システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

番外）ある猫の記憶3

　ある日、突然お父さんが家かに帰って来なくなった。
　お父さん、どこ行ったの？　ねえ、どこ行ったの？
　一生懸命にお父さんを呼んだけど、来てくれるのは他のお父さんとお母さん。
　もしかして、私…捨てられちゃったの？
　お父さん、会いたいよ…いっぱい撫でてほしいよ…。

　その頃から、あんなに食べていたご飯を私は食べなくなった。

　だんだん、身体に力が入らなくなってきた。
　もう、ほとんど私の寝床から動く事も無くなった。
　まだ何にも知らなかった時みたいに、私はお父さんに捨てられちゃったのかなぁ。
　悲しくて寂しくて辛くて、もう目を開けるのもしんどかった。
　お父さんに会えないんだったら、もう私なんてどうなったっていいや…。

『…は…大丈夫…なの…』
　ずっと寝てたからかな？
　お父さんの声がどこか遠くで聞こえた気がするけど、きっと夢だろう。
　だって、もうずっとお父さんと会えてないんだもん。
　でも、顔も声も匂いも、ちゃんと覚えてるよ。
『プッちゃん…』
　そう、こうやって私の名前を呼んで撫でてくれ…て？
『プッちゃん、大丈夫か？　すぐに病院に行こう！』
　え、本当？　お父さん？　え、帰って来てくれたの？　本当に！？
　あ、でも…動けない…。
　頑張って目を開けてみると、会いたかったお父さんの顔が目の前に…。
『…はエンジンかけといて！　さぁ、プッちゃん、もうちょっと頑張れ！』
　懐かしい匂いに包まれて、私はお父さんに抱き上げられたんだと思う。
　身体は動かないけど、せめて一言だけでも返事をしなくっちゃ…。
「にゃ…にゃぁ…」
　そして私はを閉じた。

『かなり酷い栄養失調ですね。取りあえず、今夜は点滴をして様子を見ますが、一体何があったんですか？』
『何が…とは？』
『いえ、動物は、急激な環境変化でストレスに見舞われる事がしばしばあります。そんな時、拒食や過食、性格の豹変が起こったりしますので、確認です』
『……。もしかして、私が結婚して実家を出たからでしょうか？』
『なるほど。この猫ちゃんは、貴方に一番懐いていた。違いますか？』
『はい、そうです…ね』
『それがストレスの原因かもしれません。貴方の新居で猫ちゃんを飼えるなら、連れて行ってあげた方が良いかも知れませんね。きっとこの猫ちゃんには、環境うんぬんよりも、貴方の存在の有無の方がストレスになる様ですから』
『…妻ともよく相談してみます』

　何だかぼんやりとだけど、お父さんと誰かが話している声が聞こえる。
　でも、今はお父さんの所に行こうとしても、全然動けない。
　嫌な臭いの所だったはずなのに、何だか安心できちゃう。
　お父さんの匂いがだんだん遠くに離れて行っちゃうけど、何故だかまたすぐに会える気がした。
　だから、今はじっとここで待ってるよ。
　お父さんが来てくれるのを。

　嫌な臭いの所で、私はじっとお父さんが来るのを待った。
　きっとすぐに来てｋれるって、何故だか信じれたから。
　何だか味気ないご飯も、少しずつ食べれるようになってきた。
　お膝に飛び乗って、いっぱい撫でてもらう為にも、ご飯を食べなくちゃ。
　真っ暗になって明るくなって、また真っ暗になって明るくなって…。
　何回かそんな事があったあと、お父さんが来てくれた！
『プッちゃん。家が変わるけど、俺と一緒に行くかい？』
　もちろん、返事は「にゃぁ！」に決まってる！

　新しいお家には、お父さんと新しいお母さんが居た。
　新しいお母さんは、とっても私に良くしてくれた。
　優しく撫ぜてくれるし、ご飯もおいしかった。
　たまにお父さんが帰ってこない時もあったけど、それでも新しいお母さんと一緒に待ってるのは、そんなに辛くなかった。