母ちゃんとオレ

ヨッシー

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母ちゃんと三度目のオレと二度目のユウトくん

1話

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意識が戻ると、オレはまた幼くなっている
そして…
目の前には泣いている母ちゃんと…
怒ってる父さんがいる

「カオル…お前はどうする?…オレのとこ来るだろ?」

「オレは…母ちゃんが好きだ」

「カオくん!!…あなた!!…お願い…カオくんはわたしがちゃんと面倒見るから…ちゃんと良い子に育てるから…お願いします!…グス」
「…ちゃんと見れるとは思えないがね…」
「お願いします!!…わたしは…1人じゃ…」
「…慰謝料を倍にすると言っても?」
「…はい…ちゃんとお支払いします…だから…」
「…わかった…」
「良いのですか?」
「弁護士さん…甘いのはわかってるけど…こいつは人一倍寂しがりでね…カオルをとったら自殺もしかねない…だから最後の情けだ」
「わかりました…では…慰謝料は倍額にするという条件で…」
「…はい…かまいません…グス」
「もちろん、養育費なども出しませんが…よろしいですか?」
「…はい…」
「…待て…ほら…少ないがこれをやるよ…カオルをよろしくな…」
「あ、ありがとう!!…ありがとう…あなた…ごめんなさい…グス」
「優しいですね」
「カオルの為だよ…ただし、カオルが路頭に迷ったら…オレはお前からとりあげるからな」
「はい…わかりました…」
「カオル…カオくん…」
「なに?」
「母ちゃんをよろしくな?…元気で暮らすんだよ?」
「うん…父さんも…しゃがんで?」
「ん?…ああ」
「…ギュゥ…ありがと、父さん…またいつか会おうね」
「…カオくん…ウル…またいつかね…ナデナデ」
「うう…グス…ほんとにごめんなさい…」
「ああ…」

そうしてオレは、母ちゃんに手を引かれて、母ちゃんの実家に向かう

あの時はわからなかったけど
やっぱり父さんは優しい人だ…

なぜ、こちらの人生を選んだか…

一つはまた母ちゃんと2人で、ボロボロアパートに住みたかったのと…

それとやっぱり大きいのは、一度目の人生の時の『ユウトくん』に会いたかったからだ

二度目のユウトくんも大好きだけど…
オレは実際にはもう大人だから
大人のユウトくんが良かったんだ

「カオくん…ごめんね…母ちゃんと一緒で…きっと貧乏暮らしだけど…ごめんね」
「母ちゃん…大丈夫だよ」
「カオくん…なんだかいつものカオくんと違うねえ…さっきも父さんに抱きついたりして」
「…あ、うん…もうあまり会えないと思ったから…恥ずかしかったけど…」
「そっかw…でもやっぱり違う感じw…いつもはこんな話さないもん」
「…う…」

まずい、そうだったな…
オレはたしか腹を立ててた気がする
でも全然今はもう、そんな気持ちにならない
母ちゃんがかわいそうでならない
優しくしないなんて出来そうにない

だけど…
もう少し口数は減らすようにしよう

「カオくん…わたしを選んでくれて…ありがと」
「…うん」

『当たり前だよ』って言いたい
安心させてあげたい
でもまだそれには早い気がする
もう少し、ちょっとずつ仲良くなっていかなきゃ

それからはお互い無言で、手を繋いで母ちゃんの実家に歩いた

オレは母ちゃんの母ちゃんとも、あまり話さない子どもだったと思う
でも、久しぶりに会えたおばあちゃんにも、優しくしたくなる
優しさを抑えるのがこんなにストレスになると思ってなかったなw

それからしばらく、無口に過ごした
何にもすることなくて
すごく一日が長く感じる

おばあちゃんちの小さい庭に、カナヘビが歩いてても、大人になったオレは興味もなくて
おもちゃは少しあるけど、懐かしいだけで遊ぶ気にもならなくて
絵本とか、歴史の人物の子ども向けの本とか、そういうのは片っ端から全部読んでしまった
今唯一出来るのは、子ども向けの昆虫図鑑を読みこんで暗記するくらい

