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第二章
2-1 初めての仲間
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「グアアアアアッ!!!」
両手を大きく振り上げながら、ハンマーベアがこちらに向けて威嚇の声を上げる。
「うわあ!!」
つい叫び声をあげて尻もちをついた。でもそんな風にみっともなく慌てているのは僕だけだ。座り込んでいる僕のそばに、アリアちゃんが駆け寄ってきた。
「アリア、ラウル。下がっていろ」
「はーい」
リーダーのジャウマさんの言葉に、アリアちゃんが手を挙げて明るく返事をする。
二つにまとめた金髪の横に垂れた黒いウサギの耳が可愛く跳ねる。ベアの威嚇だけで慌てている僕と違って、アリアちゃんは怯えるどころかむしろ楽しそうだ。彼女は僕よりもずっと幼い女の子なのに…… それだけ彼ら3人を信頼しているからだろう。
「ラウルおにいちゃん、こっちだよ」
彼女に手を引かれ、すでに戦闘態勢をとっている3人の後ろまで下がった。
僕らを睨みつけたベアはもう一度低い声で唸ると、今度はハンマーのように固くなっているその両腕を振り上げて襲いかかってきた。その両腕をジャウマさんが大盾で受け止めると、鈍い音が響いた。
組み合って動かないベアとジャウマさんに向かってセリオンさんが杖を差し出す。その先から湧き出した火の玉は、ジャウマさんたちを目掛けて真っすぐに飛んで行った。
ジャウマさんがこちらも見ずに体を躱すと、火の玉は彼の赤い髪を掠めながらその向こうにあるベアの顔に当たった。
「ギャン!!」
顔を押さえたベアが腕を離したすきに、ジャウマさんは飛び退ってベアから距離を取った。
「セリオン、焼いちまうと高く売れなくなるぞ」
木の上から、ヴィーさんのお道化たような言葉が降って来た。その直後、彼のクロスボウから放たれた矢がベアの両足に刺さり、よろけたベアはそのまま前足を地面に付けた。
「顔なら多少焼けても構わないだろう。そう言うのなら勿体ぶらずにさっさと倒してしまえ」
セリオンさんも少しキツイ言い方で返す。
3人の攻撃を受けたベアは、今度は僕に狙いを定めて向かってきた。怯えている僕はあの3人よりもずっと弱い相手に見えるのだろう。まあ、その通りなのだけど。
「ラウル、結界だ」
「は、はい!!」
ジャウマさんに言われ結界魔法を発動させる。僕とアリアちゃんを囲むように、光の壁が輪の形で現れた。ベアは僕らの前で立ち止まると、ガンガンと両腕を結界に叩きつける。
そのくらいじゃ結界は壊れないと思うのだけど……でもやっぱり怖い。僕が身を竦めると、アリアちゃんも僕の腕にぎゅっとしがみついた。
と、そのベアの動きが止まったかと思うと、足からずるりと崩れた。
倒れたベアの向こう側に、止めを刺した3人が立っていた。
* * *
ただでさえ背が高くて体つきの逞しいジャウマさんが、自分よりも大きなベアを抱えて歩く姿は、やたらと目立つ。
町の入り口では門番が目を丸くさせていたし、町中では歩いているだけで注目の的だ。
この町に辿り着くまでの3日間、何故か大きな街道を通らないで、あまり旅人の通らなそうな山道を進み、しかも道中はずっと歩きだった。
そのせいか道中ではしょっちゅう魔獣と遭遇した。でもあのハンマーベアのように、オークも、ワイバーンも、まったく彼らの敵ではなかった。
「まあ、俺らも一応Aランクだからな!」
ヴィーさんは親指を立てて笑いながら言うけれど、多分そんな甘いものじゃない。もしかしたらSランク並みの実力があるんじゃないだろうか。
一番戦闘が得意なのは、リーダーのジャウマさんだ。背も高いし、体つきもがっしりとしていて、筋肉もすごい。その見た目の通り力も強くて、大きな盾を持ち、なんなく大剣を振り回す。いつも皆の一番前にでて戦っている。
ヴィジェスさんも武器を持ってるけど、彼は前には立たずに、遠距離の武器で後ろから攻撃をしている。ジャウマさんと違って、体つきは比較的ほっそりしているけれど、その分身が軽くて、動きも素早い。戦闘以外でもその機動力を生かした偵察が、彼の役目になっている。
戦闘役の二人に対して、セリオンさんは魔法使いだ。彼が言うには水魔法と氷魔法が一番得意なのだそうだけど、それ以外の魔法もひと通り使えるらしい。でもそのルックスも、銀の髪も、メガネの奥に光る鋭い目も、氷使いのイメージにぴったりだ。
ヴィーさんが言うには、セリオンさんは『真面目過ぎる』のだそうだ。そのヴィーさんはセリオンさんに『不真面目すぎる』と言われている。そんなわけで、この二人が文句を言い合っている光景は珍しくはない。
そんな二人に、リーダーのジャウマさんがおおらかな言葉で穏やかに諫める。さらに3人共をパパと呼んで慕っているアリアちゃんが笑ってはしゃいでみせると、その場は和やかな空気に変わる。
そんな感じに、この一行はいい按配にバランスが取れているみたいだ。
ひょんなことから、僕も彼らと一緒に旅をすることになった。あの3人と違って僕はまだEランクのひよっこで、しかも戦うことすらできなくて、できるのは薬草採集くらいだ。
