21 / 135
第二章
閑話1 朝寝坊
しおりを挟む
床が軋む音と、外の空気が入って来た気配で目が覚める。ちらと片目を薄く開けると、ジャウマさんが部屋から出ていくところで、すぐに扉は静かに閉まった。
窓の外をみると、ほんのりと明るくなりかけているくらいの時間で。このまま起きてもいいんだろうけれど、まだもう少し寝ていたくて布団をかぶり直した。
朝が一番早いのはジャウマさんだ。多分、誰よりも早く起きている。いつもは、僕が朝の雑用仕事をしているころに、朝のトレーニングから帰ってくる。
セリオンさんも起きるのは早いけれど、ジャウマさんほどではないらしい。曰く、「ジャウマが静かに起きないから目が覚めてしまう」のだそうだ。それを聞いて、ヴィーさんが「神経質だよなぁ」と笑いながら言った。
反対に、ヴィーさんは朝起きるのが遅い。放っておけばいつまでも寝ているんじゃないかと思うくらいに、よく寝ている。大抵は、アリアちゃんが朝ごはんの時間だと言ってヴィーさんの顔をぺちぺちと叩いて起こす。
多分、夜遅くまで飲み歩いている所為だと思うんだけどな。寝るのが遅けりゃ、そりゃあ朝もつらくなるよ。せめてもう少し、早く帰ってくればいいのに。
やっと顔だけ洗って朝食の席についたヴィーさんに、朝の挨拶をすると、彼はまだ眠そうに大あくびをしながら、手を挙げて応えた。
* * *
旅の間はほぼ歩き詰めだ。たった半年でも冒険者として活動していて、以前よりは体力がついたと思っていた僕はまだまだ甘かった。
ようやく次の町に着き、夕飯を食べて宿に入る。ベッドに倒れ込むと、もう指先も動かせなくなっていた。
「じゃ、俺は飲みに行ってくるわ」
上機嫌な声の後で扉の閉まる音がした。昨日の町でも飲みにいったって言うのに。ヴィーさんは今晩も飲みにいくらしい。元気だなあ。
そんなことを考えながらも、瞼の重さに勝てずに目を閉じると、意識は深いところに沈んでいった。
* * *
今朝も僕が起きる頃には、ジャウマさんとセリオンさんはすでに起きていた。いつものように朝の洗濯をしていると、アリアちゃんが水場までやってきた。
「アリアちゃんおはよう、早起きだね」
そう挨拶をするも、なんだかアリアちゃんの様子がおかしい。
「どうしたの?」
「ヴィーパパが、頭いたいんだってー」
そう言ってアリアちゃんは、濡らしたタオルを軽く絞った。
昨日までは何ともない様子だったけれど、風邪でもひいたのだろうか。そう思ってアリアちゃんと一緒に部屋に戻ると、ジャウマさんとセリオンさんも帰ってきていた。
セリオンさんが魔法で出したのだろ、氷水の入ったカップをヴィーさんに手渡している。
「まったく、酒が苦手なのに、無理をするからだ」
「えっ!?」
セリオンさんから意外な言葉が飛び出して、耳を疑った。
酒が苦手って…… ヴィーさんが?? 昨日も一昨日も飲みにいったのに、何かの冗談じゃないのか?
アリアちゃんが心配そうにヴィーさんに駆け寄って、濡らしたタオルを渡す。ヴィーさんは愛想笑いをしてタオルを受け取ると、額にあててはーっとため息を吐いた。
「まあ、基本的には私たちの体に毒は効かないからな。でもさすがに量が過ぎれば、体が毒を分解しきれずダメージを食らうんだぞ」
そう言いながら、セリオンさんはヴィーさんに向けて回復魔法を放つ。
「悪いな。セリオン」
「……お前のようなことは、私にはできないからな」
……ヴィーさんは、何をしているんだろう?
