勇者と妖精の恋と冒険

ヨッシー

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港町

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かもめ旅館

夕方6時くらいにダンはかもめ旅館に着いた

オレはあらかじめ宿屋の番頭に客が来るのを伝えている

ダンはオレの部屋にやってきた

アレス「よお、入れよ」
ダン「おじゃまします…あれ?…お嬢は?」
ミリア「ここ!ここ!」
ダン「…キョロキョロ」
アレス「テーブルの上」
ダン「…ええーー!!!…ガタン!!」

すげえビックリしてるw
そりゃそうかw

ダン「な、な、なんでこんな小さい…」
アレス「ミリアは世にも珍しい、大きさ変化の魔法が使えるんだよ…普段はここに入って一緒に旅してる」
ミリア「秘密基地!!」
ダン「へ、へえ…魔法っスか…」
アレス「勇者の妹なんだから、このくらい当たり前だろ」
ダン「そ、そっスね…でもビックリしたっス」
アレス「言うなよ?」
ダン「はいっス!」
アレス「…で、ほら、メシ二つあるだろ?…一つはミリアの分なんだけど、ミリアはこんなに食えないし、好き嫌いもあるからさ…お前まだ食ってねえなら、食ってくれよ…オレも食う」
ダン「い、いいんスか?…やった!!w」
アレス「ああ、逆に助かるからw」
ダン「…もしかして、この為に呼んだんですか?…いや、全然嬉しいっスけど」
アレス「いや、それも少しあるけどな…メシ食ったら海岸に行くぞ」
ダン「あ、はいっス」

オレとダンはそれから無言でメシをたいらげ、ミリアを秘密基地に入れて、海岸に行った

アレス「おい、ダン…お前にこれやるよ」

オレは普段隠してるナイフをダンに渡した

ダン「え?…こんな立派なナイフ…嬉しいっスけど、なんで?」
アレス「お前の持ってたチンケなナイフじゃ、なかなか殺せねえからな」
ダン「え?…殺す?」
アレス「ん?…お前、仇を殺したくねえのか?」
ダン「え?!…オレが?…自分で?」
アレス「ああ…復讐したくねえのか?…妹を理不尽に汚されて、殺された恨みは忘れちまったのか?」
ダン「…いや…ぶっ殺してえ!!」
アレス「やられたらやり返せ…オレがやっつけるのは簡単だけど、それで妹が納得すると思うか?」
ダン「いえ!…オレがやってやる!」
アレス「そうだ…スカッとしろよ…じゃねえとお前のこれからの人生だって、腹から笑える事なんてねえ」
ダン「はい!」
アレス「でさ、お前は人を刺した事あるか?」
ダン「そ、そんなのねえです!!…たしかにオレもワルっスけど、そんな度胸は…」
アレス「いや、それでいい…それが普通だし、平気で人を刺せるような奴をミリアに近づけたくねえ」
ダン「はい…」
アレス「けど、海賊に復讐するってなったら、ソイツを思っきし刺さなきゃなんねえだろ?…そん時躊躇したら、お前がやられる」
ダン「…たしかに」
アレス「でも、人を刺した事ない奴は普通は、ムカついてる奴相手でも、なかなか躊躇って出来るもんじゃねえんだ」
ダン「うん…そうだと思います…」
アレス「だからさ…カチャカチャ…ちっと待てな?」

オレはズボンを脱いだ

ダン「な、なにを?」
アレス「いや、人を刺す練習させてやるよ…オレの足でな?…ズボン破かれるのはごめんだからな」
ダン「ええ?!…無理っス!…そんな!…兄貴にそんなこと!!」
ミリア「ダメ!!」
アレス「え?…ああw…大丈夫!…オレは痛みをほとんど感じさせなく出来るからw…それに回復も出来るし、足だから死なないし」
ミリア「で、でも…」
ダン「な、なんで…オレなんかの為にそこまで…」
アレス「なんでだろうね…オレもわかんねえw…ただ、そうするのがいい気がするのさ」
ミリア「ほんとにだいじょぶ?…痛くない?」
アレス「ちょっとは痛いw…全然痛くねえと、コイツも実感できないから…でも大丈夫、終わったらケロッとしてる…いつもオレはそうだろ?」
ミリア「…うん」
ダン「……」
アレス「なあダン、覚悟を決めろ…海賊どもはムカつくけど、戦いに生きてる分、絶対にお前より強い」
ダン「は、はい」
アレス「でもお前は妹の恨みを晴らすべきだ…お前がしたくないなら、この話はやめるけど…」
ダン「…オレは…怖いけど、復讐したいっス」
アレス「…なら、覚悟しろ、人を殺す覚悟、殺される覚悟…それはそんな甘いもんじゃねえ…お前は今はオレを好きだろ?」
ダン「はい…すげえ尊敬してます!」
アレス「そのオレに…ソイツで思っきし刺せるんなら、海賊ども刺すなんてわけなく出来るようになる…そういう『慣れ』ってのも覚悟には必要だっつってんのよ…現実ってのは厳しい…思ってるだけじゃ何にも出来ねえ…何も変わらねえ…だから実際に何かを変える『力』を持つしかねえ…だからやってみろ」
ダン「…やっぱ…勇者様はすげえっス…」
アレス「いいか?…太もものここいらに骨がある…骨は硬いから、刃がすぐダメになるからな?…出来るだけ柔らかいとこ狙うのがいい…だから少しずらしてここら辺狙え」
ダン「はい…ほ、ほんとにそんな痛くないっスよね?!」
アレス「大丈夫だよ…やってみ?」
ダン「…はい…」

