システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

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 何時まで待っても襲って来ない衝撃に、俺は少しだけ心の中でほっとしていた。
 例え毒を盛った犯人であっても、愛する夫であるからと妻達が暴力をふるう事を躊躇っているのだと。
 だが、衝撃は全く違う形で俺を襲って来たのだ。
 メリルとミルシェの頬へのキスと、おまけの妊娠報告という形の衝撃で。
 その報告を受けた時の俺は、さぞかし間抜けで滑稽だったんだろう。
 すかしっ屁の様に俺の口から漏れ出た言葉が、『へっ?』だもんな。 
 
 改めて目を開けた俺は、目の前に並ぶ、少しだけ赤い顔をしたメリルとミルシェを見つめた。
 どことなく嬉しそうでいて、どことなく不安そうな、何とも言えない表情の2人。
 何故か俺は、2人の顔をまじまじと見た後、部屋の中にいる皆の顔を順に見回した。
 誰もが笑顔だった。
 最後にもう一度、メリルとミルシェへと視線を向けると、2人は恥ずかしそうに微笑んだ。
 そして、俺に飛びつく様に抱きついて来た。
 何とか足と腰に力を入れる事が出来、2人を受け止める事は出来たが、俺の思考は止まったままだ。
「えっ?」
 現実を受け入れる事を頭が拒否している? いや、ただただ脳が吃驚して、どっかの世界に思考が飛んでいるだけだ。
 その証拠に、部屋中の全員から、
『おめでとう!』
 と、声を揃えて大合唱された事で、どっかの世界に家出中だった俺の思考君が戻って来てくれた。
「あ…」
 何と言ったら良いのだろうか。
『あ?』 
 意外と静まり返っていた室内に、俺の口から出た言葉が響いているかの様だ。
「そ…」
『そ?』
 いちいち反応すんなよ、煩いな! 
 あ、いや…はっきり言わない俺が悪いのか。

 ちょっと整理しよう。
 俺が敵襲だと騒いでいる間、実はそうでは無い事を誰もが理解していた。
 この部屋に集まった全員(ユリアちゃん除く)が、最初から正確にメリルとミルシェが妊娠したと分っていた。
 誰かがマインドコントロールを受けて、2人に毒を盛ったわけでは無い。
 ましてや俺がそうした分けでもない。
 確かに、ヤル事はやっていると誰かが言っていた。
 あと最低でも3人は確実に被害に遭うとも聞いた気がする。
 そう言えば、「あの2人をあんな風にした犯人は…お前だ!」って言われた気もする。
 つまり、後3人ってのは、ミレーラ、イネス、マチルダの事か…確かにヤルことはやっているな。
 さっき気分が悪そうにしてたのは、悪阻って事だったのか?
 あ、命〔タマ〕とっちゃる! と言ったら、駄目だと言われたけど、もしかしてタマ違いなのか?
 すでにヤッた後ってのは、そう言う事か…あ、何となく理解出来た。
 ならば、言うべきことは一つ…二つ…兎に角、2人に声を掛けねば!
 ここまでの思考に掛かった時間は、わずか0.5秒…いや、時間を計ってはいないけど。
 
「2人共、身体は本当に大丈夫なんだな?」
 しっかりとメリルとミルシェを視界いっぱいに収めて、そう語りかけると、2人はコクりと頷いた。
「そうか、もう飛びついたりしちゃ駄目だぞ。もう、お前たち2人だけの身体じゃないんだから」
 俺の言葉に、だんだんと瞳が潤み始めた2人…だけでなく、俺も潤んで来た。
「ありがとう、2人共」 
 俺がそっと二人を抱き寄せると、2人は静かに涙を流した。
 もちろん、俺の目からも、心の汗が流れ落ちたさ。
 そんな俺達を、皆は静かに暖かく見守ってくれていたが、誰が切っ掛けかは分からないけど、パチパチという手を鳴らす音がし、やがてその数が増えて、部屋中に優しい拍手の音が響き渡った。
 そっか、俺…父親になるんだ…。

『そりゃ、ヤル事ヤリまくってんですから、何時かはそうなりますよね』
『サラ、今はちょっとだけ感動的なシーンなんですから、そういう話は止めておきましょう』
『だけど、さっきまでのグダグダ具合をリリアも見てたでしょう?』
『ええ、まあ…全員がこの方を馬鹿だと思いましたものね…』
『ちょっと考えればわかるだろうに。私とリリアが女医さんを連れてきた時に、気付いてもいいと思うけどねえ』
『まあ、それは確かに。大奥様とユズカを診ている女医さんですから、面識無いはずは絶対に無いですからねえ』
『緊急事態だ! って呼びつけたんすよ? どこが緊急事態だっての』
『真面目に敵がどうとか言ってるのを見てるのは面白かったですけどね』
『全員が笑いたいのを我慢してましたけどねえ』
『そうそう、特に面白かったのが、へっ? ですからねえ!』
 いや、もう…ほんと、ごめんなさい。
 俺の頭の中でネチネチ言うの、止めてもらっていいですか?
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