1,191 / 1,466
調査報告
しおりを挟む
「ふむ、ではその場所にある湖は、人工的な物である可能性が高いという事か…」
最近、格好いいと思い伸ばし始めたちょび髭を撫でつけながら、グーダイド王国の国王はヴァルナルへと言葉を掛けた。
「ええ、仰る通りです。湖の外周はほぼ完全と言っても良いぐらいの真円で、湖の中心に行くにしたがって水深が深く…。水を完全に抜いて測量したわけではありませんが、この湖は半球状であることはほぼ間違いありません」
国王の言葉に、ヴァルナルがそう答えると、
「やはり、神敵の強力な武器による物…と言う事か…」
国王が手元の資料に書かれた文字を目で追い、そう呟くと、
「陛下の仰る通りかと…」
ヴァルナルがそれ以上言葉を重ねる事は無かった。
あえて説明の必要も無いだろうが、これはヴァルナルが王城に提出した例の土地の調査報告書。
主に書かれているのは、あの巨大な湖の事。
そもそも王国に危機が迫るかも? っと、調査を敢行したのだが、ヴァルナルはトールヴァルドやダンジョンマスター達からある程度の情報は得ていたので、そう危なく無い事は知っていた。
完全に安全かと言われると、その保証は無い。
だが、湖とは全く別の所にある巨大な魔法陣の様な物よりは安全である。
その問題の魔法陣は、先だってナディア、アーデ、アーム、アーフェンが、遥か洋上に飛ばされて一大事となった代物。
どうやら輪廻転生管理局という、この世界の怨敵を撃退するための物であり、それを守護する動物が存在しているらしいのだが、ヴァルナルには魔法陣が危険であること以外、詳細は一切知らされていない。
これはトールヴァルドとダンジョンマスター達が協議した結果、ヴァルナルには危険であるため近づかない様にとだけ伝えたから。
まあ、魔法陣を守護する存在がひよこであり、それがトールヴァルドの異次元同位体であるという事を言い出し難いからだ。
魔法陣を守るひよこ達が、一体何を基準に敵味方を判別しているのかがはっきりしなかったのも原因だ。
本当は魔法陣を踏まなければ、まず安全ではあるのだが…何せその魔法陣がある場所が森の中。
しかも下草や木々のせいで、陣を構成する線が見えにくい。
うっかり踏んでしまえば、どこへ飛ばされるか分かった物じゃない。
そんな危険なトラップがある場所に、王都から100名にも及ぶ調査団を派遣できるはずもなく、だからこそ敢て安全性が非常に高いあの湖と周辺地域にだけ調査隊を派遣したのだ。
まあ、何のための調査団か? と問われれば何とも言えない所ではあるが…。
「今のところ、周辺に敵の姿は無い、出現する可能性も低い…か」
報告書の続きを読みながら、別に問うたわけでもないが自然と口から声が漏れ出た国王。
「はい、その通りでございます。周辺を調査した結果、ごく小さな集落が1つございました」
それに律儀に答えるヴァルナル。
「村人達へと持ち込んだ物資を提供した…村人達は別の土地を目指して旅立つ予定…か」
「その通りでございます」
真相はパンゲア大陸へと旅立ったわけだし、一部の若者は調査隊へと志願した部下と結婚するわけなのだが。
「まあ、危険な土地に住むのも難しかろう。安全な土地を目指すのも分からぬでもないが…。我が国でも難民として受け入れても良かったのだぞ?」
報告書へと落としていた目をヴァルナルへと向けて、そう告げた国王に、
「はい、私もその提案をしました。私の領地で受け入れても良いと、しかし、彼等は自ら安寧の地を探すのだと…」
嘘八百である。
「ふむ…そうか。まあ、彼等に移住を強制するわけにも行かぬしの…」
「まったくその通りでございます」
国王は真剣にヴァルナルの報告を聞き、また真剣にその報告書を読んでいる。
だが、これはヴァルナルにとっては、完全な茶番。
無論、調査隊一同にも、危険な魔法陣の事は話していないし、村人達がパンゲア大陸へと移住する事も話していない。
そして村人達には、パンゲア大陸への移住に関しては口止めを行っている。
唯一、このパンゲア大陸への移住の事が漏れる可能性があるとすれば、調査隊と結婚する者達。
当然口止めはしてあるが、それでもふとした事から結婚相手に漏れるかもしれない。
なので、もしもパンゲア大陸への移住がばれた場合は、移住した村人達…つまりは家族達はパンゲア大陸を追い出され、元の村へと放り出されると伝えてある。
そんな事は実際にはしないが、そう言われた全員が口を揃えて『この秘密は墓の中まで持って行く』と固く誓ったそうだ。
はぁ…早く終わらんかなぁ…。
国王陛下への調査報告というこの場において、そうぼへ~っと考えていたヴァルナルは、やはりトールヴァルドの父親といえよう。
今日は早く帰って、ウルリーカとエドワード君と、一緒に風呂に入りたいんだがなあ…。
もう良い歳だというのに、ラブラブ夫婦である侯爵家は、今日も平和だった。
「それで、ヴァルナルよ…。この報告書のこの部分なのじゃが…」
そんなヴァルナルの心のうちなどお構いなしに、国王は真剣な顔つきでヴァルナルに次々と質問を浴びせ続けた。
面倒くせえおっさんだなぁ…っと、ヴァルナルは思いながらも、
「ああ、その部分に関しましては…」
そんな内心は一切表情に出さず、真面目な表情を崩さず国王の質問に答えるのであった。
最近、格好いいと思い伸ばし始めたちょび髭を撫でつけながら、グーダイド王国の国王はヴァルナルへと言葉を掛けた。
「ええ、仰る通りです。湖の外周はほぼ完全と言っても良いぐらいの真円で、湖の中心に行くにしたがって水深が深く…。水を完全に抜いて測量したわけではありませんが、この湖は半球状であることはほぼ間違いありません」
国王の言葉に、ヴァルナルがそう答えると、
「やはり、神敵の強力な武器による物…と言う事か…」
国王が手元の資料に書かれた文字を目で追い、そう呟くと、
「陛下の仰る通りかと…」
ヴァルナルがそれ以上言葉を重ねる事は無かった。
あえて説明の必要も無いだろうが、これはヴァルナルが王城に提出した例の土地の調査報告書。
