48 / 135
第五章
5-5 王都に入る
しおりを挟む
徒歩での移動と野宿を繰り返し、何日もかけて、ようやく王都の門に辿り着いた。
「なんだかラウルと会った頃の旅に戻ったみたいだなぁ」
愉快そうに笑いながらヴィーさんが言った。確かに、最近はあの頃と違って馬車も獣の足も使っているから、徒歩の旅はちょっと懐かしい気がした。
流石は王都だ。今までの町に比べて、門も見たことのないくらいに大きい。当然、人の出入りも多いようで、門番が何人も居て、並行して手続きをしている。そのお陰で列に並ぶ旅人の人数のわりに、流れが早い。
僕らの順番になり、ジャウマさん、ヴィーさん、僕のギルドカードを、通行許可証と一緒に門番に渡す。余計な追及を避ける為に、セリオンさんのギルドカードはこの国では敢えて出していない。
そのセリオンさんの方を見て、門番が訊いた。
「その奴隷は獣人か? ずいぶんと美形だな。もしかして、特別な売り物か?」
ギルドカードを出さなかったことで、奴隷と思われるのはいつものことだ。でも売り物と言われたからか、ジャウマさんの目つきが少し厳しくなった。
「ああ、いや。違うのなら、すまない。アイツらと関係ないのなら、東地区には近寄らない方がいい」
「お、なんだ? 教えろよ。東地区になんか面白いものでもあるのか?」
ヴィーさんのちょっとふざけた友好的な話し方で、一度強張った門番の表情が緩んだ。
「あそこには、眉目のいい獣人なら高値で買ってくれる貴族様がいらっしゃるからな。お前たちの奴隷も顔を隠しているようだから、そこに連れていくのかと思ったんだ」
「いや、こいつは売り物じゃない。俺のだ」
ジャウマさんがそう言うと、その門番は一瞬きょとんとしたような顔をしてから、ニヤリと意地が悪そうな笑いを見せた。
「ああ、そういうことか。そりゃあ、すまなかったな」
すまなかったと口では言いながら、謝っている風ではない。
「それより、この宛先にある貴族を訪ねたいのだが、わかるか?」
門番の様子を気にもせず、ジャウマさんは懐から招待状をだして門番に見せる。そこに書かれた名前を見ると、門番のニヤニヤ顔が途端に引き締まった。
「こ、これは失礼いたしました」
急に態度を変えた門番に、ヴィーさんが首を傾げる。
「有名な家なのか?」
「あ、ああ…… 王都で一二を争う名家だ。中央区の一番大きな屋敷だから、すぐわかるだろう」
門番はそう言って、門から真っすぐに王城に向かう道の先の方を指差した。
門番たちから離れ、声も聞こえなくなった頃、
「……ジャウ、もう少し言い方を考えてくれ」
セリオンさんが苛立ったような声で言い、それに続いてヴィーさんが吹き出して笑った。
「どうかしたか?」
「門番に妙な誤解をさせただろう?」
「誤解?」
意味がわからないかのように、ジャウマさんは首を傾げる。その隣でヴィーさんがくっくっくっと堪えずに笑っている。
「どうかしたんですか?」
僕が尋ねると、ヴィーさんは笑いながら僕に答えた。
「くくっ。だってさ、ジャウが『俺の』って言うもんだからさ。ぷぷぷっ」
それって、さっきセリオンさんを売り物じゃないって言った時のことだよな。
「セリオンは美形だからなぁ。何がなくても、そういう誤解はされやすよな」
ヴィーさんは相変わらず笑うばかりで、肝心の説明をしてくれない。
「誤解……?」
「私が、ジャウマの愛人だと思われたんだ」
「へっ!?」
愛人って!? だって男同士なのに?
