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一心不乱
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「それにしても、お母さんも随分変な事を言うわねぇ…」
父は仕事が忙しいらしくまだ帰宅していなかったため、母と妹と3人で夕飯を食べた後、コルネリアは自室でため息を吐きながら独り言ちた。
最近出歩く時は、すっかりと貴族家の令嬢に相応しい言葉遣いや服装が板について来たコルネリアではあるが、独りの時や家族とだけで話す時まで堅苦しくは無い。
昼間に兄であるトールヴァルドから荷物が届いた時、母はコルネリアとユリアーネの荷物を指し、もしもの時に使える様に練習しろと言った。
コルネリアの記憶が間違いでなければ…だが。
兄からの荷物は、KODATIという、妙な反りのある片刃の剣。
美術品的な美しい艶のある鞘にそれは収められており、そっと抜いて光の魔道具の明かりの中で見れば、美しい刃紋が浮かんでいる。
幾度か王国の一般的な兵が持つような剣を見た事も持った事もあるが、この様な紋が浮かぶ刃物は見た事が無い。
刃の長さも片腕よりも短いが、刃に触ればスッパリと切れそうに見える。
そんなKODATIという片刃の剣を、母は普段から携行しろと言う。
剣を片手にしながら、またコルネリアは深くため息を吐いた。
この世界では、命の価値はそう重くない。
トールの前世では、人の命は星よりも重いという考えの国が多かった。
だが、この世界では、他人の財産や命を暴力でもって奪う輩は後を絶たない。
そして、コルネリアの父もそうだが、それを取り締まる側も、そんな輩の命を断つ事なに忌避感など無い。
無論この国の法も、殺人や放火に始まり、強盗・強姦だけでなく、場合によっては傷害や窃盗に詐欺などという、被害が大きくない犯罪であっても、捕縛時に生死が問われない場合も多々ある。
なので、コルネリアもいざとなったら相手の命を断つ事に、何の躊躇も無い。
可憐で大人しく知的な雰囲気のコルネリアではあるが、そこは結構ドライなのだ。
とは言え、コルネリアが出歩く先は、ほぼ王都の中。
しかも、それも住んでいる邸の周辺程度の事だ。
王城からコルネリアの住むアルテアン邸までの道程は、非常に綺麗に整備されており、また多くの兵士や衛士が常に巡回をしている地区なので、護衛付きで出歩く程度であれば、まず危険な目に合う事など無い。
さらに言えば、普段邸の中でそうではないが、出歩く時は必ずドレスを着ている。
ドレス姿の令嬢が、この様な武器をどうやって携行しろと言うのだろうか?
明らかに不似合いである。
そもそも、コルネリアが出歩く先は、付き合いのある貴族家のお茶会などに呼ばれた時ぐらいなものだ。
よしんばこの剣を手にしてお茶会に行ったとすると、相手方はどう思うだろう。
まさか、お茶会へと伺うまでの道のり危険が潜んでいるから…とでも言えば良いのだろうか。
あり得ない。
招待した令嬢が刃物を手にしてやって来る…想像しただけで眉根に皺が寄る。
そう言えば母に届いた荷物など、どう考えても持ち歩くには物々しいい槍だった。
まさか、エステや王城に行くときも、母はドレス姿であの長大な槍を手にして行くのだろうか? いや、あの母ならあり得るかもしれない…。
それでも、考えれば考える程に、普段遣いする様な代物ではない気がする。
そこまで考えたコルネリアは、そう言えば…と、母の言葉を思い出した。
確か、このKODATIという剣に関しての扱い方が同封されていると言っていた。
いそいそと剣が入っていた細長い箱の中を確かめると、中々に厚い手紙が入っているのを見つけたコルネリアは、手にしていた剣をそっと机に置いて手紙を広げた。
「なるほど、そういう事でしたか! お母さまが紛らわしい事を言うから、色々と考えちゃったわ。ふむふむ…さすがはお兄さまね、ここまで考えてたなんて! えっと…こう握って、こう構える? で、こうして振る…」
手紙に何と書いてあったのかは分からないが、コルネリアは何やら納得顔で、早速トールヴァルドからの手紙に書かれている通りに剣を振り始めた。
「こうして、こう! で、こう来たら、こう!」
