母ちゃんとオレ

ヨッシー

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母ちゃんと父さんとオレ

12話

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「父さん」
「カオくん…カオくん…ごめん…母ちゃんが」
「父さん、しっかりして…ユサユサ」
「カオくん…ごめん!…ごめんなさい!…父さんのせいで!!」

父さんはオレに土下座を始めた

「父さん、いいから!…やめて!」
「うう…う~…」
「さあ、立って…ほら、ここに座って」
「ごめん、母ちゃん…ごめんなあ…」
「父さん…」

オレは自販機でお茶を買い、父さんに渡した
父さんは受け取って、少しだけ飲んだ

「カオくん…母ちゃんを奪ってごめん」
「もういいから…ナデナデ…父さん…」
「ごめんな、みっともなくて…」
「いいんだ…みっともなくなるほど、母ちゃんが大事だったんだろ?」
「うん…うん…オレな…カオくんのおかげで母ちゃんとやり直せてから…本当に愛してたよ…オレはさ、以前は母ちゃんとベイとかミニ四駆とかして遊ばなかったから…」
「うん…」
「あんなに子どもみたいに楽しそうにはしゃぐ母ちゃんを知らなくて…」
「うん…」
「すごくね…かわいかったんだよ…かわいくてかわいくて…すごく…愛してる」
「わかるよ…ナデナデ」
「せっかくカオくんが…それに気付かせてくれて…幸せになったのにオレは…」
「……ナデナデ」
「自分から壊しちゃった…」
「いいから…わかってるから…ナデナデ…もうそんなに責めないでいいから」
「うう…グス…」
「父さん、泣くといいよ…ギュ…悲しい時は泣くといい…大丈夫、オレはずっと一緒だから」
「カオくん…ごめんほんと…情けなくて…カオくんの方がよっぽど大人だね…グス」
「そんなことないから…ナデナデ」

もちろんオレだって悲しい…
やり直したのに、壊れちゃったんだから
前回よりもずっと早くに母ちゃんは死んでしまった
それでもオレの心が今落ち着けてるのは、二度目だからだろうか
父さんの悲しみを見て、冷静になってるんだろうか…
母ちゃんが死んだのは父さんのせいとはオレは思いたくない
だって父さんは心から母ちゃんを愛してるから
でも…
おそらく…
母ちゃんが早く死んだのは…
父さんとやり直したせいなんだと…思う
父さんのせいじゃない、やり直したオレのせいだ
オレが間違えたから

もう一度やり直すか?

オレはもうさっきから、その質問をずっと自分にしている

冷静なオレの考えはこう
やり直したとしても、35歳まで生きるオレはこの世界に存在し続ける
それならやり直す意味があるんだろうか
このままこの人生を全うして、幸せになれるよう尽くす方が良いに決まってる

でも、本当の自分は
嫌だ…母ちゃんに会えないのは嫌だ…
母ちゃんが大好きだ…
母ちゃんはずっと…
いつでもオレのために頑張ってくれた
母ちゃんのいない人生なんて意味がない

やっぱりやり直そう
この世界に残るオレには申し訳ないけど…
オレはやっぱりもう一度…

「父さん…」
「ん?」
「落ち着けた?」
「うん…少し…」
「父さん、お願いがあるんだ…」
「なんだい?」
「ドライブに連れてって欲しい」
「え?…今?」
「うん…オレの言う場所まで」
「な、なんで?」
「お願い…たぶんここから一時間くらいの場所…」
「…変なお願いだけど…カオくんがそう言うなら…オレも少しは気分転換になるかもしれないし」
「ごめんね、無理言って…ただね、オレの言った場所に言って、帰るだけ」
「わかった…」
「わけわからないよね…ごめんね」
「ううん…」

そうしてお医者さんに少し外出してくると言い、オレは父さんと車に乗った
オレはカーナビにセットした
ユウトくんが連れてってくれた高速道路
トンネルの場所がどこら辺かわからないけど、この高速道路を走ればわかる
5つ目のトンネル

