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ビッグニュース
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それは、ある日の夕刻前に起こった。
高い透明度を誇るネス湖の湖畔には、それはそれは美しい舘が建っており、その館はこの地の領主であるトールヴァルド伯爵の邸宅である。
観光地としていつも賑やかな温泉街や、湖に眠る女神ネスへの参拝のお堂、近くにある結婚式場などから少し外れた場所にその館は建っており、普段は非常に静かなその館にビッグニュースが飛び込んできた。
「な、なんだってーーー! 男の子が生まれただとーーーー!?」
その知らせを聞いたトールヴァルド伯爵は、机を両手で叩き椅子から飛び上がった。
目の前の書類の山がバラバラと崩れるのも無視したその姿に、知らせを持ってきたマチルダも思わず後退る程の勢いだ。
「は、はい。間違いなく男の子が生まれました」
マチルダが、間違いありませんと小さく頷きつつそう答えると、
「お…おお…おおぉぉ…奇跡だーーーーーーーーーー!」
トールヴァルドは、書類を蹴り飛ばして、執務机の上に飛び乗ってガッツポーズをして喜んだ。
この世界の生命現象は、とても不思議だ。
特に遺伝子的な物に関しては、この世界では解明できない程に謎な部分が多い。
その不思議の1つとして非常に有名なのが、異種間での交配が行われた時、ほぼ確実に母親側の遺伝子の形質を引き継いで生まれる…という物がある。
同種族間では、その様な事は起きないのだが、何故かい種族間での交配に限って、ほぼ確実に母親側の…まるでクローンの様な子供が産まれてくるのだ。
なので、どこぞのお下劣な漫画や小説の様な、オークやゴブリンが種族を増やすために攫って来た姫騎士とかを孕ませたりする、『くっ…殺せ!』的な展開になったりはしない。
そんな事をしても、絶対に種族が増える事は無いのだから。
まあ、そもそも人間の女性を攫ってきて、オークやゴブリンが孕ませる…つまりは異種族間の交配が行われたというのに、何故ハーフにならないのかの説明がどこにも描かれたりしていないのも、ある意味不思議といえば不思議だが…。
それはさておき、この星では、輪廻転生管理局の局長が、地球という星を参考にして創造した実験星。
完全なコピーとしなかったのは、それでは文化や文明的に同じ未来にしかならないと考えた結果、ファンタジー物に出てくるような人とは異なる人に準拠した種族も配置したそうだ
そのおかげでこの星には、人、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族、人魚などが存在し、言語は違えども全種族が頭の中で自動的に自分の言語に置き換わる、簡単に言えば自動翻訳という機能を生まれもって備わっている。
しかしそんな星の生命体が異種交配をしてしまうと、世界が荒廃してしまうのは目に見えている…『こうはい』だけに…。
一方が他種族の女性を攫おうとする種族が現れれば、確実に他方はそれを廃絶しようと動くだろう。
考えてみて欲しい。
例えば人とゴブリンで考えればわかりやすいだろう。
ゴブリンが人の女性を攫うとしよう。
人は救出と報復のためにゴブリンを根絶やしにしようとするだろう。
ゴブリンは自然の摂理に沿った繁殖行動をしているにすぎないが、言葉が通じない相手なのだがら、コミュニケーションなど取れない故、攫うと言う手段に出るしか無いわけだ。
それを、人は仕方がない事だと納得するだろうか? する筈がない。
そうなれば戦うしかない…それもゴブリンを根絶やしにするまで…。
こうなってしまうと、世界が荒んで行く未来しか見えない。
なので、局長はこの星を創り出す時、異種族間の交配が無意味なものとなる様に考えたのだ。
出来ないとは言わない…言葉が通じる種族であれば、恋愛感情が生まれるかもしれないから。
だが、繁殖に関しては、それが起きないように遺伝子的に工夫をしたのだ。
結果として、い種族間での交配においては、ほぼ確実に母親側の遺伝子の形質を引き継いで生まれる様になったのである。
そう…ほぼ確実に…確率的には、99.999%…である。
「マジか、マジか!? 人魚さんに男の子が生まれったのかーーー!?」
なんと、この0.001%の確率の壁を突破した強者が生れたのである!
「ええ。人魚族といえば、女性しか居ない種族と聞いていましたので、私も驚いております」
あまりにもトールが派手に喜びすぎたからか、意外とマチルダは落ち着いている様だ。
「うんうん、確かに確かに! 俺も人魚さんと言えば女しか生まれない種族だと思ってたよ!」
人魚は繁殖欲が非常に強いが、男性が居ない為、多種族の子種を貰う事が当たり前となっていた。
子種を進んでくれる男性がいない場合は…攫ったらしい…異世界は『くっ…殺せ!』が男女逆転だったりする。
いや、きっと男性はそんな事を言ったりしないだろう…多分…とことん搾り取られるかもしれないけど…俺と似てるかも…。
「これはかなり目出度い事だぞ? そうだ、何か出産祝いを贈らないといけないな? 何がいいだろうか?」
俺が知る限り、初の男の人魚さんだぞ? 目出度いなんてもんじゃない!
「トールさま、ちょっと落ち着いてください」
「これが落ち着いてなんて居られようか!?」
食料? 服とか、生活物資?
