システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

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八極拳

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Day 5(前半)

 ひよこ達の鍛錬の最終日(いや、1週間の…だよ?)。
 本日のひよこさんは、今までのひよこ達とはちょっと雰囲気が違った。
「私は難しい事はわからん。だから、ストレートに行く」
 妙に男…いや、漢っぽいんだ。
「えっと、ストレートと言いますと、具体的には?」
 まさか、野球ではあるまいな?
「なに、簡単な事だ。君は空手道を極めんとしていると聞いている。だから、私とはただひたすらに組み手をしよう」

 組手。
 組手自体の歴史は古く、その名の由来は琉球空手に発すると言われている。
 読んで字のごとく、沖縄地方の古い方言で、手を組む…が語源らしい。
 よく乱取りと混同されがちだが、空手で相対して行う練習形式であり、予め決まった攻撃防御の手順に従って行われるのが約束組手であり、取り決めをせずに、自由に技を掛け合う自由組手、そして完全に勝敗を決する形で行う組手試合などがある。
 前述した乱取りとは、柔術や柔道などで行われる、空手でいう所の組手仕合だ。
 色々な空手の技を相対してゆっくり行ったり技を分解して行う、分解組手と言われる物もあるが、これは約束組手の1つとして考えられているので割愛する。
 また組手には対戦形式によって大きく2種類に分ける事が出来る。
 すなわち、伝統空手またはノンコンタクト系と、実践空手またはフルコンタクト系の2系統がそれだ。
 それぞれにルールがあり、どちらが優れているとか強い弱いという考えは諸説あるが、俺は即物的で肉体的な強さを求めるならフルコンタクト、精神的な修練を目的とするならばノンコンタクトでは無いかと考えている。
 フルコンタクトはパワーとスピードを重視するがため、そのピーク期は若く短い。
 対してノンコンタクトは、技の修練と精神面の成熟を重視するので、明確なピーク期は目に見えないが、比較的年齢に関係ない。
 俺は伝統派空手を習っていたので、どちらかと言うとノンコンタクト系の組手を主に行っていたが、有人がフルコンタクト空手をしていたので、たまに簡単な防具だけを身に付けて組手を行ったりもしていた。
 言い方は悪いが、フルコンタクト空手をしていた友人は、若い時こそ負け越していたが、年を追うごとに勝ち負けは均衡していき、最終的には負けなくなった事からして、フルコンタクト空手には、少々懐疑的である。
 いや、年取ってから殴り合いで勝てるって、自慢にもならんけど…。
 TVでお馴染の功夫映画…つまりは中国拳法や、日本でも古流の武術などの達人と呼ばれた人は、総じて年老いている事からしても、やはり武道は精神的な成熟の方に重きを置くのが正しいのではないかと、俺は考えている。

「とは言っても、私は空手を修めていない。私が修めたのは、北派八極拳だ」
「は、八極拳っすか!?」
 あ、あの憧れの拳〇の拳法か! 〇児、全巻持ってたよ!
「うむ。君に派閥を説明しても理解は出来ないと…「出来ます!」…そ、そうか?」
  漫画が擦り切れるまで読みこんだんだ、理解出来ないなどと言う事は無い!
「で、では、私は馬氏一門で八極拳を修めた。君が派閥を理解出来ると言うのであれば、これだけである程度は私の戦い方を理解できるのではないか?」
 むっふー、むっふー! そうですか、馬氏八極拳の方ですか!
 ええ、よーっくわかりますよ!
 馬氏といえば、近接戦闘特化型の八極拳に中距離での攻防を主体とする劈掛拳を取り入れたとされる八極拳の一派。
 直線的な打撃力を重視する実戦空手とはどうかは分からないが、多彩な技を持つ伝統派であれば、腕前次第では渡り合えるんじゃないだろうか?
 いや、ひよこは達人のはずだから、まず無理だろうとは思うけど…。
「奥方には悪いが、私の指導では彼と一対一での鍛錬が主となる。申し訳ないが横で見学をしていて欲しい」
「わ、わかりました」
 それまでずっと黙って俺の横に立っていたイネスが、本日初めて口を開いた。
「ま、私の技を見る事が出来るのであれば…ね」
 ひよこはそう言うと、不敵に笑った(表情は変わらないが)様に見えた。
 
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