「この高速道路に乗って?」
「わかった」
「ケガは平気?」
「大丈夫…なんともない」
「じゃあ…お願いします」
「うん…」

ナビの指示に従って父さんは車を走らす
15分くらいでその高速道路に乗れた
ナビには目的地まであと46分となってる
でもトンネルの場所がわからないから
もっと早いかもしれないし、遅いかもしれない
今父さんと何を話せばいいかわからないけど、どっちにしろ今のこのオレは、あと数十分しか父さんと話せない
そう思ったら話さないとって焦ってきた

そう困ってる時

ユウトくんから電話がかかってきた
スマホの『ユウトくん』の字を見たら、涙が出てきた
さっき母ちゃんが死んだ時も出なかったのに
いつだってユウトくんは、オレを助けてくれるんだ

「もしもし」
「よおw…どうした?…なんかあった?」
「どして?」
「カオくん泣いてるだろ?」
「わかるの?」
「わかるよ声で…悲しくて泣いてるのも」
「ユウトくん…ありがと…大好きだよ」
「なんだよw…どうしたよ…言ってみ?」
「うん…」
「旅行楽しんでるか?って聞こうと思ったのに…なんかあったんだな」
「うん…母ちゃんが…」
「うん…」
「母ちゃんが…死んだ…さっき」
「そっ…か…」

オレとユウトくんのその会話で、父さんはまた泣いた

「ユウトくん…あんまり驚かないんだね」
「ああ…カオくんがそんなに悲しむなんて…それ以外ないから…な」
「さすがだねw」
「なんかオレに出来る事あるか?」
「ううん…大丈夫…今こうして電話してくれた…それが何より嬉しい…ユウトくんは本当にいつもオレを助けてくれるねw」
「別に…電話しただけだ」
「うんw…でもユウトくんはいつもね…オレの心をそうやって救ってくれるんだよ…ずっと前からずっとw…笑っちゃうくらい」
「そっかw…そりゃオレも嬉しいわw」
「うんw…ありがと…本当に大好き…」
「気持ちわりいなって言いたいとこだけど…オレも大好きだから嬉しいw」
「あははw…オレ、父さんと話すから…また後でかけるね」
「ああ…いつでも頼れよ?…なんでもしてやるからな」
「うんw…ありがとう…すごく元気出たw…じゃ、また後でね」
「ああ、またな…」

スピーカーにはしてなかったけど、静かな車内では、ユウトくんの声は父さんにも聞こえてた

「ユウトくんは本当にいい友達だね」
「うん…最高だよ」
「だね…調子の良い時に人は寄ってくるけど…調子の悪い時に来てくれる人こそ、本当の友達だって…なんかで昔見たか聞いたかした…それは本当だね」
「うん…本当そうw…父さんオレね」
「うん」
「実はね…彼女いるんだよ」
「そうなのかw」
「うん…二つ歳上のセリナちゃん」
「歳上か…やるなあw」
「ほら、これ…この子…」
「え…すごいかわいいじゃん!」
「うん…お胸も大きいんだ…母ちゃんより」
「おお~w…いいなw」
「羨ましい?」
「うんw」
「あははw」
「でもそんなことより」
「ん?」
「カオくんから女性のお胸の話が出る事の方がびっくりしたw」
「あははw…だねw…でもオレもね…ちゃんと興味あるから」
「良かったw…オレは内心てっきりユウトくんとって思ってたからw」
「あははw…けど、ユウトくんなら…とか、ちょっと思ったりしてw」
「まあ、ユウトくんなら仕方ない…カッコいいからなw」
「あははw…ユウトくんなら許す?」
「まあねw…でもやっぱり孫は見たいからなあ」
「じゃあいつか見せるよ…なるべく早いうち」
「うん…そう焦ることもないけどw」
「うん…父さんはさ、どっちがいい?…男と女」
「孫?」
「うん」
「どっちでも嬉しいよ」
「その答えは却下です」
「マジかw…んー…どっちかというと…女の子かな…カオくんは?」
「オレはどっちでもいいよw」
「その答えは却下だ」
「あははw…オレも女の子…ハルちゃんみたいな子がいい…明るくて優しい子」
「たしかにw…ハルちゃんなら父さんも溺愛しちゃうなw」
「だよねw…じゃあセリナちゃんにさっさと産んでもらうよ」
「あはははw…カオくんありがとうな…オレが今こんな笑えてるのカオくんのおかげだ…カオくんが居てくれて良かった」
「当たり前だよ…そんなの」

きっと空元気なんだろうけど、ふさぎこんで殻に閉じこもるよりはよっぽどいい
オレにはそれはよくわかる
『カレー作ってくれよ』
オレはユウトくんのその一言で救われたんだから

セリナちゃんごめんね
父さんを元気にするために利用しちゃった
セリナちゃんの事、ちゃんと幸せにするからね…たぶん、もう1人のオレが

「そのセリナちゃんとはいつから付き合ってるの?」
「三ヶ月くらい前かなあ」
「一緒のバイトの子とか?」
「うんw…こんな事言うのもすごく失礼だけど、今の学校の女の子はこんなかわいいの居ないw」
「うわ、ワルだなあw」
「へへへw…でも父さんだって見た目は大切だよね?」
「うん…母ちゃんの事はまず見た目で惚れたからw」
「モテてた?…母ちゃん」
「自分ではそう言ってたな」
「父さんはどう思う?…母ちゃんはモテると思う?」
「思うね…かわいいし、明るいし」
「優しいしね」
「うん」
「特徴だけならハルちゃんに似てるねw」
「だなあw…セリナちゃんは?」
「セリナちゃんは母ちゃんやハルちゃんよりも落ち着いた感じの人だよ」
「大人な感じ?」
「んー…静かなタイプ…頼りになる感じじゃないから…大人な感じじゃないかなw」
「じゃあ、カオくんから告白したの?」
「それが違うんだw…セリナちゃんから誘ってきて、告白もセリナちゃんからだった…一世一代の勇気を出したんだってw」
「へぇぇ!…やるなあカオくん…でもカオくんもちゃんと好き?」
「うん…好きだよ」
「カオくんをものにするとは、セリナちゃんもラッキーだな」
「すげえ親バカだw」
「そんなことないよw…カオくんは大した奴だよ」
「ふうん…ありがとw」

そして、一つ目のトンネルが見えてきた

「父さん、スピードなるべくゆるめて走って?」
「あ、うん」
「そろそろなんだ…あのね、ちょっと怖いけど、トンネルの中に停まってほしいの」
「お、おう…なんで?」
「それはごめんw…言えないんだ…」
「ふうん…悪い事じゃないよな?」
「うん、全然違う」
「ならいいよ…カオくんは変な奴だからな」
「あははw」

トンネルを二つ、三つ、四つと過ぎていく

「父さんそろそろだよ…」
「うん…あれか?…あの停まるとこ?」
「ううん…次のとこ」
「わかった」

そして、前回ユウトくんと一緒に停まった場所に停まる

「父さん、そんでね、オレにこう質問して?」
「うん、なんだろ?」
「『どうする?』って」
「それだけ?」
「うん」
「…どうする?」

オレはまた答えようとした瞬間、2人に分かれた
オレの身体は車のドアを擦り抜けて、父さんとオレを見てる

「なんでもないw…ごめん、父さん…もうこれでいいんだ…病院に帰ろう」
「お、おお…」
「ごめんねw…いつか話せたら話す」
「わかった…まぁ、聞かないでおくよ」
「ありがと…さすがだね、カッコいいね」
「あははw…だろ?w…じゃあもう出るね」
「うん」

もう1人のオレは、周りをキョロキョロとしていた
たぶん、オレを探したんだと思う
でも見えてないみたい
頑張ってね、もう1人のカオくん
ごめんね…

オレは父さんの車が走り去っていくのを見送ってから、トンネルを壁伝いに進んだ
トンネルの壁は同じに見えるのに、なぜか『ここ』ってわかるのが不思議だった
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