勇者と妖精の恋と冒険

ヨッシー

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フラナ

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リンゼイへの挨拶が済むと、マフラーの木の元に転移し、それから再度門を通り、今度は南東ではなく、南西に向かって歩き始めた

いや、歩くと遅いから、走る事にした

秘密基地にミリアを入れたまま走ると、基地内の振動がかわいそうだから、ミリアを手に乗せて、落ちないように親指にミリアを紐でくくりつけて、寒くないようにタオルをかぶせて走る

魔物はちょいちょい追いかけて来てるが、オレに追いつくやつは追い払って、ついてこれないやつは諦めてって感じだ

ずーっと走り続けてるから、魔物たちがバテて、諦める

南の大陸に渡るための港町には、歩きなら三日はかかるが、このままスムーズに行けば、一回野営すれば着けると思う

ミリアを乗せてない方の手で、水分補給とか補助魔法を使いながらひたすら走る

夕方くらいになると、道…あんまり道とは言えないような道の少し離れた所に、道に沿うように川が流れているのに気づいた

水の流れる音が聞こえなかったら、気づかなかったろう

オレはその川岸に行き、タオルを地面に敷いて、そこにバスケットを設置した

今日はそこで一夜を明かし、翌朝また走る

昼前には港に着き、船に乗り込んだ

その船の甲板で、海を眺めていると、中々に美しい歌声が聴こえてきた

見ると、楽器を弾きながら歌を唄う若者だった

顔もなかなかの美青年といった感じ

歌詞の内容は愛や恋心を語っている

その歌詞の表現もわかりやすく、美しかった

周りには人が集まり、女の子たちはメロメロになってる

たしかにモテる要素はかなりある

オレは今は特にモテなくてもいいけど、モテる事に頑張って生きてきたから、他人がモテてるとちょっとだけ悔しいのだ

だけど、それでもオレはこの青年の歌が好きになった

声も歌い方も羨ましいほどカッコいい

楽器が弾けるってだけでもカッコいいのに、見た目もカッコいい

このオレが憧れる奴なんて、滅多に居ない

ミリア『お兄ちゃん、この人の歌いいねえ…とってもキレイね』
アレス『だなあ…この船に乗り合わせたから、走ってきた甲斐があったよ』
ミリア『うん…でも、この人の心はあまりキレイではないのよ』
アレス『え!Σ(゚д゚υ)…こんなキレイな歌声なのに?!』
ミリア『うん…もう殺すレベルなのよ』
アレス『バカな…こんなに才能溢れるやつが?』
ミリア『そうなのよ…アタシは歌は聴きたいけど、近寄りたくないのよ』
アレス『じゃあ、ここらへんで聴いてようか』
ミリア『うん』

その若者は唄い終わると、優しげな顔で挨拶をした

ここから見る分には、とても価値のない人間には見えない

だが、次に若者のとった行動がちょっと気にかかった

明らかに女の子だけの集団がいるってのに、わざわざ男付きの女の手をとって、抱き寄せてキスをしたのだ

男は当然怒って、若者に掴みかかる

若者は申し訳なさそうにしながら謝って、その場は収まった

お詫びにもう一曲と言って、また唄う
歌はやっぱり素晴らしい

さっきキスされた女も、もはや自分の男の事は眼中にない様子だ

若者も、時々その女と目を合わせて唄う

アレス『ミリアに言われたからそう見えるのかもしれないけど、やっぱこいつはろくでもないかも』
ミリア『ふうん…どこがそうなのかわからないけど、お兄ちゃんがそう思うならそうなのよ』
アレス『…まあ、オレには関係ないけど…なんとなくは気にしてみるよ…でも、こいつの歌は最高だから、せっかくだから聴いておこうw』
ミリア『うん!…キレイねえ』
アレス『海の飽き飽きする風景も、こいつの歌があると良く見えるねえ』
ミリア『うんw…お兄ちゃんとくっついて聴きたいのよ』
アレス『ふふw…オレも…せめて指だけ入れる?』
ミリア『うん!』

秘密基地に指を入れると、ミリアは寄りかかって、秘密基地をのぞき込むオレに、いつもの可愛らしい笑顔を向ける

ミリアへの愛を持ってから、オレ自身少し変わった感じがする

それは良いのか悪いのかわからないけど、少なくともオレは幸せだ

なんていうか…他人に少し優しくなれた気がする

アレス『寒いから閉めるよ』
ミリア『うん…スリスリ…』

それはそうと、若者の歌が終わってしまった

アレス「お前、素晴らしい声だなぁ…有名な歌手なのか?」

周りにワイワイ騒がれていたそいつだったが、オレがそう言うと、反応した

若者「ボクはただの吟遊詩人ですよw」
アレス「そっか…ほら…シュ」
吟遊詩人「パシ…わ!100もw…ありがとうございますw」
アレス「ああ…もう一曲頼む」
吟遊詩人「…わかりました…また違うのでいいですか?」
アレス「うーん…最初に唄ってたやつがもう一度聴きたい」
吟遊詩人「はい」

