システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

文字の大きさ
上 下
1,026 / 1,466

テンション爆あげ

しおりを挟む
 明けて、アルテアン領の邸へと帰る日、太陽が真上に上る少し前。

 王都へとやって来ていた、アルテアン一家とユズユズ夫妻が練兵場にお駐機していたホワイト・オルター号の前に集まった。
 ホワイト・オルター号のタラップまで、(現在王城に居る)王族一同が見送りに来ていた。
 無論、王都アルテアン侯爵邸に勤める使用人の多くと、ユズユズが転移直後にお世話になった食堂を経営する夫妻も、練兵場の入り口へと見送りに来ていたが、残念ながら兵士でも騎士でも無く、王城勤めでも無い彼等は中には入れなかった。
 とは言え、久しぶりに帰郷したユズユズ夫妻が子供まで連れて来た事は、彼等にとってとても嬉しい事だった様で、こうして遠くから姿を見るだけではあるが、見送りに揃って来てくれたのだ。
 これにはユズユズ夫妻も感動で、ちょっぴり瞳を潤ませていた。

 さて、盛大なお見送りではるが、そうそう予定を変える事も出来ない一同は、後ろ髪を引かれる思いではあったが、タラップを昇ってホワイト・オルター号へ。
 居並ぶ大勢の人々が手を振り見送る皆へ、アルテアン家一同は中から手を振り返していると、ホワイト・オルター号はゆっくりと離床してその巨大な船体は空へと舞い上がった。
 見送りに来ていた人々は、その巨大な飛行船が遠く空の彼方へと消えるまで手を振っていたし、同じように飛行船のキャビンでは練兵場が見えなくなるまで窓から手を振っていた。

 元来、飛行船とはそう速い速度は出せない物なのだが、このホワイト・オルター号であればそんな常識は関係ない。
 馬車であれば2週間ほどかかる距離であっても、1日で飛ぶ事ができるのだ。
 無論、飛行船の全周を覆うシールドにより、風圧も気候も関係ないし、空を飛ぶ魔獣などの攻撃など問題にならない。
 また、シールド内の気圧さえもコントロールされているので、よほど急激な加速・減速、上昇・下降、そして急旋回などでGを掛けない限り、内部には不快になる揺れなどは一切起こる事は無い。
 それに、何度も往復している王都とアルテアン領の往復であれば、離着陸以外はオートパイロットで飛行できるので、空に舞い上がり目的地を定めてしまえば、操縦席にパイロットが拘束される事も無い。
 今回のホワイト・オルター号の操縦を任されているサラとリリアも、オートパイロットを設定した後は特にする事も無く、アルテアン一家と共に、操縦席のすぐ後ろにあるソファーセットでお茶を飲んで寛いでいた。
 
「あ~あ~。皆さんは良いですねえ~。私なんて、お留守番ですよ、お留守番」
 リラックスしすぎなサラが、ユズユズ夫妻をチラ見しながら、そうぼやいた。
「確かにそれは可哀想だとは思いますが、私も王城で音様やお母様とお話しただけですわよ?」
 そんなぼやきを拾ったメリルが、サラにそう言葉を返すと、
「奥様はそうでしょうけど、ユズカとユズキは王都で楽しんでたんですよ!? 同じ使用人として、待遇に差があります!」
 使用人というのであれば、その言葉遣いは如何なものだろうか? っと、メリルは思いはしたのだが、サラはいつもこの調子なのでいちいち気にしていても仕方ないか…と諦めた。 
「サラさん、確かに私達夫婦は王都を散策する機会も時間も有りましたが…実際にはお邸の方々や、王都でお世話になった方々とお話するぐらいしかしてませんよ?」
 普段から妙に真面目なユズキがそうサラに言っては見たが、
「でもでも、このサラちゃんは、ずっとこの船の中ですよ? 全然景色も変わらない船のなーか!」
 まあ、確かにそうだよな…と、ユズキが慰めの言葉でも掛けようかと考えた時、彼の愛する妻がサラに向かって一言。
「サラちゃん、メリルさま…。安心してください、買ってますよ」
 ユズノちゃんを抱っこした柚夏が、男前な笑顔でサムズアップしていた。
「「何を!?」」
 そりゃ、誰もがそう思うだろう。
 現に、アルテアン侯爵夫妻も、コルネリアもユリアーネも、同じように頭に疑問符を浮かべていたのだから。
「例の薄い本の最新刊が発売されたと、王都のお邸のメイドから聞き付けまして、ちゃんと購入しております」
 むふんっ! と鼻息も荒く、自慢げに告げるユズカ。
「「おぉ!」」
 それを聞いたサラとメリルは、思わずソファーから立ち上がる。
「それだけでなく、新刊行された新たな作品も購入済みです!」
「「おおおおおおおおおおおお!!!」」
 ユズカの言葉に、テンション爆あげのサラとメリル。

 ここまで情報が出そろえば、ウルリーカとコルネリアには何の話をしているのかなど、全てお見通で、『はぁ…』とため息をついた。
 ヴァルナルとコルネリには、何の事だか意味が分からなかったが、サラとメリルが喜んでいる様子から、何か良い事でもあったのだろうと、ニコニコしていた。
 リリアは、呆れ顔で顔を手で抑え、がっくりと肩を落としていた。
「もちろん、買い物の間は、柚乃は愛する柚希がちゃんと面倒見てくれてたけど」
 多分、ユズカ的には惚気ているつもりなのだろうが、(かなり特殊な)本屋の前で、赤ちゃんを抱っこして待つ男…という姿を想像したメリルとサラは、ユズキに憐れみの目を向けたのも当然かもしれない。
 そんな憐れみの目で見られていたユズキは、その時の事を思い出していた。
 そして、窓の外を流れ去ってゆく、仄かに灰色がかった雲を、ただ視線の定まらぬ瞳でただ黙って見つめ続けていた。

 こうして、往路とは違う意味で、帰路の船内は危険な単語が飛び交う場となったのであった。
しおりを挟む
感想 725

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

処理中です...