システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

仕組まれた事

「ええっと…つまり２人は、トールさまの記憶に欠落がある…っと言いたいんですか？」
「「そう」」
　嫁ーずによる緊急会議でミヤとヒナに話を聞いた結果、初めて公にされたトールヴァルドの前世の記憶の欠落。
　それを知った者達…つまりは嫁ーずだが、その事実に愕然とした。

「トールさまは…前世でのご両親のお名前もお顔も…」
「そんな…大切な記憶が消えてるなんて…」
　ミルシェとミレーラのその両眼には、すでに溢れんばかりに涙が溜まっていた。
「何でそんな事に…」
　マチルダは、その奇妙な欠落の仕方に呆然とし、
「これは…もしかして誰かの陰謀か？」
　イネスは…意外と言っては失礼かもしれないが、図らずもそれに関して正解近くまで辿り着いていた。
「そう…。トールさまは、そんなお辛い記憶を、この世に生まれてからずっと抱えて…」
　メリルはトールの気持ちを慮って…いたのだが、別にトールは辛いなど思った事は無かったはず…多分…。
　ミヤとヒナの言葉によって、この場の全員の気持ちは暗く沈んでしまった。

　そんな真っ暗な雰囲気をぶち壊すのは、やっぱり空気を読まないミヤとヒナ。
「それだけじゃない」「他の人生の記憶もある」
　嫁ーずのそれぞれがトールの前世に関して暗く沈んでいる所に、さらなる爆弾を投下した。
『えっ！？』
　嫁ーずが白黒姉妹の言葉に驚くのも当然だろう。
「ちょっと、それはどう言う事なんですか！？」
　別に代表して質問したわけでは無いだろうが、ミヤとヒナにマチルダが声を掛けた。
「複数の前世の記憶がある」「そのどれもで同じ現象が起きている」
　ミヤとヒナはそう淡々と答えるが、聞いている嫁ーずの頭の中は大混乱となったが、室内は耳が痛くなるほど沈黙が襲った。
　そんな嫁ーずを、ただじっと黙って見つめ続けるミヤとヒナであった。
　
　どれ程の時間が経っただろうか？
　そんな沈黙を破ったのは、深く呼吸をする音だった。
「すーーはーー、すーーはーー、すーーはーー、すーーーーはーーーー……………」
　大きく深呼吸したのは、嫁ーず筆頭のメリル。
　肺いっぱいに酸素を取り込み、身体中にそれを巡らせると、何とかやっと心を落ち着ける事が出来た。　
　酸素が十分に行き渡った頭で、先程ミヤとヒナの言葉を何度も反芻してじっくりと考える。

　複数の前世の記憶…それは、過去に何度も転生したという事なのだろうか？
　しかも、その記憶の全てで、大事な人の名前や顔の記憶が欠落しているという。
　転生と言う事自体、トール自身の口から聞くまで知らなかった。
　王国の古くからある書物にも、そんな奇跡の様な現象は記されていない。
　トールの言葉によると、この世界のほぼ全ての命という物は、何度も転生を繰り返しているという。
　だが、ほとんどの転生の場合において、前世での記憶は綺麗さっぱりと消されると言う。
　これは輪廻転生システムという物によって、そうなる様にされているらしい。
　トールヴァルドの場合は例外的に前世の記憶を有したまま転生し、ユズキとユズカの場合は他の世界からこの世界に転移してきたそうだが、これはどちらもかなりレアな事だと言う。
　ここでメリルは、トールやユズユズ夫婦が考えなかったとこまで深く考えた。
　前世の記憶を保有したまま転生した事がレアならば、転移して来た事もレア。
　しかも転移の方は、２人が同時に転移して来たので、そのレア度でいえば転生以上かもしれない。
　更に驚くべきことに、トールには他の人生の記憶まであるという。
　止めに、そのレアな状況がこの時代のこの世界で同時に起きた…。
　レアと言えば、結構稀な事象…程度に聞こえるが、この状況はそんな一言では言い表せない程に、奇跡に奇跡が何十倍も掛け合わされた様な状況では無いだろうか？
　以前トールから聞いた事のある、この世界の本当の敵である輪廻転生管理局の局長という、超常の存在が故意に起こしたことなのじゃ無いだろうか？
　確かに奇跡の様な出来事もあるかも知れない…今の状況の内の１つ程度であれば。
　だが、ここまでレアな事態が重なると、それはもはやレアだの奇跡などではなく、必然なのではないだろうか？
　いや、仕組まれた事と考えなければ、説明がつかない。

　ここまで考えをまとめたメリルがゆっくりと顔を上げると、どうやら同じ結論に達したらしいマチルダと目が合った。
　何も２人は言葉を交わしたわけでは無いのだが、何故か共に同時に頷いた。
　そしてメリルが口を開いた。
「これは明らかに誰かの手による仕業ですわね」
　それに続きマチルダが、
「そしてその誰かとは、輪廻転生局の局長…」

　トールの嫁ーずは、決して馬鹿ではない。
　いや、むしろ前世の知識を持つトールと深くかかわって来た事で、多少なりともその影響を受けていたため、この世界ではかなり頭が良いと言える。
　だからだろうか、２人の言葉を聞いた残る３人の嫁ーずは、一瞬で２人の言いたい事やその結果に何を導き出しかという事まで瞬時に理解出来た。
「「そうだと思う」」
　そして、ミヤとヒナが２人の言葉に即座に同意をしたのだった。