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ちょっと疑問なんですけれど…
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「んぎゃ…んぎゃぁ…んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
美しい湖の湖畔に建つ、この領地を治める伯爵の邸宅に、赤子の無く叫ぶ声が響く。
「はいはい、エド君はお母さんのおっぱいが欲しいのでちゅか~?」
普段は強い訛りが目立つドワーフのメイドが、なぜか泣き叫ぶ赤子に語り掛ける時は、その訛りも鳴りを潜めていた。
身長や見た目からは、どう見ても人族の少女にしか見えないが、その年齢は誰にも分からない。
「大奥様を呼んできましょうかねぇ」
ひょっこりと顔を出したのは、また別のドワーフメイド。
別と葉言っても、見た目だけではその違いが分からない。
同じ髪の色や形だけでなく、どうみても双子としか思えない様な瓜二つの見た目のドワーフ族。
「あ、一応、おしめの用意もしておかなくちゃ!」
またまた顔を出したのは、これまた見た目そっくりな、ドワーフメイドが。
「それじゃ、私はお湯の準備をしておきますねぇ」
さらに追加で見た目そっくりな…って、ええい、面倒な!
つまりは、何故かこの邸で働くドワーフメイド衆は、全員が見分け出来ない程にそっくりなのである。
四つ子とかであればそれも分からなくも無いのだが、彼女達は年齢も親もまったく違う、血の繋がりすらない個別の四人。
「大奥様~! エド君がおっぱいの時間って泣いてます~!」
もう、誰が声を張り上げたのかも分からない有様だ。
「あ、私はユズノちゃんの所の様子も見てくるよ!」
もう、誰が誰だかさっぱり見分けがつかない。
ドワーフメイドの呼びかけに、廊下をダダダと走ってやって来たのは、この邸の主の実の母であり、侯爵夫人でもあるウルリーカ。
「あらあら。サナさん、ありがとう」
侯爵夫人は、ドワーフメイド衆へと礼を言っただけでなく、何故か名前まで呼んだ。
「いいぇ~。子は宝ですからねぇ。さあさ、エド君。お母さまでちゅよ~」
そう言いながら、サナと呼ばれたドワーフメイドは、抱いていた赤子をウルリーカへとそっと手渡した。
我が子をそっと抱くウルリーカは、まるで聖母ごとく美しく輝いていた。
彼女は、レースのカーテン越しに柔らかい陽の光が照らす部屋にあるソファーへとそっと座ると、おもむろに胸をはだけさせて赤子の口に含ませた。
「はぁ、やっぱりエド君は可愛いですねえ。ところで大奥様、ちょっと疑問なんですけれど…」
先程、サナと言われていたドワーフメイドが、赤子におっぱいを与えているウルリーカの近くまで寄って訊ねる。
「どうしたの?」
「いえ、貴族様って言ったら、こういうのは乳母とか雇うものなんじゃないかなあって思って…」
ドワーフメイドの疑問は、この貴族社会においては至極当然の疑問だ。
一般的に、子を産んだ貴族家の奥方が直接赤子に乳を与えるという事は少ない。
全く無いという事ではなく、少ない…という事だ。
赤子というのは、生まれてから1年近くは、日に5~7回は授乳を必要とする。
授乳の間隔に決まりがあるわけでは無く、夜間に数度も起こされ乳を与えなければならない事もある。
子供が産まれた貴族家などは、昼間祝いに訪れる者も非常に多い。
その来訪者を無視する事など到底できるはずも無く、夫妻揃って…時には主人または奥方のみで対応する事も多い。
貴族家の夫人としてそれは当然の義務であるのだが、それだけに精神的にも肉体的にも負担は大きい。
そこに夜中の授乳など、とてもではないが体がもたない。
なので乳母を雇い、夜間などはぐっすりと眠れるようにする貴族が多いのである。
「そうねぇ…。本当はそれが良いんでしょうけれど、私はこの手で育てたいのよ」
お腹が膨れたのか、もう吸いついていた胸から口を離したエドワードをそっと縦抱きにし、背中を軽くポンポンっと叩く。
「それは、どうしてなのです?」
赤子が小さくケポっとゲップするのを見つめたまま、ドワーフメイドが問うた。
「だって、トールちゃんもコルネちゃんも、こうして私が育てたんですもの。今更、余所様のお乳を我が子に与えたくないわ」
そう言って、赤子をそっと抱き直して、ニッコリとウルリーカは笑った。
「はぁ…。そういうものなんですかねぇ…」
どこか納得してい無い様なメイドの言葉に、ウルリーカは小さく笑みを浮かべながら、
「今は侯爵なんて偉そうな爵位を頂いているけど、元はしがない貧乏貴族だったのよ、うちは」
どこか懐かしそうに窓の外の風景へ視線を向けながら言葉を続けた。
「トールちゃんが生まれた時なんて、それこそ使用人の家に赤ちゃんが生まれたばっかりだったのよ? 乳母なんて雇うお金も無かったし…。あ、そうそう、その生まれたばかりの赤ちゃんって言うのは、今はトールちゃんのお嫁さんのミルシェちゃんでね…」
柔らかな日差し降り注ぐ部屋の中、ウルリーカとドワーフメイド衆の楽しそうな話声が続いた。
やがて、おしめや沸かした湯を手にしたドワーフメイド達と、ユズユズ夫妻とユズノちゃんのお世話に走っていたドワーフメイドも、夫妻と共に合流した。
美しい湖の畔りにある、これまた美しい佇まいの領主邸のとある部屋。
その部屋の午後は、とても暖かな笑い声で包まれていた。
美しい湖の湖畔に建つ、この領地を治める伯爵の邸宅に、赤子の無く叫ぶ声が響く。
「はいはい、エド君はお母さんのおっぱいが欲しいのでちゅか~?」
普段は強い訛りが目立つドワーフのメイドが、なぜか泣き叫ぶ赤子に語り掛ける時は、その訛りも鳴りを潜めていた。
身長や見た目からは、どう見ても人族の少女にしか見えないが、その年齢は誰にも分からない。
「大奥様を呼んできましょうかねぇ」
ひょっこりと顔を出したのは、また別のドワーフメイド。
別と葉言っても、見た目だけではその違いが分からない。
同じ髪の色や形だけでなく、どうみても双子としか思えない様な瓜二つの見た目のドワーフ族。
「あ、一応、おしめの用意もしておかなくちゃ!」
またまた顔を出したのは、これまた見た目そっくりな、ドワーフメイドが。
「それじゃ、私はお湯の準備をしておきますねぇ」
さらに追加で見た目そっくりな…って、ええい、面倒な!
つまりは、何故かこの邸で働くドワーフメイド衆は、全員が見分け出来ない程にそっくりなのである。
四つ子とかであればそれも分からなくも無いのだが、彼女達は年齢も親もまったく違う、血の繋がりすらない個別の四人。
「大奥様~! エド君がおっぱいの時間って泣いてます~!」
もう、誰が声を張り上げたのかも分からない有様だ。
「あ、私はユズノちゃんの所の様子も見てくるよ!」
もう、誰が誰だかさっぱり見分けがつかない。
ドワーフメイドの呼びかけに、廊下をダダダと走ってやって来たのは、この邸の主の実の母であり、侯爵夫人でもあるウルリーカ。
「あらあら。サナさん、ありがとう」
侯爵夫人は、ドワーフメイド衆へと礼を言っただけでなく、何故か名前まで呼んだ。
「いいぇ~。子は宝ですからねぇ。さあさ、エド君。お母さまでちゅよ~」
そう言いながら、サナと呼ばれたドワーフメイドは、抱いていた赤子をウルリーカへとそっと手渡した。
我が子をそっと抱くウルリーカは、まるで聖母ごとく美しく輝いていた。
彼女は、レースのカーテン越しに柔らかい陽の光が照らす部屋にあるソファーへとそっと座ると、おもむろに胸をはだけさせて赤子の口に含ませた。
「はぁ、やっぱりエド君は可愛いですねえ。ところで大奥様、ちょっと疑問なんですけれど…」
先程、サナと言われていたドワーフメイドが、赤子におっぱいを与えているウルリーカの近くまで寄って訊ねる。
「どうしたの?」
「いえ、貴族様って言ったら、こういうのは乳母とか雇うものなんじゃないかなあって思って…」
ドワーフメイドの疑問は、この貴族社会においては至極当然の疑問だ。
一般的に、子を産んだ貴族家の奥方が直接赤子に乳を与えるという事は少ない。
全く無いという事ではなく、少ない…という事だ。
赤子というのは、生まれてから1年近くは、日に5~7回は授乳を必要とする。
授乳の間隔に決まりがあるわけでは無く、夜間に数度も起こされ乳を与えなければならない事もある。
子供が産まれた貴族家などは、昼間祝いに訪れる者も非常に多い。
その来訪者を無視する事など到底できるはずも無く、夫妻揃って…時には主人または奥方のみで対応する事も多い。
貴族家の夫人としてそれは当然の義務であるのだが、それだけに精神的にも肉体的にも負担は大きい。
そこに夜中の授乳など、とてもではないが体がもたない。
なので乳母を雇い、夜間などはぐっすりと眠れるようにする貴族が多いのである。
「そうねぇ…。本当はそれが良いんでしょうけれど、私はこの手で育てたいのよ」
お腹が膨れたのか、もう吸いついていた胸から口を離したエドワードをそっと縦抱きにし、背中を軽くポンポンっと叩く。
「それは、どうしてなのです?」
赤子が小さくケポっとゲップするのを見つめたまま、ドワーフメイドが問うた。
「だって、トールちゃんもコルネちゃんも、こうして私が育てたんですもの。今更、余所様のお乳を我が子に与えたくないわ」
そう言って、赤子をそっと抱き直して、ニッコリとウルリーカは笑った。
「はぁ…。そういうものなんですかねぇ…」
どこか納得してい無い様なメイドの言葉に、ウルリーカは小さく笑みを浮かべながら、
「今は侯爵なんて偉そうな爵位を頂いているけど、元はしがない貧乏貴族だったのよ、うちは」
どこか懐かしそうに窓の外の風景へ視線を向けながら言葉を続けた。
「トールちゃんが生まれた時なんて、それこそ使用人の家に赤ちゃんが生まれたばっかりだったのよ? 乳母なんて雇うお金も無かったし…。あ、そうそう、その生まれたばかりの赤ちゃんって言うのは、今はトールちゃんのお嫁さんのミルシェちゃんでね…」
柔らかな日差し降り注ぐ部屋の中、ウルリーカとドワーフメイド衆の楽しそうな話声が続いた。
やがて、おしめや沸かした湯を手にしたドワーフメイド達と、ユズユズ夫妻とユズノちゃんのお世話に走っていたドワーフメイドも、夫妻と共に合流した。
美しい湖の畔りにある、これまた美しい佇まいの領主邸のとある部屋。
その部屋の午後は、とても暖かな笑い声で包まれていた。
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