主に書かれているのは、あの巨大な湖の事。
そもそも王国に危機が迫るかも? っと、調査を敢行したのだが、ヴァルナルはトールヴァルドやダンジョンマスター達からある程度の情報は得ていたので、そう危なく無い事は知っていた。
完全に安全かと言われると、その保証は無い。
だが、湖とは全く別の所にある巨大な魔法陣の様な物よりは安全である。
その問題の魔法陣は、先だってナディア、アーデ、アーム、アーフェンが、遥か洋上に飛ばされて一大事となった代物。
どうやら輪廻転生管理局という、この世界の怨敵を撃退するための物であり、それを守護する動物が存在しているらしいのだが、ヴァルナルには魔法陣が危険であること以外、詳細は一切知らされていない。
これはトールヴァルドとダンジョンマスター達が協議した結果、ヴァルナルには危険であるため近づかない様にとだけ伝えたから。
まあ、魔法陣を守護する存在がひよこであり、それがトールヴァルドの異次元同位体であるという事を言い出し難いからだ。
魔法陣を守るひよこ達が、一体何を基準に敵味方を判別しているのかがはっきりしなかったのも原因だ。
本当は魔法陣を踏まなければ、まず安全ではあるのだが…何せその魔法陣がある場所が森の中。
しかも下草や木々のせいで、陣を構成する線が見えにくい。
うっかり踏んでしまえば、どこへ飛ばされるか分かった物じゃない。
そんな危険なトラップがある場所に、王都から100名にも及ぶ調査団を派遣できるはずもなく、だからこそ敢て安全性が非常に高いあの湖と周辺地域にだけ調査隊を派遣したのだ。
まあ、何のための調査団か? と問われれば何とも言えない所ではあるが…。
「今のところ、周辺に敵の姿は無い、出現する可能性も低い…か」
報告書の続きを読みながら、別に問うたわけでもないが自然と口から声が漏れ出た国王。
「はい、その通りでございます。周辺を調査した結果、ごく小さな集落が1つございました」
それに律儀に答えるヴァルナル。
「村人達へと持ち込んだ物資を提供した…村人達は別の土地を目指して旅立つ予定…か」
「その通りでございます」
真相はパンゲア大陸へと旅立ったわけだし、一部の若者は調査隊へと志願した部下と結婚するわけなのだが。
「まあ、危険な土地に住むのも難しかろう。安全な土地を目指すのも分からぬでもないが…。我が国でも難民として受け入れても良かったのだぞ?」
報告書へと落としていた目をヴァルナルへと向けて、そう告げた国王に、
「はい、私もその提案をしました。私の領地で受け入れても良いと、しかし、彼等は自ら安寧の地を探すのだと…」
嘘八百である。
「ふむ…そうか。まあ、彼等に移住を強制するわけにも行かぬしの…」
「まったくその通りでございます」
国王は真剣にヴァルナルの報告を聞き、また真剣にその報告書を読んでいる。
だが、これはヴァルナルにとっては、完全な茶番。
無論、調査隊一同にも、危険な魔法陣の事は話していないし、村人達がパンゲア大陸へと移住する事も話していない。
そして村人達には、パンゲア大陸への移住に関しては口止めを行っている。
唯一、このパンゲア大陸への移住の事が漏れる可能性があるとすれば、調査隊と結婚する者達。
当然口止めはしてあるが、それでもふとした事から結婚相手に漏れるかもしれない。
なので、もしもパンゲア大陸への移住がばれた場合は、移住した村人達…つまりは家族達はパンゲア大陸を追い出され、元の村へと放り出されると伝えてある。
そんな事は実際にはしないが、そう言われた全員が口を揃えて『この秘密は墓の中まで持って行く』と固く誓ったそうだ。
はぁ…早く終わらんかなぁ…。
国王陛下への調査報告というこの場において、そうぼへ~っと考えていたヴァルナルは、やはりトールヴァルドの父親といえよう。
今日は早く帰って、ウルリーカとエドワード君と、一緒に風呂に入りたいんだがなあ…。
もう良い歳だというのに、ラブラブ夫婦である侯爵家は、今日も平和だった。
「それで、ヴァルナルよ…。この報告書のこの部分なのじゃが…」
そんなヴァルナルの心のうちなどお構いなしに、国王は真剣な顔つきでヴァルナルに次々と質問を浴びせ続けた。
面倒くせえおっさんだなぁ…っと、ヴァルナルは思いながらも、
「ああ、その部分に関しましては…」
そんな内心は一切表情に出さず、真面目な表情を崩さず国王の質問に答えるのであった。
0
お気に入りに追加
1,833
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。
成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?
後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。
目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。
日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。
そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。
さて、新しい人生はどんな人生になるのかな?
※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします!
◇◇◇◇◇◇◇◇
お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。
執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。
◇◇◇◇◇◇◇◇
9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます!
9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる