システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

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影の不文律

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 この世には、知識や科学では到底解明できない不思議な現象が多々ある。
 それが人生でたった1回きりの体験であれば、それは奇跡かも知れない。
 全世界でたった1人しか体験していない出来事であれば、それは妄想か空想、もしくは虚言かも知れない。
 しかし、多くの人々が同時に不思議な体験をしたとしたら、それは何と呼べばよいのだろう。

 この星の全ての人々…正確には、その時に空を見上げた人々は、その不思議な現象を体験した。
 空より青い巨大な何かが空に突如として現れたのだがら、地下や屋内に居た者以外は空を見上げたはずだ。
 神の怒りだと祈りを奉げる者が居た。
 空が落ちて来ると慌ふためき騒ぐ者達が居た。
 幻覚を見ていると、自分は気が狂ってしまったと嘆く者が居た。
 それが何なのか分からないからこそ、多くの憶測や虚言が飛び交い、大陸のあちらこちらでパニックが起きていた。
 
 そんな騒動の最中、アルテアン家のゴッド母ちゃんは、ずんずんと王宮の廊下を脇目もふらず突き進んでいた。
 無論、右手で旦那であるヴァルナル侯爵を引きずったまま…。
 ウルリーカの前方と左右を天鬼族の3人娘が姿を消して、後方はナディアが同じく姿を消して護衛として歩く。
 謁見の間に続く豪華な大扉を前まで辿り着いたウルリーカは、小さく顎をしゃくり、前に立つアーデに開ける様に指示した。
 緊急事態である事を十分に理解しているアーデは、姿を消したまま小さく頷くと、いきなり両手でその大きな扉を開け放った。
 マナーを考慮するのであれば、少なくともノックと入室の許可を得るのが普通ではあるが、ゴッド母ちゃんが開けろと言ったら開けなければならない。
 決して目が座った時のゴッド母ちゃんに逆らってはいけないのである。
 
 開け放たれた扉の先には、すでに大勢の文官や武官が王座の前に集い、唾を飛ばさんばかりに大声で言い争っていた。
 その内容は、先にも述べた様に神の怒りだの空が落ちるだのと言った、事実と葉大きく違う内容で、ウルリーカにとってはどうでも良い話であり、はっきり言って時間の無駄であった。
 そんな喧々諤々の最中の文官や武官の喧騒など完全に無視したウルリーカは、旦那をぽいっと投げ捨てると、謁見の間に敷かれた豪華な赤い毛足の長い絨毯のど真ん中をズンズンと一直線に突き進んだ。
 一段高い所に置かれた玉座に座る国王陛下その人に向かって。
 並み居る文官や武官など一顧だにせず、ただただ真っすぐに突き進むその姿に、自然と左右に別れたとも言う。

 この城で働くこの文官や武官達は、彼女の顔を知っていたし、その武勇も目の当たりにしていたのだから当然かもしれない。
 先の大戦で、侯爵夫人という立場でありながら、女神ネスより賜った神具(ウルスラグナ)に乗り込み、喜々として敵陣に突っ込んで行った事は、特に有名である。
  最近では、女神様から新たな鎧を夫婦揃って賜ったとも聞き及んでいる。
 その肝心の旦那は、入り口付近でボロ雑巾の様になっているが…そこは綺麗さっぱり見なかった事になった様だ。
 目の座った侯爵夫人の前に立ってはいけない。
 これがこの国に勤める者達にとっての影の不文律である事は、彼女には秘密だ。
 そんな事が彼女の耳にはいれば…きっとこの王国はその日の内に消滅する…かもしれない。


 威風堂々と玉座の前へと歩み至ったウルリーカは、その姿を前に呆気にとられ何も言い出せない玉座のサンデル・ラ・グーダイドに向かって、何の前置きも無く実に平坦な声で外の現象について話を始めた。
「陛下。女神ネス様の眷属たる我が息子トールヴァルドより、あの空に浮かぶ巨大な物体は、とある星の幻想だと啓示があったそうです。この場だけでなく、多くの国民がパニックになっている現状、それらをいち早く解決するためにも、陛下がこの事実を広く早く国民に知らしめて落ち着かせなければならないと愚考いたしましたので、こうしてお目通りさせて頂きました」
 お目通りも何も、何の前置きも無く勝手に突き進んで来たのはお前だろ…などと言い出す輩はどこにも居ない。
 怒らせたら怖いからね…この女傑は…。
「う、え? 女神ネス様のお言葉? それは確かなのかや!?」
 いきなり、あれは幻だっと言われたところで普通は信用などしないが、事は女神ネス様のお言葉だ。
「ええ、確かに…間違いなく、幻だとの事です」
 表情筋の一筋も動かさず、冷静に淡々と告げるウルリーカ。
 あまりの女傑の落ち着きっぷりに、場に集う面々も徐々に落ち着きを取り戻した。
「アルテアン伯爵が言うのであれば間違いはないのぉ…。あいわかった! 皆の衆、急ぎ国中に触れをだすのじゃ!」
 国王陛下が緊張した声でそう指示を出すや否や、慌ただしくも一斉に動き始める文官、武官の面々であった。 
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