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第五章
5-2 墓地の魔獣
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広場の土中から勢いよく顔を出したのは、巨大な芋虫かミミズのような魔獣だった。その口、と思われる部分の周囲に無数の触手のような物が蠢いている。
胴体を地中に残したままで、そいつは頭部を持ち上げ、ずっと上から僕らを見下ろした。
「見た感じはワームだな」
「ええ!?」
あれがワームだって?
冒険者ギルドにあった魔獣図鑑で見たワームは、ここまで大きくはなかったはずだ。その体長はせいぜい人間の大人くらいだと。でもあのワームは明らかにそれよりずっと大きい。ジャウマさん二人分はあるんじゃないだろうか。
そして、そいつの体中に、嫌な感じのする怪しい魔力が纏わりついている。
「もちろん、普通のワームじゃない。でもこいつは俺たちの探している『黒い魔獣』じゃないな」
そう言って、ジャウマさんはアリアちゃんの方を見た。
「ええ、でも嫌な匂いがするわ」
返したアリアちゃんの口調が、なんだか見た目よりも大人びているように感じた。
「じゃあ、いっちょ倒すか」
「そうだな」
同時に、3人はワームに向けて武器を構えた。
いつも通り、アリアちゃんと一緒に3人の後方に下がる。
どうやら、ワームは僕らを敵と認めたらしい。無数の触手がついた口をこちらに向けると、そこからふしゅーと大きく息を吐き出した。
その息がこちらにまで届いた時に、今まで以上に嫌な臭いを感じた。
危険を感じ、咄嗟に自分とアリアちゃんを守るように結界を張る。それとほぼ同時か、それより前に3人は攻撃を仕掛けていた。
セリオンさんが氷の魔法でワームの胴体を凍らせ動きを止める。ヴィーさんが放つクロスボウの矢がワームの動きを攪乱すると、ジャウマさんが大剣で切りかかりその胴体を大きく切り裂いた。
3人を追うように飛び掛かったクーが牙を立てると、ワームは苦しそうに身をくねらせた。
「なんてことねえな!」
ヴィーさんが軽快な声を上げる。が、ワームを見たヴィーさんの顔色が変わった。
「……何してやがるんだ?」
ワームの様子が変だ。さっきまで身をくねらせていたワームは、胴体の傷跡から体液を滴らせながらも、今は真っすぐに天を仰いでいる。
ギ、ギ、ギ、ギ……
空を見上げたワームが耳障りな気味の悪い音を出した。それと同時に、辺り一帯に今までよりもさらに怪しい魔力を纏った靄が漂い始める。
その魔力の靄が周囲の地面に染み込むように消えると、先ほどワームが現れた時と同じように、周囲の地中から何かの音がし始めた。
ボコ、ボコ……
「うん? なんだ、これは?」
僕らの周り、あちらこちらの地面が盛り上がり、崩れ、そこから何かが出て来る。
「新手のワームか?」
いや、あれは……人の手だ。
「違う、ワームじゃない…… 死体だ」
ここは墓地のど真ん中だ。周りを墓に囲まれていて、その墓の数だけ地中に死体が埋まっている。
動く死体はあちらこちらの墓穴から這い出して来る。
まだ人の形を保っているもの、半分近く腐り落ちているもの、骨に僅かに肉が残っているだけのようなものもいる。そいつらはじわりじわりと僕らに迫ってくる。
クーが周囲を見回しながら、グルグルと威嚇の唸り声を上げる。僕の張った結界の中で、アリアちゃんが僕の手をぎゅっと握った。
「くそっ」
セリオンさんが氷の魔法を動く死体に向かって打ち放つと、当たったところに穴が開いていく。でもいくら体に穴が開いても、そいつらは足を止めようとはしない。
「なんか、変だな……?」
ジャウマさんが誰にともなく言った。確かに様子がおかしい。てっきり奴らは僕らに襲いかかってくると思ったのに、向かう先はこちらではなく、ワームの方だ。
「何をする気だ?」
ワームは、自分の下に集まった動く死体を触手の生えた口で咥え込む、一口で飲み込んだ。ワームは群がった死体たちを次から次へと平らげていく。
「うげえ…… こんな見たくない食事風景も、そうはないよなぁ」
ヴィーさんが、本当に嫌そうな顔をして言った。
「おい、あれを見ろ」
セリオンさんの言葉に、先ほどジャウマさんが大剣で付けたワームの傷を見る。零れていた体液はすでに止まり、内側から傷が埋まりかけている。
「これは簡単には帰してもらえないようだな。本気を出すか」
ジャウマさんの言葉を合図に、3人は獣の姿に変わっていった。
* * *
地に倒れたワームに、いつものようにアリアちゃんが手を翳すと、黒い靄がアリアちゃんの手に吸い込まれていった。
「こいつがここまでの力を持った原因は、やはりあれだろうな」
そう言って、セリオンさんは聖職者の墓を杖で指し示した。
「どんな理由かは知れないが、おそらくこの地にワームが迷い込んだ。ワームは土を食らう。おそらく土に還りかけていたこの墓所にある遺骸を、土と共に食らったのだろう。勿論、その遺骸には」
そう言って、セリオンさんはもう一度聖職者の墓を指し示す。
「アレも含まれていたのだろう。そして、伝承にある聖職者が、人間ではなかった可能性は高い」
人間ではない――
その言葉を聞いて、以前の月牙狼との戦いの時に聞いた、ある言葉を思い出した。
「神魔族……ですか?」
「おそらく、そうだろう」
僕の言葉に、ジャウマさんが頷いた。
胴体を地中に残したままで、そいつは頭部を持ち上げ、ずっと上から僕らを見下ろした。
「見た感じはワームだな」
「ええ!?」
あれがワームだって?
冒険者ギルドにあった魔獣図鑑で見たワームは、ここまで大きくはなかったはずだ。その体長はせいぜい人間の大人くらいだと。でもあのワームは明らかにそれよりずっと大きい。ジャウマさん二人分はあるんじゃないだろうか。
そして、そいつの体中に、嫌な感じのする怪しい魔力が纏わりついている。
「もちろん、普通のワームじゃない。でもこいつは俺たちの探している『黒い魔獣』じゃないな」
そう言って、ジャウマさんはアリアちゃんの方を見た。
「ええ、でも嫌な匂いがするわ」
返したアリアちゃんの口調が、なんだか見た目よりも大人びているように感じた。
「じゃあ、いっちょ倒すか」
「そうだな」
同時に、3人はワームに向けて武器を構えた。
いつも通り、アリアちゃんと一緒に3人の後方に下がる。
どうやら、ワームは僕らを敵と認めたらしい。無数の触手がついた口をこちらに向けると、そこからふしゅーと大きく息を吐き出した。
その息がこちらにまで届いた時に、今まで以上に嫌な臭いを感じた。
危険を感じ、咄嗟に自分とアリアちゃんを守るように結界を張る。それとほぼ同時か、それより前に3人は攻撃を仕掛けていた。
セリオンさんが氷の魔法でワームの胴体を凍らせ動きを止める。ヴィーさんが放つクロスボウの矢がワームの動きを攪乱すると、ジャウマさんが大剣で切りかかりその胴体を大きく切り裂いた。
3人を追うように飛び掛かったクーが牙を立てると、ワームは苦しそうに身をくねらせた。
「なんてことねえな!」
ヴィーさんが軽快な声を上げる。が、ワームを見たヴィーさんの顔色が変わった。
「……何してやがるんだ?」
ワームの様子が変だ。さっきまで身をくねらせていたワームは、胴体の傷跡から体液を滴らせながらも、今は真っすぐに天を仰いでいる。
ギ、ギ、ギ、ギ……
空を見上げたワームが耳障りな気味の悪い音を出した。それと同時に、辺り一帯に今までよりもさらに怪しい魔力を纏った靄が漂い始める。
その魔力の靄が周囲の地面に染み込むように消えると、先ほどワームが現れた時と同じように、周囲の地中から何かの音がし始めた。
ボコ、ボコ……
「うん? なんだ、これは?」
僕らの周り、あちらこちらの地面が盛り上がり、崩れ、そこから何かが出て来る。
「新手のワームか?」
いや、あれは……人の手だ。
「違う、ワームじゃない…… 死体だ」
ここは墓地のど真ん中だ。周りを墓に囲まれていて、その墓の数だけ地中に死体が埋まっている。
動く死体はあちらこちらの墓穴から這い出して来る。
まだ人の形を保っているもの、半分近く腐り落ちているもの、骨に僅かに肉が残っているだけのようなものもいる。そいつらはじわりじわりと僕らに迫ってくる。
クーが周囲を見回しながら、グルグルと威嚇の唸り声を上げる。僕の張った結界の中で、アリアちゃんが僕の手をぎゅっと握った。
「くそっ」
セリオンさんが氷の魔法を動く死体に向かって打ち放つと、当たったところに穴が開いていく。でもいくら体に穴が開いても、そいつらは足を止めようとはしない。
「なんか、変だな……?」
ジャウマさんが誰にともなく言った。確かに様子がおかしい。てっきり奴らは僕らに襲いかかってくると思ったのに、向かう先はこちらではなく、ワームの方だ。
「何をする気だ?」
ワームは、自分の下に集まった動く死体を触手の生えた口で咥え込む、一口で飲み込んだ。ワームは群がった死体たちを次から次へと平らげていく。
「うげえ…… こんな見たくない食事風景も、そうはないよなぁ」
ヴィーさんが、本当に嫌そうな顔をして言った。
「おい、あれを見ろ」
セリオンさんの言葉に、先ほどジャウマさんが大剣で付けたワームの傷を見る。零れていた体液はすでに止まり、内側から傷が埋まりかけている。
「これは簡単には帰してもらえないようだな。本気を出すか」
ジャウマさんの言葉を合図に、3人は獣の姿に変わっていった。
* * *
地に倒れたワームに、いつものようにアリアちゃんが手を翳すと、黒い靄がアリアちゃんの手に吸い込まれていった。
「こいつがここまでの力を持った原因は、やはりあれだろうな」
そう言って、セリオンさんは聖職者の墓を杖で指し示した。
「どんな理由かは知れないが、おそらくこの地にワームが迷い込んだ。ワームは土を食らう。おそらく土に還りかけていたこの墓所にある遺骸を、土と共に食らったのだろう。勿論、その遺骸には」
そう言って、セリオンさんはもう一度聖職者の墓を指し示す。
「アレも含まれていたのだろう。そして、伝承にある聖職者が、人間ではなかった可能性は高い」
人間ではない――
その言葉を聞いて、以前の月牙狼との戦いの時に聞いた、ある言葉を思い出した。
「神魔族……ですか?」
「おそらく、そうだろう」
僕の言葉に、ジャウマさんが頷いた。
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