招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
上 下
45 / 135
第五章

5-2 墓地の魔獣

しおりを挟む
 広場の土中から勢いよく顔を出したのは、巨大な芋虫かミミズのような魔獣だった。その口、と思われる部分の周囲に無数の触手のような物がうごめいている。
 胴体を地中に残したままで、そいつは頭部を持ち上げ、ずっと上から僕らを見下ろした。

「見た感じはワームだな」
「ええ!?」

 あれがワームだって?
 冒険者ギルドにあった魔獣図鑑で見たワームは、ここまで大きくはなかったはずだ。その体長はせいぜい人間の大人くらいだと。でもあのワームは明らかにそれよりずっと大きい。ジャウマさん二人分はあるんじゃないだろうか。
 そして、そいつの体中に、嫌な感じのする怪しい魔力がまとわりついている。

「もちろん、普通のワームじゃない。でもこいつは俺たちの探している『黒い魔獣』じゃないな」
 そう言って、ジャウマさんはアリアちゃんの方を見た。
「ええ、でも嫌な匂いがするわ」
 返したアリアちゃんの口調が、なんだか見た目よりも大人びているように感じた。

「じゃあ、いっちょ倒すか」
「そうだな」
 同時に、3人はワームに向けて武器を構えた。

 いつも通り、アリアちゃんと一緒に3人の後方に下がる。
 どうやら、ワームは僕らを敵と認めたらしい。無数の触手がついた口をこちらに向けると、そこからふしゅーと大きく息を吐き出した。
 その息がこちらにまで届いた時に、今まで以上に嫌な臭いを感じた。

 危険を感じ、咄嗟とっさに自分とアリアちゃんを守るように結界を張る。それとほぼ同時か、それより前に3人は攻撃を仕掛けていた。

 セリオンさんが氷の魔法でワームの胴体を凍らせ動きを止める。ヴィーさんが放つクロスボウの矢がワームの動きを攪乱かくらんすると、ジャウマさんが大剣で切りかかりその胴体を大きく切り裂いた。
 3人を追うように飛び掛かったクーが牙を立てると、ワームは苦しそうに身をくねらせた。

「なんてことねえな!」
 ヴィーさんが軽快な声を上げる。が、ワームを見たヴィーさんの顔色が変わった。
「……何してやがるんだ?」

 ワームの様子が変だ。さっきまで身をくねらせていたワームは、胴体の傷跡から体液を滴らせながらも、今は真っすぐに天を仰いでいる。

 ギ、ギ、ギ、ギ……

 空を見上げたワームが耳障りな気味の悪い音を出した。それと同時に、辺り一帯に今までよりもさらに怪しい魔力をまとったもやが漂い始める。
 その魔力の靄が周囲の地面に染み込むように消えると、先ほどワームが現れた時と同じように、周囲の地中から何かの音がし始めた。

 ボコ、ボコ……

「うん? なんだ、これは?」
 僕らの周り、あちらこちらの地面が盛り上がり、崩れ、そこから何かが出て来る。
「新手のワームか?」

 いや、あれは……人の手だ。
「違う、ワームじゃない…… 死体だ」

 ここは墓地のど真ん中だ。周りを墓に囲まれていて、その墓の数だけ地中に死体が埋まっている。
 動く死体はあちらこちらの墓穴から這い出して来る。
 まだ人の形を保っているもの、半分近く腐り落ちているもの、骨にわずかに肉が残っているだけのようなものもいる。そいつらはじわりじわりと僕らに迫ってくる。
 クーが周囲を見回しながら、グルグルと威嚇いかくうなり声を上げる。僕の張った結界の中で、アリアちゃんが僕の手をぎゅっと握った。

「くそっ」
 セリオンさんが氷の魔法を動く死体に向かって打ち放つと、当たったところに穴が開いていく。でもいくら体に穴が開いても、そいつらは足を止めようとはしない。

「なんか、変だな……?」
 ジャウマさんが誰にともなく言った。確かに様子がおかしい。てっきり奴らは僕らに襲いかかってくると思ったのに、向かう先はこちらではなく、ワームの方だ。

「何をする気だ?」
 ワームは、自分の下に集まった動く死体を触手の生えた口で咥え込む、一口で飲み込んだ。ワームは群がった死体たちを次から次へと平らげていく。

「うげえ…… こんな見たくない食事風景も、そうはないよなぁ」
 ヴィーさんが、本当に嫌そうな顔をして言った。

「おい、あれを見ろ」
 セリオンさんの言葉に、先ほどジャウマさんが大剣で付けたワームの傷を見る。零れていた体液はすでに止まり、内側から傷が埋まりかけている。

「これは簡単には帰してもらえないようだな。本気を出すか」
 ジャウマさんの言葉を合図に、3人は獣の姿に変わっていった。

 * * *

 地に倒れたワームに、いつものようにアリアちゃんが手をかざすと、黒い靄がアリアちゃんの手に吸い込まれていった。

「こいつがここまでの力を持った原因は、やはりあれだろうな」
 そう言って、セリオンさんは聖職者の墓を杖で指し示した。

「どんな理由かは知れないが、おそらくこの地にワームが迷い込んだ。ワームは土を食らう。おそらく土に還りかけていたこの墓所にある遺骸いがいを、土と共に食らったのだろう。勿論もちろん、その遺骸には」
 そう言って、セリオンさんはもう一度聖職者の墓を指し示す。
「アレも含まれていたのだろう。そして、伝承にある聖職者が、人間ではなかった可能性は高い」

 人間ではない――
 その言葉を聞いて、以前の月牙狼ルナファングとの戦いの時に聞いた、ある言葉を思い出した。
神魔族しんまぞく……ですか?」

「おそらく、そうだろう」
 僕の言葉に、ジャウマさんがうなずいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

処理中です...