6 / 8
5章
ルーチェ
しおりを挟む
あれから1年
或右衛門と臣九郎は主人、おみつ、およしに過去を打ち明けた
実は元々世間を騒がせていた『鬼』だと知り、3人は驚いたが、優しくて真面目で頼りになる2人をよく知っている彼らは『だからどうした』といった感じですぐに受け入れた
或右衛門と臣九郎はそれから間もなく婚礼をあげ、故郷への思いは捨てた
そして或右衛門とおみつの間には赤ん坊が生まれた
臣九郎は時々、火付盗賊改方の手伝いもしていた
臣九郎はてっぺんはハゲているが、それ以外は大丈夫なので、髪を伸ばして髷を結った
友蔵夫妻とも交流を欠かさない
桃太郎はたまに会いに来る程度だ
近所の住民からも頼りにされ、幸せに暮らしていた
桃太郎は1年経った今も、まだルーチェの力を引き出せない
日が経つにつれ、焦ってくる
おママとパパス、平蔵には神様の存在を打ち明けている
桃太郎「ああ~…ルーチェってほんとオイラも使えるのかなあ…」イライラ
シータ「ゲレちゃん、気持ちはわかるけど、焦ったらダメよ…ゲレちゃんがイライラするとわたし悲しいよ…」
お雪「イライラするゲレちゃんなんて初めて見たよ」
吾郎「シータが悲しいってよ…」
桃太郎「ごめんよシータ…オイラ今までこんなにも出来ない事ってなかったからさ」
シータ「でもゲレちゃんならいつか出来るよ」
桃太郎「いつかじゃなくて、すぐにがいいんだよ…」イライラ
プックル「けどよ、ゲレちゃん…そんな出来るかどうかわからないもんをあてにするのは良くないぜ?」
ボロンゴ「今のままで戦う勇気がないのか?」
桃太郎「そんな事ねえ!!」
シータ「…グス」
吾郎「ゲレ!!」
桃太郎「…あ…オイラ…最低だ…」
お雪「ゲレちゃん…」
桃太郎「シータ…みんな…本当にすまねえ…ごめん…オイラちょっと1人になって頭冷やしてくる…夜までには戻るよ…ボロンゴ、町まで乗せてってくれ」
ボロンゴ「り」
シータ「……」
桃太郎はボロンゴに乗り、町まで下りた
ボロンゴ「シータを放っていいのか?」
桃太郎「そりゃ寂しいけどさ…今のオイラじゃ、悲しませるだけだ…今のオイラ、だせえよな」
ボロンゴ「そうだな…あまり見ていたくはない」
桃太郎「ごめん…」
ボロンゴ「人が増えてきた…黙るぞ」
桃太郎「うん…」
そうしてボロンゴに乗ったまま、町をあてもなくぶらぶらし、川べりをボロンゴと歩いていると、声をかけられた
粂八(くめはち)だった
粂八「あれ、ゲレちゃん…どうしたんだい?」
桃太郎「あ、粂さん」
粂八「なんか暗い顔してるなあ…ゲレちゃんには似合わねえよ?…男前が台無しじゃねえか」
桃太郎「へへw…そうだね」
粂八「なんかそんな顔になる理由があるなら聞くよ?…舟乗りなよ」
桃太郎「あ、うんw」
粂八は平蔵の密偵ではあるが、普段は舟宿の主人をしている
イライラしている時は、普段と違う人と居たりする方が気分が紛れるものだ
粂八「何があったね?」
桃太郎「いやオイラさ…出来るはずの事がいつまでも出来なくてさ…それでついイライラしちまって…おしたを泣かせちまった」
粂八「それで珍しく1人なんだねw…で、その出来るはずの事ってな、なんだい?」
桃太郎「ごめん、それは言えない…」
粂八「ふうん…まあ、無理には聞かねえよ」
桃太郎「粂さんもイライラして他人を傷つけた事ってあるかい?」
粂八「そりゃあるよw…オレがゲレちゃんくらいの頃なんてよ、そりゃもうどうしようもなかったんだからw…ゲレちゃんは立派も立派よ」
桃太郎「どうしようもなかった?…粂さんが?…嘘つけw…どんなふうに?」
粂八「ま、もうちょいいくと釣りが出来るからさ…釣りでもしながら話そうw…ま、面白いかどうかはわからんけどw」
桃太郎「うん…川の風は涼しくて気持ちいいな…おしたも連れてきてやれば良かった…」
粂八「今度連れてきなよw」
桃太郎「いいの?…オイラどうせイチャイチャするぞ?w」
粂八「かまわねえよw…そういう客はなにもゲレちゃんだけじゃねえ」
桃太郎「そっかw…おした…今頃泣いてるかな…それともイライラの元がいなくてせいせいしてるかな…オイラやっぱりおしたと離れてるとソワソワするよ」
粂八「そりゃどうもごっつぁんでしたw」
桃太郎「ははw」
それから少し進むと、粂八は桃太郎に釣り竿を渡し、2人で並んで釣りを始めた
桃太郎「で、粂さんは昔どんなだったの?」
粂八「オレはな、生まれた時から母も父も居なくてさ…世話してくれたばばあが1人いるだけでね」
桃太郎「え…二親はどうしてるの?」
粂八「さあね…オレはそのばあさんと2人で貧しく育ってね…そのうちそのばあさんも死んじまってね…それからしばらくすると、見世物をしてる連中に拾われて…オレは曲芸を仕込まれ、見世物となって生きてた」
桃太郎「え…そんな事が…」
粂八「それでも生きてられるだけマシだった…けど、上手く出来ねえと鞭で叩かれるし、人々には笑われるしで…オレはいつもイライラして、世の中を呪ってた…」
桃太郎「粂さん…グス」
粂八「そんで体がデカくなってくると、見世物にならねえってんで、捨てられてよ…またオレは途方にくれて…そこいらのじいさんとか弱いやつから金を巻き上げたりして、やっと生きてた」
桃太郎「そんな事してたのか」
粂八「どうしようもねえだろ?w…でもそれくらいならまだよかった…そうやってオレはいっぱしのワルになって、そのうち博打をうつようになってな…そんでいつか大損して、借金して、返せねえって言ったらボコボコにされて…そんでそん時の奴がこう言った『借金返したかったらオレの手伝いをしろ』ってね」
桃太郎「手伝い?」
粂八「ああ…そいつは急ぎ働きの盗っ人だった…オレはその一味になって、盗んだ…人も殺したし、女も犯した…気がついたらもうオレは血まみれの盗賊だ…それである日おつとめしてたら奉行所の連中に囲まれてさ…オレは曲芸を仕込まれて身軽だったから、単身逃げたんだ」
桃太郎「うん…」
粂八「奉行所の連中なんざ、長谷川様たちの火盗改と比べたらぬるいからなw…そんで逃げてまた1人になったオレは、今度は『流れづとめ』の盗賊になった…わかるかい?…転々といろんなおつとめの手伝いをする盗っ人さ」
桃太郎「ほむほむ」
粂八「そんな暮らしをしてるうちに、オレは『血頭の丹兵衛』っておかしらのおつとめに参加したんだ」
桃太郎「なんか残酷そうな名前だなあ」
粂八「まあなw…だからオレも急ぎ働きのおつとめだろうって思ってたさw…そんでいざ押し込みになって、オレはまあ女を犯そうとしたんだな…最低だろ?w…でもそしたらその丹兵衛おかしらに殴られて、おつとめもしないで引き上げて…オレはそのおかしらに百叩きにされた」
桃太郎「な、なんで?」
粂八「そのおかしらはさ、名前とは裏腹に『殺さず、犯さず、貧しき者からは奪わず』っていう盗っ人の三箇条を守る大盗賊だったのさ…だからオレはその時、殺されても文句は言えないような事したわけだ…でもおかしらは百叩きで許してくれた…なぜか、こんなどうしようもねえオレを『性根を叩き直してやる』って言って、子分にしてくれた…おかしらのおつとめはそりゃあ見事だった…綿密に計画を立てて、鍵も逃げ道もぬかりなく用意して、誰も気づかないうちに金だけなくなってる…オレはそんなの今まで見たことなくてさ…厳しいけどあったけえおかしらに、オレは人としての心をもらったんだ…」
桃太郎「ほむほむ…」
粂八「それからオレは心を入れ替えて、三つの掟を守って生きるようになったってわけw…それがちょうどゲレちゃんくらいの歳だったのさw」
桃太郎「そうなのか…」
粂八「見損なったろ?」
桃太郎「いや…」
粂八「オレは今でも思い出す…オレが手にかけた奴の最期の顔を…夢にまで出てさ…オレはきっと『畳の上で大往生』なんて出来ねえ…いや、そんな事は許されねえ」
桃太郎「……」
粂八「オレは今がどうでも、過去のその事は許されない…だから罪滅ぼしってわけじゃねえけど、少しでも人の役に立ちたくて、今は長谷川様の下で命をかけて働いてるんだ」
桃太郎「そりゃよ…女犯したり、殺したりはいけねえけど…それは粂さんだけが悪くはねえよ…そういう生き方しか選べなかったんだもん」
粂八「さてねえ…ただオレが弱かっただけかもよ…けどゲレちゃんはオレと違って強えんだ…後悔なんかしねえように生きていく事だぜ」
桃太郎「…うん…」
粂八「オレみてえな悪党が説教じみた事言っちまってすまねえなw」
桃太郎「いや…ものすごく勉強になったよ」
粂八「そう言ってくれると少し救われるなw」
桃太郎「オイラはそんな苦労なんて今までなかった…そんな辛い生き方なんて知らなかった…グス…オイラは…十分恵まれて幸せなのに…ちょっと上手くいかねえからってガキみたいに拗ねちまってた…そんでおしたも泣かして…どうしようもねえのはオイラだ…」
粂八「生きてりゃそんな時なんて、誰しもあることだよw…ゲレちゃんは今はおしたちゃんを泣かせちまったかもしれねえけど、それ以上にたくさんの笑顔を守ってきたじゃねえかw…立派だよ…誰がどう見たって立派だ…な?…ナデナデ…」
桃太郎「うう…グス…」
粂八「泣くなよw…ほら、ゲレちゃんの竿に引っかかってんぞ?」
桃太郎「う、うん…グイ…」
粂八「でけぇけど鯉だわw…残念だなw」
桃太郎「鯉は食えねえの?」
粂八「食えるけど、美味くねえw」
桃太郎「そうなのか」
粂八「そら美味かったらこんなすぐ釣れるやつ、そこいらで売ってるだろw」
桃太郎「あ、そっかw…けど、針が引っかかって傷つけちまっても生きれるかな?」
粂八「まあ、あんまり長くはねえだろうな」
桃太郎「なら食うよ…命に美味いも不味いもねえもん」
粂八「ほら…立派だ」
桃太郎「…ウル」
粂八「けど、どうせなら美味くして食った方がそいつも浮かばれるからさ…深川の『葵屋』ってとこ持ってって料理してもらうといいぜw」
桃太郎「そこなら美味しくしてくれるの?」
粂八「ああ…持ってくなら今締めねえとな」
桃太郎「それは?」
粂八「ここをちょっと切って、ここにぶっ刺して、血抜きをするのさ」
桃太郎「う…」
粂八「殺すの辛えか?w…けど、普段ゲレちゃんが食ってるのも元々生きてたんだぜ?」
桃太郎「…そうだったね…オイラやるよ…ここを切るの?」
粂八「そう、尻尾の付け根だ…
桃太郎はやり方を教えてもらい、鯉をしめた
桃太郎「粂さん、オイラこいつが腐らないうちにその店行くよ」
粂八「じゃあこのまま乗せてってやるよ」
桃太郎「うん…一緒に食おうよ」
粂八「ありがてえなw」
桃太郎「1匹で足りるかな」
粂八「足りる足りるw」
桃太郎は粂八の人生に触れて、多くの大切な事を学んだ
それと同時に、シータを泣かせた自分の小ささを恥じた
桃太郎(オイラはルーチェに頼らなくても、やってやる!…絶対に今後シータを泣かせるもんか!)
