母ちゃんとオレ

ヨッシー

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母ちゃんとオレ

1話

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オレの名はカオル、22歳

彼女はいない

友達は2人

両親はオレが10歳の時、離婚

母ちゃんが浮気して、離婚

オレ、そん時聞かれた

父と母とどっちと暮らしたいか

父はいつも家に居なくて、あんまり喋ったことないし、よくわからなかったけど、こう言った『オレが引き取る』って

でも母ちゃんは泣いた
泣いてオレの手を握ってたから
オレはバカだから言っちまった

「オレは母ちゃんが好き」

って

そしたら母ちゃんは

「絶対ちゃんと育てるから!」

泣きながら父に土下座した

父はそれを許した

なんで許した?

なんでオレは母ちゃんを好きと言った?

それからオレは母ちゃんと2人で、安いボロアパート暮らし
狭い台所と、狭いリビングと、狭い寝室と、和式便所しかなかった
自分の部屋なにそれ?って感じ
母ちゃんはパートを掛け持ちした
たくさん働いた
でも、慰謝料の支払いがあるから、いつも貧乏で

オレはふてくされた
自分の部屋が欲しいと言ったし
クラスのやつがレストランとか行った話を、聞かせたりしたし
母ちゃん、仕事ばっかしてて、あんまり話す機会ないのに
オレはバカだから
たまに話せる時はそんな話ばっかししてた
母ちゃんは『ごめんね』と謝ってばっかりで
オレはバカだから
いつも腹を立ててた

毎日がつまらないから

オレは中学校に行っても暗かったから

学生服も最初に買ってくれた1着しかなかったから

中3の時は腕も足も丈が足りてなくて

だから

バカにされはしても、友達になってくれるやつは居なかった

オレは高校には行かなかった

ていうか、バカだから行けなかった

ボロアパートで、中古で買ってきたスーファミと、とっくに飽きてしまったゲームをずっとやってた

でもある日から母ちゃんは家に居るようになった

自分の部屋がないから、狭いリビングでゲームをするオレと、いつも一緒にいた

最初はほとんど話さなかった
話しかけられても『うん』とかしか言わなかった

「母ちゃんにもやらせて?」

って言ってきたから、コントローラーを渡した

「下手だなあ…こうやんの」
「おお~w…もっかいやらせて」
「うん」
「こう?」
「違う違う…かして?」
「おお、おお」

こんなに話したの何年ぶりだったか
全然大した内容じゃないけど、母ちゃんが笑ったから、オレも笑った

母ちゃんはゲームソフトを買ってきてくれた

ファイナルファンタジー5ってゲーム

オレは嬉しかった
ずっとやってた
母ちゃんも一緒にレベル上げとかした
母ちゃんも笑ってたから
オレも笑って
一緒に昼メシ食べて
ゲームの話を一緒にしたりして
また一緒にゲームして
でも夕飯作ると、仕事に出かけた

「いい仕事見つかったんだよ、掛け持ちしなくていいし、給料も良くなったのよ」

って

オレは「ふーん、よかったね」って、特になんも考えずに言った

オレは母ちゃんが仕事に行くと、ゲームをやめた

一緒にやりたかったから

母ちゃんはそれが嬉しかったみたいで

だからオレも嬉しくなって

いつも一緒にゲームした

クリアしても、『やり込み要素』ってのがあるから…それも一緒にやって
それもやり尽くすと、もう一度最初からやって
それをやり尽くしたら、また違うの買ってくれた
それをやりながら母ちゃんは言った

「カオくん、働いてみたら?…バイトとか」

オレは「なんで?」と言った

「いつも家にしか居ないから、外に出た方がいいよ」
「そうかなあ」
「うん」
「母ちゃん、もしかして、お金に困ってるの?」
「ううんw」
「ほんと?…もしそうなら…オレも働いてみようかな」
「もしそうじゃなかったら、カオくんは働かないの?」
「うーん…母ちゃんとゲーム出来なくなるのは嫌だな」

母ちゃんはオレをギュッと抱きしめた
嬉しかったのかな?
オレもなんだか目が熱くなって
目から汗が出てきて、視界がぼんやりして
そのまま少し話した

「じゃあさ…母ちゃんが働いてる時間に、カオくんもやれば?」
「あ、そっか…」
「うん、なんでもいいよ…あ、でも悪いことはダメよ?」

母ちゃんの声は、かすれてた
オレもかすれてた
きっと母ちゃんも目から汗が出てたんだと思う

「悪いことって?」
「うーん…詐欺とか?…誰かに迷惑かけること」
「うん…コンビニとかは?」
「全然いいよw」
「わかった」

オレは目から汗が出てたから
恥ずかしいから
しばらく顔上げらんなくて
ギュッとしてくれる母ちゃんの胸に顔つけてた
母ちゃんの匂いはいい匂いで

あったかくて

気がついたら寝てた

起きたら隣で母ちゃんも寝てた

オレの手を握って寝てた

オレもしばらく握って…

それから手を離して、布団をかけた

そしたら起きちゃった

「ありがとw」
「起こしてごめん」
「ううんw…起こしてくれなかったら寝坊するとこw…今日はもう行かなきゃだから、ごはん作ってあげれないから、カオくんコンビニでなんか買って食べて?」
「うんw」

母ちゃんはオレに1000円渡して

『行ってきます』って笑って言ったから

『行ってらっしゃい』とオレも笑って言って

母ちゃんは仕事に出て行った

オレはコンビニ行った
オレはツナのおにぎりが好きだ
特にセブンのやつ
ていうか、セブン以外のは美味くなかったから
近くのコンビニはローソンとファミマがあったけど
遠くのセブンにした
歩くと20分くらいかかる
普段家にばっかいると、20分歩くのでも疲れる
でも、ツナのおにぎりが食いたいから歩いた

セブンに着いて、ツナおにぎり2個と
これまた好きなカップヌードルと
一番安かったお茶を買って
帰ろうとした時
外のタバコ吸うとこで、オレくらいのカップルが目に入ったからなんとなく見たら
セブンのガラスに『アルバイト募集』って貼り紙があったのを見つけた
オレはその貼り紙を読んだけど、難しい漢字がわからないから
若いカップルに聞いた

「すいません、これなんて読むんですか?」
「は?」
「なにこいつw」
「……」
「りれきしょだよw…マジで読めねえの?w」
「うそ、アタシふくれきしょって読んでたww」
「マジ引くわ~」
「りれきしょ…それってなに?」
「は?…どうしたのお前?…大丈夫か?」
「すいません…わからなくて」
「バカだねえ、あんたw」
「おまいう?w」
「ひでえw」
「いいよ、お前…ちょっと来いよ」

カップルの男は、そう言ってセブンに入っていった
オレと女はついてった

「これだよ、これ…これが履歴書…な?」
「ふーん…」
「これにな?…どこの学校行ったか、趣味とか特技とか書くんだよ」
「アタシでもそんくらい知ってるw」
「いや、知ってて?ww」
「ありがとう」
「お前、バイトするん?」
「しようと思う」
「ならこれ買って、書いて持ってきな?」
「あんた優しいねえw」
「だろ?w」
「ありがとう…優しいね」
「頑張れ」

カップル男は手に持ってた履歴書を、そう言って渡して、女と出て行った
オレはなんとなく、その男が渡してくれた履歴書が良いと思って、それを買った
外に出ると、カップルがまた話してたから
オレは袋からお茶を出して、カップル男にあげた

「ありがと、これあげる」
「え?w…わりいなw…でもいいよ、オレはお茶よりコーヒーがいいし」
「じゃあアタシもらうよ~」

オレは女にはあげるつもりはなかったから
袋にお茶をしまって
もう一度セブンに入って
コーヒーを買って
そしたら、母ちゃんのくれた1000円はほとんどなくなったけど
そのコーヒーをカップル男にあげて
家に帰った

オレはメシを食って
履歴書を見たけど
どうやって書くかわからなくて
おまけにペンもなくて
明日母ちゃんに聞こうと思った

母ちゃんの手のあったかさがオレの手に思い出されて
その手で一回ほっぺたを触った

そんな自分はもしかしてマザコンってやつかなと思いながら
台所で頭と身体を洗って
それから寝た
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