母ちゃんとオレ

ヨッシー

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母ちゃんと三度目のオレと二度目のユウトくん

14話

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そんな話に夢中になっていると、気がつけばけっこうな時間が経っていた

でも、父さんにも会いに行かないといけない

「あのさ、ユウトくん」
「ん?」
「今貸してる小説はもう返してもらってもいい?」
「ああ…大丈夫…もう五回は読んだからw」
「ありがとう///…めちゃくちゃ嬉しいよ…実は先生も楽しみにしてくれててさ…これを見たがってくれててね」
「へぇぇw…でも納得いくよ…面白いもんそれ」
「ありがとう///…贔屓目でも嬉しいよ///」
「贔屓目かはわからないけどw」
「本当は自分が楽しければそれでいいと思ってたけど…他の人に面白いと思ってもらえるのって、思ってた以上に嬉しいよ」
「それは良かったw…けどさ、カオくん」
「うん」
「カオくんさっき、自分がワルにならないか心配してたけどさ」
「うん」
「その今言ってくれた『カオくんの勇者像』を聞いてるとさ」
「うん」
「まるでそんな心配する事ねえって思うぜ?」
「そうかな///」
「うん…アレスはカオくんじゃないってのは理解したけどさ…元々のアレスのコンセプトはカオくんのその考えじゃんか…それはまぎれもなく、カオくんの価値観じゃんか…少なくともオレにはそのカオくんの価値観は正しく見えるよ」
「…ありがと…」
「だからなんつうか…万一カオくんが前みたいにワルになってもさ…カオくんの正義はワルじゃねえんじゃねえの?…オレは前のカオくんを思い返してみると、ワルだけどワルには見えてなかったし…」
「へぇぇ…」
「カオくんがそうなるには何か正当な理由があるんだよ…オレはだから…上手く言えないけど、どんな道に進むとしても、カオくんはカオくんなんじゃねえのかな…そう思うぜ」
「…そんなにブレないのかね…オレ」
「うーん…少なくともオレはそう思うね…でもまあ、迷って自分が嫌いになったらさ…オレがぶっ飛ばしてやるから…オレんとこ来いよな」
「…うん…ウル…最高だ、ユウトくんは…」
「まあねw」
「…オレ、そろそろ帰らないとだ」
「ああ、オレもハルのとこ行ってやらないとだわw」
「うんw…アイス買ってあげてw」
「ああw…またな…いつでも来いよ…毎日でもいいからw」
「うん!」

そうして、オレとユウトくんは一緒に外に出て、それぞれ分かれた

ああ…
やっぱりユウトくんはすごい
こんなに気分が晴れるなんて…

時間は17時半くらい
まだまだ外は明るい
オレは今度は父さんの家に向かう

まだ帰ってはいないだろうけど、前の人生でも、父さんは帰りが遅いって事はほとんどなかった

会社が良いのか、父さんが優秀なのか
両方なのかな

父さんの家の前で、自転車に座って帰りを待つ
夏は嫌いだ
暑いのはまだ許せるけど、この空気のネットリした感じとか、ジメジメで汗が浮き出る感覚が本当に慣れない

おまけにセミもうるさいし、蚊に刺されるし…
こうして待つ間も、すでに2カ所は刺されてる
虫よけ欲しいなあ…

「おお、カオくん!」
「父さん!…おかえりw」
「ただいまw…待ってたの?」
「うん…助けてもらいたい事あって…」
「わかった…家に入ろう」
「うん」

「懐かしい?」
「少しw」
「…で、何をすればいいの?」
「ああ…

オレはまた説明をして、ゲットした証拠たちを見せた

「証拠とったねえw…すごいな」
「へへ」
「いやしかし…すごい腹立つな…実際こういうの見ると余計に」
「…ありがと」
「けど、良い先生だね…」
「うん…先生には迷惑かけたくない」
「…あと、このとりまきくんたちはどうする?…許す?」
「ソイツらは許そうと思う…最初はそんな気なかったけど…オレに寝返った時にこんな事思ったんだ…」
「どんな?」
「こいつらをこっちに引き込めば、コイツにさらに孤独っていう報復ができる…って」
「…えぐいなw」
「…ね…オレ、すごいやなやつだと思う」
「そんなふうに自分を思うもんじゃないよ…悪いのはコイツなんだから」
「ありがとう…だけど、オレはこの自分の黒さが好きじゃないから…父さんに嫌われても仕方ないと思うけど…今回はその…助けてほしくて」
「嫌いになんかならないよ…たしかに黒いけどもw…でも、カオくんは自分でわかってるし、それを好きな人に向けたりもしないだろ?」
「それは絶対にない!」
「ならいいじゃないかw…逆にすごく頼もしいじゃん」
「そっかな…」
「男には戦う時とか…逃げたらダメな時ってあると思う…男ならっていうか、誰でも…そんな時戦えるんだ、カオくんは…それをオレは誇りに思うよ」
「父さん…ウル…ありがと…」
「うん…ウル…」