そう心に誓った
世界が今までとは違って見え、目の前にあったモヤが晴れたようだった
そうしてしばらく舟で進み、2人は降りて、葵屋に向かった
ボロンゴは舟で待った
桃太郎「こりゃ美味えw」
粂八「だろ?w…かなり手間がかかるもんだから、そうそう素人にゃ作れないぜ」
桃太郎「ふうん…よくこんなの思いつくよなあ」
粂八「ああ…先人たちの知恵はすげえよ」
桃太郎「ほんとだなw…しっかし、粂さんが昔はそんな悪党だったなんて、全然見えねえな」
粂八「そうかい?w…まあ、生きてりゃいくつも顔を持っていくもんさ」
桃太郎「顔…かあ…平蔵さんもいくつも持ってるんだろなあ」
粂八「だろうなあ…」
桃太郎「けどオイラは粂さんのどんな顔も好きだよw」
粂八「ゲレちゃん…グス」
桃太郎「今日は粂さんに会えて良かった」
粂八「ゲレちゃんの役に立ったなら良かったぜw」
桃太郎「うん!」
2人は食べ終えて勘定を済ませた
粂八「わりいな…ゲレちゃんに払わせちまって」
桃太郎「大丈夫…こんくらい安いさw…こう見えてオイラは金持ってるんだ」
それは本当にそうだった
蝋燭問屋で稼いだ蓄えもあったし、鬼退治をした報奨金や、たまに火付盗賊改の仕事を手伝って平蔵から褒美を貰ったりもしていた
そして、桃太郎たちは普段たまに食べ物を買うくらいしか使わない
桃太郎「オイラちょっと厠寄ってから出るから、先に出て待ってて」
粂八「あいよ」
粂八は桃太郎にそう言われて店を出た
そして、店の門を出ると、塀に隠れていた2人に挟まれる形で匕首を刺された
粂八「なん…てめぇ…」
粂八はその2人に見覚えがあった
かつて平蔵たちが討ち入りの際に逃げた者たちだった
男「おかしらの仇だ…この汚らわしい狗が」
男2「トドメくれてやる」
粂八はさらにもう一度腹に刺された
それからその2人は匕首を抜き、足早に去っていった
桃太郎が用を足して出ると、血だらけで倒れる粂八の姿があった
桃太郎「粂さん!…いったいこりゃ…死ぬな!!…」
粂八「ゲレちゃん…悪い事は…しないこっ…たなw…」ガク
桃太郎「粂さん!!…死なないでくれ!!」
桃太郎は泣きながら粂八の頭を抱え、腹の傷を抑えた
すると、桃太郎の身体に今まで感じた事のない力を感じ、傷を抑えた手から光が放たれた
すると粂八の血の気の引いた顔がみるみる赤くなり、傷も塞がっていく
粂八「あ、あれ…オレは死んだはずじゃ…ここは地獄か?」
桃太郎「粂さん!…ギュゥ…グス」
粂八「ゲレちゃん…ど、どうなってんだ?…でも、地獄にゲレちゃんが居るはずねえ」
桃太郎「地獄なんかじゃねえよ…グス…生き返ったんだ」
粂八「なんで…」
粂八は刺された場所を触ったが、血がつくだけで痛くも痒くもなく、いつも通りの身体だった
それどころか、いつになく元気になった
粂八「むしろ今はめちゃくちゃ調子が良い…いったいなんで?」
桃太郎「たぶん、オイラの力だ…オイラはこの髪の色になった時から、この力が備わったんだ…でも、今まで出来なかった…だからイライラしてたんだ…」
粂八「じゃあ、オレがキッカケになったわけかい?w」
桃太郎「うん…」
粂八「不思議なことだけど…ゲレちゃんの役に立ったなら良かったよw…ありがとな、助けてくれて…命の恩人だなw」
桃太郎「いや…」
粂八「どうしたよ…浮かねえ顔だな…」
桃太郎「オイラはたしかに粂さんの傷を治せたし…この力の出し方もわかった…けど、この力を使われた奴は、向こう何年か…わからねえけど、生きれる年数が減っちまうんだ…オイラは粂さんの寿命を奪っちまった」
粂八「そうなのかw…だからどうしたってんだよ?w…ゲレちゃんが治してくれなかったら今死んでたんだ…数年でも生きながらえりゃ恩の字よw…なにも気にするこたあねえよ」
桃太郎「粂さん…」
粂八「それより早くずらかろうぜ…オレもゲレちゃんもこんな血まみれじゃ、みんなから見られちまうよ」
桃太郎「うん!」
2人は急いでボロンゴの待つ舟に戻り、粂八の舟宿に向かった
桃太郎「でもなんであんな事に?」
粂八「オレが昔に長谷川様に手伝って捕まえた奴らだ…そん時2人ほど逃しちまってさ…そいつらに見つかってあのザマだ」
桃太郎「そういう事ならすぐに平蔵さんのとこに行こう!…そいつらを野放しにはできねえ!」
粂八「だな」
舟を岸につけ、2人は火付盗賊改の役宅に急ぐ事にした
桃太郎「粂さん、ボロンゴに乗れ…走るぞ」
粂八「お、おう…おじゃまするぜ」
ボロンゴ「わん」
桃太郎「ブフww…じゃあ走るぞボロンゴ」
ボロンゴ「わん」
桃太郎「…グッww」
桃太郎には犬の鳴き声を出すボロンゴの方が珍しく、それで笑ったのだった
そしてルーチェの力を身につけた桃太郎は自分もボロンゴも驚くほどの速さで、役宅に走った
粂八「は、早!!…ゲレちゃんはええ!!」
桃太郎「粂さんのおかげだw」
火付盗賊改方
沢田「ゲレちゃん、粂八…どうした、その姿は!」
桃太郎「あ、沢田さん!…大丈夫、ケガしてるわけじゃねえんだ…平蔵さんに会わせて?」
沢田「ついてこい」
平蔵「どうしたというのだ、それは」
久栄「まあ!…ゲレちゃん、お怪我は?!」
桃太郎「大丈夫だよ、久栄さま」
久栄「もう…心配をかけないで…ギュゥ…」
桃太郎「久栄さま…着物が汚れるよ…グス」
久栄「そんなのかまいませぬ…」
粂八「長谷川様…実は…
平蔵「何?!…あやつらがまた江戸に…沢田!」
沢田「は!」
平蔵「すぐに動ける同心、密偵に伝え、なんとしても見つけるのだ!」
沢田「は!!」
沢田はすぐに動き出し、それから全力で2人を捜索した
平蔵「粂八…本当に大丈夫であろうな?」
粂八「はい…ゲレちゃんのおかげで…そんな事より、あっしもすぐに帰って捜索に加わります!」
平蔵「待て…まずは風呂に入って着替えろ」
粂八「いや、それは…風呂を汚してしまいますから…」
平蔵「バカな事を言うなw…風呂は汚れを落とすところじゃねえか…すまんな粂よ…オレが取り逃がしたばっかりに…おめえを苦しめちまったな…」
粂八「いえ、とんでもねえ!…グス…あっしはどうせこんな死に方しか出来ねえって覚悟してやすから…」
平蔵「バカな事を言うな…」
粂八「…長谷川様…グス」
久栄「さあ、着物を脱いで…お風呂の支度が出来たらお呼びしますね」
粂八「畏れ多いことで…」
久栄「ほらゲレちゃんも…」
桃太郎「うん!…オイラ久栄さまと一緒に風呂入りてえなあ」
平蔵「な、なに?!」
久栄「まあw」
桃太郎「だってオイラには久栄さまはおママみたいなもんだもん…」
久栄「かわいい…ギュゥ…では一緒に入りましょう」
桃太郎「うん!」
平蔵「マジか…オレも滅多に入らぬのに…」
粂八「マジか…」
そうして、粂八は風呂から上がると、用意された着物を着て、探索へと出かけた
桃太郎は本当に久栄と一緒に湯に浸かり、久栄も桃太郎も幸せだった
桃太郎はシータ以外の女性の身体に思うところはなく、本心で久栄をおママのように思っていた
久栄は桃太郎のその思いがとても嬉しく、実の息子の辰蔵よりも数倍かわいかった
久栄「ゲレちゃん…本当にありがとう」
桃太郎「なにが?w」
久栄「ゲレちゃんの気持ち…わたしはゲレちゃんに会えてとても幸せ」
桃太郎「そんなの…お互いさまだよ…スリスリ」
久栄「かわいい///…ナデナデ」
それから風呂から出て、着物を着ると、桃太郎は平蔵と久栄と一緒に食事をし、山へと帰った
山道
ボロンゴ「ゲレちゃん、乗るか?」
桃太郎「うん…いや、この力を試してみたいから、今日は走るよ」
ボロンゴ「り…それにしても前よりも倍は速いなw…前も人間にしては速かったのに」
桃太郎「うん…オイラもびっくりだw」
ボロンゴ「良かったなw…これでイライラしないで済むか?」
桃太郎「イライラはとっくに終わってる…この力が出る前から」
ボロンゴ「そっかw…良かったな…もしかしたら、そのイライラがなくなったから力が出せたのかもしれないな」
桃太郎「かもなあw…ルーチェはイライラが嫌いって師匠も言ってたもんな」
ボロンゴ「ああ」
山小屋
桃太郎「…ただいま」
シータ「ゲレちゃあん!!…ガシ!!」
桃太郎を見た瞬間、シータは桃太郎に飛びついた
桃太郎「ごめんよシータ…ナデナデ…」
シータ「うう~…寂しくて胸が潰れるかと思ったよ…グス」
桃太郎「どれ?…ムニムニ…大丈夫だ、潰れてねえw」
シータ「もう!…ふざけてるの!…こんな寂しい思いさせといて!」
シータは怒って桃太郎から離れた
桃太郎「す、すいません…この通り…オイラが悪かった…許してくり~」
シータ「どうしようかな…」
桃太郎「ええ~…本当ごめんなさい」
シータ「もうイライラしない?」
桃太郎「うん!…オイラもうしない」
シータ「約束する?」
桃太郎「うん!」
シータ「愛してる?」
桃太郎「当たり前だ!」
シータ「世界一?」
桃太郎「宇宙一だ」
シータ「抱きたい?」
桃太郎「抱きたい…けど、その前におママたちにも顔出さなきゃ…」
シータ「どうせそうよね…わたしなんて」
桃太郎「そ、そんな事ねえってば…ギュゥ…チュゥ」
シータ「ん…」
桃太郎「本当にすまねえ…オイラもやっぱ我慢できねえ」
シータ「うん…3回くらいイったらおママのとこ顔出そう」
桃太郎「うん…」
そうして桃太郎とシータは結局3回じゃ済まず、5回はしてから、お雪と吾郎に挨拶をした
お雪「で、ゲレちゃんは機嫌治った?」
桃太郎「オイラもうばっちりだw」
吾郎「ゲレちゃんはさ…地球の命運を1人で背負ってるから…力を欲しがる気持ちや…きっと重圧とか不安とか…オレたちにはわからないほどあるんだと思う…それは本当に申し訳ねえと思うけど…でもシータとおママだけは泣かすなよ」
桃太郎「うん…オイラがバカだった…小さかった…けどもう大丈夫…オイラは今日ルーチェを身につけた」
シータ「本当?!」
お雪「おお~!」
桃太郎「うん…けど、ルーチェなんかなくたって、オイラはもうイライラしない…シータやおママを泣かせたりはしない」
シータ「うん…でも良かったね…」
桃太郎「うん…オイラさ、絶対にシータにケガもさせないつもりでいるけど、世の中に絶対なんてないだろ?…だからオイラはケガを治せる力が欲しかったんだ…それでイライラしてたんだ」
シータ「そうだったの…」
吾郎「なるほど納得」
お雪「でもどうやって気分が晴れたの?…それに、力が出せるようになったキッカケは?」
桃太郎「話すとちっと長いけど…」
ボロンゴ「良かったら見せようか?」
桃太郎「え?…録画してたのか?」
ボロンゴ「ああ…」
シータ「見たい!」
お雪「見せて見せて!」
吾郎「wktk」
ボロンゴ「り」
ボロンゴは粂八と桃太郎のやりとりを録画していて、それを流した
シータ「あ、ちゃんとゲレちゃん、わたしを気にかけてる///…ギュ」
桃太郎「当たり前だろ~…チュ」
吾郎「粂八さん…」
お雪「でも強姦はなあ…」
桃太郎「うん、まあ…けど、オイラもおママもそれを責める事は出来ないと思う…粂さんと同じ経験をしてないんだから」
お雪「そうだね…」
シータ「それに今はみんなの為に生きてるんだし…」
吾郎「それにしたってなあ…」
桃太郎「とにかくオイラはこの話を聞けて良かった…師匠の言ってた通りだと思った…」
シータ「そうだね…」
