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番外)内密のお話はこそこそと 2
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誰もが欲しがる、ビューティーサロン・ウルの、超VIP会員証は、他の一般会員省都は一線を画する。
他の一般会員が持つ会員証は、その利用頻度などに応じて、紙、銅、銀、金で造られたカード型だ。
皆、金色の会員証を目指して、せっせとこのサロンに通いつめ、少なくない金を落としてゆく。
無論、その金額に見合った効果がある事は、誰もが認める事だ。
社交界で優雅に振る舞う女性達は、皆この会員証を持つ者であり、そこに例外などあり得ない。
そんな会員証と一線を画す超VIP会員証とは、一体どの様な物なのか?
実は、超VIP会員に会員証など無い…が正解である。
ビューティーサロン・ウルの1号店…つまりは超VIP会員専用店には、開業時間は常時入り口に警備のための衛士が立つ。
アルテアン商会で雇っている、筋肉ムキムキの女性エルフの衛士である。
彼女達は常に完全武装で店の入り口(表口)に立ち、超VIP会員以外の入店を断る。
どんなに嘆願しようとも、賄賂を匂わせようとも、または地位や立場を笠にきようとも、その全てが無駄である。
寧ろそういった輩程こっぴどく追い返され、その日の内にこの王都中にその失態が知れ渡るという。
だが、超VIP会員だけは非常に丁寧に迎え入れられる。
そう、超VIP会員とは特別なのである。
なので、他の店舗であれば会員証を提示しなければ利用できないし入店できないのと違い、超VIP会員とは超VIP会員店では完全に顔パスなのだ。
顔パスなのだから、会員証など必要がない。
その会員の存在自体が、ダイヤモンド以上の輝きを持った会員証となるのである。
そんな超VIP会員だけが利用できるビューティーサロン・ウル 王都一号店の中では、とある女性達によって、何やら密談が行われていた。
「ふふふ…何度来ても落ち着く内装ですわね…」
施術を終えたとある女性が、造りこそ質素ではあるが、贅の限りを集めた素材で出来たソファーで寛ぎながら、王国で最高級の香茶を愉しんでいた。
「光栄で御座います、王妃様」
向かいに座るは、このビューティーサロン・ウル の代表者にして、最高責任者であるウルリーカ・デ・アルテアン侯爵夫人。
「貴女もつい先日、御子を産んだというのにその美貌…流石ですわね」
「いえいえ、私などもう十分におばさんでございますわよ。サロンの施術で無理やり…ですわ」
「まあ、御冗談を…おほほほほほほほ…」
何だか、互いに腹に一物を持っている悪女同士が話をしている様だ。
「それで、私と時間を合わせてここで待ち合わせをしたという事は、何か内密な話があるのでしょう?」
「さすが王妃様です。私の思惑にお気づきとは…」
悪女の1人が、手にした扇で口元を隠しながらそう言うと、対する悪女も左手をそっと口元にもっていき微笑む。
「それで、どの様なお話かしら?」
「実は我が家の長女の事なのです…」
そう前置きしたウルリーカ言葉を続ける。
「そろそろ婚約に向けて、本格的に動こうかと思いまして…」
スーパーシスコンなトールが聞いたら、激怒しそうな話題である。
「ほう? あの女神様の巫女殿を?」
「ええ、その通りです」
ビューティーサロン・ウルの内装は、多くの店舗では清潔感を前面に押し出すかのように、白で統一されている。
天井に壁は染み1つない白色。調度品は、白色に非常に近い淡い青色か緑を基本としており、光の魔道具をそこかしこに惜しげなく使う事により、とても明るい。
床は限りなく白に近い灰色の石材を磨き込んだタイルを敷き詰めている。
金属部分の多くは、磨き込まれた真鍮が使用され、白と金色のコントラストが美しい。
だが、超VIP会員の為の王都一号店の内装だけは、多とは全く趣が違う。
こげ茶色がメインではあるが、その他にも黒や濃い紫などのどちらかというと暗色系で天上も壁も覆われている。
床は非常に濃い赤色で毛足の長い絨毯が敷かれており、調度品も派手な装飾など一切ない暗色系で統一され、室内を照らす証明は、天井近くに並ぶ薄暗い間接照明。
床に置かれた照明も、また明度を抑えた物であり、こうして向かい合わない限り、互いの顔すらはっきりと分からぬ程だ。
無論、内装に掛けた費用は、一般店の数倍は軽く掛かっている。
そんな店にある、超VIPしか使う事が許されていない休憩室で悪女が話し合っているのは、まさかの見合い話。
「何故この場を?」
別に侯爵家の長女の見合いの話ならば、王城であろうと侯爵の王都邸であろうと、どこでも出来る話である。
この様な場所で密談するような話でもない。
ましてや、この王国において最も財を持つアルテアン侯爵家の長女なのだ。
見合いの申し込みの話など、文字通り掃いて捨てるほど来ているはずだ。
「コルネリアの見合いを邪魔する者が居るからです。こういった会員しか入れず、ましてやその会員の会話や秘密を絶対に漏らさないと場所でないと、その邪魔する者に伝わってしまいますので…」
確かに、そういう意味では、この店内で話をするのは最適だろう。
「…ちなみにお伺いしますが、侯爵家の長女の見合いを邪魔する者とは?」
「そんなの決まっております。ヴァルナルとトールヴァルドです」
超子煩悩な実父の侯爵と、妹を溺愛する実兄の伯爵。
「なるほど、確かにそれは手強いですわねぇ…」
夫であるヴァルナルはまだ良い。
ウルリーカが、いざとなったら認めさせる事も可能だと思っている。
だが、妹が好きすぎていつも暴走するトールヴァルドは、色々と難しい。
最終的には折れるであろうが、それまでどんな手を使って邪魔してくるか分からない。
そのうえ、コルネリアを女神ネスの巫女へとして頂けるように推挙した張本人だ。
いつかポロッとトールヴァルドが彼の妻達に漏らしたことがあったが、どうやらコルネリアに生涯独身を貫かせるための策だったとか。
「ええ、実に手強いのです。ですので、王妃様にも是非とも私の策のお手伝いいただきたく…」
「…具体的には?」
「その策とは…」
悪女達の密談は、どうやらここから佳境に入る様だったのだが、その内容は誰にも知るすべは無かった…はずなのだが、ウルリーカを密かに常時守護している、自称トールヴァルドの忠実な僕達だけは、しっかりとその話の全てを聞いていた。
『こ、これはマスターに一言一句漏らさずお伝えせねば!』
『うんうん! ちゃんと伝えないと…ナディア様に殺される…』
『ガクガクブルブル…』
姿こそ見えないが、どうも3人程がどこかに潜んでこの話を聞いているらしい。
つまりは、コルネリアの見合いや婚約の最大の手強い壁である、妹大好きトールヴァルドへとこの話が伝わるのも、そう遠い話ではないと言う事になる。
この見合い話がトールヴァルドへと伝えられた時、どうなるのか?
それは、また別のお話で語る事にしましょう。
どう考えても、ドタバタ喜劇が始まるとしか思えないですけど…ね。
他の一般会員が持つ会員証は、その利用頻度などに応じて、紙、銅、銀、金で造られたカード型だ。
皆、金色の会員証を目指して、せっせとこのサロンに通いつめ、少なくない金を落としてゆく。
無論、その金額に見合った効果がある事は、誰もが認める事だ。
社交界で優雅に振る舞う女性達は、皆この会員証を持つ者であり、そこに例外などあり得ない。
そんな会員証と一線を画す超VIP会員証とは、一体どの様な物なのか?
実は、超VIP会員に会員証など無い…が正解である。
ビューティーサロン・ウルの1号店…つまりは超VIP会員専用店には、開業時間は常時入り口に警備のための衛士が立つ。
アルテアン商会で雇っている、筋肉ムキムキの女性エルフの衛士である。
彼女達は常に完全武装で店の入り口(表口)に立ち、超VIP会員以外の入店を断る。
どんなに嘆願しようとも、賄賂を匂わせようとも、または地位や立場を笠にきようとも、その全てが無駄である。
寧ろそういった輩程こっぴどく追い返され、その日の内にこの王都中にその失態が知れ渡るという。
だが、超VIP会員だけは非常に丁寧に迎え入れられる。
そう、超VIP会員とは特別なのである。
なので、他の店舗であれば会員証を提示しなければ利用できないし入店できないのと違い、超VIP会員とは超VIP会員店では完全に顔パスなのだ。
顔パスなのだから、会員証など必要がない。
その会員の存在自体が、ダイヤモンド以上の輝きを持った会員証となるのである。
そんな超VIP会員だけが利用できるビューティーサロン・ウル 王都一号店の中では、とある女性達によって、何やら密談が行われていた。
「ふふふ…何度来ても落ち着く内装ですわね…」
施術を終えたとある女性が、造りこそ質素ではあるが、贅の限りを集めた素材で出来たソファーで寛ぎながら、王国で最高級の香茶を愉しんでいた。
「光栄で御座います、王妃様」
向かいに座るは、このビューティーサロン・ウル の代表者にして、最高責任者であるウルリーカ・デ・アルテアン侯爵夫人。
「貴女もつい先日、御子を産んだというのにその美貌…流石ですわね」
