでみますか?」
それを聞いて、ヴィーさんはうーむと難しい顔をする。
「鱗の隙間を狙うのも手だが、正直まどろっこしい。撒けば効くだろうが、ジャウマにも掛かる。まあ、俺たちにゃ効かないが、それをあいつに見られると面倒だ。ジャウマが獣化できりゃあ、あんなのも大した敵じゃあねえんだが、そっちの方がもっと見られるのはまずいしな」
どちらにしても、この場にカルロさんが居て、戦う姿を見られていることが問題らしい。
「なるほど。それでしたら、ちょっと待っていてください」
取り出した毒の瓶をヴィーさんに手渡し、カルロさんのもとへ戻る。
「あいつは強い。いくら兄貴でも……」
そう言って、体を起こそうとするのを、無理に抑えつけた。
「まだ回復はしていないんです。無理に動かないでください。大丈夫、あの二人は強いです」
そう言いながら、バッグから別のポーションを取り出す。
「これを飲んでください」
「……? これは? 回復のポーションじゃないな?」
「僕が調合したポーションです。体を休めることで回復を促します」
蓋を開けたポーションを手渡す。カルロさんは軽く匂いを確認しただけで、一気に飲み干した。
それを見届けて、もう一度ヴィーさんの元へ戻る。さっき渡した毒の瓶は空になっていた。見ると、ドラゴンの体に何本か矢が刺さっている。でも矢先につけた程度の毒の量では、動きを止めるには足らないようだ。
「カルロに何をしたんだ?」
「眠くなる薬を飲んでもらいました。もう少しで効いてくるはずです」
ヴィーさんと一緒にちらりとカルロさんの方を振り返る。カルロさんは、じっと目を瞑って壁にもたれていた。
「お前もなかなかにやるなぁ。俺がジャウマに伝えるからあいつが完全に寝たのがわかったら、合図をしてくれ」
頷いてカルロさんのもとへ戻る。
今までと違って、僕が近づいても目を開く様子はない。傷をみる振りをして、軽く腕に触れても反応がない。薬が効いているようだ。
ヴィーさんに向かって手を挙げて合図をする。
それを見たヴィーさんは、今もドラゴンと交戦中のジャウマさんの近くへ、身を低くしたままするすると駆けていく。
ヴィーさんから伝わったらしい。ジャウマさんが頷くと、その体がみるみるうちに赤い鱗に覆われていき、膨れ上がっていく。
ジャウマさんが身を変えた大きな赤竜は、自らと同じくらいの大きさのギガントロックドラゴンの体を両腕で掴むと、その牙で首に噛み付いた。ギガントロックドラゴンの岩のような固い鱗は、まるで朽木のようにいとも容易く赤竜の牙で噛み砕かれた。
「あとは時間の問題だな」
僕のところまで戻ってきたヴィーさんは、もう自分の武器を収めていた。
* * *
人の姿に戻ったジャウマさんとヴィーさんと一緒に、絶命したギガントロックドラゴンを見上げる。
「しかし、おかしいな。ギガントどころか、ただのロックドラゴンですら、こんな浅い階層には出るはずは無い――」
そこでジャウマさんは言葉を止めると、ダンジョンのさらに奥の方に視線を向けた。ヴィーさんも珍しく真面目な表情で同じ方向を見ている。
多分、僕だけが遅れてその気配に気が付いた。
なんだ? この異様な気配はいったい何なんだ?