プックル「原因があるから結果が生まれるんだもんな…それは悪い事にも言えるよな」
チロル「だなあ…」
お雪「どういうこと?」
桃太郎「オイラの師匠は…神様はこう言った『人は…生き物は生まれたその時から悪い心を持ってはいない…でも、生きれる道は不平等だ…夢を持っても、目標があっても、それを実現出来る現実的な生き方が出来る奴はそうはいない…夢すら持てない生き方しか選べない時だってある…生まれた環境、生きてきた環境、その時々の状況…他の物や人との出会い…そういった事で、自分てもんが作られていく…愛されて、優しくされて育つのも居れば、憎まれて、蔑まされて生きる奴も居る…金持ちに生まれるか、貧乏に生まれるかでも違う…ゲレはすげえ良い奴だと思うけど、もしお前が人々から憎まれ、蔑まれ、おまけに誰も手を差し伸べてもくれなかったら…お前は今の良い奴になれてたか?』ってさ…オイラはなれねえって思う」
吾郎「…なるほどぉ…そうか…粂さんが悪い事したのは、そうしないと生きていけない環境だったからか…」
桃太郎「ああ…でも師匠はこうも言った『でも、そっくり同じ環境で生きても、やっぱり人それぞれ生き方も違ってくる…なぜなら、強さも不平等だからだ…最初っから強え奴もいる…オレの親友はそうだった…そいつはきっとどんな環境でも自分を曲げなかったろう…でも、そんなのは特別だ…そんでもって、弱い事が悪いわけでもねえ…強い弱いでそいつの価値は決まらない…ある日突然訪れた『天祐』に手を伸ばす…そのほんの少しの覚悟があるかないかで価値は決まる』ってね…粂さんはその『天祐』に手を伸ばしたんだよ」
お雪「…そっかあ」
吾郎「…やっぱ神様はすげえ事教えてくれるんだなあ…」
桃太郎「うん…だから粂さんの話を聞いたオイラはそんで、自分の人生の幸せさが良くわかってさ…出来ねえからってイライラしてるなんてバカだって思えたんだ…そう思ったらモヤが晴れて、明るくなった」
吾郎「なるほど…」
シータ「それで…どうしてルーチェは使えるようになったの?」
桃太郎「オイラ、粂さんと2人で鯉料理を食いに葵屋に行ったんだ…ほんで食い終わったから店を出ようってなってさ、勘定済ませてからオイラは厠に寄って…粂さんだけ先に店から出たんだ…で、オイラがしょんべんして粂さんとこ行ったら、粂さんが血だらけになって倒れてた」
お雪「え?!」
吾郎「なんで!」
桃太郎「昔に平蔵さんと一緒に捕りものした時に逃げた奴らが待ち伏せしててさ…そんで、刺された…3ヶ所」
シータ「そんな…」
桃太郎「オイラは死ぬなって泣きながら願って、傷を抑えた…血がすごく熱くて、黒くてねっとりしてて…その血は死ぬ間際の血だ…オイラはそれでも死なないでって願った…そしたらオイラの身体は信じられないほど力が湧いて、手から光が出て…粂さんはあっという間に生き返った」
お雪「よ、良かった…」
吾郎「すごいw…嘘みてえな話だな」
桃太郎「うんw…けどきっと粂さんはそんな長くは生きられないと思う…それをオイラは粂さんに言ったら粂さんは『それがどうした』って笑ってくれた」
シータ「そっか…良かったね」
桃太郎「師匠が言ってた時間を奪う痛み…オイラもさ…そん時やらなきゃ死ぬんだから、やった方がいいって思ってたけど…実際やるとやっぱりずっしりとくるよ」
お雪「ゲレちゃん…ギュ…かわいそうに」
桃太郎「いろいろ考える…もしあん時厠に行かないで一緒に出たなら…もしも釣った魚が鯉じゃなかったら…もしもオイラがイライラしてなかったら…粂さんは寿命が短くならずに済んだ…グス」
プックル「ゲレちゃん…そんなのただの結果論だ」
チロル「ゲレちゃんに知りようもない未来の事じゃんか」
ボロンゴ「ゲレちゃんは悪くない…そんな事を言い出したらキリがない…そもそも逃さなければ…そもそも平蔵さんに会わなければってなってしまうではないか」
シータ「そうだよ…」
桃太郎「うんw…考えるだけw…わかってる」
吾郎「その罪悪感をオレが代わってやれればなあ…ナデナデ」
桃太郎「大丈夫…みんなのその優しさで十分だよw…オイラは力を受け継ぐ時に、ちゃんと覚悟はしてる…責任も持ってる…大丈夫」
シータ「ゲレちゃん…ギュ」
桃太郎「それよりもさ、その粂さんを殺しかけた2人を火盗改が探してるけど…見つかるかな…」
シータ「きっと見つかるよ…平蔵さんだもん」
桃太郎「見つかったらオイラ会いてえな」
お雪「代わりにやっつけるの?!」
吾郎「よし、やっちまえ!」
桃太郎「ブフww…まあ、ボコボコにはするかなw…オイラまた明日になったら朝メシ食ってすぐに火盗改に行ってくる」
お雪「わかった」
シータ「わたしも連れてくよね?」
桃太郎「うんw…もう1人にはしないよ」
シータ「うん!」
そうして翌朝になると、2人は火盗改に向かった
シータはボロンゴに乗り、桃太郎は走った
シータも桃太郎の足の速さに驚いていた
火付盗賊改方
ボロンゴ「ゲレちゃん、シータ…私は充電があと50%しかない…宇宙船に行って充電してくるよ」
桃太郎「おお、悪いな…気をつけてな」
シータ「ありがと…ナデナデ」
ボロンゴは透明になり、宇宙船へと飛んで行った
桃太郎「平蔵さん…奴らは捕まった?」
平蔵「おお、桃…おしたもw…捕まったぞw」
桃太郎「粂さんは?」
平蔵「粂八は帰ったよ」
桃太郎「今奴らは?」
平蔵「牢にぶち込んである」
桃太郎「オイラ会いてえ」
平蔵「何?…何をするつもりだ?」
桃太郎「オイラはその2人が憎い…けど、オイラは許す心を持ちたい…だから会いたい」
平蔵「ふうむ…わかった…ついてこい」
そして、牢につくと人払いをし、鍵を開けて桃太郎は中に入った
平蔵「桃…その痩せてるのが紋蔵、太ったのは伝助だ」
紋蔵「おめえは昨日あの野郎と一緒にいた…」
伝助「どうする気だ?」
桃太郎「そうだなあ…オイラおめえらが嫌いだ…でも、オイラを倒せたらここから出してやる…平蔵さん、いいよな?」
平蔵「…かまわん」
もちろん平蔵は桃太郎が負けるとは思っていない
紋蔵「本当ですかい?!」
伝助「二言はねえですよね?」
平蔵「ねえ」
桃太郎「かかってきな」
紋蔵と伝助は桃太郎に殴りかかった
桃太郎もわざとそれをくらった
そして2人の腕を掴み、ギリギリとすごい握力で締めあげた
桃太郎「弱えなあ…いきがってもその程度か?」
紋蔵「ぎぃやあああ!」
伝助「は、離せ!…折れる…」
2人の手は紫に染まり、ブクブクに膨れ上がる
桃太郎はまず紋蔵をぶん回し、床に激しく叩きつけ、伝助を肩に担ぎ海老反りにした
伝助「うがあ!」
紋蔵「や、野郎…ぐわ!」
桃太郎は伝助を担ぎながら、足を紋蔵の胸に乗せ、ギリギリと踏みつけた
紋蔵「や、やめ…し、死んじまう…」
伝助「し、死ぬ…」
桃太郎「あたりめえだ…お前らはどうせ遅かれ早かれ死ぬんだ…オイラが殺したっていいだろ」
平蔵「かまわん」
紋蔵「ぐぶ…」
伝助「あが…が…」
伝助と紋蔵が死ぬ一歩手前で、桃太郎は解放した
桃太郎「おい…死ぬ苦しみがわかったか?」
紋蔵「う…ゴホ…」
伝助「ケホ…ケホ…ぐ…」
桃太郎「わかったかよ?」バシ!ベシ!
紋蔵「あ…ああ…」
桃太郎「口の利き方知らねえのか?」ベシ!
紋蔵「は、はい…わ、わかりました…」
伝助「す、すいやせん…」
桃太郎「おめえらは昨日それをやったんだ…今は真面目に世の中の役に立ちたい一心で生きてる人をな」
紋蔵「だ、だけど…あいつは裏切って…」
桃太郎「そんなもんが悪いってんなら、殺すことや盗むことの方がもっと悪いだろうが」
伝助「う…」
桃太郎「おめえらの腐った世界でよ…裏切ったとか裏切られたとかさ…そんなにおめえらが強い繋がりで生きてるなんてオイラには思えねえぞ…裏切られるのはおめえらがそういう生き方してるからだ」
紋蔵「……」
伝助「……」
桃太郎「お前たちは友達か?」
紋蔵「まあ…そうです」
伝助「は、はい」
桃太郎「お互い、命を捨てても構わないくらいの友達か?」
紋蔵「……」
伝助「……」
桃太郎「平蔵さん、脇差し貸してくれ」
平蔵「ほら」
桃太郎は平蔵から脇差しを受け取った
桃太郎「おい…こいつを使って、殺した方をここから出してやる」
紋蔵と伝助は互いに見つめ合い、それから我先に脇差しに飛びついた
脇差しを掴み、殴り合う2人
桃太郎「それのどこが友達だ?…お前らは今お互いに裏切ってるじゃねえかw…そんなおめえらが他人を裏切り者扱い出来るのか?」
桃太郎は2人の顔面に強烈なパンチを当てた
桃太郎「はい、平蔵さん…ありがと」
平蔵「ああw…面白い事するなw」
桃太郎「ははw」
桃太郎「おめえらはそれとも他に命より大事な人間はいるのか?」
紋蔵「…いや」
伝助「…いません」
桃太郎「薄っぺらいな…オイラはそこにいる2人の為なら死んだって平気だぞ…いや、違うな…どんな目に遭ってもオイラは死なねえで守り抜く覚悟があるぞ…オイラの命よりも大事だからな」
平蔵「桃…」
シータ「ゲレちゃん…ウル」
桃太郎「けどさ…なんでそんなになっちまったんだ?…そんなふうにしか生きられなかったのか?」
紋蔵「オレは…
紋蔵と伝助は自分の生い立ちを語った
桃太郎「なるほどね…うーん…けどさ…紋蔵はあの時抜け出せたはずだぜ?…そういうのは考えなかったの?」
紋蔵「考えた…でも…1人で生きていけるか怖かった…」
桃太郎「それはわかる…でも怖い怖いで逃げてたら、おめえに幸せなんて来ねえ…現に今こうして死の一歩手前だ…」
紋蔵「…はい」
桃太郎「おめえに至ってはもうどうしようもねえなw…おめえは親も居て、かたぎだったのに自ら盗賊になってよ…その理由が『美味いもん食いたいから』とか、『女を抱きてえから』とかさ…ちょっと救いようがねえぞw」
伝助「う、うん」
桃太郎「平蔵さん…」
平蔵「なんだ?」
桃太郎「こいつらはどうなる?」
平蔵「引き廻してさらし首だな…」
紋蔵「うう…」
伝助「い、いやだ」
桃太郎「嫌だってお前…お前らに殺された人たちだってそうだよ…お前たちよりずっと生きる価値ある人たちがさ」
平蔵「その通りだ」
桃太郎「けどさ…平蔵さん…もし粂さんが殺すのは許すって言ったら…せいぜい百叩きくらいで勘弁してやれない?」
平蔵「ふうむ…桃がするならいいぞ…本気でな」
桃太郎「わかった…だってよ」
紋蔵「い、嫌だ…あんたに百叩きされるくらいなら死んだ方がマシだ」
シータ「…たしかにw」
桃太郎「あははw…でもそれがオイラの最低限の譲歩だ…明日粂さん呼ぶからさ…よく考えろや…今までしてきた罪と殺した人の事…ちゃんと考えろ…いいな」
そして桃太郎は牢を出て、鍵をかけた
平蔵「いや、面白かったw」
桃太郎「あははw…そうお?」
シータ「うん…カッコ良かったw」
平蔵「本当に殺しちまうかとヒヤヒヤしたけどなw」
桃太郎「そんくらい思わせないとわからないよw」
シータ「うんうんw」
平蔵「奴らが百叩きを選んだら、本当にやるか?」
桃太郎「やるw…オイラは約束は守る」
シータ「うわぁ…その約束は守られたくねえ~w」
平蔵「わははははw…ま、粂が許すかだなw」
桃太郎「うん…」
平蔵「桃は許せたか?」
桃太郎「紋蔵は許せなくもなかった…でも伝助はダメだ…あいつは粂さんも許さないだろう」