「いえいえ、私などもう十分におばさんでございますわよ。サロンの施術で無理やり…ですわ」
「まあ、御冗談を…おほほほほほほほ…」
何だか、互いに腹に一物を持っている悪女同士が話をしている様だ。
「それで、私と時間を合わせてここで待ち合わせをしたという事は、何か内密な話があるのでしょう?」
「さすが王妃様です。私の思惑にお気づきとは…」
悪女の1人が、手にした扇で口元を隠しながらそう言うと、対する悪女も左手をそっと口元にもっていき微笑む。
「それで、どの様なお話かしら?」
「実は我が家の長女の事なのです…」
そう前置きしたウルリーカ言葉を続ける。
「そろそろ婚約に向けて、本格的に動こうかと思いまして…」
スーパーシスコンなトールが聞いたら、激怒しそうな話題である。
「ほう? あの女神様の巫女殿を?」
「ええ、その通りです」
ビューティーサロン・ウルの内装は、多くの店舗では清潔感を前面に押し出すかのように、白で統一されている。
天井に壁は染み1つない白色。調度品は、白色に非常に近い淡い青色か緑を基本としており、光の魔道具をそこかしこに惜しげなく使う事により、とても明るい。
床は限りなく白に近い灰色の石材を磨き込んだタイルを敷き詰めている。
金属部分の多くは、磨き込まれた真鍮が使用され、白と金色のコントラストが美しい。
だが、超VIP会員の為の王都一号店の内装だけは、多とは全く趣が違う。
こげ茶色がメインではあるが、その他にも黒や濃い紫などのどちらかというと暗色系で天上も壁も覆われている。
床は非常に濃い赤色で毛足の長い絨毯が敷かれており、調度品も派手な装飾など一切ない暗色系で統一され、室内を照らす証明は、天井近くに並ぶ薄暗い間接照明。
床に置かれた照明も、また明度を抑えた物であり、こうして向かい合わない限り、互いの顔すらはっきりと分からぬ程だ。
無論、内装に掛けた費用は、一般店の数倍は軽く掛かっている。
そんな店にある、超VIPしか使う事が許されていない休憩室で悪女が話し合っているのは、まさかの見合い話。
「何故この場を?」
別に侯爵家の長女の見合いの話ならば、王城であろうと侯爵の王都邸であろうと、どこでも出来る話である。
この様な場所で密談するような話でもない。
ましてや、この王国において最も財を持つアルテアン侯爵家の長女なのだ。
見合いの申し込みの話など、文字通り掃いて捨てるほど来ているはずだ。
「コルネリアの見合いを邪魔する者が居るからです。こういった会員しか入れず、ましてやその会員の会話や秘密を絶対に漏らさないと場所でないと、その邪魔する者に伝わってしまいますので…」
確かに、そういう意味では、この店内で話をするのは最適だろう。
「…ちなみにお伺いしますが、侯爵家の長女の見合いを邪魔する者とは?」
「そんなの決まっております。ヴァルナルとトールヴァルドです」
超子煩悩な実父の侯爵と、妹を溺愛する実兄の伯爵。
「なるほど、確かにそれは手強いですわねぇ…」
夫であるヴァルナルはまだ良い。
ウルリーカが、いざとなったら認めさせる事も可能だと思っている。
だが、妹が好きすぎていつも暴走するトールヴァルドは、色々と難しい。
最終的には折れるであろうが、それまでどんな手を使って邪魔してくるか分からない。
そのうえ、コルネリアを女神ネスの巫女へとして頂けるように推挙した張本人だ。
いつかポロッとトールヴァルドが彼の妻達に漏らしたことがあったが、どうやらコルネリアに生涯独身を貫かせるための策だったとか。
「ええ、実に手強いのです。ですので、王妃様にも是非とも私の策のお手伝いいただきたく…」
「…具体的には?」
「その策とは…」
悪女達の密談は、どうやらここから佳境に入る様だったのだが、その内容は誰にも知るすべは無かった…はずなのだが、ウルリーカを密かに常時守護している、自称トールヴァルドの忠実な僕達だけは、しっかりとその話の全てを聞いていた。
『こ、これはマスターに一言一句漏らさずお伝えせねば!』
『うんうん! ちゃんと伝えないと…ナディア様に殺される…』
『ガクガクブルブル…』
姿こそ見えないが、どうも3人程がどこかに潜んでこの話を聞いているらしい。
つまりは、コルネリアの見合いや婚約の最大の手強い壁である、妹大好きトールヴァルドへとこの話が伝わるのも、そう遠い話ではないと言う事になる。
この見合い話がトールヴァルドへと伝えられた時、どうなるのか?
それは、また別のお話で語る事にしましょう。
どう考えても、ドタバタ喜劇が始まるとしか思えないですけど…ね。
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