吟遊詩人はまた唄い始めた

オレを見たり、女を見たりしながら唄う
そして唄い終わると、『ではこれで』と言い、客室に入っていった

ただ1人、女の連れの男だけが不愉快な顔をしていた

その日の夕食、オレはそのカップルのテーブルを見ていた

男はまだ不機嫌にしていて、女はいい加減うんざりみたいな雰囲気

そこに吟遊詩人が来た

吟遊詩人「先程はあなたの恋人と知らずに、申し訳ありませんでした…お詫びにこれを」

そう言って、二つ持ってるうちの一つのワイングラスを男に差し出した

男「ああ…」

男は受け取って、吟遊詩人とグラスを軽く合わせて、飲んだ

吟遊詩人「すいませんでした…ではこれで」
男「いや…オレも不機嫌になって悪かった」
吟遊詩人「いえw」

男の機嫌はいくらか治ったが、女がまた吟遊詩人の後ろ姿を見ていたから、『いい加減にしろ』と言った

そのうちに男は眠そうになり、吟遊詩人がまた来た

吟遊詩人「具合悪そうですが、大丈夫ですか?…部屋まで送ります」
男「あ、ああ…すまん…」
女「ごめんなさいね…ありがとう」

吟遊詩人は男に肩を貸し、男の部屋に連れて行く

オレはこっそり後をつけた

男は部屋に戻るまでの間に眠ってしまったようで、吟遊詩人と女が一生懸命に運んでいる

吟遊詩人「ねえ君…ボクは君に謝らないといけない」
女「え?」
吟遊詩人「ボクは君に一目惚れしてしまった…だから、彼に睡眠薬を飲ませてね…」
女「え?!…そ、そう///」
吟遊詩人「良かったら、今夜一晩だけでも…ボクの恋人になってくれませんか?」
女「で、でも///」
吟遊詩人「大丈夫…彼なら朝まで起きませんから」
女「秘密にしてくれますか?///」
吟遊詩人「もちろんですw」
女「じゃ、じゃあ…///」

なんてやつだ…

でも、本当に心から愛した上での行動か?

いや、だけど、睡眠薬を持ち歩いてるのはなぜだ?
考えすぎか?