平蔵「たしかにw」
シータ「たしかにw…けど、あの脇差しに飛びついてたのは本当に醜かったね」
桃太郎「生き死にかかってるからなw」
平蔵「ああ」
桃太郎「オイラこれから粂さんとこ行ってくるよ」
平蔵「そうか」
役宅を出るとボロンゴはすでに門のところで待っていた
シータはボロンゴに乗り、桃太郎と急いで粂八の元へ行った
粂八の舟宿
粂八「あれ?ゲレちゃん…早速おしたちゃんと乗りに来たのかい?」
桃太郎「うんw」
シータ「ボロンゴも大丈夫?」
粂八「大丈夫だよw」
舟に乗り、また昨日の釣り場を目指す
桃太郎は紋蔵と伝助の話を粂八に聞かせた
桃太郎「粂さんはどう思う?」
粂八「オレはどっちもでえきれいだがね…けど、オレは他人の死の采配なんて出来る器じゃねえよ…昨日話したろ?…オレは途中で救われた…奴らは救われなかった…たったその差だ…それが一回あるかなしかで、さだめってのは変わる…オレだって救われなかったら、今頃奴らと変わらない世渡りだったろうよ」
桃太郎「…救われなかった人と救われた人…そっか…師匠も言ってた…露の情けだ」
シータ「言ってたね…ほんの少し、時間にしたら数時間かも数分かもしれない、ほんの少しの事で、人は変われるって…」
粂八「へぇぇ…ゲレちゃんの師匠ってのは鍛冶屋の?」
桃太郎「え?…あのじじいは違うw…もっとずっとすげえんだ…オイラなんかその師匠に比べたら雑魚だ」
粂八「またまたw…1人で鬼退治しちゃうようなゲレちゃんが?w」
桃太郎「そうw…オイラもさ、自分で自分を強えって自惚れてたけど…全然だったな」
シータ「本当にそうだったよ」
粂八「信じらんねえ…そんなお人が…」
桃太郎「オイラは1ヶ月師匠に稽古つけてもらったけど、1度もかする事すら出来なかったよ…こう額にさ、指1本でオイラの動きを止めちまうんだw…惜しいどころの差じゃねえんだなw…差がありすぎて悔しいとすら思わねえほどだw」
シータ「その前に、わたしを見てくれた女の師匠にも勝てないもんね」
桃太郎「おおw…ボコボコだw」
粂八「マジな話かい?」
桃太郎「マジもマジ、大マジだよw…その師匠の奥さんがこれまた虫も殺さねえようなかわいい人なんだけど、戦いなんてするように見えないのに、オイラはその人にも勝てなかった」
シータ「うんうん…でもすごくかわいかったよね~…わたしもあんなふうになりたいわ」
桃太郎「おしただって負けてねえよ~」
シータ「そんな事ないけどw…ゲレちゃんがそう思ってるならいいやw」
桃太郎「かぁわいい///…ギュゥゥ」
シータ「ぐぼぁ…ギブ!…ギブ!」
桃太郎「あ、ごめん///」
粂八「それって、その師匠って、ゲレちゃんに昨日の力を与えた人とか?」
桃太郎「それはその師匠の友達だ」
粂八「どこに居なさるんでえ?」
桃太郎「今はもう居ない…」
粂八「居ないって…死んだのかい?」
桃太郎「いや…神様なんだよ…信じられないかもしれないけど」
粂八「いや…神様なら得心がいくよw…」
桃太郎「信じてくれるの?」
粂八「だって、昨日のあれ見たらさw…それにゲレちゃんがそんなくだらねぇ嘘つくはずねえ」
桃太郎「嬉しいなあw」
シータ「粂さん、やっぱり良い人だ」
粂八「そんなこたねえよw」
桃太郎「粂さんがさ、平蔵さんの下で働くようになった話を聞かせてよ」
粂八「じゃあまた釣りしながら話そうかね…」
釣り場
粂八「ところでおしたちゃんもゲレちゃんから聞いたのかい?…昨日の話」
シータ「聞きました!」
粂八「じゃあ『血頭の丹兵衛』おかしらはわかるね?」
シータ「うん」
粂八「オレはしばらくはそのおかしらの元でおつとめをしててね…そんでもいつかはやめる時がくる…おかしらは盗っ人稼業から足を洗ったんだ…それからオレはまた流れづとめに戻ってさ」
桃太郎「ほむほむ」
粂八「けど、盗っ人の三箇条を守ってるオレはなかなかおつとめの口が回らなくてね…で、この際、江戸でまっとうに生きてみるかって思いたって、なけなしの銭持って江戸に来たわけだ」
シータ「ほむほむ」
粂八「するとさ、噂で『血頭の丹兵衛』のおつとめが聞こえてきてね…それがなんと急ぎ働きをしてるって言うんだよ…そんでオレは頭にきてね…あのおかしらがそんなマネするわけねえってね…オレはその偽物をとっ捕まえてやるって1人で息巻いてさ…人々から話聞いたりして探してたんだ」
桃太郎「うん」
粂八「そしたらオレ、へまして、佐嶋さまにとっ捕っちまったんだな」
シータ「え!」
粂八「オレもそれなりに名の知れた盗賊だったからね…で、オレはそのおかしらを探してたところだって言ったら、長谷川様もそいつを探してたんだ…まあ、火盗改だしな」
桃太郎「うんうん」
粂八「で、長谷川様はどういうわけか、牢屋にいるオレに毎夜毎夜酒を持って会いに来てくださった…その頃は冬で、牢屋で震えてたオレにはありがたかった…酒も、長谷川様の優しさも…長谷川様にもその時、昨日ゲレちゃんに話した事を話したんだ」
シータ「ほむほむ」
粂八「今にして思うと、オレから少しでも手がかりを掴もうとしてたのかもしれねえ…けど、オレには長谷川様がそんな計算ずくだけで会いに来てるとは思えなかった…そう思うよりも、ずっとあったかかったからさ…オレはそれでお願いした…『ここから出してくれたら、必ず捕まえて戻ってきます』ってね…普通ならそんな申し出を聞くはずねえ」
桃太郎「うん…けど、平蔵さんだからなあ」
粂八「そうよ…オレは髪を綺麗にしてもらって、綺麗な着物を着せてもらって、金も頂いて…オレは長谷川様の為にも、なんとしてでも見つけだそうって…何日も聞き込みをして、ようやくおかしらの子分てやつを見つけてな」
シータ「おお!」
粂八「そんでオレはそいつに取り入って、仲間にしてくれるよう、おかしらに頼むように言ったんだ…そんで遊郭の部屋で待ってたら、なんとおかしらが直で来たんだ」
桃太郎「やっぱり別人だったの?」
粂八「いや…それが本物だったんだ…だからこそオレの名前聞いて来たんだ…オレは聞いた『最近の急ぎ働きの噂は本当なんですかい?』…そしたらおかしらは『そうだ…今のこのご時世、ちんたらおつとめなんてバカらしくてやってらんねえ』ってさ…オレは目の前が真っ暗になったよ…」
シータ「そんな…」
粂八「『おめえが仲間になるなら百人力だ…昔と違ってうるせえ事は言わねえ…女を犯したいなら犯してもかまわねえ…力を貸してくれ』ってさ…オレはとても信じられなかったけど…仲間になったんだ…そんでオレは『ちょっとオレの七つ道具を準備するから2日ほど待ってくれ』と頼んだらさ、盗っ人宿の場所をオレに言って、待ってるって…オレはそれから別れるとすぐに長谷川様の元へ向かった」
桃太郎「おお…」
粂八「そしたら長谷川様は『待ってたぞ、粂八』って…初めから信じてくれてた…そん時の優しい笑顔は忘れられねえ…」
シータ「うん…平蔵さんらしいね…」
粂八「それからすぐにその盗っ人宿に火付盗賊改が出張ってね…あっという間に捕り物が終わって…縄に縛られたその丹兵衛をオレは泣きながら蹴った…『偽物め!偽物め!』って何度もな…そしたら長谷川様はオレをいさめて、肩を抱いてくれた…その温かさといったら…グス」
桃太郎「うん…」
粂八「オレはもう心底長谷川様にはかなわねえと思って…2人で火付盗賊改に向かってる時にこう言った『オレの役に立ってくれねえか』ってね…オレは『狗になれと?』って返した…『狗は狗でも世の中に尽くす忠犬だ』って…けど盗っ人の世界じゃ狗ってのは蔑まされてたからさ…オレは返事に困って黙ってた」
シータ「うん…」
粂八「そしたら長谷川様は『ならねえならもう二度と江戸には足を踏み入れるなよ』って…あの優しい顔でオレを目こぼししようとしてくださった…それでオレはこのお方の為に命を賭けようって気になってさ…それで密偵になったってわけさ」
桃太郎「なるほど~!…いやあ、良い話だ」
シータ「うん!」
桃太郎「さすが平蔵さんだぜ」
粂八「ああw…オレはだから三回救われたんだ…一回目は本物の丹兵衛おかしら…二回目は長谷川様…三回目はゲレちゃんになw」
桃太郎「え?…いやあ///」
粂八「けどさ…ゲレちゃん…オレはゲレちゃんがその紋蔵たちを救うならそれでもいいと思うけど…変われる奴もいれば、変われねえ奴もいる…そいつをゲレちゃんは間違わないで見破れるかい?」
桃太郎「う…そう言われると自信ねえ…」
粂八「ならやっぱり長谷川様にお任せしようよ…ゲレちゃんは十分情けをかけたよ」
シータ「わたしもそれがいいと思う」
桃太郎「…うん…だな…そうする…オイラも人の生き死にの采配が出来るほど、生きてねえ」
粂八「ああ…その業を背負うにはまだ若すぎるよ…」
桃太郎「うん…オイラやっぱり粂さんに会いに来て良かったよ」
粂八「ゲレちゃんはかわいいねえw」
桃太郎「そうお?」
シータ「うんw」
それから魚を2匹釣ると、それは鯉ではなかった
その魚を持って、桃太郎とシータとボロンゴはまた火付盗賊改方に戻った
平蔵「そうか…粂八がそんな事をなw」
桃太郎「うん…だからオイラ、やっぱり平蔵さんにお任せする」
平蔵「そうか?…オレは桃の思ってる通りにするのが良いと思ってたが…」
桃太郎「そうなの?…なんでこんなオイラみたいな若造をそんなに信じるの?」
平蔵「信ずるに値すると思うからに決まってるじゃねえかw」
桃太郎「平蔵さん…グス」
平蔵「それにな…奴らの牢で言ってくれた…桃の覚悟が嬉しかったのだ…」
桃太郎「え?…へへ///」
平蔵「ではな…桃よ」
桃太郎「うん…」
平蔵「オレの見極めだと、伝助は救えない…紋蔵は百叩きだ…それを紋蔵が飲むなら、桃がやってやれ」
桃太郎「うん…わかった!」
平蔵「桃の百叩き…うう…ブルブル…たしかに死んだ方がマシだわw」
シータ「うふふふw…身体中の骨がバラバラになるでしょうねw」
桃太郎「と、途中で死んだらどうしよう」
平蔵「その前に治してやりゃいいじゃねえかw…寿命が縮むのもそいつの罰だ」
桃太郎「治してまでやるのかw…きっついなあ…もし、紋蔵が途中で耐えられなくて殺してって願ったら?」
平蔵「その時はオレが首をはねてやる」
桃太郎「やっぱすげえな…平蔵さんは…オイラまだまだ全然かなわねえ…」
平蔵「そういう役割ってだけのことよ」
桃太郎「損だな…」
平蔵「そうでもねえよw…オレはこういう事してるから、彦十にもおまさにも粂八にも…桃やシータにも会えたんだからなw」
桃太郎「へへ///」
シータ「平蔵さん///」
久栄「お待たせしました…お食事の用意出来ましたよw」
平蔵「おっ、きたきたw…おお!…めしに混ぜたのかえ?」
久栄「ええw…とのさまお好きでしょう?」
平蔵「こりゃたまんねえなw…ほら、桃とおしたも食え…久栄も」
桃太郎「うん!」
シータ「いただきますw」
久栄「おほほほw」
桃太郎「けど人生ってのはほんとにちょっとした事で変わるな…丹兵衛に救われてまっとうになった粂さん…人を救ったのに悪魔になっちまった丹兵衛…」
平蔵「そうよな…『うんぷてんぷ』というやつだ…人とは弱いものよ…」
桃太郎「うんぷてんぷ?」
平蔵「人の運不運は天命…天の定めということさ…ちょっとしたきっかけで良くも悪くも転がっちまう…」