「そっか…何が欲しいか聞けばいいじゃん! 俺ってなーいす!」
俺がそう言うと、マチルダは酷く冷めた目で俺を見つめて一言。
「きっと、だったらまた大お見合い大会をしろと言うでしょうね…周囲の人魚さんが…間違いなく」
「…あっ!」
高い透明度を誇るネス湖の湖畔には、それはそれは美しい舘が建っており、その館はこの地の領主であるトールヴァルド伯爵の邸宅である。
観光地としていつも賑やかな温泉街や、湖に眠る女神ネスへの参拝のお堂、近くにある結婚式場などから少し外れた場所にその館は建っており、普段は非常に静かなその館にビッグニュースが飛び込んできた。
「な、なんだってーーー! 男の子が生まれただとーーーー!?」
その知らせを聞いたトールヴァルド伯爵は、机を両手で叩き椅子から飛び上がった。
目の前の書類の山がバラバラと崩れるのも無視したその姿に、知らせを持ってきたマチルダも思わず後退る程の勢いだ。
「は、はい。間違いなく男の子が生まれました」
マチルダが、間違いありませんと小さく頷きつつそう答えると、
「お…おお…おおぉぉ…奇跡だーーーーーーーーーー!」
トールヴァルドは、書類を蹴り飛ばして、執務机の上に飛び乗ってガッツポーズをして喜んだ。
この世界の生命現象は、とても不思議だ。
特に遺伝子的な物に関しては、この世界では解明できない程に謎な部分が多い。
その不思議の1つとして非常に有名なのが、異種間での交配が行われた時、ほぼ確実に母親側の遺伝子の形質を引き継いで生まれる…という物がある。
同種族間では、その様な事は起きないのだが、何故かい種族間での交配に限って、ほぼ確実に母親側の…まるでクローンの様な子供が産まれてくるのだ。
なので、どこぞのお下劣な漫画や小説の様な、オークやゴブリンが種族を増やすために攫って来た姫騎士とかを孕ませたりする、『くっ…殺せ!』的な展開になったりはしない。
そんな事をしても、絶対に種族が増える事は無いのだから。
まあ、そもそも人間の女性を攫ってきて、オークやゴブリンが孕ませる…つまりは異種族間の交配が行われたというのに、何故ハーフにならないのかの説明がどこにも描かれたりしていないのも、ある意味不思議といえば不思議だが…。
それはさておき、この星では、輪廻転生管理局の局長が、地球という星を参考にして創造した実験星。
完全なコピーとしなかったのは、それでは文化や文明的に同じ未来にしかならないと考えた結果、ファンタジー物に出てくるような人とは異なる人に準拠した種族も配置したそうだ
そのおかげでこの星には、人、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族、人魚などが存在し、言語は違えども全種族が頭の中で自動的に自分の言語に置き換わる、簡単に言えば自動翻訳という機能を生まれもって備わっている。
しかしそんな星の生命体が異種交配をしてしまうと、世界が荒廃してしまうのは目に見えている…『こうはい』だけに…。
一方が他種族の女性を攫おうとする種族が現れれば、確実に他方はそれを廃絶しようと動くだろう。
考えてみて欲しい。
例えば人とゴブリンで考えればわかりやすいだろう。
ゴブリンが人の女性を攫うとしよう。
人は救出と報復のためにゴブリンを根絶やしにしようとするだろう。
ゴブリンは自然の摂理に沿った繁殖行動をしているにすぎないが、言葉が通じない相手なのだがら、コミュニケーションなど取れない故、攫うと言う手段に出るしか無いわけだ。
それを、人は仕方がない事だと納得するだろうか? する筈がない。
そうなれば戦うしかない…それもゴブリンを根絶やしにするまで…。
こうなってしまうと、世界が荒んで行く未来しか見えない。
なので、局長はこの星を創り出す時、異種族間の交配が無意味なものとなる様に考えたのだ。
出来ないとは言わない…言葉が通じる種族であれば、恋愛感情が生まれるかもしれないから。
だが、繁殖に関しては、それが起きないように遺伝子的に工夫をしたのだ。
結果として、い種族間での交配においては、ほぼ確実に母親側の遺伝子の形質を引き継いで生まれる様になったのである。
そう…ほぼ確実に…確率的には、99.999%…である。
「マジか、マジか!? 人魚さんに男の子が生まれったのかーーー!?」
なんと、この0.001%の確率の壁を突破した強者が生れたのである!
「ええ。人魚族といえば、女性しか居ない種族と聞いていましたので、私も驚いております」
あまりにもトールが派手に喜びすぎたからか、意外とマチルダは落ち着いている様だ。
「うんうん、確かに確かに! 俺も人魚さんと言えば女しか生まれない種族だと思ってたよ!」
人魚は繁殖欲が非常に強いが、男性が居ない為、多種族の子種を貰う事が当たり前となっていた。
子種を進んでくれる男性がいない場合は…攫ったらしい…異世界は『くっ…殺せ!』が男女逆転だったりする。
いや、きっと男性はそんな事を言ったりしないだろう…多分…とことん搾り取られるかもしれないけど…俺と似てるかも…。
「これはかなり目出度い事だぞ? そうだ、何か出産祝いを贈らないといけないな? 何がいいだろうか?」
俺が知る限り、初の男の人魚さんだぞ? 目出度いなんてもんじゃない!
「トールさま、ちょっと落ち着いてください」
「これが落ち着いてなんて居られようか!?」
食料? 服とか、生活物資?
「そっか…何が欲しいか聞けばいいじゃん! 俺ってなーいす!」
俺がそう言うと、マチルダは酷く冷めた目で俺を見つめて一言。
「きっと、だったらまた大お見合い大会をしろと言うでしょうね…周囲の人魚さんが…間違いなく」
「…あっ!」
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