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諸行無常
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ひよこAの提案は、実にシンプルだった。
毎朝の俺の鍛錬の時に、ひよこ達の中の誰かが必ずやってきて、俺に徹底的に指導をしてくれる…という物。
これにより、鍛錬の効率を上げ、覚醒への長い道のりを短縮しようという事らしいのだが、驚くべきことに、これに激しく反対をしたのが嫁ーずだ。
「絶対に反対です! いえ、鍛錬自体は構いません!」
「そ、その通りです! 毎日…という事に…反対なのです!」
「うむ、毎日は駄目だ。週に5日にすべきだ!」
マチルダ、ミレーラ、イネスが口々に異を唱える。
「ふむ…? お主等も、こ奴にさっさと覚醒して欲しいと思っておったのでは無かったかや? 妾はその様な事をお主等から聞いた記憶があるのじゃが?」
嫁ーずがギャンギャン騒ぐ中、妙に落ち着き払ったボーディが声を発した。
「いえ、仰っている事に間違いはございませんよ?」
「はい…覚醒して欲しい…です…」
「問題は毎日という部分だけだ!」
またもや、マチルダ、ミレーラ、イネスが順に意見を述べる。
「覚醒はして欲しいが、毎日は駄目じゃと? では、毎日で鳴ければ良いと?」
嫁ーずの言葉の真意が分からず、ボーディも少々困惑気味だ。
だけど、俺には嫁ーずの言っている言葉の意味がわかる。
あれだよな、夜のお勤めと言う名の、俺から搾り取る日の事だろ?
その日は避けろって意味だろ?
「毎日じゃ無ければ、全然オッケーです!」
「ええ…あの日を…ちゃんと考慮して頂けたら…」
「妊活は何よりも優先されるべきだからな!」
マチルダさんや…全然なんですか? ミレーラさんも…やっぱそうなんですね? イネス…お前はストレートすぎんだろーが!
「ふむ、よかろう。では、その辺のスケジュールは奥方殿達と協議するとしようか」
俺の意見は聞いてくれないの…? 聞く必要ない? 強制? あ、そうですか。
かくして、俺の覚醒計画は、ボーディ、ひよこ達、嫁ーずの協議によって、スケジュールが決められる事となったのでした。
「ところで一つ確認なのだが…」
俺を完全に無視…爪弾き…除け者…にして、ゴニョゴニョと話し合っていた輪から、イネスの声が聞こえて来た。
「何かや?」
ボーディが促すと、イネスが言葉を続けた。
「私もトールさまと一緒に鍛錬している事が多いのだが、ひよこ殿達が指導する場では遠慮した方が良いのだろうか?」
それを聞き、
「別に問題は無いぞよ? それでお主が覚醒する事も無いからのぉ」
『へっ?』
この辺時には俺とイネスの間抜けな声が重なった。
「は? 何を呆けておる。そんな事は当たり前じゃろうが。多少の指導があった所で、道の何たるかを真に理解出来てもおらぬ者が、覚醒などするわけ無かろう?」
道の何たるか?
「そうじゃのぉ…、奥方は有為解脱と無為解脱を理解出来るかや?」
「うい? むい?」
有為と無為が理解出来ずに、妙に可愛らしい声を出して首を捻るイネス。
まあ、俺も意味など分からん…分からんが、何だかどこかで聞きた事もある様な無い様な…何と言うんだろうか、気障ったらしく表現するなら、魂に刻まれてた感じ?
「簡単に説明すると、覚醒…つまり、解脱するには道が2通りある。現世に生まれ出でては消えてゆき、常にその有様を変化し移り行く物を、ありのまま受け入れる事による道と、その反対に遠き昔よりその様態を変える事無くあり続ける物を廃する道。相反するこの2本の道を、この世界に生きるお主等の宗教観や世界観では理解する事は困難なのじゃ。じゃから、同席した所で奥方が覚醒したりする事などはあり得ん」
ボーディさん、俺も話している内容は理解できませんけど?
あれ? でも…何か似た様な内容の事を聞いた気が…?
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす…だったかな?」
俺がぽつりと呟いた言葉は、決して大きな声では無かったが、
「流石じゃな。諸行無常…それも有為を現す言葉の1つじゃ」
『おぉーーー!』
ボーディが俺の呟きを拾い…って、全員聞いてたの?
ってか、何でそんな俺を尊敬するような目で見てるの?
え、もしかしてこれってもの凄い意味が隠された言葉だったん!?
「その分じゃと、もうお主の覚醒は、随分と早そうじゃのぉ」
腕組みをしながらうんうんと頷くボーディは、そういって口の端を微かに吊り上げると、
「では、奥方殿達と協議した様に予定を組もうかのぉ」
そう言って、ひよこ達を含めた全員で邸の中に消えて行った。
いや、ひよこめっちゃ居たじゃん!
