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ルールと矜持
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遠く離れた王都の練兵場で、騎士や兵士たちが熱く熱く、それはもう熱く燃え上がっていた。
そんな事は、トールが知る由もなく、人魚さん達への生贄が何の苦労もなく確保出来る目途が立ったので、のんびりしていた。
王都で熱く燃えている者達と、邸でのんびりお茶を啜っている者の他にも、この時動いている者があった。
「ふむ…やはり湖には何の痕跡も残っておらぬ様じゃのぉ…」
第9番ダンジョンの屋上から、遥か彼方まで伸ばした自らのダンジョン領域で調査を行っていたボーディが呟いた。
「あの湖の先には、規模は小さいですが人族の村がいくつかありますね」
同じく調査を行っていたモフリーナが呟いた。
「…人族の土地…勝手に領域化…ダメ、絶対…」
そんなモフリーナに、モフレンダが小声で注意する。
「我等ダンジョンマスターとしては、勝手な領域化は矜持に悖る…か。確かにモフレンダの言う通りではあるが、これは調査の為じゃ。調査が終われば領域化を解除すればよい」
「…なら、おけ…」
ボーディの言葉に、同意をするモフレンダ。
「まあ、本来であれば調査のためとはいえ、勝手に領域化するのも問題ですけどね」
ふふふっと笑いながらモフリーナがそう言うが、
「それはそうじゃが、今回だけは特別じゃ」
ボーディが苦笑いで答えた。
実はこの調査において、トールヴァルドの申し出によりダンジョン領域を目的地に伸ばす事を決めた後、3人は確認の意味も込めて少しだけ話し合った。
何を話し合ったかというと、ダンジョン領域の拡大時におけるダンジョンマスターとしてのルールの確認だ。
とは言っても、ダンジョンマスターがダンジョンを増築や改築すにあたり、そんなに難しいルールは非常に数少ない。
今回は、その中の1つを周知徹底するための話し合いだった。
それは、領域を伸ばそうとした時、そこで生活している者がいる場合は、その場所と周囲を勝手にダンジョンの領域に取り込まないという事。
どういう事かというと、単純に人々の生活圏を守るという事だ。
人々が生活をしている場所やその周囲を、もしもダンジョンの領域にしてしまうとどうなるか。
実は特に何も問題はない。
あくまでもこの3人のダンジョンマスターに限っては、だ。
まあ、意地の悪いダンジョンマスターであれば、周囲にモンスターを配置し、誰も逃がさぬ様にしたりもするかもしれない。
生かさず殺さず、延々とエネルギーを絞り取ろうとする奴もいるかもしれない。
だから、3人は確認の意味も込めて、今回の調査のための領域拡大のルールを作ったのだ。
まあ、そもそも勝手に何者かの生活圏をダンジョン化するのは、ダンジョンマスターによるダンジョン作成時のルールに反しているので、何らかのペナルティが発生したりもするのだが。
誰がペナルティを下すのかは、いつか語られるかもしれない。
さて、実はダンジョンの領域というものは、基本的に己のダンジョンを成長させるための物であり、モフリーナの様な塔型ダンジョンのマスターであれば、その塔を四方に伸ばしたり増改築したりするのが一般的である。
モフレンダの地下迷宮型、ボーディの迷路型など、ダンジョンには様々なタイプがあるが、基本的にはどのタイプであろうとも、ダンジョンを成長させる為にしかエネルギーは使われない。
これは、そもそもダンジョンを運営するうえで、一度にそう大量のエネルギー収入が入らないという事も関係している。
日々のエネルギー収入とモンスターやドロップアイテムなどを造り出すための支出をやりくりし、少しずつエネルギーを溜める。
そしてある一定までエネルギーを溜める事が出来て、初めてダンジョンの増改築に使う事が出来るのだ。
なので、普通であればダンジョン領域をこんな形で拡大させる様な事はまずない。
そんな無駄なエネルギーの使い方などすれば、一気にダンジョンの経営は赤字に転落するのだから。
いや、そもそも思いつきもしないし、思いついたとしてもできないというのが本当のところだろう。