吟遊詩人たちは部屋に入り、オレは扉についてる小窓から中をのぞいた

吟遊詩人はベッドに男を寝かせ、女に向き直ると、女も吟遊詩人に手を回し、キスを始めた

そのキスをしてる時の吟遊詩人の顔は邪悪だった

今までの優しげな目ではなくて、『バカな女だ』って言ってるような目だった

吟遊詩人は女の上着を脱がし始め、女も抗わず、むしろ脱がしやすいように、両腕を上げた

オレは扉をノックした

女「は、はい…」
アレス「悪いことはしないことだ…後悔するぞ」
女「…なんのことですか?」
アレス「そこのそいつは、歌声と顔くらいしかいいところがないって事だ…お前は遊ばれてるだけだ」
女「な、なにを…」
吟遊詩人「なにを言ってるんだあなたは…関係ないでしょう?…ボクは本当にこの人を愛してるんだ…邪魔をしないでくれよ」
アレス「今やめるなら、オレも黙っててやるぞ?…それともお前は彼との愛をなくしてまで、ソイツと寝たいのか?」
女「…や、やめます!」
吟遊詩人「君!…あんた、なんで他人の恋を邪魔するんだ!」
アレス「お前が本当にその女を愛したなら、オレも見て見ぬフリをしたが…キスしてるお前の悪そうな顔を見たからな」
吟遊詩人「そんなのが愛してない証拠になるのか?」
アレス「証拠にはならんよ…だけど、お前が良い人間じゃないのはわかる…女よ」
女「は、はい…ブルブル」
アレス「大丈夫…オレはお前の人生を壊しにきたんじゃない…たしかにこいつはさ、歌もすごく良いし、顔を見ても、あんたの彼よりカッコいいよな」
女「う…」
アレス「だけど、それだけで彼を裏切れるのか?…彼をよく見ろ」
女「は、はい…」
アレス「彼はどんな奴だ?…オレに教えてくれ」
女「は、はい…」
吟遊詩人「なんなんだよあんた…ひっこんぶえ!!」
アレス「引っ込むのはお前だよ…お前はそこで見てろ」
吟遊詩人「う…こ、この野郎…ぐぅ!!」
アレス「黙らねえと、お前の腕を切るぞ?…女、悪かったなw…さ、彼の事を聞かせてくれ…どんな奴だった?」
女「はい…彼は…とても優しくて…」
アレス「出会いは?」
女「出会いは海でした…わたしは素潜りで貝やウニを取る仕事をしてて…その途中で、海の魔物が近寄ってきて…わたしは気づかないで足を掴まれました」
アレス「おお…そりゃ怖かったろ…」
女「はい…とっても…わたしは怖くて暴れて…泣いて叫んでました…そしたら彼は小舟で来て、銛でその魔物を追い払ってくれて…わたしは足にケガをして血が出てました…この傷です」
アレス「ああ…」
女「彼はわたしを小舟に乗せて、わたしを病院まで抱っこして運んでくれました」
アレス「めちゃくちゃカッコいいじゃん!」
女「はい!///…わたしはもう、すぐに好きになりました///」
アレス「そりゃなるよw…ほんで?w」
女「彼は『良かったね、気をつけてね』とだけ言って、名前も言わずにさっさと仕事に戻ってしまって…」
アレス「カッコいいなw」
女「はい///…でも、わたしは彼の事知りたかったです…だから探しに行きたいと思ったけど、その時は歩けなくて、しばらくは入院ということになりました」
アレス「うん…残念だな…」
女「はい…その時のわたしは彼の事ばっかり考えてました…それで、『また会いたい』って何度も思ってたら…夕方また来てくれたんです!」
アレス「おお!!…で?」
女「彼は『その足じゃ帰れないだろうから、家まで運ぼうかと思ってw…迷惑ならこのまま帰るよ』ってw」
アレス「かっけぇw…男らしいわ…」
女「はいw…わたしは彼に迷惑かもと思ったけど、彼と知り合いたくて、送ってもらいました…たしかに顔も身体もあなたみたいにカッコ良くないけど、わたしにはとてもカッコ良かったの///」
アレス「うん、人は見た目だけが全てじゃない」
女「はい!」
アレス「それからは?」
女「わたしは抱っこして送ってもらってる時に、名前とか仕事とか、いろいろ話しました…それでわたしの家に着いて、わたしをベッドに置くと、その日は帰ったんですけど…次の日も来てくれました…わたしのごはんとかを心配してくれて」
アレス「いい奴だなあw」
女「そうなんです!…毎日わたしが歩けるようになるまで来てくれて…歩く練習も付き合ってくれました…でも、わたしが歩けたら彼はもう来てくれないかもと思うと、歩けるようになるのが嫌でした…」
アレス「ああ…そういう切ない心の動き…良いな」
女「わたしはせっかく彼が手伝ってくれるのに、そんな事思って、申し訳なくて、泣きました…そしたら、彼はギュッと抱きしめてくれて…グス…『歩けるようになったら、一緒に町を歩いたりしよう』って言ってくれました…それからわたしたちはキスをして…愛し合うようになったんです…今回のこの船に乗ったのも、彼が一週間の休みを一生懸命に作ってくれて、海の向こうの町で遊ぼうって…」
アレス「そっかw…でもあんたはさ…そんな良い男を裏切ろうとしたんだよ?」
女「うう…グス…ごめんなさい!…ごめんなさい!」
アレス「お前のその、ちょっと遊んでみたいって気持ちもわかるけどさ…こいつはカッコいいしな…でも、大切な人は絶対に裏切ってはいけない…大切な人の心を踏むような事をしたら、お前に幸せなんて二度と来ない…わかるか?」
女「は、はい…グス…うう…ごめんなさい…」
アレス「今さ、オレに話して昔を思い出してさ…彼がしてくれた事、優しさや温かさがわかったろ?」
女「うん…うん!」
アレス「大事だってわかったよな?」
女「はい!!」
アレス「彼はさっき、不機嫌だったけどさ…それもお前を愛してるからだよ」
女「はい…グス」
アレス「抱きしめてやれ…彼を」
女「はい…ごめんなさい!…ごめんあなた…うう…ギュゥ…大好きよ…」
アレス「それでいい…お前の幸せはそこにある」
女「はい…ありがとうございます…グス…あなたが来てくれなかったら…ほんとにありがとうございます」
アレス「気にするな…ただのおせっかいだよ」
女「あなたもとてもカッコいいです…グス…お名前聞いてもよろしいですか?」
アレス「オレはアレス…勇者のアレスだ」
女「勇者様!!…アレス様!!」
アレス「勇者って証拠はないけどねw」
女「証拠なんか要りません…信じます!…わたしなんかの為に動いてくださって、本当にわたしは幸せ者でございます…」
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