上 下
12 / 135
第二章

2-1 初めての仲間

しおりを挟む
「グアアアアアッ!!!」
 両手を大きく振り上げながら、ハンマーベアがこちらに向けて威嚇いかくの声を上げる。

「うわあ!!」
 つい叫び声をあげて尻もちをついた。でもそんな風にみっともなく慌てているのは僕だけだ。座り込んでいる僕のそばに、アリアちゃんが駆け寄ってきた。

「アリア、ラウル。下がっていろ」
「はーい」
 リーダーのジャウマさんの言葉に、アリアちゃんが手を挙げて明るく返事をする。
 二つにまとめた金髪の横に垂れた黒いウサギの耳が可愛く跳ねる。ベアの威嚇だけで慌てている僕と違って、アリアちゃんはおびえるどころかむしろ楽しそうだ。彼女は僕よりもずっと幼い女の子なのに…… それだけ彼ら3人を信頼しているからだろう。
「ラウルおにいちゃん、こっちだよ」
 彼女に手を引かれ、すでに戦闘態勢をとっている3人の後ろまで下がった。

 僕らをにらみつけたベアはもう一度低い声でうなると、今度はハンマーのように固くなっているその両腕を振り上げて襲いかかってきた。その両腕をジャウマさんが大盾で受け止めると、鈍い音が響いた。

 組み合って動かないベアとジャウマさんに向かってセリオンさんがロッドを差し出す。その先から湧き出した火の玉は、ジャウマさんたちを目掛けて真っすぐに飛んで行った。
 ジャウマさんがこちらも見ずに体をかわすと、火の玉は彼の赤い髪を掠めながらその向こうにあるベアの顔に当たった。

「ギャン!!」
 顔を押さえたベアが腕を離したすきに、ジャウマさんは飛び退しさってベアから距離を取った。

「セリオン、焼いちまうと高く売れなくなるぞ」
 木の上から、ヴィーさんのお道化どけたような言葉が降って来た。その直後、彼のクロスボウから放たれた矢がベアの両足に刺さり、よろけたベアはそのまま前足を地面に付けた。

「顔なら多少焼けても構わないだろう。そう言うのなら勿体もったいぶらずにさっさと倒してしまえ」
 セリオンさんも少しキツイ言い方で返す。

 3人の攻撃を受けたベアは、今度は僕に狙いを定めて向かってきた。怯えている僕はあの3人よりもずっと弱い相手に見えるのだろう。まあ、その通りなのだけど。

「ラウル、結界だ」
「は、はい!!」
 ジャウマさんに言われ結界魔法を発動させる。僕とアリアちゃんを囲むように、光の壁が輪の形で現れた。ベアは僕らの前で立ち止まると、ガンガンと両腕を結界に叩きつける。
 そのくらいじゃ結界は壊れないと思うのだけど……でもやっぱり怖い。僕が身をすくめると、アリアちゃんも僕の腕にぎゅっとしがみついた。

 と、そのベアの動きが止まったかと思うと、足からずるりと崩れた。
 倒れたベアの向こう側に、とどめを刺した3人が立っていた。

 * * *

 ただでさえ背が高くて体つきのたくましいジャウマさんが、自分よりも大きなベアを抱えて歩く姿は、やたらと目立つ。
 町の入り口では門番が目を丸くさせていたし、町中では歩いているだけで注目の的だ。

 この町に辿たどり着くまでの3日間、何故か大きな街道を通らないで、あまり旅人の通らなそうな山道を進み、しかも道中はずっと歩きだった。
 そのせいか道中ではしょっちゅう魔獣と遭遇した。でもあのハンマーベアのように、オークも、ワイバーンも、まったく彼らの敵ではなかった。

「まあ、俺らも一応Aランクだからな!」
 ヴィーさんは親指を立てて笑いながら言うけれど、多分そんな甘いものじゃない。もしかしたらSランク並みの実力があるんじゃないだろうか。

 一番戦闘が得意なのは、リーダーのジャウマさんだ。背も高いし、体つきもがっしりとしていて、筋肉もすごい。その見た目の通り力も強くて、大きな盾を持ち、なんなく大剣を振り回す。いつも皆の一番前にでて戦っている。

 ヴィジェスさんも武器を持ってるけど、彼は前には立たずに、遠距離の武器で後ろから攻撃をしている。ジャウマさんと違って、体つきは比較的ほっそりしているけれど、その分身が軽くて、動きも素早い。戦闘以外でもその機動力を生かした偵察が、彼の役目になっている。

 戦闘役の二人に対して、セリオンさんは魔法使いだ。彼が言うには水魔法と氷魔法が一番得意なのだそうだけど、それ以外の魔法もひと通り使えるらしい。でもそのルックスも、銀の髪も、メガネの奥に光る鋭い目も、氷使いのイメージにぴったりだ。

 ヴィーさんが言うには、セリオンさんは『真面目過ぎる』のだそうだ。そのヴィーさんはセリオンさんに『不真面目すぎる』と言われている。そんなわけで、この二人が文句を言い合っている光景は珍しくはない。
 そんな二人に、リーダーのジャウマさんがおおらかな言葉で穏やかにいさめる。さらに3人共をパパと呼んで慕っているアリアちゃんが笑ってはしゃいでみせると、その場は和やかな空気に変わる。
 そんな感じに、この一行はいい按配あんばいにバランスが取れているみたいだ。

 ひょんなことから、僕も彼らと一緒に旅をすることになった。あの3人と違って僕はまだEランクのひよっこで、しかも戦うことすらできなくて、できるのは薬草採集くらいだ。
 でも彼らは僕を仲間だと言ってくれた。そして、この幼い兎耳の少女――アリアちゃんを守るのが、僕の役目なのだそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。 やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。 本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。 マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...