「じゃあ…この2人は許すんだね?」
「うん…父さんはどう思う?」
「オレは…そりゃ、カオくんにした実害は許しがたいけどさ…うーん…今後のカオくんに対する態度や行動?…それで判断するよ」
「さすが冷静だね」
「はははw…いや、それにさ…許すって事も大事なんじゃないかなって…」
「父さん…」
「オレってさ…案外なかなか気持ちが切り替えられなくてさ…まだ母さんの事も許せてないし…」
「それは仕方ない」
「すまん…けど、カオくんがどういう考えであれ、許されたこの2人は救われたと思う…それでこの子たちに正しい生き方が出来るなら、カオくんの選択は素晴らしいと思う」
「結果が良い事が肝心…て事?」
「まあ…そうかなw…仕事でもそういう時あるよ」
「なるほど…」
「オレはこの子の親に連絡するよ…弁護士の人にも来てもらって、先生たちも交えて話し合いしよう」
「うん…ありがと…それであとね…」
「うん」
「言いにくいんだけど、お金を貸して欲しいんだ…先生に診察や薬や診断書でかかったお金を借りているから…母ちゃんに正直に話せないから保険を使えないから…」
「そんなのオレが払ってあげるよ」
「いや、必ず返す…数年かかるけど、バイトとか始めたら返すから」
「いいって!…親が子供に向かって医療費返せなんて言うクソにさせないでくれ」
「父さん…ウル」
「当然かかるお金の事は、お前は気にするんじゃない…せめてそのくらい親らしくさせてくれ」
「うん…ウル…うん…」
「弁護士の金もね」
「じゃあ…甘えてしまうね…」
「ああ」
「…それとね…あと気がかりなのは…」
「うん…なんでも言ってみな?」
「先生の事…先生に処罰が下るんじゃないかって事…」
「ああ…うーん…それはまあ…なんにもなしって事はないだろうなぁ…」
「それは嫌だ…」
「じゃあさ…もし先生が処罰を受けて、学校を退職するようになってしまったりしたらさ…」
「うん」
「そしたらさ…父さんの働いてる会社にオレが口きくから…父さんの会社で良ければ働き口は用意するよ」
「…すごい、父さんはそんな力が?」
「いちおうね…まあ…確実ではないけどさ…人事課長と仲良くて…その人はとても正しい人だから、その人の判断になるけど…無下に断ったりはしないでくれると思う…先生の人柄とかにもよるけど…オレから見ても会社に有益な人になってくれそうだしさ…」
「じゃあ…確実ではないんだね」
「まあね…でも、うちがダメでも、他の子会社を斡旋してくれると思う…その人は」
「そっか…父さんが仲良くする人なら、オレも信じる」
「ありがとうw…ジ-ン」
「確実ってわけじゃなくても、その事は先生に話してみてもいいかな?」
「うん…うん、いいと思う…絶対に期待持たせるような言い方はしないよな?…カオくんなら」
「それはしないw」
「ならいいよ、少しは安心感とか希望があった方がいい結果が出る確率が高くなると思うし」
「オレもそう思う」
「いや…しかし…ほんとになんか…カオくんが実は大人だってさ…理性ではあり得ないと思ってるけど…こうして話してるとやっぱり子供と思えない」
「…たしかにオレは信じられないかもだけど、子供の歳じゃないよ…けど、社会経験もそんなにないガキだよ…生意気でごめんね」
「ううんw…謝ることなんて一つもないじゃんw…こうして話せて嬉しいよ」
「こんな頼み事の時しか来なくて申し訳ないよ…」
「いいんだよ…頼ってくれるの嬉しいし」
「本当にありがとう…グス」
「うん…ナデナデ…なんにせよオレにはかわいいからw」
「…ヒック…ヒック」

オレは泣けて仕方なかった
やっぱり父さんの前では、子供の自分が出てしまうんだろう
今の状況は複雑で、両親揃ってないのは不幸な事かもしれないけど、こういう事になってたからこそわかった幸せがあると、オレは思う

今の寿命の短いオレに、何を返せるかわからないけど…
それでもいつか…
この優しい人たちに、何かが出来たらいいなと…心から思う
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