ダンは意を決して、ナイフを構えて、突進してきた

だけど、やっぱり無理で、止まってしまった

そりゃ普通ならそうだ

それでいい

ダン「…やっぱ…嫌です…グス」
アレス「…そうか…貸してみな…それ」
ダン「…はい」
アレス「こうだ…グサ」
ダン「いぎゃあああ!!」

オレはダンの足に少しだけ刺して、すぐに回復してやった

ダン「う…い、痛かった…」
アレス「オレだって、刃物刺すとかほんとは嫌だけど…やった事は何度かあるから、こうやれるんだ…」
ダン「…そ、そうなんですね」
アレス「うん…そうだ、お前、魚を捌いたりはするんだろ?」
ダン「あ、はい」
アレス「でも、一番初めに魚に包丁刺す時、どんな気持ちだった?」
ダン「…魚かわいそうで…手が震えたっス」
アレス「…今は?」
ダン「今は特になんも思わず、作業みたいな感じっス」
アレス「それと同じよ…海賊の野郎どもはそんな感じで人を殺す…お前はそこまで慣れなくていいけど、そんな奴相手に躊躇してたらどうよ?…想像してみ?」
ダン「…さ、先にアッサリ刺されてると思います」
アレス「ああ…そんなんじゃ情けないだろ?…結果はどうあれ…お前が死ぬのであれ…やれる事はやって相手にもダメージ与えねえとさ、ムカつくまま死ぬぞ?」
ダン「は、はい…」
アレス「まあ、じゃあ最初はそんな思っきしじゃなくていい、座ってるオレの足に、軽く刺してみ?」
ダン「は、はい…」

ダンは目を瞑って、恐る恐る刺した
まあ、2センチくらい刺さった

アレス「そうそう…ほら、もっと続けろ」
ダン「ほ、ほんとに痛くないですか?」
アレス「だいじょぶだからw」

本当はちょっと痛い

これはオレの麻痺の魔法を足にかけてるからなんだけど、完全に痛みをなくすのは出来ない

ほんと、オレはなんでこんな事してるのか、自分でもわからないw

ダンはだんだんと刺すのに慣れてきて、深く刺せるようになってきた

アレス「ぐ…ちょっと待ってな…パァァァ…よし…あんま痛くはねえけど、あんま血を出すとさすがにやばいからな…」
ダン「だ、だいじょぶスか?」
アレス「自分の事はわかってるからw…お前もだいぶ慣れてきたろ?」
ダン「はい…でもやっぱり嫌なもんは嫌です」
アレス「それでいい…オレは何もお前を殺人狂にしたいわけじゃねえからな」
ダン「はい!」
アレス「さ…じゃあそろそろ本番だ…思っきしやってみろ」

オレは立って、ダンにナイフを構えさせた

ダンは覚悟を決めた目になって、叫びながらオレの足に深々と刺した

痛え…

アレス「そうだ…ぐ…よくやったな…それ抜くと、血がすげえ出る…やってみろ」
ダン「…ぐ…で、でも…」
アレス「…やれ!!」
ダン「うわぁああ!!」

ぐ…痛え…血もすげえ…ミリアは大泣きしてる

オレはすぐに回復したけど、ちょっとフラっとしてるw

けっこうな出血だ

ポケットからシエナの『おしっこ』の瓶を出して、飲んだ

やっぱこの『おしっこ』はすごい
たちまち元気になる

まるで、ぐっすり寝て起きたように元気だ
痛みもなにもない

アレス「ミリア、これ飲んだからだいじょぶよ」
ミリア「…グス…ほんと?…ほんとにだいじょぶ?…グス」
アレス「だいじょぶだいじょぶw…ごめんな…泣かせて」
ミリア「うう…グス」
ダン「兄貴…グス…オレの為にこんな…ありがとうっス…オレ…」
アレス「もういいよw…オレは本当になんともねえしw」