でも彼らは僕を仲間だと言ってくれた。そして、この幼い兎耳の少女――アリアちゃんを守るのが、僕の役目なのだそうだ。
両手を大きく振り上げながら、ハンマーベアがこちらに向けて威嚇の声を上げる。
「うわあ!!」
つい叫び声をあげて尻もちをついた。でもそんな風にみっともなく慌てているのは僕だけだ。座り込んでいる僕のそばに、アリアちゃんが駆け寄ってきた。
「アリア、ラウル。下がっていろ」
「はーい」
リーダーのジャウマさんの言葉に、アリアちゃんが手を挙げて明るく返事をする。
二つにまとめた金髪の横に垂れた黒いウサギの耳が可愛く跳ねる。ベアの威嚇だけで慌てている僕と違って、アリアちゃんは怯えるどころかむしろ楽しそうだ。彼女は僕よりもずっと幼い女の子なのに…… それだけ彼ら3人を信頼しているからだろう。
「ラウルおにいちゃん、こっちだよ」
彼女に手を引かれ、すでに戦闘態勢をとっている3人の後ろまで下がった。
僕らを睨みつけたベアはもう一度低い声で唸ると、今度はハンマーのように固くなっているその両腕を振り上げて襲いかかってきた。その両腕をジャウマさんが大盾で受け止めると、鈍い音が響いた。
組み合って動かないベアとジャウマさんに向かってセリオンさんが杖を差し出す。その先から湧き出した火の玉は、ジャウマさんたちを目掛けて真っすぐに飛んで行った。
ジャウマさんがこちらも見ずに体を躱すと、火の玉は彼の赤い髪を掠めながらその向こうにあるベアの顔に当たった。
「ギャン!!」
顔を押さえたベアが腕を離したすきに、ジャウマさんは飛び退ってベアから距離を取った。
「セリオン、焼いちまうと高く売れなくなるぞ」
木の上から、ヴィーさんのお道化たような言葉が降って来た。その直後、彼のクロスボウから放たれた矢がベアの両足に刺さり、よろけたベアはそのまま前足を地面に付けた。
「顔なら多少焼けても構わないだろう。そう言うのなら勿体ぶらずにさっさと倒してしまえ」
セリオンさんも少しキツイ言い方で返す。
3人の攻撃を受けたベアは、今度は僕に狙いを定めて向かってきた。怯えている僕はあの3人よりもずっと弱い相手に見えるのだろう。まあ、その通りなのだけど。
「ラウル、結界だ」
「は、はい!!」
ジャウマさんに言われ結界魔法を発動させる。僕とアリアちゃんを囲むように、光の壁が輪の形で現れた。ベアは僕らの前で立ち止まると、ガンガンと両腕を結界に叩きつける。
そのくらいじゃ結界は壊れないと思うのだけど……でもやっぱり怖い。僕が身を竦めると、アリアちゃんも僕の腕にぎゅっとしがみついた。
と、そのベアの動きが止まったかと思うと、足からずるりと崩れた。
倒れたベアの向こう側に、止めを刺した3人が立っていた。
* * *
ただでさえ背が高くて体つきの逞しいジャウマさんが、自分よりも大きなベアを抱えて歩く姿は、やたらと目立つ。
町の入り口では門番が目を丸くさせていたし、町中では歩いているだけで注目の的だ。
この町に辿り着くまでの3日間、何故か大きな街道を通らないで、あまり旅人の通らなそうな山道を進み、しかも道中はずっと歩きだった。
そのせいか道中ではしょっちゅう魔獣と遭遇した。でもあのハンマーベアのように、オークも、ワイバーンも、まったく彼らの敵ではなかった。
「まあ、俺らも一応Aランクだからな!」
ヴィーさんは親指を立てて笑いながら言うけれど、多分そんな甘いものじゃない。もしかしたらSランク並みの実力があるんじゃないだろうか。
一番戦闘が得意なのは、リーダーのジャウマさんだ。背も高いし、体つきもがっしりとしていて、筋肉もすごい。その見た目の通り力も強くて、大きな盾を持ち、なんなく大剣を振り回す。いつも皆の一番前にでて戦っている。
ヴィジェスさんも武器を持ってるけど、彼は前には立たずに、遠距離の武器で後ろから攻撃をしている。ジャウマさんと違って、体つきは比較的ほっそりしているけれど、その分身が軽くて、動きも素早い。戦闘以外でもその機動力を生かした偵察が、彼の役目になっている。
戦闘役の二人に対して、セリオンさんは魔法使いだ。彼が言うには水魔法と氷魔法が一番得意なのだそうだけど、それ以外の魔法もひと通り使えるらしい。でもそのルックスも、銀の髪も、メガネの奥に光る鋭い目も、氷使いのイメージにぴったりだ。
ヴィーさんが言うには、セリオンさんは『真面目過ぎる』のだそうだ。そのヴィーさんはセリオンさんに『不真面目すぎる』と言われている。そんなわけで、この二人が文句を言い合っている光景は珍しくはない。
そんな二人に、リーダーのジャウマさんがおおらかな言葉で穏やかに諫める。さらに3人共をパパと呼んで慕っているアリアちゃんが笑ってはしゃいでみせると、その場は和やかな空気に変わる。
そんな感じに、この一行はいい按配にバランスが取れているみたいだ。
ひょんなことから、僕も彼らと一緒に旅をすることになった。あの3人と違って僕はまだEランクのひよっこで、しかも戦うことすらできなくて、できるのは薬草採集くらいだ。
でも彼らは僕を仲間だと言ってくれた。そして、この幼い兎耳の少女――アリアちゃんを守るのが、僕の役目なのだそうだ。
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