母ちゃんの父さんはすでに死んでるから、おばあちゃんちにそう長くは世話になれない
母ちゃんは毎日不動産に行って物件を探したり、パート先を探していた
そんな母ちゃんを見てると、泣きそうになる
母ちゃんはいつだって頑張ってる
それなのに今のオレは、見てるだけ
本当は抱きしめたいのに…
でも今きっと口出ししたら、もしかしたらあのボロボロアパートではなくなってしまうかもしれない
そんな気がする
狭くて古くて…頼りないアパートだったけど…
風呂もなくて、和式便器で…
でもオレはそこがいいんだ
母ちゃんとの距離が近いあのアパートが

ちゃんと見つけてね…

後日

「カオくん、住むとこ見つかったよ…ボロボロのアパートだけどね…許してね」
「ん…」

そうして、少ない荷物を持って、アパートに向かった
ドキドキする…
違うとこだと嫌だな…

しかし、足はちゃんと以前のボロボロアパートに向かってる

「ここだよ…ボロいね…ごめんね」
「ううん…ニコ」
「カオくん…ニコ」

良かった…
またこのアパートだ…
ちゃんと部屋も一緒で…

入ってみると、すごく懐かしい
嬉しい
不便で嫌いだったのに、すごく嬉しい

「カオくん…お風呂ないからね…たまに近くの銭湯に行くか、この台所で済ませるしかないの」
「わかった」
「ごめんね」
「いいよ…」
「優しいねw」
「そんな事ない」
「ふふw」
「母ちゃん、お仕事は?」
「決まってるよ…明日から働くの」
「そっか」
「だから母ちゃん、もっかいおばあちゃんちに荷物取りに行ってくるね…テレビくらい欲しいもんねw…カオくんはいい子で待ってて?」
「うん…いや…オレも手伝う…」
「疲れちゃうからいいよ…」
「疲れちゃうから手伝うの…」
「カオくん…ウル…ありがとw」

オレは、おばあちゃんんちに着くと、近くの酒屋さんに行って、わけを話して台車を借りた

「母ちゃんこれ…貸してもらったよ」
「え?!…あ…あの酒屋さんの…よく借りれたねえ」
「う、うん…よくこれ使ってるの見たから…」
「ありがと!…天才だね、カオくんw」
「これで冷蔵庫とテレビ運ぼう」
「うん!…気合いでテレビだけ持ってこうと思ったけど、冷蔵庫も運べるなんてすごいw」
「うん」

オレと母ちゃんは、台車に冷蔵庫とテレビを載せて、冷蔵庫の中に他の荷物を突っ込んで、またアパートに向かった

この違いが後でどう影響するのかわからないけど、一生懸命、手でテレビを運ぶ母ちゃんを想像したら、助けずにはいられなかったんだ

前回は冷蔵庫運ぶ時、母ちゃんはこの台車を借りて運んでたから、今日は多少前後してしまった

「じゃあ母ちゃん、この台車、酒屋さんに返しに行ってくるね」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ…ちゃんと借りたら返さないと」
「大丈夫…明日返すって約束したから…オレが返しに行くから、今日はもうゆっくりしよ?」
「…カオくんたら、すごく賢いのね…」
「普通だよ…明日から働くんだから、ゆっくりしよ…台車は大丈夫だから」
「うん…優しいね…」

オレは今わかった…
オレはこの『母ちゃん』が好きなんだ
二度目の母ちゃんも好きだけど…
この母ちゃんが好きだ

二度目の母ちゃんは苦労をあまりしてないし、オレが早くから懐いてしまったから、この母ちゃんより幼いし、オレにべったりになったんだ…

だとしたら、今はもう少しだけ…
辛いけど、もっとゆるやかに仲良くならなきゃ…

優しくしたい
抱きしめたい
好きって伝えたい
母ちゃんと一緒に泣きたい

でも、もう少し我慢しよう
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