オレはミリアを秘密基地から出して、ダンの隣に置いた

アレス「見てろ?」

オレは2人を安心させる為、近くの岩を蹴り砕いたり、連続バク転とかして見せた

ミリア「おお~///…カッコい~!!」
ダン「ほんと!!…めちゃくちゃカッコいい!!…すげえ!!」
アレス「な?…だいじょぶだったろ?w…勇者ってのはお前らの想像をはるかに超えてるだろ?」
ダン「はい…キラキラ…オレ、ほんと…こんなすげえ人見たの初めてっス…キラキラ…」
ミリア「お兄ちゃん、すごすぎる!!」
アレス「まあねw…じゃあ一旦宿屋戻るか」

宿屋

ダン「いや…マジですげえ人っス…昨日の船長との話し合いとかも、すげえカッコ良かったし」
アレス「ん?…そう?」
ミリア「アタシもよくわからなかったけど、カッコいいと思ったよ!…なんかすごく大人だなあって」
ダン「そうそう!…そうっス!w…オレ、目上の人にあんな堂々と喋れないっスよ…まして兄貴まだ若えのに」
アレス「まあ、そんくらい出来ねえと、妹も連れて旅なんか出来ねえって」
ダン「そりゃそうか…オレは魔物怖くて、この町から出た事ねえっス…」
アレス「それがいいぞ…誰もがそんな強くねえし、力を持たない奴は、それなりに生きるしかない…もし外に出たいって本気で思うなら、力も覚悟も持たなきゃいけない…それが世の中の厳しいとこよ…自分で出来なきゃ、オレみたいな奴を金で雇うとかでもいい…でもお前にはそんな金もねえだろ?…だったらこの町で頑張るしかない…死にたくなけりゃな」
ダン「全くもって…その通りっスね…」
アレス「力もないのに、あれがしたい、どこどこ行きたいとか…みんな思うけど、そんな世の中じゃねえからな…」
ダン「…なるほどぉ…勉強になったっス」
アレス「なら良かったw…お前さ、これから出航までの間は、布団ぐるぐる巻にして、ソイツで刺す練習しとけよ?」
ダン「はい!!」
アレス「それから、ミリアの分のメシは毎日片付けに来いよ」
ダン「マジっスか?!…それはめちゃくちゃ嬉しいっスw」
アレス「ああ…じゃあ今日はそろそろ帰れ」
ダン「はい!…ほんとにありがとうございました!!」
アレス「じゃあな」
ミリア「またね!٩(*❛⊰❛)۶」

そうしてダンは帰っていった

ミリア「ダンはお兄ちゃんに会ってから、どんどん命の価値が上がってるよ」
アレス「え?…そうなの?…それってミリアにはどんなふうに見えてるの?」
ミリア「このお胸のあたりが、光るのよw…価値がないと全然光がないのよ」
アレス「へぇ!…そういやガイア様もオレの事ピカピカって表現してたわ」
ミリア「お兄ちゃんのはガイア様と同じくらいだよ」
アレス「それがオレには信じらんねえ…オレはそんなにいい奴でもねえと思うのに」
ミリア「わかんないけど…実際にそうだもん」
アレス「今も?」
ミリア「見ていいの?」
アレス「う…怖えな…見て下がってても嫌わない?」
ミリア「うんw」
アレス「よし…いいぞ」
ミリア「おお~!…やっぱりお兄ちゃんの眩しい!」
アレス「へぇ!…わかんねえもんだな…ミリアのは?」
ミリア「自分のはわからないのよ」
アレス「そうなのか…でも、ミリアのは誰よりもピカピカだろうなあ」
ミリア「わかんないのよ…でも、妖精たちとそんな変わらないと思うのよ」
アレス「妖精もピカピカ?」
ミリア「うん!…でも、お兄ちゃんはもっとずっと明るい」
アレス「…そうは思えないんだけどなあ」
ミリア「信じて!」
アレス「うん…ミリアの言うことなら、信じるよ…ウソでも全力で信じるw」
ミリア「ウソなんかつかないよw…でも、今の言葉でまた眩しくなった」
アレス「そうw…なんなんだろねw…もう見なくていいよw」
ミリア「うんw…でもね、アタシにもわかんないけど、こんなの見なくてもお兄ちゃんはピカピカに見えるんだよ」
アレス「そっかw…ありがと」
ミリア「うふふ///」

オレは自分がそんなにキレイな人間とは思えない

暴力も振るうし、時には残酷な事もする

恐怖を徹底的に刻み込むほど脅すし

でもそういうのは関係ないのだろうか…

力の使い方の問題なのかな…

でも、ミリアがそう言うならオレはキレイなんだろう

わからない事を考えても仕方ない

そんな自分のピカピカの事より、ミリアやオレに関わった奴のピカピカの笑顔の方がオレには大事だ

だからオレは、そう出来る自分で居られるようにしよう
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