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誰得?

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 ヴァルナルとブラウリオ男爵が、騎士や兵士、そして村人達のお祭り騒ぎの輪から抜け出て、静かな湖畔で2人きりで酒を飲んでいるのを、誰も気が付かない…などと言う事は無かった。
 いや、この場に集まったほとんどの人が、2人でそっと人目を避ける様に人の輪から離れて行ったのを知っていた。
 そして、こそこそと人々は噂をしていた。
 実は2人は人目を避けて逢引をしているのだとか、禁断の恋仲なのだとか、実は結婚はカムフラージュなのだとか。
 2人がそれを聞けば、きっと激怒するであろうそんな噂は、この場に居た人々に、ゆっくりと確実に広まっていった。
 まあ、目の前でその証拠とも言える姿を見せつけているのだから、誰も疑いようもない。
 ヴァルナルにもブラウリオ男爵にもそんな気はさらさらないのだが、人々の妄想は止まる事を知らない。
 まあ、命懸けの調査隊に志願し、何の娯楽も無いこんな僻地にやって来たのだから、これぐらいは勘弁してやって欲しい。
 そんな分けで、大きな焚火を囲みながら、人々はその輪から抜け出た2人の中年男性をチラチラと見ては、誰得? な妄想を捗らせるのであった。

 
 夜も更けたトールの邸に、先触れも無く訪問者があった。
 誰あろう、ダンジョンマスターの3人である。
 まあ、先触れがあろうがなかろうが、彼女達がやってくる場所は裏庭に設置した地獄の門の様な扉からなので、あまり意味はないとも言える。
 今からお宅に訪問しますよ…何て言われたところで、準備するのはお茶とお茶菓子程度の事。
 いきなり来たからといって、それを準備できないと言う事も無い。
 そもそも、皆が寝静まる丑三つ時に突然訪問でもされようものなら、確かに驚きもするし、無礼だとも言うだろうが、今はま夕飯を食べ終えたばかりで夜もまだ浅い。
 それに、きちんと裏庭に到着したら、裏口のドアノッカーで来訪を知らせてくれる。
 もちろん、対応するのは何時寝ているのか良く分からないドワーフメイドさん。
 トール達が準備できるまで、ちゃんと応接室に彼女達を案内して待たせるぐらいの事はしてくれる優秀なメイドだ。
 なので、いきなりダンジョンマスター達が訪問したからと言って、トール達が驚く事など無い。

 今夜も、しっかりとドワーフメイドさんがダンジョンマスター達を応接室へと案内した後、トールの元へと来訪を告げに来た。
「それじゃ、すぐに行くよ」 
 夕食後、残った書類を整理しに執務室へとやって来ていたトールは、ドワーフメイドさんへ返事をした。
 一緒に執務室に居たマチルダとコルネリアは、「同席した方が良いでしょうか?」「私も行きましょうか、お兄さま?」っと言うが、
「いや、まずは俺だけで話を聞くよ。内容によっては呼ぶかもしれないから、コルネちゃんは自室で待機。マチルダはみんなと一緒に居てくれ」
 そう言い残して、執務室を後にした。
 別にダンジョンマスター達に畏まって欲しいわけでは無いが、こんな夜更けに一体何の急用だろうか? そう考えると、自然と廊下を進むトールの歩みも早くなった。
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