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左利き!

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「トール様、なぜ起こしてくださらなかったのですか!」
 ドワーフさんが食堂を出てすぐ、入れ替わりという訳でも無いだろうが、マチルダが入って来た。
「あ、いや…気持ちよさそうに寝てたから…」
 我がゲ〇ター2のドリル〇ームがゲッタ〇ハリケーンを起こしそうだったからだなんて、口に出せるわけ無い。
 いや、もしも言ったら、喜ばれたりするかもしれない…そうなったら、俺のライフは完全に削られてたかも…。
「ま、まあ…気持ちはよかったですけど…昨夜は…」
 何を赤い顔して告白してんすか、マチルダさん!
 俺まで顔が赤くなっちゃうんですけど。
 って、違う違う!
「それより聞いてくれよ! さっき食堂でドワーフさんを見てたんだけど、何だか違うんだよ!」
 俺がそう叫んだとほぼ同時に、食堂に妹ずと、イネスとミレーラが入って来た。

「お兄さま、おはようございます」「おにいちゃん、おはよー!」
 元気に挨拶をしてくれる、コルネちゃんとユリアちゃん。
「起きたら居なくてびっくりしたぞ、旦那様!」「あ、あの…おはよう…ございます…」
 イネスは、言葉とは裏腹に、全然驚いた風には見えない。
 その後ろから顔を見せたミレーラは、何故か朝から顔が真っ赤。
「ああ、みんなおはよう」
 だけど、しっかりと先程の叫びは聞こえていた様で、
「ですが、朝から何を大声で騒いでおられるのですか?」「おにいちゃん、げんきー!」
 コルネちゃんに怒られ、ユリアちゃんには…褒められたのかな?
「あ…うん、ごめん…。じゃなくて、聞いてくれ! ドワーフさん達が変なんだよ」
「「「「「変?」」」」」
 いや、全員で声を揃えなくても…。
「えっと、どう変なんですか、お兄さま?」
 コルネちゃんが、思いっきり首をかしげてそう返して来た。
 ってか、全員同じように左に首をかしげて…君達、随分そろってるけど、練習でもしたの?
「いや、何と言うか…前に見た時と、どうにも違う気がするんだよ!」
「それは、どう違うというのですか、トール様?」
 マチルダにも、俺のこの気持ちは伝わらない?
「…ああ、もしかして…マチルダさん、アレの事…では?」
 むっ? ミレーラは何か知ってるのか? 
 ってか、その言い方だと、マチルダも知ってるのかな?
「ああ、もしかしてアレの事? でも、今更?」
「なんだ、アレの事か」
 マチルダ、やっぱ知ってるのか! ってか、もしかしてイネスまで知ってる? 
「え、まさかお兄さまは、今までアレに気付いていなかった…とか?」
 コルネちゃんまでか!
「おにいちゃん、にぶちーーーん!」
 ゆ、ユリアちゃんまで! ってか、にぶちん…って、誰にそんな言葉を教わったのかなぁ…お兄ちゃん、そっちの方が気になるんだけど。
「みんな、何か知ってるのか?」
 もしかして、知らないのは俺だけ?
「ええ、存じていますよ…。もしかして、トール様だけが知らなかったとか…?」
 え~っと、マチルダさん? 俺以外の全員が俺の感じている違和感の正体を知っていると言うのか。
 まさか、陰謀の全貌を…って、洒落じゃねーよ!

 そうこうしている内に、父さんと赤ちゃんを抱っこした母さん、同じく赤ちゃんを抱っこしたユズカとユズキ、サラとリリアさんと、我が邸の全員が食堂に集合した。
 微妙に芝居がかったマチルダが、席についた全員に向かって、大きな声で一言。
「皆様、重大発表がございます! 何と、何年もこの邸の主をしておりますトールヴァルド様は、本日やっと…、やっとドワーフメイドさん達の秘密に気が付いたそうです!」
『なんだってーーー!?』
 ナニ、全員でその棒読みなセリフは…。
「トールちゃん、本当に気付かなかったの?」
 憐れみを思いっきり含んだその視線、止めてもらえませんでしょうか、お母さま。
「まさか…本当に?」
 笑いを堪えながら言うのは止めようか、ユズカよ。
「そ…」
 俺が問い詰めようとした丁度その時、ドワーフメイドさんが朝食の配膳の為、食堂へと入って来た。
「朝ままが出来よったんやよ~」
 そう言って、朝食の乗ったワゴンを押して来たドワーフメイド衆。
 テキパキと全員の前に朝食を並べていく。
 我が邸では、食事は出来る限り全員で食べる事にしている。
 使用人であろうが、領主一家であろうと関係なく、集合できる人は全員集まって、食卓を共にする暗黙の決まりだ。
 なので、全員分の配膳が終ったドワーフメイド衆は、一番下座にある自分達の席(レストランなどで良く見たお子様用の椅子が置いてある場所)の前に、それぞれ朝食を並べて席についた。
 その様子をじっと見ていたのだが、何かが違うというのは分ったのだが、どうにもドワーフメイド衆の違いの理由が分からん。
 全員が知っているという、ドワーフさんのアレって一体何なんだ?
 お子様と変わらぬ背丈で、昔から何も変わってないと思っていたドワーフさんだけど、アレの秘密って何なんだ?

 本当は屋敷の主である俺が食事時の『いただきます』係なんだが、侯爵様である父さんに、食事開始の音頭をとってもらう。
「うむ、全員席についた様だな。では、いただくとしよう」
 そう言って、ナイフとフォークを父さんが手にし、焼き鮭を解す。
 焼き鮭にフォークって、似合わんなあ。
 父さん、母さん、コルネちゃん、ユリアちゃんの4人以外は、全員がお箸を使っている。
 俺とユズユズは当然なのだが、ドワーフさん達の文化でもあるお箸は、今や我が家では普通に使われている。
 だからと言う訳でも無いだろうけど、父さん達4人の朝食はパンで、それ以外は米飯だったりするのは、また別の話。
 先程の違和感の正体を考えつつ、ぼんやりとドワーフメイド衆の食事の様子を眺めていると…。
「あぁーーー!!」
 思わず俺は大声をあげながら立ち上がった。
 そう、 発見してしまったのだ!
 確かに以前見てた時には、ドワーフメイド衆の全員が右利きだった。
 なのに、今は2人が左手でお箸を握っている。
「ひ、左利きー!」
 俺の絶叫に似た大声に、食卓についていた全員から冷たい視線が集中砲火で飛んで来たけど、何故だ!
 ドワーフメイド衆の特大の秘密が、今まさに明らかになったんだぞ!?
「トールよ、食事中に大声を出すな!」
 いや、そう俺を注意する父さんの声も、大概大きいですけど…。 

 ちなみに、いつの間にか先程まで猛っていた俺の聖剣は、その猛りを今は鎮めて、とっても大人しくなっていた…。
 よかったよ…あのままだったら、貧血になってた気がする。
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