驚いてジャウマさんとセリオンさんの顔を交互に見る。
「まあ、もうアイツらに会うこともねえし、勘違いさせときゃいいじゃねえか。忘れろよ」
セリオンさんの背中をポンポンと軽く叩きながら、ヴィーさんが言った。
「そういえば、アリア。ここでは何かを感じるか?」
まだニヤニヤとしているヴィーさんと、不機嫌に黙り込んでいるセリオンさんを余所にして、ジャウマさんがアリアちゃんに尋ねる。
「うん、『黒い魔獣』はここにいるよ」
アリアちゃんが答えた。
「ひとまず先に、この貴族に話を聞いてこよう」
そう言って、ジャウマさんが例の招待状を掲げて僕らに見せる。
「探し物って、なんだろうな? てか、なんで冒険者に頼むんだ?」
「町中で探すような物じゃないということだろう」
ヴィーさんの疑問に、ローブを深くかぶったままのセリオンさんが答えた。
僕ら一行……というか、ジャウマさんたちに指名があったということは、当然彼らの上級冒険者としての腕前を見込んでのことだろう。探す先にその腕前が必要になるような危険があるということだ。
「まあ、いつだかの月牙狼の時みたいに、町中で戦うようなことになるんでなきゃあ、すぐに終わるとは思うがな」
「クゥ?」
月牙狼の名を出されたのがわかったのか、クーがヴィーさんの言葉に応えるように鼻で鳴いた。
「なんだかラウルと会った頃の旅に戻ったみたいだなぁ」
愉快そうに笑いながらヴィーさんが言った。確かに、最近はあの頃と違って馬車も獣の足も使っているから、徒歩の旅はちょっと懐かしい気がした。
流石は王都だ。今までの町に比べて、門も見たことのないくらいに大きい。当然、人の出入りも多いようで、門番が何人も居て、並行して手続きをしている。そのお陰で列に並ぶ旅人の人数のわりに、流れが早い。
僕らの順番になり、ジャウマさん、ヴィーさん、僕のギルドカードを、通行許可証と一緒に門番に渡す。余計な追及を避ける為に、セリオンさんのギルドカードはこの国では敢えて出していない。
そのセリオンさんの方を見て、門番が訊いた。
「その奴隷は獣人か? ずいぶんと美形だな。もしかして、特別な売り物か?」
ギルドカードを出さなかったことで、奴隷と思われるのはいつものことだ。でも売り物と言われたからか、ジャウマさんの目つきが少し厳しくなった。
「ああ、いや。違うのなら、すまない。アイツらと関係ないのなら、東地区には近寄らない方がいい」
「お、なんだ? 教えろよ。東地区になんか面白いものでもあるのか?」
ヴィーさんのちょっとふざけた友好的な話し方で、一度強張った門番の表情が緩んだ。
「あそこには、眉目のいい獣人なら高値で買ってくれる貴族様がいらっしゃるからな。お前たちの奴隷も顔を隠しているようだから、そこに連れていくのかと思ったんだ」
「いや、こいつは売り物じゃない。俺のだ」
ジャウマさんがそう言うと、その門番は一瞬きょとんとしたような顔をしてから、ニヤリと意地が悪そうな笑いを見せた。
「ああ、そういうことか。そりゃあ、すまなかったな」
すまなかったと口では言いながら、謝っている風ではない。
「それより、この宛先にある貴族を訪ねたいのだが、わかるか?」
門番の様子を気にもせず、ジャウマさんは懐から招待状をだして門番に見せる。そこに書かれた名前を見ると、門番のニヤニヤ顔が途端に引き締まった。
「こ、これは失礼いたしました」
急に態度を変えた門番に、ヴィーさんが首を傾げる。
「有名な家なのか?」
「あ、ああ…… 王都で一二を争う名家だ。中央区の一番大きな屋敷だから、すぐわかるだろう」
門番はそう言って、門から真っすぐに王城に向かう道の先の方を指差した。
門番たちから離れ、声も聞こえなくなった頃、
「……ジャウ、もう少し言い方を考えてくれ」
セリオンさんが苛立ったような声で言い、それに続いてヴィーさんが吹き出して笑った。
「どうかしたか?」
「門番に妙な誤解をさせただろう?」
「誤解?」
意味がわからないかのように、ジャウマさんは首を傾げる。その隣でヴィーさんがくっくっくっと堪えずに笑っている。
「どうかしたんですか?」
僕が尋ねると、ヴィーさんは笑いながら僕に答えた。
「くくっ。だってさ、ジャウが『俺の』って言うもんだからさ。ぷぷぷっ」
それって、さっきセリオンさんを売り物じゃないって言った時のことだよな。
「セリオンは美形だからなぁ。何がなくても、そういう誤解はされやすよな」
ヴィーさんは相変わらず笑うばかりで、肝心の説明をしてくれない。
「誤解……?」
「私が、ジャウマの愛人だと思われたんだ」
「へっ!?」
愛人って!? だって男同士なのに?
驚いてジャウマさんとセリオンさんの顔を交互に見る。
「まあ、もうアイツらに会うこともねえし、勘違いさせときゃいいじゃねえか。忘れろよ」
セリオンさんの背中をポンポンと軽く叩きながら、ヴィーさんが言った。
「そういえば、アリア。ここでは何かを感じるか?」
まだニヤニヤとしているヴィーさんと、不機嫌に黙り込んでいるセリオンさんを余所にして、ジャウマさんがアリアちゃんに尋ねる。
「うん、『黒い魔獣』はここにいるよ」
アリアちゃんが答えた。
「ひとまず先に、この貴族に話を聞いてこよう」
そう言って、ジャウマさんが例の招待状を掲げて僕らに見せる。
「探し物って、なんだろうな? てか、なんで冒険者に頼むんだ?」
「町中で探すような物じゃないということだろう」
ヴィーさんの疑問に、ローブを深くかぶったままのセリオンさんが答えた。
僕ら一行……というか、ジャウマさんたちに指名があったということは、当然彼らの上級冒険者としての腕前を見込んでのことだろう。探す先にその腕前が必要になるような危険があるということだ。
「まあ、いつだかの月牙狼の時みたいに、町中で戦うようなことになるんでなきゃあ、すぐに終わるとは思うがな」
「クゥ?」
月牙狼の名を出されたのがわかったのか、クーがヴィーさんの言葉に応えるように鼻で鳴いた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる