招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
上 下
39 / 135
第四章

4-7 また巻き込まれる

しおりを挟む
 今日はこれから、町の路地裏の探検に行くそうだ。子供たち20人ほどが集まっている。
 アリアちゃんも楽しそうにしているし仕方ない。子供たちの邪魔をしないよう、一番後ろから僕も付いていくことにした。

 入り組んだ路地裏は子供にとっては巨大な迷路だ。僕も子供の頃に路地裏で遊んだ覚えがある。
 しかも子供には遠慮がない。知らぬ家の裏庭でも、どこかの工房の脇道でも、壊れた荷馬車の置き場でも、どこでも通り抜けられる所であれば、彼らの通り道となる。

 そう言えば、先頭を行くのは以前僕にぶつかった子供だ。あの時のことといい、おそらく行動力のある子供なんだろう。行動力があるのはいいんだけれど、遊んでいた公園からだいぶ離れてしまっている。さすがに戻った方がいいんじゃないだろうか?

 そろそろ子供たちを止めないとと思いつつ、先を行く集団を追って古びた倉庫に入り込んだ。
「皆、そろそろ――」
 バタン!!
 僕の声を遮るように、大きな音がして倉庫の扉が閉まった。


「お前ら、大人しくしていろよ」
 野太い声がして、振り向いた。
 扉の前にガラの悪そうな3人の男たちが立ちふさがっている。その男たちの手には物騒なナイフが握られていた。

 ……しまった。
 僕が付いていながらこんなことになるなんて。町中まちなかだからと油断をしていた。もっと早く子供たちに引き返す様に言うべきだったのに……

 子供たちが不安げな声を上げながら、僕の周りに集まってくる。唯一の大人の味方である僕を頼ってくれている。
 でも僕は戦う手段を持っていない。僕にできるのは結界魔法で守ることだけだ。しかもここにいる全員を守る結界を張る力もない。せめてアリアちゃんだけでも守らないと……

 そう思った僕の手をが誰かがぎゅっと握る。見ると、いつの間にアリアちゃんが僕の隣に来ていた。

(ラウルおにいちゃん、まほーも、からい袋もダメだよ)
 ……思っていたことを、悟られていたらしい。
 僕の結界魔法は特別な魔法で、誰にでも使えるわけじゃあない。確かに、この魔法のことが悪党に知られるのは良くない。からい粉の袋も、こんな狭い倉庫の中で使ったら、子供たちも僕らも無事では済まないだろう。
 でも――

(パパたちが来てくれるよ。だいじょーぶ)
 こっそりと、アリアちゃんが僕にだけ聞こえる声で言った。

 そう言えば、いつの間にかクー居ない。どこかから抜け出したのか、入る前に逃れたのか…… なら、きっとクーがジャウマさんたちを呼んできてくれるだろう。
 僕らにできるのは、それまであいつらを刺激せずに大人しく待っているだけだ。

 アリアちゃんの手を、ぎゅっと握り返した。

 * * *

 板作りのかび臭い倉庫の中で、僕らは壁際の隅に集められた。
 さっきの男たちは、ナイフを手にしたまま、扉の前と僕らの前とに座り込んだ。おそらく見張り役だろう。

 こっそり周りを見回して、他の出入り口がないかを探してみる。でも見た感じ、壁板の大きな隙間や、穴があったような場所は、全て塞がれているようだ。おそらくあらかじめここに子供たちを誘いこむつもりで用意されていたんだろう。

 ……ついこの間、同じような経験をしたばかりなのに。また同じようなヘマをした自分の成長のなさに、自分であきれてしまう。しかも今回は自分だけでなく、アリアちゃんまで一緒に危険な目に合わせてしまった。

 一番子供たちに近い場所に座り込んでいた男が、ナイフをポンポンと手で遊ばせながら、近くに居た女の子をにらみつけた。
「ああ? 何見てやがるんだよ?」
 低い声でおどす様に言う。それだけで、子供たちは今にも泣きそうな顔になった。

 そのことが気に入らなかったのか、その男はさらにすごんでみせる。
「ああ!? 何見てるんだって、聞いてるんだよ!」
 そう言いながら、かたわらにあった古い木箱をガンッと蹴とばした。

「ふ、ふええ……」
 脅された女の子が泣きだそうとしたその時――

「おにいちゃーーん、こわいよーー!!」
 僕の隣にいたアリアちゃんが両の手を顔に当てて、大きな声で泣きだした。

 その声で、あの女の子を脅していた男がこちらを向いた。
「おい! お前! そいつを黙らせろ!!」
「ごっ、ごめんなさい!! アリアちゃん、大丈夫だよ。泣かないで……」
 アリアちゃんの背中をさすって、一生懸命になだめた。

 ……でも、なんか変だ。さっきアリアちゃんは、僕に向かって大丈夫だと言っていたのに、なんで急に泣きだしたんだ?
 アリアちゃんに釣られて、とくに幼い子たちはしくしくと泣きだしている。

「何騒いでいやがるんだ!?」
 他の男たちも扉の前から離れてこちらにやってきた。
「こ、こいつらが泣きだしちまって……」
「お前が脅かしたんじゃないのか?」
 どうやら扉の前にいた男の方が偉いらしい。そいつは僕とアリアちゃんの方を睨みつけてきた。

「おにいちゃん、こわいよおおお!!」
 大声で泣きながら、アリアちゃんが僕にしがみついた。でも少し言い方がわざとらしい。

「うるせえ! 騒ぐんじゃねえ!!」
 女の子を脅していた男も僕らの方へ近づいてくる。
「あのおじちゃんの顔がブサイクでこわいいいいい」
「な、なんだと! てめえ!!」
 アリアちゃんに指を差された男は、怒って顔を真っ赤にさせた。

 ……やっぱり。
 アリアちゃんは怯えているというより、わざとあいつらをあおるような言い方をしている。
 さっきあの女の子相手にすごんでいた男も、今はアリアちゃんを黙らせようと必死になっている。

 そうだ。あいつらの矛先ほこさきが、今は全部アリアちゃんに向いている。アリアちゃんは、他の子供たちをかばっているんだ。

「おにいちゃん、おにいちゃん~~ きゃあ!!」
 泣きながら僕にすがるアリアちゃんの兎耳を、男がつかんで引っ張った。
「やめろ!! その子を離せ!!」
 僕が叫んで、精一杯睨みつけると、男はさらに怖い顔をしてこちらを睨み返してきた。

 その時、かすかに鳥が羽ばたく音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...