全員で落ち着いて話せる場所なんて…あ、食堂があったわ…。
毎朝の俺の鍛錬の時に、ひよこ達の中の誰かが必ずやってきて、俺に徹底的に指導をしてくれる…という物。
これにより、鍛錬の効率を上げ、覚醒への長い道のりを短縮しようという事らしいのだが、驚くべきことに、これに激しく反対をしたのが嫁ーずだ。
「絶対に反対です! いえ、鍛錬自体は構いません!」
「そ、その通りです! 毎日…という事に…反対なのです!」
「うむ、毎日は駄目だ。週に5日にすべきだ!」
マチルダ、ミレーラ、イネスが口々に異を唱える。
「ふむ…? お主等も、こ奴にさっさと覚醒して欲しいと思っておったのでは無かったかや? 妾はその様な事をお主等から聞いた記憶があるのじゃが?」
嫁ーずがギャンギャン騒ぐ中、妙に落ち着き払ったボーディが声を発した。
「いえ、仰っている事に間違いはございませんよ?」
「はい…覚醒して欲しい…です…」
「問題は毎日という部分だけだ!」
またもや、マチルダ、ミレーラ、イネスが順に意見を述べる。
「覚醒はして欲しいが、毎日は駄目じゃと? では、毎日で鳴ければ良いと?」
嫁ーずの言葉の真意が分からず、ボーディも少々困惑気味だ。
だけど、俺には嫁ーずの言っている言葉の意味がわかる。
あれだよな、夜のお勤めと言う名の、俺から搾り取る日の事だろ?
その日は避けろって意味だろ?
「毎日じゃ無ければ、全然オッケーです!」
「ええ…あの日を…ちゃんと考慮して頂けたら…」
「妊活は何よりも優先されるべきだからな!」
マチルダさんや…全然なんですか? ミレーラさんも…やっぱそうなんですね? イネス…お前はストレートすぎんだろーが!
「ふむ、よかろう。では、その辺のスケジュールは奥方殿達と協議するとしようか」
俺の意見は聞いてくれないの…? 聞く必要ない? 強制? あ、そうですか。
かくして、俺の覚醒計画は、ボーディ、ひよこ達、嫁ーずの協議によって、スケジュールが決められる事となったのでした。
「ところで一つ確認なのだが…」
俺を完全に無視…爪弾き…除け者…にして、ゴニョゴニョと話し合っていた輪から、イネスの声が聞こえて来た。
「何かや?」
ボーディが促すと、イネスが言葉を続けた。
「私もトールさまと一緒に鍛錬している事が多いのだが、ひよこ殿達が指導する場では遠慮した方が良いのだろうか?」
それを聞き、
「別に問題は無いぞよ? それでお主が覚醒する事も無いからのぉ」
『へっ?』
この辺時には俺とイネスの間抜けな声が重なった。
「は? 何を呆けておる。そんな事は当たり前じゃろうが。多少の指導があった所で、道の何たるかを真に理解出来てもおらぬ者が、覚醒などするわけ無かろう?」
道の何たるか?
「そうじゃのぉ…、奥方は有為解脱と無為解脱を理解出来るかや?」
「うい? むい?」
有為と無為が理解出来ずに、妙に可愛らしい声を出して首を捻るイネス。
まあ、俺も意味など分からん…分からんが、何だかどこかで聞きた事もある様な無い様な…何と言うんだろうか、気障ったらしく表現するなら、魂に刻まれてた感じ?
「簡単に説明すると、覚醒…つまり、解脱するには道が2通りある。現世に生まれ出でては消えてゆき、常にその有様を変化し移り行く物を、ありのまま受け入れる事による道と、その反対に遠き昔よりその様態を変える事無くあり続ける物を廃する道。相反するこの2本の道を、この世界に生きるお主等の宗教観や世界観では理解する事は困難なのじゃ。じゃから、同席した所で奥方が覚醒したりする事などはあり得ん」
ボーディさん、俺も話している内容は理解できませんけど?
あれ? でも…何か似た様な内容の事を聞いた気が…?
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす…だったかな?」
俺がぽつりと呟いた言葉は、決して大きな声では無かったが、
「流石じゃな。諸行無常…それも有為を現す言葉の1つじゃ」
『おぉーーー!』
ボーディが俺の呟きを拾い…って、全員聞いてたの?
ってか、何でそんな俺を尊敬するような目で見てるの?
え、もしかしてこれってもの凄い意味が隠された言葉だったん!?
「その分じゃと、もうお主の覚醒は、随分と早そうじゃのぉ」
腕組みをしながらうんうんと頷くボーディは、そういって口の端を微かに吊り上げると、
「では、奥方殿達と協議した様に予定を組もうかのぉ」
そう言って、ひよこ達を含めた全員で邸の中に消えて行った。
いや、ひよこめっちゃ居たじゃん!
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