桃太郎「天祐ってやつか…かもしれねえ…」
そうして楽しく夕食を食べて、山小屋へと戻っていった
伝助は死罪になり、紋蔵には百叩きと伝えたが、『あんな怪力に百回叩かれるのは耐えられねえ』と言って、結局紋蔵も死罪となったが、引き回しは免れ、打ち首で済んだ
桃太郎は数日後、お雪と吾郎を粂八のところへ連れて行き、舟を楽しませ、鯉料理も一緒に食べた
歳甲斐もなく、はしゃぐお雪がかわいらしいと粂八も思った
或右衛門と臣九郎は主人、おみつ、およしに過去を打ち明けた
実は元々世間を騒がせていた『鬼』だと知り、3人は驚いたが、優しくて真面目で頼りになる2人をよく知っている彼らは『だからどうした』といった感じですぐに受け入れた
或右衛門と臣九郎はそれから間もなく婚礼をあげ、故郷への思いは捨てた
そして或右衛門とおみつの間には赤ん坊が生まれた
臣九郎は時々、火付盗賊改方の手伝いもしていた
臣九郎はてっぺんはハゲているが、それ以外は大丈夫なので、髪を伸ばして髷を結った
友蔵夫妻とも交流を欠かさない
桃太郎はたまに会いに来る程度だ
近所の住民からも頼りにされ、幸せに暮らしていた
桃太郎は1年経った今も、まだルーチェの力を引き出せない
日が経つにつれ、焦ってくる
おママとパパス、平蔵には神様の存在を打ち明けている
桃太郎「ああ~…ルーチェってほんとオイラも使えるのかなあ…」イライラ
シータ「ゲレちゃん、気持ちはわかるけど、焦ったらダメよ…ゲレちゃんがイライラするとわたし悲しいよ…」
お雪「イライラするゲレちゃんなんて初めて見たよ」
吾郎「シータが悲しいってよ…」
桃太郎「ごめんよシータ…オイラ今までこんなにも出来ない事ってなかったからさ」
シータ「でもゲレちゃんならいつか出来るよ」
桃太郎「いつかじゃなくて、すぐにがいいんだよ…」イライラ
プックル「けどよ、ゲレちゃん…そんな出来るかどうかわからないもんをあてにするのは良くないぜ?」
ボロンゴ「今のままで戦う勇気がないのか?」
桃太郎「そんな事ねえ!!」
シータ「…グス」
吾郎「ゲレ!!」
桃太郎「…あ…オイラ…最低だ…」
お雪「ゲレちゃん…」
桃太郎「シータ…みんな…本当にすまねえ…ごめん…オイラちょっと1人になって頭冷やしてくる…夜までには戻るよ…ボロンゴ、町まで乗せてってくれ」
ボロンゴ「り」
シータ「……」
桃太郎はボロンゴに乗り、町まで下りた
ボロンゴ「シータを放っていいのか?」
桃太郎「そりゃ寂しいけどさ…今のオイラじゃ、悲しませるだけだ…今のオイラ、だせえよな」
ボロンゴ「そうだな…あまり見ていたくはない」
桃太郎「ごめん…」
ボロンゴ「人が増えてきた…黙るぞ」
桃太郎「うん…」
そうしてボロンゴに乗ったまま、町をあてもなくぶらぶらし、川べりをボロンゴと歩いていると、声をかけられた
粂八(くめはち)だった
粂八「あれ、ゲレちゃん…どうしたんだい?」
桃太郎「あ、粂さん」
粂八「なんか暗い顔してるなあ…ゲレちゃんには似合わねえよ?…男前が台無しじゃねえか」
桃太郎「へへw…そうだね」
粂八「なんかそんな顔になる理由があるなら聞くよ?…舟乗りなよ」
桃太郎「あ、うんw」
粂八は平蔵の密偵ではあるが、普段は舟宿の主人をしている
イライラしている時は、普段と違う人と居たりする方が気分が紛れるものだ
粂八「何があったね?」
桃太郎「いやオイラさ…出来るはずの事がいつまでも出来なくてさ…それでついイライラしちまって…おしたを泣かせちまった」
粂八「それで珍しく1人なんだねw…で、その出来るはずの事ってな、なんだい?」
桃太郎「ごめん、それは言えない…」
粂八「ふうん…まあ、無理には聞かねえよ」
桃太郎「粂さんもイライラして他人を傷つけた事ってあるかい?」
粂八「そりゃあるよw…オレがゲレちゃんくらいの頃なんてよ、そりゃもうどうしようもなかったんだからw…ゲレちゃんは立派も立派よ」
桃太郎「どうしようもなかった?…粂さんが?…嘘つけw…どんなふうに?」
粂八「ま、もうちょいいくと釣りが出来るからさ…釣りでもしながら話そうw…ま、面白いかどうかはわからんけどw」
桃太郎「うん…川の風は涼しくて気持ちいいな…おしたも連れてきてやれば良かった…」
粂八「今度連れてきなよw」
桃太郎「いいの?…オイラどうせイチャイチャするぞ?w」
粂八「かまわねえよw…そういう客はなにもゲレちゃんだけじゃねえ」
桃太郎「そっかw…おした…今頃泣いてるかな…それともイライラの元がいなくてせいせいしてるかな…オイラやっぱりおしたと離れてるとソワソワするよ」
粂八「そりゃどうもごっつぁんでしたw」
桃太郎「ははw」
それから少し進むと、粂八は桃太郎に釣り竿を渡し、2人で並んで釣りを始めた
桃太郎「で、粂さんは昔どんなだったの?」
粂八「オレはな、生まれた時から母も父も居なくてさ…世話してくれたばばあが1人いるだけでね」
桃太郎「え…二親はどうしてるの?」
粂八「さあね…オレはそのばあさんと2人で貧しく育ってね…そのうちそのばあさんも死んじまってね…それからしばらくすると、見世物をしてる連中に拾われて…オレは曲芸を仕込まれ、見世物となって生きてた」
桃太郎「え…そんな事が…」
粂八「それでも生きてられるだけマシだった…けど、上手く出来ねえと鞭で叩かれるし、人々には笑われるしで…オレはいつもイライラして、世の中を呪ってた…」
桃太郎「粂さん…グス」
粂八「そんで体がデカくなってくると、見世物にならねえってんで、捨てられてよ…またオレは途方にくれて…そこいらのじいさんとか弱いやつから金を巻き上げたりして、やっと生きてた」
桃太郎「そんな事してたのか」
粂八「どうしようもねえだろ?w…でもそれくらいならまだよかった…そうやってオレはいっぱしのワルになって、そのうち博打をうつようになってな…そんでいつか大損して、借金して、返せねえって言ったらボコボコにされて…そんでそん時の奴がこう言った『借金返したかったらオレの手伝いをしろ』ってね」
桃太郎「手伝い?」
粂八「ああ…そいつは急ぎ働きの盗っ人だった…オレはその一味になって、盗んだ…人も殺したし、女も犯した…気がついたらもうオレは血まみれの盗賊だ…それである日おつとめしてたら奉行所の連中に囲まれてさ…オレは曲芸を仕込まれて身軽だったから、単身逃げたんだ」
桃太郎「うん…」
粂八「奉行所の連中なんざ、長谷川様たちの火盗改と比べたらぬるいからなw…そんで逃げてまた1人になったオレは、今度は『流れづとめ』の盗賊になった…わかるかい?…転々といろんなおつとめの手伝いをする盗っ人さ」
桃太郎「ほむほむ」
粂八「そんな暮らしをしてるうちに、オレは『血頭の丹兵衛』っておかしらのおつとめに参加したんだ」
桃太郎「なんか残酷そうな名前だなあ」
粂八「まあなw…だからオレも急ぎ働きのおつとめだろうって思ってたさw…そんでいざ押し込みになって、オレはまあ女を犯そうとしたんだな…最低だろ?w…でもそしたらその丹兵衛おかしらに殴られて、おつとめもしないで引き上げて…オレはそのおかしらに百叩きにされた」
桃太郎「な、なんで?」
粂八「そのおかしらはさ、名前とは裏腹に『殺さず、犯さず、貧しき者からは奪わず』っていう盗っ人の三箇条を守る大盗賊だったのさ…だからオレはその時、殺されても文句は言えないような事したわけだ…でもおかしらは百叩きで許してくれた…なぜか、こんなどうしようもねえオレを『性根を叩き直してやる』って言って、子分にしてくれた…おかしらのおつとめはそりゃあ見事だった…綿密に計画を立てて、鍵も逃げ道もぬかりなく用意して、誰も気づかないうちに金だけなくなってる…オレはそんなの今まで見たことなくてさ…厳しいけどあったけえおかしらに、オレは人としての心をもらったんだ…」
桃太郎「ほむほむ…」
粂八「それからオレは心を入れ替えて、三つの掟を守って生きるようになったってわけw…それがちょうどゲレちゃんくらいの歳だったのさw」
桃太郎「そうなのか…」
粂八「見損なったろ?」
桃太郎「いや…」
粂八「オレは今でも思い出す…オレが手にかけた奴の最期の顔を…夢にまで出てさ…オレはきっと『畳の上で大往生』なんて出来ねえ…いや、そんな事は許されねえ」
桃太郎「……」
粂八「オレは今がどうでも、過去のその事は許されない…だから罪滅ぼしってわけじゃねえけど、少しでも人の役に立ちたくて、今は長谷川様の下で命をかけて働いてるんだ」
桃太郎「そりゃよ…女犯したり、殺したりはいけねえけど…それは粂さんだけが悪くはねえよ…そういう生き方しか選べなかったんだもん」
粂八「さてねえ…ただオレが弱かっただけかもよ…けどゲレちゃんはオレと違って強えんだ…後悔なんかしねえように生きていく事だぜ」
桃太郎「…うん…」
粂八「オレみてえな悪党が説教じみた事言っちまってすまねえなw」
桃太郎「いや…ものすごく勉強になったよ」
粂八「そう言ってくれると少し救われるなw」
桃太郎「オイラはそんな苦労なんて今までなかった…そんな辛い生き方なんて知らなかった…グス…オイラは…十分恵まれて幸せなのに…ちょっと上手くいかねえからってガキみたいに拗ねちまってた…そんでおしたも泣かして…どうしようもねえのはオイラだ…」
粂八「生きてりゃそんな時なんて、誰しもあることだよw…ゲレちゃんは今はおしたちゃんを泣かせちまったかもしれねえけど、それ以上にたくさんの笑顔を守ってきたじゃねえかw…立派だよ…誰がどう見たって立派だ…な?…ナデナデ…」
桃太郎「うう…グス…」
粂八「泣くなよw…ほら、ゲレちゃんの竿に引っかかってんぞ?」
桃太郎「う、うん…グイ…」
粂八「でけぇけど鯉だわw…残念だなw」
桃太郎「鯉は食えねえの?」
粂八「食えるけど、美味くねえw」
桃太郎「そうなのか」
粂八「そら美味かったらこんなすぐ釣れるやつ、そこいらで売ってるだろw」
桃太郎「あ、そっかw…けど、針が引っかかって傷つけちまっても生きれるかな?」
粂八「まあ、あんまり長くはねえだろうな」
桃太郎「なら食うよ…命に美味いも不味いもねえもん」
粂八「ほら…立派だ」
桃太郎「…ウル」
粂八「けど、どうせなら美味くして食った方がそいつも浮かばれるからさ…深川の『葵屋』ってとこ持ってって料理してもらうといいぜw」
桃太郎「そこなら美味しくしてくれるの?」
粂八「ああ…持ってくなら今締めねえとな」
桃太郎「それは?」
粂八「ここをちょっと切って、ここにぶっ刺して、血抜きをするのさ」
桃太郎「う…」
粂八「殺すの辛えか?w…けど、普段ゲレちゃんが食ってるのも元々生きてたんだぜ?」
桃太郎「…そうだったね…オイラやるよ…ここを切るの?」
粂八「そう、尻尾の付け根だ…
桃太郎はやり方を教えてもらい、鯉をしめた
桃太郎「粂さん、オイラこいつが腐らないうちにその店行くよ」
粂八「じゃあこのまま乗せてってやるよ」
桃太郎「うん…一緒に食おうよ」
粂八「ありがてえなw」
桃太郎「1匹で足りるかな」
粂八「足りる足りるw」
桃太郎は粂八の人生に触れて、多くの大切な事を学んだ
それと同時に、シータを泣かせた自分の小ささを恥じた
桃太郎(オイラはルーチェに頼らなくても、やってやる!…絶対に今後シータを泣かせるもんか!)
そう心に誓った
世界が今までとは違って見え、目の前にあったモヤが晴れたようだった
そうしてしばらく舟で進み、2人は降りて、葵屋に向かった
ボロンゴは舟で待った
桃太郎「こりゃ美味えw」
粂八「だろ?w…かなり手間がかかるもんだから、そうそう素人にゃ作れないぜ」
桃太郎「ふうん…よくこんなの思いつくよなあ」
粂八「ああ…先人たちの知恵はすげえよ」
桃太郎「ほんとだなw…しっかし、粂さんが昔はそんな悪党だったなんて、全然見えねえな」
粂八「そうかい?w…まあ、生きてりゃいくつも顔を持っていくもんさ」
桃太郎「顔…かあ…平蔵さんもいくつも持ってるんだろなあ」
粂八「だろうなあ…」
桃太郎「けどオイラは粂さんのどんな顔も好きだよw」
粂八「ゲレちゃん…グス」
桃太郎「今日は粂さんに会えて良かった」
粂八「ゲレちゃんの役に立ったなら良かったぜw」
桃太郎「うん!」
2人は食べ終えて勘定を済ませた
粂八「わりいな…ゲレちゃんに払わせちまって」
桃太郎「大丈夫…こんくらい安いさw…こう見えてオイラは金持ってるんだ」
それは本当にそうだった
蝋燭問屋で稼いだ蓄えもあったし、鬼退治をした報奨金や、たまに火付盗賊改の仕事を手伝って平蔵から褒美を貰ったりもしていた
そして、桃太郎たちは普段たまに食べ物を買うくらいしか使わない
桃太郎「オイラちょっと厠寄ってから出るから、先に出て待ってて」
粂八「あいよ」
粂八は桃太郎にそう言われて店を出た
そして、店の門を出ると、塀に隠れていた2人に挟まれる形で匕首を刺された
粂八「なん…てめぇ…」
粂八はその2人に見覚えがあった
かつて平蔵たちが討ち入りの際に逃げた者たちだった
男「おかしらの仇だ…この汚らわしい狗が」
男2「トドメくれてやる」
粂八はさらにもう一度腹に刺された
それからその2人は匕首を抜き、足早に去っていった
桃太郎が用を足して出ると、血だらけで倒れる粂八の姿があった
桃太郎「粂さん!…いったいこりゃ…死ぬな!!…」
粂八「ゲレちゃん…悪い事は…しないこっ…たなw…」ガク
桃太郎「粂さん!!…死なないでくれ!!」
桃太郎は泣きながら粂八の頭を抱え、腹の傷を抑えた
すると、桃太郎の身体に今まで感じた事のない力を感じ、傷を抑えた手から光が放たれた
すると粂八の血の気の引いた顔がみるみる赤くなり、傷も塞がっていく
粂八「あ、あれ…オレは死んだはずじゃ…ここは地獄か?」
桃太郎「粂さん!…ギュゥ…グス」
粂八「ゲレちゃん…ど、どうなってんだ?…でも、地獄にゲレちゃんが居るはずねえ」
桃太郎「地獄なんかじゃねえよ…グス…生き返ったんだ」
粂八「なんで…」
粂八は刺された場所を触ったが、血がつくだけで痛くも痒くもなく、いつも通りの身体だった
それどころか、いつになく元気になった
粂八「むしろ今はめちゃくちゃ調子が良い…いったいなんで?」
桃太郎「たぶん、オイラの力だ…オイラはこの髪の色になった時から、この力が備わったんだ…でも、今まで出来なかった…だからイライラしてたんだ…」
粂八「じゃあ、オレがキッカケになったわけかい?w」
桃太郎「うん…」
粂八「不思議なことだけど…ゲレちゃんの役に立ったなら良かったよw…ありがとな、助けてくれて…命の恩人だなw」
桃太郎「いや…」
粂八「どうしたよ…浮かねえ顔だな…」
桃太郎「オイラはたしかに粂さんの傷を治せたし…この力の出し方もわかった…けど、この力を使われた奴は、向こう何年か…わからねえけど、生きれる年数が減っちまうんだ…オイラは粂さんの寿命を奪っちまった」
粂八「そうなのかw…だからどうしたってんだよ?w…ゲレちゃんが治してくれなかったら今死んでたんだ…数年でも生きながらえりゃ恩の字よw…なにも気にするこたあねえよ」
桃太郎「粂さん…」
粂八「それより早くずらかろうぜ…オレもゲレちゃんもこんな血まみれじゃ、みんなから見られちまうよ」
桃太郎「うん!」
2人は急いでボロンゴの待つ舟に戻り、粂八の舟宿に向かった
桃太郎「でもなんであんな事に?」
粂八「オレが昔に長谷川様に手伝って捕まえた奴らだ…そん時2人ほど逃しちまってさ…そいつらに見つかってあのザマだ」
桃太郎「そういう事ならすぐに平蔵さんのとこに行こう!…そいつらを野放しにはできねえ!」
粂八「だな」
舟を岸につけ、2人は火付盗賊改の役宅に急ぐ事にした
桃太郎「粂さん、ボロンゴに乗れ…走るぞ」
粂八「お、おう…おじゃまするぜ」
ボロンゴ「わん」
桃太郎「ブフww…じゃあ走るぞボロンゴ」
ボロンゴ「わん」
桃太郎「…グッww」
桃太郎には犬の鳴き声を出すボロンゴの方が珍しく、それで笑ったのだった
そしてルーチェの力を身につけた桃太郎は自分もボロンゴも驚くほどの速さで、役宅に走った
粂八「は、早!!…ゲレちゃんはええ!!」
桃太郎「粂さんのおかげだw」
火付盗賊改方
沢田「ゲレちゃん、粂八…どうした、その姿は!」
桃太郎「あ、沢田さん!…大丈夫、ケガしてるわけじゃねえんだ…平蔵さんに会わせて?」
沢田「ついてこい」
平蔵「どうしたというのだ、それは」
久栄「まあ!…ゲレちゃん、お怪我は?!」
桃太郎「大丈夫だよ、久栄さま」
久栄「もう…心配をかけないで…ギュゥ…」
桃太郎「久栄さま…着物が汚れるよ…グス」
久栄「そんなのかまいませぬ…」
粂八「長谷川様…実は…
平蔵「何?!…あやつらがまた江戸に…沢田!」
沢田「は!」
平蔵「すぐに動ける同心、密偵に伝え、なんとしても見つけるのだ!」
沢田「は!!」
沢田はすぐに動き出し、それから全力で2人を捜索した
平蔵「粂八…本当に大丈夫であろうな?」
粂八「はい…ゲレちゃんのおかげで…そんな事より、あっしもすぐに帰って捜索に加わります!」
平蔵「待て…まずは風呂に入って着替えろ」
粂八「いや、それは…風呂を汚してしまいますから…」
平蔵「バカな事を言うなw…風呂は汚れを落とすところじゃねえか…すまんな粂よ…オレが取り逃がしたばっかりに…おめえを苦しめちまったな…」
粂八「いえ、とんでもねえ!…グス…あっしはどうせこんな死に方しか出来ねえって覚悟してやすから…」
平蔵「バカな事を言うな…」
粂八「…長谷川様…グス」
久栄「さあ、着物を脱いで…お風呂の支度が出来たらお呼びしますね」
粂八「畏れ多いことで…」
久栄「ほらゲレちゃんも…」
桃太郎「うん!…オイラ久栄さまと一緒に風呂入りてえなあ」
平蔵「な、なに?!」
久栄「まあw」
桃太郎「だってオイラには久栄さまはおママみたいなもんだもん…」
久栄「かわいい…ギュゥ…では一緒に入りましょう」
桃太郎「うん!」
平蔵「マジか…オレも滅多に入らぬのに…」
粂八「マジか…」
そうして、粂八は風呂から上がると、用意された着物を着て、探索へと出かけた
桃太郎は本当に久栄と一緒に湯に浸かり、久栄も桃太郎も幸せだった
桃太郎はシータ以外の女性の身体に思うところはなく、本心で久栄をおママのように思っていた
久栄は桃太郎のその思いがとても嬉しく、実の息子の辰蔵よりも数倍かわいかった
久栄「ゲレちゃん…本当にありがとう」
桃太郎「なにが?w」
久栄「ゲレちゃんの気持ち…わたしはゲレちゃんに会えてとても幸せ」
桃太郎「そんなの…お互いさまだよ…スリスリ」
久栄「かわいい///…ナデナデ」
それから風呂から出て、着物を着ると、桃太郎は平蔵と久栄と一緒に食事をし、山へと帰った
山道
ボロンゴ「ゲレちゃん、乗るか?」
桃太郎「うん…いや、この力を試してみたいから、今日は走るよ」
ボロンゴ「り…それにしても前よりも倍は速いなw…前も人間にしては速かったのに」
桃太郎「うん…オイラもびっくりだw」
ボロンゴ「良かったなw…これでイライラしないで済むか?」
桃太郎「イライラはとっくに終わってる…この力が出る前から」
ボロンゴ「そっかw…良かったな…もしかしたら、そのイライラがなくなったから力が出せたのかもしれないな」
桃太郎「かもなあw…ルーチェはイライラが嫌いって師匠も言ってたもんな」
ボロンゴ「ああ」
山小屋
桃太郎「…ただいま」
シータ「ゲレちゃあん!!…ガシ!!」
桃太郎を見た瞬間、シータは桃太郎に飛びついた
桃太郎「ごめんよシータ…ナデナデ…」
シータ「うう~…寂しくて胸が潰れるかと思ったよ…グス」
桃太郎「どれ?…ムニムニ…大丈夫だ、潰れてねえw」
シータ「もう!…ふざけてるの!…こんな寂しい思いさせといて!」
シータは怒って桃太郎から離れた
桃太郎「す、すいません…この通り…オイラが悪かった…許してくり~」
シータ「どうしようかな…」
桃太郎「ええ~…本当ごめんなさい」
シータ「もうイライラしない?」
桃太郎「うん!…オイラもうしない」
シータ「約束する?」
桃太郎「うん!」
シータ「愛してる?」
桃太郎「当たり前だ!」
シータ「世界一?」
桃太郎「宇宙一だ」
シータ「抱きたい?」
桃太郎「抱きたい…けど、その前におママたちにも顔出さなきゃ…」
シータ「どうせそうよね…わたしなんて」
桃太郎「そ、そんな事ねえってば…ギュゥ…チュゥ」
シータ「ん…」
桃太郎「本当にすまねえ…オイラもやっぱ我慢できねえ」
シータ「うん…3回くらいイったらおママのとこ顔出そう」
桃太郎「うん…」
そうして桃太郎とシータは結局3回じゃ済まず、5回はしてから、お雪と吾郎に挨拶をした
お雪「で、ゲレちゃんは機嫌治った?」
桃太郎「オイラもうばっちりだw」
吾郎「ゲレちゃんはさ…地球の命運を1人で背負ってるから…力を欲しがる気持ちや…きっと重圧とか不安とか…オレたちにはわからないほどあるんだと思う…それは本当に申し訳ねえと思うけど…でもシータとおママだけは泣かすなよ」
桃太郎「うん…オイラがバカだった…小さかった…けどもう大丈夫…オイラは今日ルーチェを身につけた」
シータ「本当?!」
お雪「おお~!」
桃太郎「うん…けど、ルーチェなんかなくたって、オイラはもうイライラしない…シータやおママを泣かせたりはしない」
シータ「うん…でも良かったね…」
桃太郎「うん…オイラさ、絶対にシータにケガもさせないつもりでいるけど、世の中に絶対なんてないだろ?…だからオイラはケガを治せる力が欲しかったんだ…それでイライラしてたんだ」
シータ「そうだったの…」
吾郎「なるほど納得」
お雪「でもどうやって気分が晴れたの?…それに、力が出せるようになったキッカケは?」
桃太郎「話すとちっと長いけど…」
ボロンゴ「良かったら見せようか?」
桃太郎「え?…録画してたのか?」
ボロンゴ「ああ…」
シータ「見たい!」
お雪「見せて見せて!」
吾郎「wktk」
ボロンゴ「り」
ボロンゴは粂八と桃太郎のやりとりを録画していて、それを流した
シータ「あ、ちゃんとゲレちゃん、わたしを気にかけてる///…ギュ」
桃太郎「当たり前だろ~…チュ」
吾郎「粂八さん…」
お雪「でも強姦はなあ…」
桃太郎「うん、まあ…けど、オイラもおママもそれを責める事は出来ないと思う…粂さんと同じ経験をしてないんだから」
お雪「そうだね…」
シータ「それに今はみんなの為に生きてるんだし…」
吾郎「それにしたってなあ…」
桃太郎「とにかくオイラはこの話を聞けて良かった…師匠の言ってた通りだと思った…」
シータ「そうだね…」
プックル「原因があるから結果が生まれるんだもんな…それは悪い事にも言えるよな」
チロル「だなあ…」
お雪「どういうこと?」