先程までの悩みはどこへやら、コルネリアは一心不乱にトールからの手紙を見つつ、自室で一心不乱に剣を振るのであった。
父は仕事が忙しいらしくまだ帰宅していなかったため、母と妹と3人で夕飯を食べた後、コルネリアは自室でため息を吐きながら独り言ちた。
最近出歩く時は、すっかりと貴族家の令嬢に相応しい言葉遣いや服装が板について来たコルネリアではあるが、独りの時や家族とだけで話す時まで堅苦しくは無い。
昼間に兄であるトールヴァルドから荷物が届いた時、母はコルネリアとユリアーネの荷物を指し、もしもの時に使える様に練習しろと言った。
コルネリアの記憶が間違いでなければ…だが。
兄からの荷物は、KODATIという、妙な反りのある片刃の剣。
美術品的な美しい艶のある鞘にそれは収められており、そっと抜いて光の魔道具の明かりの中で見れば、美しい刃紋が浮かんでいる。
幾度か王国の一般的な兵が持つような剣を見た事も持った事もあるが、この様な紋が浮かぶ刃物は見た事が無い。
刃の長さも片腕よりも短いが、刃に触ればスッパリと切れそうに見える。
そんなKODATIという片刃の剣を、母は普段から携行しろと言う。
剣を片手にしながら、またコルネリアは深くため息を吐いた。
この世界では、命の価値はそう重くない。
トールの前世では、人の命は星よりも重いという考えの国が多かった。
だが、この世界では、他人の財産や命を暴力でもって奪う輩は後を絶たない。
そして、コルネリアの父もそうだが、それを取り締まる側も、そんな輩の命を断つ事なに忌避感など無い。
無論この国の法も、殺人や放火に始まり、強盗・強姦だけでなく、場合によっては傷害や窃盗に詐欺などという、被害が大きくない犯罪であっても、捕縛時に生死が問われない場合も多々ある。
なので、コルネリアもいざとなったら相手の命を断つ事に、何の躊躇も無い。
可憐で大人しく知的な雰囲気のコルネリアではあるが、そこは結構ドライなのだ。
とは言え、コルネリアが出歩く先は、ほぼ王都の中。
しかも、それも住んでいる邸の周辺程度の事だ。
王城からコルネリアの住むアルテアン邸までの道程は、非常に綺麗に整備されており、また多くの兵士や衛士が常に巡回をしている地区なので、護衛付きで出歩く程度であれば、まず危険な目に合う事など無い。
さらに言えば、普段邸の中でそうではないが、出歩く時は必ずドレスを着ている。
ドレス姿の令嬢が、この様な武器をどうやって携行しろと言うのだろうか?
明らかに不似合いである。
そもそも、コルネリアが出歩く先は、付き合いのある貴族家のお茶会などに呼ばれた時ぐらいなものだ。
よしんばこの剣を手にしてお茶会に行ったとすると、相手方はどう思うだろう。
まさか、お茶会へと伺うまでの道のり危険が潜んでいるから…とでも言えば良いのだろうか。
あり得ない。
招待した令嬢が刃物を手にしてやって来る…想像しただけで眉根に皺が寄る。
そう言えば母に届いた荷物など、どう考えても持ち歩くには物々しいい槍だった。
まさか、エステや王城に行くときも、母はドレス姿であの長大な槍を手にして行くのだろうか? いや、あの母ならあり得るかもしれない…。
それでも、考えれば考える程に、普段遣いする様な代物ではない気がする。
そこまで考えたコルネリアは、そう言えば…と、母の言葉を思い出した。
確か、このKODATIという剣に関しての扱い方が同封されていると言っていた。
いそいそと剣が入っていた細長い箱の中を確かめると、中々に厚い手紙が入っているのを見つけたコルネリアは、手にしていた剣をそっと机に置いて手紙を広げた。
「なるほど、そういう事でしたか! お母さまが紛らわしい事を言うから、色々と考えちゃったわ。ふむふむ…さすがはお兄さまね、ここまで考えてたなんて! えっと…こう握って、こう構える? で、こうして振る…」
手紙に何と書いてあったのかは分からないが、コルネリアは何やら納得顔で、早速トールヴァルドからの手紙に書かれている通りに剣を振り始めた。
「こうして、こう! で、こう来たら、こう!」
先程までの悩みはどこへやら、コルネリアは一心不乱にトールからの手紙を見つつ、自室で一心不乱に剣を振るのであった。
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