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無視かよーーーー!
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「サ…ラ……」
山脈越えを目前のホワイト・オルター号の操縦席に座るサラの後ろから、切ろの間中無言だったリリアが声をかけた。
「ひぇっーーーーーー! って、リリアっすか…。い、いきなり、どうしたんすか?」
時刻は、もうそろそろ空が茜色に染まろうという時。
俗にいう、逢魔が時だ。
まさかこの飛行船内に幽霊など出るはずもないとは分かってはいるが、薄暗くなってきた静かなキャビンで、いきなり背後からぼそりと名前を呼ばれたら、そりゃ驚きもするだろう。
サラ的には、居ないと分ってはいても、実は『おばけか!?』と、かなりびびりまくり、ほんのちょっぴりだがちびってたりもする。
「何にそんなに驚いてるんですか?」
「あんたの声にだよ! 急にそんなホラーチックに声を掛けるな!」
「では、次からは『今から声を掛けます』と予告をしましょう」
サラに何を言われようとも、大して気にかけて無い様子のリリア。
「いや、それって予告する必要があるんだろうか?」
「貴女がそうしろと言ったのでは無いのですか?」
確かにサラはいきなり声を掛けられて吃驚したのだが…実際には、リリアのその声質に問題が有ったから驚いたのだろう。
「私の言いたい事が理解されてない!?」
サラの言いたい事はリリアにしっかりと伝わっていたのだが、単にリリアがサラをおちょくっているだけである。
「そんな事はどうでも良いのです」
「よくねーーーよ!」
サラの絶叫を丸っと無視するリリア。
「兎に角ですね、私は違和感を感じているのです」
「スルーすんなや!」
もはやサラの抗議は完全にスルーされている。
「何故、アルテアン侯爵様は、キャビンに来ないのでしょうか?」
「…もういいや…何を言っても駄目だこいつ…。何故って、そりゃ大勢の部下達の手前、密室にうら若き美少女と何時間も一緒に居たら怪しまれるからでしょ~?」
とうとうサラは抵抗を諦めたのであった。
「いえ、それはおかしくないですか?」
サラの意見に意を唱えるリリア。
「どこがおかしいんよ?」
「副官なり部下なりを連れて来ればいいだけの事。そもそも、こういった移動手段をとるのであれば、基本的に指揮官や幹部は操縦席付近で指揮をとるものじゃないですか? なのに、侯爵は飛行中、一度もここには来ていません」
リリアの言っている事は、全部が事実とは言い難い。
何故なら、実はヴァルナルは何度かこのキャビンにも足を運んでいる。
無論、彼一人でやってきているし、ごく短時間ではあるが。
「そうかな? だって、ここからでもカーゴルームの侯爵様には通信出来るんだから、別にいなくてもいいんじゃね?」
その方がのんびり出来ると、暗に匂わせつつ、サラが答える。
「確かに何か指示を仰がねばならない時には、通信という手段はありますが…普通、あんな窓もない倉庫を改良した様な場所で、大勢の部下と一緒に過ごしますか?」
「そりゃ~、浮気を疑われたら怖いからじゃねーの? 特に大奥様はめっちゃ怖いし!」
ウルリーカの鬼の形相を思い浮かべたのか、サラがガタガタと震え出す。
「それもあるのは確かでしょうが…、私は別の事を危惧しているのです」
「ほえ? 別の事って?」
般若の如きアルテアン家の女傑の顔を思い出して震えていたサラは、リリアの言葉に間抜けな声で答えた。
「ところで、最近あなたはトールヴァルド伯爵の思考をチェックしてますか?」
「急に話題変えたな!? まあ、してるけど…それが何?」
いきなり話の方向が変わった事に、少々不満げなサラ。
「ここ数年の彼の思考パターンが、ここ最近急激に変化している事に気付きませんか?」
「えっと…何か変わってる?」
「今までは、局長が難度も彼の解脱を阻止すべく動かねばならないほど、彼の思考は自然と解脱の方向へと進んでいました」
そう、トールは過去に何度も解脱に関する情報へと思考が至ると、局長によって記憶を弄られ別方向に誘導されていた。
なのに、最近ではとんとトールは解脱やそれに関する事柄に思考が至る様な予兆すら見えない。
「良い事じゃん、仕事が楽だし」
「確かにそうですが…急に思考の方向性が変わったりしますか? 彼の魂の行き先は、間違いなく解脱ですよ。そちらに向かうのが自然という物です。ですが、全くそぶりも無い…不自然です」
ふ~ん…と、サラは鼻をほじくりながら聞き流す。
「もしかすると、私達の知らないうちに何らかの対策をされているのかもしれません」
リリアは、ダンジョンマスター達が、何らかの管理局対策をしたのではないかと考えていた。
「んで、侯爵様がここに来ない事と、大河さんが解脱に関して考えない事が、リリアの感じる違和感の正体なん?」
サラが操縦席の後ろを振り返り、きりりと引き締まった真面目な顔でリリアへと問いかける。
「………………」
だが、考え込んでしまったリリアの耳に、サラの声は届いていなかった。
「また無視かよーーーー!」
再度ホワイト・オルター号のキャビンに、サラの絶叫が響き渡ったのであった。
山脈越えを目前のホワイト・オルター号の操縦席に座るサラの後ろから、切ろの間中無言だったリリアが声をかけた。
「ひぇっーーーーーー! って、リリアっすか…。い、いきなり、どうしたんすか?」
時刻は、もうそろそろ空が茜色に染まろうという時。
俗にいう、逢魔が時だ。
まさかこの飛行船内に幽霊など出るはずもないとは分かってはいるが、薄暗くなってきた静かなキャビンで、いきなり背後からぼそりと名前を呼ばれたら、そりゃ驚きもするだろう。
サラ的には、居ないと分ってはいても、実は『おばけか!?』と、かなりびびりまくり、ほんのちょっぴりだがちびってたりもする。
「何にそんなに驚いてるんですか?」
「あんたの声にだよ! 急にそんなホラーチックに声を掛けるな!」
「では、次からは『今から声を掛けます』と予告をしましょう」
サラに何を言われようとも、大して気にかけて無い様子のリリア。
「いや、それって予告する必要があるんだろうか?」
「貴女がそうしろと言ったのでは無いのですか?」
確かにサラはいきなり声を掛けられて吃驚したのだが…実際には、リリアのその声質に問題が有ったから驚いたのだろう。
「私の言いたい事が理解されてない!?」
サラの言いたい事はリリアにしっかりと伝わっていたのだが、単にリリアがサラをおちょくっているだけである。
「そんな事はどうでも良いのです」
「よくねーーーよ!」
サラの絶叫を丸っと無視するリリア。
「兎に角ですね、私は違和感を感じているのです」
「スルーすんなや!」
もはやサラの抗議は完全にスルーされている。
「何故、アルテアン侯爵様は、キャビンに来ないのでしょうか?」
「…もういいや…何を言っても駄目だこいつ…。何故って、そりゃ大勢の部下達の手前、密室にうら若き美少女と何時間も一緒に居たら怪しまれるからでしょ~?」
とうとうサラは抵抗を諦めたのであった。
「いえ、それはおかしくないですか?」
サラの意見に意を唱えるリリア。
「どこがおかしいんよ?」
「副官なり部下なりを連れて来ればいいだけの事。そもそも、こういった移動手段をとるのであれば、基本的に指揮官や幹部は操縦席付近で指揮をとるものじゃないですか? なのに、侯爵は飛行中、一度もここには来ていません」
リリアの言っている事は、全部が事実とは言い難い。
何故なら、実はヴァルナルは何度かこのキャビンにも足を運んでいる。
無論、彼一人でやってきているし、ごく短時間ではあるが。
「そうかな? だって、ここからでもカーゴルームの侯爵様には通信出来るんだから、別にいなくてもいいんじゃね?」
その方がのんびり出来ると、暗に匂わせつつ、サラが答える。
「確かに何か指示を仰がねばならない時には、通信という手段はありますが…普通、あんな窓もない倉庫を改良した様な場所で、大勢の部下と一緒に過ごしますか?」
「そりゃ~、浮気を疑われたら怖いからじゃねーの? 特に大奥様はめっちゃ怖いし!」
ウルリーカの鬼の形相を思い浮かべたのか、サラがガタガタと震え出す。
「それもあるのは確かでしょうが…、私は別の事を危惧しているのです」
「ほえ? 別の事って?」
般若の如きアルテアン家の女傑の顔を思い出して震えていたサラは、リリアの言葉に間抜けな声で答えた。
「ところで、最近あなたはトールヴァルド伯爵の思考をチェックしてますか?」
「急に話題変えたな!? まあ、してるけど…それが何?」
いきなり話の方向が変わった事に、少々不満げなサラ。
「ここ数年の彼の思考パターンが、ここ最近急激に変化している事に気付きませんか?」
「えっと…何か変わってる?」
「今までは、局長が難度も彼の解脱を阻止すべく動かねばならないほど、彼の思考は自然と解脱の方向へと進んでいました」
そう、トールは過去に何度も解脱に関する情報へと思考が至ると、局長によって記憶を弄られ別方向に誘導されていた。
なのに、最近ではとんとトールは解脱やそれに関する事柄に思考が至る様な予兆すら見えない。
「良い事じゃん、仕事が楽だし」
「確かにそうですが…急に思考の方向性が変わったりしますか? 彼の魂の行き先は、間違いなく解脱ですよ。そちらに向かうのが自然という物です。ですが、全くそぶりも無い…不自然です」
ふ~ん…と、サラは鼻をほじくりながら聞き流す。
「もしかすると、私達の知らないうちに何らかの対策をされているのかもしれません」
リリアは、ダンジョンマスター達が、何らかの管理局対策をしたのではないかと考えていた。
「んで、侯爵様がここに来ない事と、大河さんが解脱に関して考えない事が、リリアの感じる違和感の正体なん?」
サラが操縦席の後ろを振り返り、きりりと引き締まった真面目な顔でリリアへと問いかける。
「………………」
だが、考え込んでしまったリリアの耳に、サラの声は届いていなかった。
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