桃太郎「オイラの師匠は…神様はこう言った『人は…生き物は生まれたその時から悪い心を持ってはいない…でも、生きれる道は不平等だ…夢を持っても、目標があっても、それを実現出来る現実的な生き方が出来る奴はそうはいない…夢すら持てない生き方しか選べない時だってある…生まれた環境、生きてきた環境、その時々の状況…他の物や人との出会い…そういった事で、自分てもんが作られていく…愛されて、優しくされて育つのも居れば、憎まれて、蔑まされて生きる奴も居る…金持ちに生まれるか、貧乏に生まれるかでも違う…ゲレはすげえ良い奴だと思うけど、もしお前が人々から憎まれ、蔑まれ、おまけに誰も手を差し伸べてもくれなかったら…お前は今の良い奴になれてたか?』ってさ…オイラはなれねえって思う」
吾郎「…なるほどぉ…そうか…粂さんが悪い事したのは、そうしないと生きていけない環境だったからか…」
桃太郎「ああ…でも師匠はこうも言った『でも、そっくり同じ環境で生きても、やっぱり人それぞれ生き方も違ってくる…なぜなら、強さも不平等だからだ…最初っから強え奴もいる…オレの親友はそうだった…そいつはきっとどんな環境でも自分を曲げなかったろう…でも、そんなのは特別だ…そんでもって、弱い事が悪いわけでもねえ…強い弱いでそいつの価値は決まらない…ある日突然訪れた『天祐』に手を伸ばす…そのほんの少しの覚悟があるかないかで価値は決まる』ってね…粂さんはその『天祐』に手を伸ばしたんだよ」
お雪「…そっかあ」
吾郎「…やっぱ神様はすげえ事教えてくれるんだなあ…」
桃太郎「うん…だから粂さんの話を聞いたオイラはそんで、自分の人生の幸せさが良くわかってさ…出来ねえからってイライラしてるなんてバカだって思えたんだ…そう思ったらモヤが晴れて、明るくなった」
吾郎「なるほど…」
シータ「それで…どうしてルーチェは使えるようになったの?」
桃太郎「オイラ、粂さんと2人で鯉料理を食いに葵屋に行ったんだ…ほんで食い終わったから店を出ようってなってさ、勘定済ませてからオイラは厠に寄って…粂さんだけ先に店から出たんだ…で、オイラがしょんべんして粂さんとこ行ったら、粂さんが血だらけになって倒れてた」
お雪「え?!」
吾郎「なんで!」
桃太郎「昔に平蔵さんと一緒に捕りものした時に逃げた奴らが待ち伏せしててさ…そんで、刺された…3ヶ所」
シータ「そんな…」
桃太郎「オイラは死ぬなって泣きながら願って、傷を抑えた…血がすごく熱くて、黒くてねっとりしてて…その血は死ぬ間際の血だ…オイラはそれでも死なないでって願った…そしたらオイラの身体は信じられないほど力が湧いて、手から光が出て…粂さんはあっという間に生き返った」
お雪「よ、良かった…」
吾郎「すごいw…嘘みてえな話だな」
桃太郎「うんw…けどきっと粂さんはそんな長くは生きられないと思う…それをオイラは粂さんに言ったら粂さんは『それがどうした』って笑ってくれた」
シータ「そっか…良かったね」
桃太郎「師匠が言ってた時間を奪う痛み…オイラもさ…そん時やらなきゃ死ぬんだから、やった方がいいって思ってたけど…実際やるとやっぱりずっしりとくるよ」
お雪「ゲレちゃん…ギュ…かわいそうに」
桃太郎「いろいろ考える…もしあん時厠に行かないで一緒に出たなら…もしも釣った魚が鯉じゃなかったら…もしもオイラがイライラしてなかったら…粂さんは寿命が短くならずに済んだ…グス」
プックル「ゲレちゃん…そんなのただの結果論だ」
チロル「ゲレちゃんに知りようもない未来の事じゃんか」
ボロンゴ「ゲレちゃんは悪くない…そんな事を言い出したらキリがない…そもそも逃さなければ…そもそも平蔵さんに会わなければってなってしまうではないか」
シータ「そうだよ…」
桃太郎「うんw…考えるだけw…わかってる」
吾郎「その罪悪感をオレが代わってやれればなあ…ナデナデ」
桃太郎「大丈夫…みんなのその優しさで十分だよw…オイラは力を受け継ぐ時に、ちゃんと覚悟はしてる…責任も持ってる…大丈夫」
シータ「ゲレちゃん…ギュ」
桃太郎「それよりもさ、その粂さんを殺しかけた2人を火盗改が探してるけど…見つかるかな…」
シータ「きっと見つかるよ…平蔵さんだもん」
桃太郎「見つかったらオイラ会いてえな」
お雪「代わりにやっつけるの?!」
吾郎「よし、やっちまえ!」
桃太郎「ブフww…まあ、ボコボコにはするかなw…オイラまた明日になったら朝メシ食ってすぐに火盗改に行ってくる」
お雪「わかった」
シータ「わたしも連れてくよね?」
桃太郎「うんw…もう1人にはしないよ」
シータ「うん!」
そうして翌朝になると、2人は火盗改に向かった
シータはボロンゴに乗り、桃太郎は走った
シータも桃太郎の足の速さに驚いていた
火付盗賊改方
ボロンゴ「ゲレちゃん、シータ…私は充電があと50%しかない…宇宙船に行って充電してくるよ」
桃太郎「おお、悪いな…気をつけてな」
シータ「ありがと…ナデナデ」
ボロンゴは透明になり、宇宙船へと飛んで行った
桃太郎「平蔵さん…奴らは捕まった?」
平蔵「おお、桃…おしたもw…捕まったぞw」
桃太郎「粂さんは?」
平蔵「粂八は帰ったよ」
桃太郎「今奴らは?」
平蔵「牢にぶち込んである」
桃太郎「オイラ会いてえ」
平蔵「何?…何をするつもりだ?」
桃太郎「オイラはその2人が憎い…けど、オイラは許す心を持ちたい…だから会いたい」
平蔵「ふうむ…わかった…ついてこい」
そして、牢につくと人払いをし、鍵を開けて桃太郎は中に入った
平蔵「桃…その痩せてるのが紋蔵、太ったのは伝助だ」
紋蔵「おめえは昨日あの野郎と一緒にいた…」
伝助「どうする気だ?」
桃太郎「そうだなあ…オイラおめえらが嫌いだ…でも、オイラを倒せたらここから出してやる…平蔵さん、いいよな?」
平蔵「…かまわん」
もちろん平蔵は桃太郎が負けるとは思っていない
紋蔵「本当ですかい?!」
伝助「二言はねえですよね?」
平蔵「ねえ」
桃太郎「かかってきな」
紋蔵と伝助は桃太郎に殴りかかった
桃太郎もわざとそれをくらった
そして2人の腕を掴み、ギリギリとすごい握力で締めあげた
桃太郎「弱えなあ…いきがってもその程度か?」
紋蔵「ぎぃやあああ!」
伝助「は、離せ!…折れる…」
2人の手は紫に染まり、ブクブクに膨れ上がる
桃太郎はまず紋蔵をぶん回し、床に激しく叩きつけ、伝助を肩に担ぎ海老反りにした
伝助「うがあ!」
紋蔵「や、野郎…ぐわ!」
桃太郎は伝助を担ぎながら、足を紋蔵の胸に乗せ、ギリギリと踏みつけた
紋蔵「や、やめ…し、死んじまう…」
伝助「し、死ぬ…」
桃太郎「あたりめえだ…お前らはどうせ遅かれ早かれ死ぬんだ…オイラが殺したっていいだろ」
平蔵「かまわん」
紋蔵「ぐぶ…」
伝助「あが…が…」
伝助と紋蔵が死ぬ一歩手前で、桃太郎は解放した
桃太郎「おい…死ぬ苦しみがわかったか?」
紋蔵「う…ゴホ…」
伝助「ケホ…ケホ…ぐ…」
桃太郎「わかったかよ?」バシ!ベシ!
紋蔵「あ…ああ…」
桃太郎「口の利き方知らねえのか?」ベシ!
紋蔵「は、はい…わ、わかりました…」
伝助「す、すいやせん…」
桃太郎「おめえらは昨日それをやったんだ…今は真面目に世の中の役に立ちたい一心で生きてる人をな」
紋蔵「だ、だけど…あいつは裏切って…」
桃太郎「そんなもんが悪いってんなら、殺すことや盗むことの方がもっと悪いだろうが」
伝助「う…」
桃太郎「おめえらの腐った世界でよ…裏切ったとか裏切られたとかさ…そんなにおめえらが強い繋がりで生きてるなんてオイラには思えねえぞ…裏切られるのはおめえらがそういう生き方してるからだ」
紋蔵「……」
伝助「……」
桃太郎「お前たちは友達か?」
紋蔵「まあ…そうです」
伝助「は、はい」
桃太郎「お互い、命を捨てても構わないくらいの友達か?」
紋蔵「……」
伝助「……」
桃太郎「平蔵さん、脇差し貸してくれ」
平蔵「ほら」
桃太郎は平蔵から脇差しを受け取った
桃太郎「おい…こいつを使って、殺した方をここから出してやる」
紋蔵と伝助は互いに見つめ合い、それから我先に脇差しに飛びついた
脇差しを掴み、殴り合う2人
桃太郎「それのどこが友達だ?…お前らは今お互いに裏切ってるじゃねえかw…そんなおめえらが他人を裏切り者扱い出来るのか?」
桃太郎は2人の顔面に強烈なパンチを当てた
桃太郎「はい、平蔵さん…ありがと」
平蔵「ああw…面白い事するなw」
桃太郎「ははw」
桃太郎「おめえらはそれとも他に命より大事な人間はいるのか?」
紋蔵「…いや」
伝助「…いません」
桃太郎「薄っぺらいな…オイラはそこにいる2人の為なら死んだって平気だぞ…いや、違うな…どんな目に遭ってもオイラは死なねえで守り抜く覚悟があるぞ…オイラの命よりも大事だからな」
平蔵「桃…」
シータ「ゲレちゃん…ウル」
桃太郎「けどさ…なんでそんなになっちまったんだ?…そんなふうにしか生きられなかったのか?」
紋蔵「オレは…
紋蔵と伝助は自分の生い立ちを語った
桃太郎「なるほどね…うーん…けどさ…紋蔵はあの時抜け出せたはずだぜ?…そういうのは考えなかったの?」
紋蔵「考えた…でも…1人で生きていけるか怖かった…」
桃太郎「それはわかる…でも怖い怖いで逃げてたら、おめえに幸せなんて来ねえ…現に今こうして死の一歩手前だ…」
紋蔵「…はい」
桃太郎「おめえに至ってはもうどうしようもねえなw…おめえは親も居て、かたぎだったのに自ら盗賊になってよ…その理由が『美味いもん食いたいから』とか、『女を抱きてえから』とかさ…ちょっと救いようがねえぞw」
伝助「う、うん」
桃太郎「平蔵さん…」
平蔵「なんだ?」
桃太郎「こいつらはどうなる?」
平蔵「引き廻してさらし首だな…」
紋蔵「うう…」
伝助「い、いやだ」
桃太郎「嫌だってお前…お前らに殺された人たちだってそうだよ…お前たちよりずっと生きる価値ある人たちがさ」
平蔵「その通りだ」
桃太郎「けどさ…平蔵さん…もし粂さんが殺すのは許すって言ったら…せいぜい百叩きくらいで勘弁してやれない?」
平蔵「ふうむ…桃がするならいいぞ…本気でな」
桃太郎「わかった…だってよ」
紋蔵「い、嫌だ…あんたに百叩きされるくらいなら死んだ方がマシだ」
シータ「…たしかにw」
桃太郎「あははw…でもそれがオイラの最低限の譲歩だ…明日粂さん呼ぶからさ…よく考えろや…今までしてきた罪と殺した人の事…ちゃんと考えろ…いいな」
そして桃太郎は牢を出て、鍵をかけた
平蔵「いや、面白かったw」
桃太郎「あははw…そうお?」
シータ「うん…カッコ良かったw」
平蔵「本当に殺しちまうかとヒヤヒヤしたけどなw」
桃太郎「そんくらい思わせないとわからないよw」
シータ「うんうんw」
平蔵「奴らが百叩きを選んだら、本当にやるか?」
桃太郎「やるw…オイラは約束は守る」
シータ「うわぁ…その約束は守られたくねえ~w」
平蔵「わははははw…ま、粂が許すかだなw」
桃太郎「うん…」
平蔵「桃は許せたか?」
桃太郎「紋蔵は許せなくもなかった…でも伝助はダメだ…あいつは粂さんも許さないだろう」
平蔵「たしかにw」
シータ「たしかにw…けど、あの脇差しに飛びついてたのは本当に醜かったね」
桃太郎「生き死にかかってるからなw」
平蔵「ああ」
桃太郎「オイラこれから粂さんとこ行ってくるよ」
平蔵「そうか」
役宅を出るとボロンゴはすでに門のところで待っていた
シータはボロンゴに乗り、桃太郎と急いで粂八の元へ行った
粂八の舟宿
