システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

ほぼ正解

「私が思うに、彼の中にはすでに幾人もの彼が入り込んでいると思うのです」
　先程までの喧騒はどこへやら、非常に冷静な顔でサラに向かって話し始めた。
「おま、今までのやり取りを完全に無かったことにして話を進めただろ！」
　サラが起こるのも無理はない。　
「私達が時々彼の思考をリアルタイムで読む事が出来なくなることがありましたよね？」
「…完全に私の言葉は無視かよ…。ああ、あったよ。確か大河さん曰く、並列思考だとか」
　諦めた様に、ガックリと項垂れたサラは、その姿勢のまま問いに答えた。
「ええ、そうです。並列思考です。ですが、彼にそんな高等技術が使えるでしょうか？」
「いや、使えてたじゃん！」
　ガバッ！　っと顔を上げて、噛み付かんばかりに叫びながらリリアに迫るサラ。
「一般人が、頭の中の思考を完全に分割する事など不可能です。ちなみに、超優秀な私でも使えません。なので、何かあった時は意識を管理局へと飛ばすのです」
　そんなサラなど何するものか、表情筋の１つも動かす事無く、淡々とリリアは続ける。

「言われてみれば…。でも、例えば転生の特典とか？」
「転生の特典は、便利グッズの詰め合わせでは？　それは特典の一部として派遣されたあなたが一番よく知っているはず」
　リリアが言っている便利グッズの詰め合わせとは、トールが転生する時に管理局長に与えられたガチャ玉とナビの事。
　そして、トールヴァルドと同じ世界に派遣されたサラの仕事は、元来ナビとしてトールヴァルドがガチャ玉を使用する時に助言や補助をするというものだ。
　実際には、別にトールヴァルドにナビの正体がサラであるという事がバレてしまっても問題は無い。
「まあ…知ってますけど…」
　そんなサラなのだから、並列思考などというスキルが転生特典にあるはずがないことは当然ながら知らないはずはない。
「彼が並列思考というスキルを獲得出来た要因に、私には心当たりがあります」
「へぇ、言ってみそ」
　心当たりがあるからこそ、リリアはこうやって話し始めたのだろう。
「彼の魂のエネルギーが、日毎に増えている事は、サラにも分かっているでしょう？」
「まあ、それは近くで観察してますから知ってますけど…それが？」
　まだトールヴァルドが幼い時は、観察という名目で変態ストーカー行為をしていたサラが知らないはずはない。
「私達は、日々増えるエネルギーは、この次元世界を擁する巨大な世界のどこかにある彼の本体から送られていると思ってましたが、それだけでは無い様なのですよ」
「ん～～？　エネルギー変換玉で、管理局に大河さんのエネルギーって送られてますよね？」
「ええ、それは無論です。彼の本体から供給されるであろう増え続けるエネルギーを管理局が吸い取るために、あの玉を使わせようとしましたが…どうやら彼のエネルギーが想定よりも多いのです」
　管理局がトールから奪うはずだったエネルギーが塵芥に思えるほど、トールのエネルギーは増え続けている。
「って事は、大河さんの本体って…実は想像以上にでっかい？」
　リリアの話から考えれば、サラの言う様な答えに行きつくのが普通である。
「無論、それもあるでしょう。ですが、どうやらそれだけでは無いのです」
「っと言うと？」
「別の次元世界に存在していた彼が、この次元世界の彼にエネルギーを送り込んでいるらしいのです」
「はっ？　そんな事出来んの！？」
　サラが驚くのも当然だ。

「よく考えてください。多くの次元世界に存在する彼も彼等も、元は１つの存在です。彼が自らの本体からエネルギーを取り込んでいる様に、別次元に別れた彼の残滓達が、エネルギーを送る事が出来ないと、何故言い切れるのですか？」
　リリアの言わんとしている事を、サラも一応は理解は出来る。
「そして、その過程で、自らの意識までも送り込んだ者が居ても不思議ではありません。ただし、彼と一体化…はっきり言えば、彼に吸収されるという事を望めば…ですが」
「大河さんに、別次元の大河さんの同位体が合体？」
　眉間に皺を寄せたサラが、真面目な顔でリリアに確認する。
「ええ、もはや合体といっても過言ではありません。無論、あまりにも強い意識を送り込んでしまえば、彼が壊れてしまいますので、小さなエネルギーしか持てなかった意識体だけでしょうけれど」
「ちょ、ちょっと待って！　んじゃ並列思考だとか言ってたのはもしかして…」
　何かに気付いたサラが、はっとした顔でリリアへと視線を向けた。
「ええ。彼に吸収された元は別次元の彼自身の意識が、彼の中で融合して目覚めたのです。元は同じ存在ですから、拒絶反応も起きません。見事なまでに一体化し、彼の中で別の思考として存在しているのです」
「…マジっすか…」　　
　そのリリアの言葉は、サラにかなり大きな精神的ダメージを与えた様だった。


　実は、リリアの驚くべき予測は、実はほぼ正解であった…。