多分、僕がぽかんとしていたからだろう、隣に来たアリアちゃんが小さい声で僕に言った。
「んとね、ヴィーパパはお仕事でお酒を飲んでるんだよ」
「お仕事?」
ねーと、ジャウマさんの方を見る。
「ああ、町の連中から色々な情報を聞き出すには、酒の席が一番だからな」
つまり、ヴィーさんはお酒が苦手なのに、情報収集の為にわざわざ酒場に出かけているのか。だから、ジャウマさんもセリオンさんも、ヴィーさんの帰りが遅くても、朝寝坊しても何も言わなかったのか……
* * *
「んーっとね、ここらへん?」
アリアちゃんが、可愛い指で地図の一部を指さす。どうやらそこが次の目的地らしい。
「こりゃ国境を越えるようだなぁ」
ジャウマさんの隣で、地図を覗き込んでいたヴィーさんが、ある場所を指さしながら言った。
「この辺りは隣国の内紛の煽りを受けて、かなり混乱しているそうだ。遠回りになるがこの道を行く方がいいんじゃねえか」
「アリアもラウルもいるしな」
今なら、ヴィーさんがその話をどこで聞いてきたのを知っている。でもセリオンさんが言うには、飲みの目的の半分は趣味だそうだけど。
「遠回りするのー?」
「ああ、アリア。こっちの道の途中の町には美味しいケーキ屋があるんだってよ」
ヴィーさんの言葉に、アリアちゃんの顔がパーッと輝いた。
「アリア、ケーキが食べたい!!」
「決まりだな!」
アリアちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。それを見て、皆で笑った。
窓の外をみると、ほんのりと明るくなりかけているくらいの時間で。このまま起きてもいいんだろうけれど、まだもう少し寝ていたくて布団をかぶり直した。
朝が一番早いのはジャウマさんだ。多分、誰よりも早く起きている。いつもは、僕が朝の雑用仕事をしているころに、朝のトレーニングから帰ってくる。
セリオンさんも起きるのは早いけれど、ジャウマさんほどではないらしい。曰く、「ジャウマが静かに起きないから目が覚めてしまう」のだそうだ。それを聞いて、ヴィーさんが「神経質だよなぁ」と笑いながら言った。
反対に、ヴィーさんは朝起きるのが遅い。放っておけばいつまでも寝ているんじゃないかと思うくらいに、よく寝ている。大抵は、アリアちゃんが朝ごはんの時間だと言ってヴィーさんの顔をぺちぺちと叩いて起こす。
多分、夜遅くまで飲み歩いている所為だと思うんだけどな。寝るのが遅けりゃ、そりゃあ朝もつらくなるよ。せめてもう少し、早く帰ってくればいいのに。
やっと顔だけ洗って朝食の席についたヴィーさんに、朝の挨拶をすると、彼はまだ眠そうに大あくびをしながら、手を挙げて応えた。
* * *
旅の間はほぼ歩き詰めだ。たった半年でも冒険者として活動していて、以前よりは体力がついたと思っていた僕はまだまだ甘かった。
ようやく次の町に着き、夕飯を食べて宿に入る。ベッドに倒れ込むと、もう指先も動かせなくなっていた。
「じゃ、俺は飲みに行ってくるわ」
上機嫌な声の後で扉の閉まる音がした。昨日の町でも飲みにいったって言うのに。ヴィーさんは今晩も飲みにいくらしい。元気だなあ。
そんなことを考えながらも、瞼の重さに勝てずに目を閉じると、意識は深いところに沈んでいった。
* * *
今朝も僕が起きる頃には、ジャウマさんとセリオンさんはすでに起きていた。いつものように朝の洗濯をしていると、アリアちゃんが水場までやってきた。
「アリアちゃんおはよう、早起きだね」
そう挨拶をするも、なんだかアリアちゃんの様子がおかしい。
「どうしたの?」
「ヴィーパパが、頭いたいんだってー」
そう言ってアリアちゃんは、濡らしたタオルを軽く絞った。
昨日までは何ともない様子だったけれど、風邪でもひいたのだろうか。そう思ってアリアちゃんと一緒に部屋に戻ると、ジャウマさんとセリオンさんも帰ってきていた。
セリオンさんが魔法で出したのだろ、氷水の入ったカップをヴィーさんに手渡している。
「まったく、酒が苦手なのに、無理をするからだ」
「えっ!?」
セリオンさんから意外な言葉が飛び出して、耳を疑った。
酒が苦手って…… ヴィーさんが?? 昨日も一昨日も飲みにいったのに、何かの冗談じゃないのか?
アリアちゃんが心配そうにヴィーさんに駆け寄って、濡らしたタオルを渡す。ヴィーさんは愛想笑いをしてタオルを受け取ると、額にあててはーっとため息を吐いた。
「まあ、基本的には私たちの体に毒は効かないからな。でもさすがに量が過ぎれば、体が毒を分解しきれずダメージを食らうんだぞ」
そう言いながら、セリオンさんはヴィーさんに向けて回復魔法を放つ。
「悪いな。セリオン」
「……お前のようなことは、私にはできないからな」
……ヴィーさんは、何をしているんだろう?
多分、僕がぽかんとしていたからだろう、隣に来たアリアちゃんが小さい声で僕に言った。
「んとね、ヴィーパパはお仕事でお酒を飲んでるんだよ」
「お仕事?」
ねーと、ジャウマさんの方を見る。
「ああ、町の連中から色々な情報を聞き出すには、酒の席が一番だからな」
つまり、ヴィーさんはお酒が苦手なのに、情報収集の為にわざわざ酒場に出かけているのか。だから、ジャウマさんもセリオンさんも、ヴィーさんの帰りが遅くても、朝寝坊しても何も言わなかったのか……
* * *
「んーっとね、ここらへん?」
アリアちゃんが、可愛い指で地図の一部を指さす。どうやらそこが次の目的地らしい。
「こりゃ国境を越えるようだなぁ」
ジャウマさんの隣で、地図を覗き込んでいたヴィーさんが、ある場所を指さしながら言った。
「この辺りは隣国の内紛の煽りを受けて、かなり混乱しているそうだ。遠回りになるがこの道を行く方がいいんじゃねえか」
「アリアもラウルもいるしな」
今なら、ヴィーさんがその話をどこで聞いてきたのを知っている。でもセリオンさんが言うには、飲みの目的の半分は趣味だそうだけど。
「遠回りするのー?」
「ああ、アリア。こっちの道の途中の町には美味しいケーキ屋があるんだってよ」
ヴィーさんの言葉に、アリアちゃんの顔がパーッと輝いた。
「アリア、ケーキが食べたい!!」
「決まりだな!」
アリアちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。それを見て、皆で笑った。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる