システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

静かな朝食

「皆、遅いなあ…」
　トールヴァルドは、コルネリアとユリアーネしか座っていない食堂で、そう呟いた。
「そうですわねぇ…。皆さん、どうなさったのかした？」　
「おにいちゃん、おなかぺったんこ～！」
　その呟き答えたのは、彼の愛する妹達である。
　コルネリアもユリアーネも、トールヴァルドの朝の鍛錬を見ていなかった。
　その為、何故にこれ程他のメンバーが遅くなっているのかの理由を知らない。
　ちなみに、彼の母とユズカは、それぞれの部屋にて授乳をしていたため、鍛錬は見ていない。
　ユズカに付き合い、ユズキもまた妻と子と共にいたため見ていない。
　ドワーフメイド衆は、朝から食事の準備に追われており、やはり見ていなかった。
「ユリアちゃん、お腹がすいたのなら先に食べてもいいよ」
　トールヴァルドが柔らかい眼差しでユリアーネにそう告げたが、
「ううん。みんなをまつ！」
　にっこりわらったユリアーネが、そう宣言した。
　この邸の数少ない決まり事を守ろうとするその健気な姿に、隣に座っていたコルネリアは微笑みながら頭をそっと撫でた。

　トールヴァルド達が食堂で雑談をしながら時間を潰していると、程なくして彼の母と、ユズキ、ユズカ夫妻が食堂にやって来た。
　それから少々遅れたものの、残るメンバーも全員集合した。
　どうやら、誰もが先程まで捕らわれていた呪縛から解放されたらしい。
　全員が、遅れた事に関して言葉少なに謝罪をしたが、しかしそれ以外は誰も口を開こうとしなかった。
　各人の目の前に朝食がドワーフメイド衆により配膳されては居たが、一部の者はそれを口にしようとはしなかった。
　そしてその一部の者は目の前の朝食では無く、トールバルドへと視線をでチラチラと送っていた。
　あ、いや…ユリアーネだけは、元気いっぱいに目の前の朝食を頬張っていたし、ユズキ、ユズカ夫妻もしっかりと食べていた。
　コルネリアは、ユリアーネの世話をしながらも食べていたし、ドワーフメイド衆も何故今朝はこんなに静かなのか原因は分からなかったが、食べねば仕事が出来ぬとばかりに、しっかりと食べていた。

　トールヴァルドは、あまりにも不自然に静かなこの食堂を、どこか居心地悪く感じていた。
　だが、その元凶が何なのか分からず、どうにも食事に集中できない。
　実は、彼に視線が集中していたのと、食堂に集まった家族の半数が無言であり食事に手を伸ばしていない為だったのだが、結構鈍感な彼にはそこまで感知する事は出来なかった様だ。
　普段は小食ではあるが、ドワーフメイド衆の近くで食事をとっているナディア達妖精族や、食堂の隅で食事をするペットであるブレンダーやクイーン、そしてノワールもまたじっとトールヴァルドを見つめていた。
　
　何時まで経っても朝食が進まない皆を見回したトールヴァルドは、静かに立ち上がり全員を見回しながら一言。
「皆、今日は父さんが調査に出発する日なんだから、さっさと食べて見送りの準備しなきゃダメだろ？」
　その言葉で、はっと我に返った一同は、慌てて目の前の食事にとりかかった。
　まあ、スープなどは少々冷めてしまってはいたが、そんな些細な事に何かを言う物をいない。
　そもそも、冷めた原因は自分自身にあるのだから、当たり前の事ではあるのだが。

　そして、全員が朝食を済ませた後、静かに食堂を後にした。
　この後、この邸の主であるトールヴァルドの実父である、ヴァルナル・デ・アルテアンの出発の見送りの準備のためである。
　準備とは言っても、特別何か行事を行うというわけでは無い。
　ただ、身なりをきちんと整えに部屋に戻っただけの事。

　やがて、静かに時は流れ、いよいよヴァルナルの出発の時間がやって来た。