だが3人には、そもそも収入のベースとなる巨大なダンジョンが大陸1つ分ある。
あると言うよりも、ただで手に入れる事が出来た。
トールが造り出した、例のパンゲア大陸である。
ダンジョン等は、すなわちそこに滞在する者からエネルギーを搾取している。
人ではない存在…獣や虫、更にそれよりも小さい生物などは、その対象外。
勿論、一般的には生命そのものを吸収している。
だが、トールは生かさず殺さずを基本とし、ダンジョンに人を住まわせることによる、継続的なエネルギー搾取を提唱した。
それを証明するかのように、パンゲア立陸に大量の移民者をトールが住まわせたことで、日々のエネルギー収支は3人共に大幅な黒字となっている。
また、この大陸とパンゲア大陸の海の底をダンジョン領域によって繋ぐことで、転移陣をおくだけで、これまたお手軽に大量の冒険者も大陸間の距離など関係なく呼び込むことが出来た。
収支的に大幅な黒字のダンジョンマスターとして安穏としていられるのは、トールヴァルドのおかげといっても過言ではない。
今回の調査のためのダンジョン領域拡大も、それに必要なエネルギーはトールヴァルドが無償で負担してくれている。
そんなトールヴァルドの許可も無く、勝手に自分達の収支にプラスになるからといって、人族の生活圏を取り込むのは、ダンジョンマスターとしてのルールに抵触するだけでなく、大きな借りのあるトールヴァルドに対して後ろめたい事は間違いない。
意外と言っては失礼かもしれないが、モフレンダはそれを強く意識していたからからこそ、注意をしたのだが…モフリーナもボーディも、重々それは理解しているので、素直に従ったのだ。
一時的に人族の生活圏を領域化してしまわねばならない事に関しては仕方がない事ではある。
「仕方がないのぉ。今は領域に取り込んで、調査終了後に元に戻すとするかや」
なのでボーディのこの言葉には、誰も反対の意を示さなかった。
「そうですね…。取り合えずは調査を続行いたしましょう」
モフリーナも、今は自らの矜持よりも、調査を優先することにしたようだ。
「…ひよこ…要再調査…」
もフレンダは微妙に何かがずれている気がしないでもない。
が、後々でちゃんと領域化を解除する事を再度確認しあった3人は、更に深く深く調査を進めるのであった。
そんな事は、トールが知る由もなく、人魚さん達への生贄が何の苦労もなく確保出来る目途が立ったので、のんびりしていた。
王都で熱く燃えている者達と、邸でのんびりお茶を啜っている者の他にも、この時動いている者があった。
「ふむ…やはり湖には何の痕跡も残っておらぬ様じゃのぉ…」
第9番ダンジョンの屋上から、遥か彼方まで伸ばした自らのダンジョン領域で調査を行っていたボーディが呟いた。
「あの湖の先には、規模は小さいですが人族の村がいくつかありますね」
同じく調査を行っていたモフリーナが呟いた。
「…人族の土地…勝手に領域化…ダメ、絶対…」
そんなモフリーナに、モフレンダが小声で注意する。
「我等ダンジョンマスターとしては、勝手な領域化は矜持に悖る…か。確かにモフレンダの言う通りではあるが、これは調査の為じゃ。調査が終われば領域化を解除すればよい」
「…なら、おけ…」
ボーディの言葉に、同意をするモフレンダ。
「まあ、本来であれば調査のためとはいえ、勝手に領域化するのも問題ですけどね」
ふふふっと笑いながらモフリーナがそう言うが、
「それはそうじゃが、今回だけは特別じゃ」
ボーディが苦笑いで答えた。
実はこの調査において、トールヴァルドの申し出によりダンジョン領域を目的地に伸ばす事を決めた後、3人は確認の意味も込めて少しだけ話し合った。
何を話し合ったかというと、ダンジョン領域の拡大時におけるダンジョンマスターとしてのルールの確認だ。
とは言っても、ダンジョンマスターがダンジョンを増築や改築すにあたり、そんなに難しいルールは非常に数少ない。
今回は、その中の1つを周知徹底するための話し合いだった。
それは、領域を伸ばそうとした時、そこで生活している者がいる場合は、その場所と周囲を勝手にダンジョンの領域に取り込まないという事。
どういう事かというと、単純に人々の生活圏を守るという事だ。
人々が生活をしている場所やその周囲を、もしもダンジョンの領域にしてしまうとどうなるか。
実は特に何も問題はない。
あくまでもこの3人のダンジョンマスターに限っては、だ。
まあ、意地の悪いダンジョンマスターであれば、周囲にモンスターを配置し、誰も逃がさぬ様にしたりもするかもしれない。
生かさず殺さず、延々とエネルギーを絞り取ろうとする奴もいるかもしれない。
だから、3人は確認の意味も込めて、今回の調査のための領域拡大のルールを作ったのだ。
まあ、そもそも勝手に何者かの生活圏をダンジョン化するのは、ダンジョンマスターによるダンジョン作成時のルールに反しているので、何らかのペナルティが発生したりもするのだが。
誰がペナルティを下すのかは、いつか語られるかもしれない。
さて、実はダンジョンの領域というものは、基本的に己のダンジョンを成長させるための物であり、モフリーナの様な塔型ダンジョンのマスターであれば、その塔を四方に伸ばしたり増改築したりするのが一般的である。
モフレンダの地下迷宮型、ボーディの迷路型など、ダンジョンには様々なタイプがあるが、基本的にはどのタイプであろうとも、ダンジョンを成長させる為にしかエネルギーは使われない。
これは、そもそもダンジョンを運営するうえで、一度にそう大量のエネルギー収入が入らないという事も関係している。
日々のエネルギー収入とモンスターやドロップアイテムなどを造り出すための支出をやりくりし、少しずつエネルギーを溜める。
そしてある一定までエネルギーを溜める事が出来て、初めてダンジョンの増改築に使う事が出来るのだ。
なので、普通であればダンジョン領域をこんな形で拡大させる様な事はまずない。
そんな無駄なエネルギーの使い方などすれば、一気にダンジョンの経営は赤字に転落するのだから。
いや、そもそも思いつきもしないし、思いついたとしてもできないというのが本当のところだろう。
だが3人には、そもそも収入のベースとなる巨大なダンジョンが大陸1つ分ある。
あると言うよりも、ただで手に入れる事が出来た。
トールが造り出した、例のパンゲア大陸である。
ダンジョン等は、すなわちそこに滞在する者からエネルギーを搾取している。
人ではない存在…獣や虫、更にそれよりも小さい生物などは、その対象外。
勿論、一般的には生命そのものを吸収している。
だが、トールは生かさず殺さずを基本とし、ダンジョンに人を住まわせることによる、継続的なエネルギー搾取を提唱した。
それを証明するかのように、パンゲア立陸に大量の移民者をトールが住まわせたことで、日々のエネルギー収支は3人共に大幅な黒字となっている。
また、この大陸とパンゲア大陸の海の底をダンジョン領域によって繋ぐことで、転移陣をおくだけで、これまたお手軽に大量の冒険者も大陸間の距離など関係なく呼び込むことが出来た。
収支的に大幅な黒字のダンジョンマスターとして安穏としていられるのは、トールヴァルドのおかげといっても過言ではない。
今回の調査のためのダンジョン領域拡大も、それに必要なエネルギーはトールヴァルドが無償で負担してくれている。
そんなトールヴァルドの許可も無く、勝手に自分達の収支にプラスになるからといって、人族の生活圏を取り込むのは、ダンジョンマスターとしてのルールに抵触するだけでなく、大きな借りのあるトールヴァルドに対して後ろめたい事は間違いない。
意外と言っては失礼かもしれないが、モフレンダはそれを強く意識していたからからこそ、注意をしたのだが…モフリーナもボーディも、重々それは理解しているので、素直に従ったのだ。
一時的に人族の生活圏を領域化してしまわねばならない事に関しては仕方がない事ではある。
「仕方がないのぉ。今は領域に取り込んで、調査終了後に元に戻すとするかや」
なのでボーディのこの言葉には、誰も反対の意を示さなかった。
「そうですね…。取り合えずは調査を続行いたしましょう」
モフリーナも、今は自らの矜持よりも、調査を優先することにしたようだ。
「…ひよこ…要再調査…」
もフレンダは微妙に何かがずれている気がしないでもない。
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