ギガントロックドラゴンが身を横たえている広間のさらに先にある、薄暗い通路の先から、何者かが一歩ずつ歩み寄ってくる。
どうやら男のようだが、明らかに人間ではない。
頭上に獣の耳があることから、獣人にも思えるが、耳だけでなく角もあり、背中からはコウモリのような翼も生えている。何の獣人かがわからない。まるでキメラの獣人だ。
千切れた布切れのような真っ黒いローブを纏っており、それが男の姿をさらに禍々しく見えさせている。
その男は僕らを見下すような視線を寄越しながら口を開いた。
「ほほう、こいつをいとも簡単に倒すとは。ただの人間ではないと思ったが…… お前たち、俺の仲間だな?」
「高価なポーションを、すまない」
「これは僕が採集した薬草を自分で調合したものですから、大丈夫です」
そう言ってもう1本、ポーションの口を開けてカルロさんに手渡した。
ポーションを使ったからといって傷が塞がるわけではない。なんとか出血は止まったが、まだまだ傷跡が痛々しい。でも自分でポーションを口元に運べる余力があるのを見て、少しだけホッとした。
今まさに、ギガントロックドラゴンと戦っているジャウマさんとヴィーさんに視線を移す。
大岩と見紛うような姿をした、見上げるほどの竜の体に、ジャウマさんが愛用の大剣で斬りつけたところだった。大剣は固い竜の鱗にはじかれてしまう。
ドラゴンが噛み付こうとするのを、ジャウマさんは手に持った大盾で弾き、叩き返す。その衝撃でドラゴンの頭は一瞬不安定に揺れるが、またすぐに体勢を戻した。
あれじゃいつまでも勝負がつかない。
「ラウル、そっちが落ち着いたら、こっちに来て助けてくれ!」
ヴィーさんが僕を呼んだ。
「はい! 何か必要ですか?」
「あいつの体が硬くて俺の矢がなかなか通らねえ、何かねえか?」
「えっと、毒薬や痺れ薬があります。矢に仕込んでみますか?」
それを聞いて、ヴィーさんはうーむと難しい顔をする。
「鱗の隙間を狙うのも手だが、正直まどろっこしい。撒けば効くだろうが、ジャウマにも掛かる。まあ、俺たちにゃ効かないが、それをあいつに見られると面倒だ。ジャウマが獣化できりゃあ、あんなのも大した敵じゃあねえんだが、そっちの方がもっと見られるのはまずいしな」
どちらにしても、この場にカルロさんが居て、戦う姿を見られていることが問題らしい。
「なるほど。それでしたら、ちょっと待っていてください」
取り出した毒の瓶をヴィーさんに手渡し、カルロさんのもとへ戻る。
「あいつは強い。いくら兄貴でも……」
そう言って、体を起こそうとするのを、無理に抑えつけた。
「まだ回復はしていないんです。無理に動かないでください。大丈夫、あの二人は強いです」
そう言いながら、バッグから別のポーションを取り出す。
「これを飲んでください」
「……? これは? 回復のポーションじゃないな?」
「僕が調合したポーションです。体を休めることで回復を促します」
蓋を開けたポーションを手渡す。カルロさんは軽く匂いを確認しただけで、一気に飲み干した。
それを見届けて、もう一度ヴィーさんの元へ戻る。さっき渡した毒の瓶は空になっていた。見ると、ドラゴンの体に何本か矢が刺さっている。でも矢先につけた程度の毒の量では、動きを止めるには足らないようだ。
「カルロに何をしたんだ?」
「眠くなる薬を飲んでもらいました。もう少しで効いてくるはずです」
ヴィーさんと一緒にちらりとカルロさんの方を振り返る。カルロさんは、じっと目を瞑って壁にもたれていた。
「お前もなかなかにやるなぁ。俺がジャウマに伝えるからあいつが完全に寝たのがわかったら、合図をしてくれ」
頷いてカルロさんのもとへ戻る。
今までと違って、僕が近づいても目を開く様子はない。傷をみる振りをして、軽く腕に触れても反応がない。薬が効いているようだ。
ヴィーさんに向かって手を挙げて合図をする。
それを見たヴィーさんは、今もドラゴンと交戦中のジャウマさんの近くへ、身を低くしたままするすると駆けていく。
ヴィーさんから伝わったらしい。ジャウマさんが頷くと、その体がみるみるうちに赤い鱗に覆われていき、膨れ上がっていく。
ジャウマさんが身を変えた大きな赤竜は、自らと同じくらいの大きさのギガントロックドラゴンの体を両腕で掴むと、その牙で首に噛み付いた。ギガントロックドラゴンの岩のような固い鱗は、まるで朽木のようにいとも容易く赤竜の牙で噛み砕かれた。
「あとは時間の問題だな」
僕のところまで戻ってきたヴィーさんは、もう自分の武器を収めていた。
* * *
人の姿に戻ったジャウマさんとヴィーさんと一緒に、絶命したギガントロックドラゴンを見上げる。
「しかし、おかしいな。ギガントどころか、ただのロックドラゴンですら、こんな浅い階層には出るはずは無い――」
そこでジャウマさんは言葉を止めると、ダンジョンのさらに奥の方に視線を向けた。ヴィーさんも珍しく真面目な表情で同じ方向を見ている。
多分、僕だけが遅れてその気配に気が付いた。
なんだ? この異様な気配はいったい何なんだ?
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どうやら男のようだが、明らかに人間ではない。
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千切れた布切れのような真っ黒いローブを纏っており、それが男の姿をさらに禍々しく見えさせている。
その男は僕らを見下すような視線を寄越しながら口を開いた。
「ほほう、こいつをいとも簡単に倒すとは。ただの人間ではないと思ったが…… お前たち、俺の仲間だな?」
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