粂八「あれ?ゲレちゃん…早速おしたちゃんと乗りに来たのかい?」
桃太郎「うんw」
シータ「ボロンゴも大丈夫?」
粂八「大丈夫だよw」
舟に乗り、また昨日の釣り場を目指す
桃太郎は紋蔵と伝助の話を粂八に聞かせた
桃太郎「粂さんはどう思う?」
粂八「オレはどっちもでえきれいだがね…けど、オレは他人の死の采配なんて出来る器じゃねえよ…昨日話したろ?…オレは途中で救われた…奴らは救われなかった…たったその差だ…それが一回あるかなしかで、さだめってのは変わる…オレだって救われなかったら、今頃奴らと変わらない世渡りだったろうよ」
桃太郎「…救われなかった人と救われた人…そっか…師匠も言ってた…露の情けだ」
シータ「言ってたね…ほんの少し、時間にしたら数時間かも数分かもしれない、ほんの少しの事で、人は変われるって…」
粂八「へぇぇ…ゲレちゃんの師匠ってのは鍛冶屋の?」
桃太郎「え?…あのじじいは違うw…もっとずっとすげえんだ…オイラなんかその師匠に比べたら雑魚だ」
粂八「またまたw…1人で鬼退治しちゃうようなゲレちゃんが?w」
桃太郎「そうw…オイラもさ、自分で自分を強えって自惚れてたけど…全然だったな」
シータ「本当にそうだったよ」
粂八「信じらんねえ…そんなお人が…」
桃太郎「オイラは1ヶ月師匠に稽古つけてもらったけど、1度もかする事すら出来なかったよ…こう額にさ、指1本でオイラの動きを止めちまうんだw…惜しいどころの差じゃねえんだなw…差がありすぎて悔しいとすら思わねえほどだw」
シータ「その前に、わたしを見てくれた女の師匠にも勝てないもんね」
桃太郎「おおw…ボコボコだw」
粂八「マジな話かい?」
桃太郎「マジもマジ、大マジだよw…その師匠の奥さんがこれまた虫も殺さねえようなかわいい人なんだけど、戦いなんてするように見えないのに、オイラはその人にも勝てなかった」
シータ「うんうん…でもすごくかわいかったよね~…わたしもあんなふうになりたいわ」
桃太郎「おしただって負けてねえよ~」
シータ「そんな事ないけどw…ゲレちゃんがそう思ってるならいいやw」
桃太郎「かぁわいい///…ギュゥゥ」
シータ「ぐぼぁ…ギブ!…ギブ!」
桃太郎「あ、ごめん///」
粂八「それって、その師匠って、ゲレちゃんに昨日の力を与えた人とか?」
桃太郎「それはその師匠の友達だ」
粂八「どこに居なさるんでえ?」
桃太郎「今はもう居ない…」
粂八「居ないって…死んだのかい?」
桃太郎「いや…神様なんだよ…信じられないかもしれないけど」
粂八「いや…神様なら得心がいくよw…」
桃太郎「信じてくれるの?」
粂八「だって、昨日のあれ見たらさw…それにゲレちゃんがそんなくだらねぇ嘘つくはずねえ」
桃太郎「嬉しいなあw」
シータ「粂さん、やっぱり良い人だ」
粂八「そんなこたねえよw」
桃太郎「粂さんがさ、平蔵さんの下で働くようになった話を聞かせてよ」
粂八「じゃあまた釣りしながら話そうかね…」
釣り場
粂八「ところでおしたちゃんもゲレちゃんから聞いたのかい?…昨日の話」
シータ「聞きました!」
粂八「じゃあ『血頭の丹兵衛』おかしらはわかるね?」
シータ「うん」
粂八「オレはしばらくはそのおかしらの元でおつとめをしててね…そんでもいつかはやめる時がくる…おかしらは盗っ人稼業から足を洗ったんだ…それからオレはまた流れづとめに戻ってさ」
桃太郎「ほむほむ」
粂八「けど、盗っ人の三箇条を守ってるオレはなかなかおつとめの口が回らなくてね…で、この際、江戸でまっとうに生きてみるかって思いたって、なけなしの銭持って江戸に来たわけだ」
シータ「ほむほむ」
粂八「するとさ、噂で『血頭の丹兵衛』のおつとめが聞こえてきてね…それがなんと急ぎ働きをしてるって言うんだよ…そんでオレは頭にきてね…あのおかしらがそんなマネするわけねえってね…オレはその偽物をとっ捕まえてやるって1人で息巻いてさ…人々から話聞いたりして探してたんだ」
桃太郎「うん」
粂八「そしたらオレ、へまして、佐嶋さまにとっ捕っちまったんだな」
シータ「え!」
粂八「オレもそれなりに名の知れた盗賊だったからね…で、オレはそのおかしらを探してたところだって言ったら、長谷川様もそいつを探してたんだ…まあ、火盗改だしな」
桃太郎「うんうん」
粂八「で、長谷川様はどういうわけか、牢屋にいるオレに毎夜毎夜酒を持って会いに来てくださった…その頃は冬で、牢屋で震えてたオレにはありがたかった…酒も、長谷川様の優しさも…長谷川様にもその時、昨日ゲレちゃんに話した事を話したんだ」
シータ「ほむほむ」
粂八「今にして思うと、オレから少しでも手がかりを掴もうとしてたのかもしれねえ…けど、オレには長谷川様がそんな計算ずくだけで会いに来てるとは思えなかった…そう思うよりも、ずっとあったかかったからさ…オレはそれでお願いした…『ここから出してくれたら、必ず捕まえて戻ってきます』ってね…普通ならそんな申し出を聞くはずねえ」
桃太郎「うん…けど、平蔵さんだからなあ」
粂八「そうよ…オレは髪を綺麗にしてもらって、綺麗な着物を着せてもらって、金も頂いて…オレは長谷川様の為にも、なんとしてでも見つけだそうって…何日も聞き込みをして、ようやくおかしらの子分てやつを見つけてな」
シータ「おお!」
粂八「そんでオレはそいつに取り入って、仲間にしてくれるよう、おかしらに頼むように言ったんだ…そんで遊郭の部屋で待ってたら、なんとおかしらが直で来たんだ」
桃太郎「やっぱり別人だったの?」
粂八「いや…それが本物だったんだ…だからこそオレの名前聞いて来たんだ…オレは聞いた『最近の急ぎ働きの噂は本当なんですかい?』…そしたらおかしらは『そうだ…今のこのご時世、ちんたらおつとめなんてバカらしくてやってらんねえ』ってさ…オレは目の前が真っ暗になったよ…」
シータ「そんな…」
粂八「『おめえが仲間になるなら百人力だ…昔と違ってうるせえ事は言わねえ…女を犯したいなら犯してもかまわねえ…力を貸してくれ』ってさ…オレはとても信じられなかったけど…仲間になったんだ…そんでオレは『ちょっとオレの七つ道具を準備するから2日ほど待ってくれ』と頼んだらさ、盗っ人宿の場所をオレに言って、待ってるって…オレはそれから別れるとすぐに長谷川様の元へ向かった」
桃太郎「おお…」
粂八「そしたら長谷川様は『待ってたぞ、粂八』って…初めから信じてくれてた…そん時の優しい笑顔は忘れられねえ…」
シータ「うん…平蔵さんらしいね…」
粂八「それからすぐにその盗っ人宿に火付盗賊改が出張ってね…あっという間に捕り物が終わって…縄に縛られたその丹兵衛をオレは泣きながら蹴った…『偽物め!偽物め!』って何度もな…そしたら長谷川様はオレをいさめて、肩を抱いてくれた…その温かさといったら…グス」
桃太郎「うん…」
粂八「オレはもう心底長谷川様にはかなわねえと思って…2人で火付盗賊改に向かってる時にこう言った『オレの役に立ってくれねえか』ってね…オレは『狗になれと?』って返した…『狗は狗でも世の中に尽くす忠犬だ』って…けど盗っ人の世界じゃ狗ってのは蔑まされてたからさ…オレは返事に困って黙ってた」
シータ「うん…」
粂八「そしたら長谷川様は『ならねえならもう二度と江戸には足を踏み入れるなよ』って…あの優しい顔でオレを目こぼししようとしてくださった…それでオレはこのお方の為に命を賭けようって気になってさ…それで密偵になったってわけさ」
桃太郎「なるほど~!…いやあ、良い話だ」
シータ「うん!」
桃太郎「さすが平蔵さんだぜ」
粂八「ああw…オレはだから三回救われたんだ…一回目は本物の丹兵衛おかしら…二回目は長谷川様…三回目はゲレちゃんになw」
桃太郎「え?…いやあ///」
粂八「けどさ…ゲレちゃん…オレはゲレちゃんがその紋蔵たちを救うならそれでもいいと思うけど…変われる奴もいれば、変われねえ奴もいる…そいつをゲレちゃんは間違わないで見破れるかい?」
桃太郎「う…そう言われると自信ねえ…」
粂八「ならやっぱり長谷川様にお任せしようよ…ゲレちゃんは十分情けをかけたよ」
シータ「わたしもそれがいいと思う」
桃太郎「…うん…だな…そうする…オイラも人の生き死にの采配が出来るほど、生きてねえ」
粂八「ああ…その業を背負うにはまだ若すぎるよ…」
桃太郎「うん…オイラやっぱり粂さんに会いに来て良かったよ」
粂八「ゲレちゃんはかわいいねえw」
桃太郎「そうお?」
シータ「うんw」
それから魚を2匹釣ると、それは鯉ではなかった
その魚を持って、桃太郎とシータとボロンゴはまた火付盗賊改方に戻った
平蔵「そうか…粂八がそんな事をなw」
桃太郎「うん…だからオイラ、やっぱり平蔵さんにお任せする」
平蔵「そうか?…オレは桃の思ってる通りにするのが良いと思ってたが…」
桃太郎「そうなの?…なんでこんなオイラみたいな若造をそんなに信じるの?」
平蔵「信ずるに値すると思うからに決まってるじゃねえかw」
桃太郎「平蔵さん…グス」
平蔵「それにな…奴らの牢で言ってくれた…桃の覚悟が嬉しかったのだ…」
桃太郎「え?…へへ///」
平蔵「ではな…桃よ」
桃太郎「うん…」
平蔵「オレの見極めだと、伝助は救えない…紋蔵は百叩きだ…それを紋蔵が飲むなら、桃がやってやれ」
桃太郎「うん…わかった!」
平蔵「桃の百叩き…うう…ブルブル…たしかに死んだ方がマシだわw」
シータ「うふふふw…身体中の骨がバラバラになるでしょうねw」
桃太郎「と、途中で死んだらどうしよう」
平蔵「その前に治してやりゃいいじゃねえかw…寿命が縮むのもそいつの罰だ」
桃太郎「治してまでやるのかw…きっついなあ…もし、紋蔵が途中で耐えられなくて殺してって願ったら?」
平蔵「その時はオレが首をはねてやる」
桃太郎「やっぱすげえな…平蔵さんは…オイラまだまだ全然かなわねえ…」
平蔵「そういう役割ってだけのことよ」
桃太郎「損だな…」
平蔵「そうでもねえよw…オレはこういう事してるから、彦十にもおまさにも粂八にも…桃やシータにも会えたんだからなw」
桃太郎「へへ///」
シータ「平蔵さん///」
久栄「お待たせしました…お食事の用意出来ましたよw」
平蔵「おっ、きたきたw…おお!…めしに混ぜたのかえ?」
久栄「ええw…とのさまお好きでしょう?」
平蔵「こりゃたまんねえなw…ほら、桃とおしたも食え…久栄も」
桃太郎「うん!」
シータ「いただきますw」
久栄「おほほほw」
桃太郎「けど人生ってのはほんとにちょっとした事で変わるな…丹兵衛に救われてまっとうになった粂さん…人を救ったのに悪魔になっちまった丹兵衛…」
平蔵「そうよな…『うんぷてんぷ』というやつだ…人とは弱いものよ…」
桃太郎「うんぷてんぷ?」
平蔵「人の運不運は天命…天の定めということさ…ちょっとしたきっかけで良くも悪くも転がっちまう…」
桃太郎「天祐ってやつか…かもしれねえ…」
そうして楽しく夕食を食べて、山小屋へと戻っていった
伝助は死罪になり、紋蔵には百叩きと伝えたが、『あんな怪力に百回叩かれるのは耐えられねえ』と言って、結局紋蔵も死罪となったが、引き回しは免れ、打ち首で済んだ
桃太郎は数日後、お雪と吾郎を粂八のところへ連れて行き、舟を楽しませ、鯉料理も一緒に食べた
歳甲斐もなく、はしゃぐお雪がかわいらしいと粂八も思った
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる