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その頃、ヴァルナル・デ・アルテアンは…

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 私は、王国の北側に位置する、遥か高い山脈の向こうの土地の調査に本格的に乗り出していた。
 とは言っても、事前にトールやダンジョンマスター達との打ち合わせをした様に、危険の無い範囲で…だが。

 今は、巨大な湖の詳しい調査をしようとしている所だ。
 実際には、サラとリリアが操るホワイト・オルター号に同乗して俯瞰した事により、その全景は既に調べ終わっている。
 空の上から見たら丸わかりなのだが、この湖は円形だ。
 いや、多少護岸が崩れてる場所もあるので、真円とまでは言えないかもしれないが、それでも円形である事に間違いはない。
 事前にその情報は知ってはいたものの、改めて自分の目で見ると、やはりあまりにも不自然な形に見える。
 部下の兵士や騎士達が、湖に小舟を出してその水深を測ったりしているのだが、半球状に地面が抉れているというトールやダンジョンマスター達の推論を裏付けるためだけの計測だ。
 湖の水深を測る方法はいたって簡単で、錘を付けた長い長い紐を湖に沈めるだけ。
 錘が着底すれば紐が弛むので、その紐の長さを調べればいい。
 すでに岸に近い場所から湖の中心に向かって数カ所計測を終えたが、やはりトール達の推論は正しかった様だ。
 湖の中心に向かって深くなっている。
 聞くところによると、トール達が結婚した2年ほど前に、この地はナディア達によって一旦地図化されているという。
 その時には、こんな湖は無かったそうだ。
 そして、まだ記憶に新しいナディア達の遭難。
 あの後に詳しく調査したところ、何故だかこの湖が出来ていたという。
 この話を聞いた時には、とても信じられないと思いもしたが、トールの他の世界の記憶の事や、ダンジョンマスター達によるこの世界を管理する者の存在の話、そして実はユズキとユズカが元トールが住んでいた世界から来たという話を聞き、その世界の知識の一端を披露されてしまったら、もう信じるしかなくなっていた。
 なるほど、だからトールはあんなに色々な突飛なアイデアを出す事が出来、それにユズキやユズカがアドバイス出来たのだと、後々になってじっくりと考えると納得できた。

 そして、今は自分の指示でホワイト・オルター号を操縦しているこのサラとリリアが、敵の尖兵である可能性が非常に高いであろうと言う事も聞いている。
 なのでこの調査も、実際にはサラとリリアを、トールの元から一時的ではあるが物理的に引き離すための作戦の一部だ。
 こんな調査には、何の意味もない。
 そもそも調査が終わった段階で、あの村の住民はダンジョンマスター達によって、パンゲア大陸への移住が決まっているのだ。
 なので、国王陛下に提出するこの地の調査に村の事を書きはするが、いつの日か再調査の部隊が訪れたとしても、村はもぬけの殻になっている事だろう。
 まあ、この実質トールが所有しているホワイト・オルター号が無ければ、あの北の山脈を越える事など出来無いだろうが。
 
 そうそう、私とウルリーカが結婚した切っ掛けともなった、あの山脈を越えて来た敵との戦争だが、トールによればあれも実は輪廻転生管理局とかによる謀だった可能性があるそうだ。
 どうやら管理局とかいう奴らは、時も場所も関係なく飛び越える事が出来るとか。
 もしかすると、ほんの数年前にこの地に我が王国の敵となる奴らを呼び出して、私とウルリーカが苦しんだあの時にまで敵を送り込んだのかもしれない…そうだ。
 もしも、それが本当ならば、まるで神の所業…いや、悪魔の所業か?
 とてもじゃないが、そんな超常的な力を持った相手が敵では、勝てる気がしない。
 別に勝てる相手だから戦うって訳じゃない。
 勝てないと思う相手であっても、立ち向かう気持ちはある。
 だが、トールから受け取った装備をもってしても、果たして勝てるかどうか…。
 昔の戦で敵の大将首を落とせたのは、本当に偶然の事だ。
 偶々敵の布陣の薄い所をへと吶喊をしたら、偶々大将首が口から炎を吐いていた最中で、そのまま一気に後ろから首を掻き切っただけの事で、まともに剣を交えたわけじゃない。
 無論、相手が剣でも握っていれば一合二合は打ち合えたかもしれないが、そもそも武器が違い過ぎた。 
 後に調べて判明したのだが、敵の武器は小さな鉛玉を何らかの方法で飛ばす類の物だった。
 数少ない王国の魔法使いも、あれには魔法を行使した残滓が無いと断言したのだから、純粋な技術で造りあげられた武器なのだろう。
 あの時、もしも俺に向かって敵の大将首が炎を吐いて来ていたら、生きてはいなかったに違いない。

 湖で水深を計測していた部下たちが、別のポイントへと小舟を移動しているのを、ぼうっと見つめながらそんな事を考えていた。
 もしかすると、この湖はあの悪魔の様な敵を呼び出した時に出来た物なんだろうか?
 帰ったら、トールとちゃんと話合わないとな。
 出来る事なら、まだ死にたくはない。
 あの時の様に恐ろしい敵が襲撃して来れば、国の盾となるべく最前線に己が立たなければならない事は重々承知している。
 命を惜しんでいては国の騎士など勤まらない事も、頭では分かってはいる。
 だが、まだ今はエドワードが産まれたばかりだ。
 せめて、あの子が成人する姿を見るまでは、死にたくない。
 私を慕ってくれる部下達を死なせたくない。
 うむ、やはり帰ったらで酒でも酌み交わしながら、トールとしっかり話をしよう。
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