システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

文字の大きさ
上 下
931 / 1,466

ルールと矜持

しおりを挟む
 遠く離れた王都の練兵場で、騎士や兵士たちが熱く熱く、それはもう熱く燃え上がっていた。
 そんな事は、トールが知る由もなく、人魚さん達への生贄が何の苦労もなく確保出来る目途が立ったので、のんびりしていた。
 王都で熱く燃えている者達と、邸でのんびりお茶を啜っている者の他にも、この時動いている者があった。

「ふむ…やはり湖には何の痕跡も残っておらぬ様じゃのぉ…」
 第9番ダンジョンの屋上から、遥か彼方まで伸ばした自らのダンジョン領域で調査を行っていたボーディが呟いた。
「あの湖の先には、規模は小さいですが人族の村がいくつかありますね」
 同じく調査を行っていたモフリーナが呟いた。
「…人族の土地…勝手に領域化…ダメ、絶対…」
 そんなモフリーナに、モフレンダが小声で注意する。
「我等ダンジョンマスターとしては、勝手な領域化は矜持に悖る…か。確かにモフレンダの言う通りではあるが、これは調査の為じゃ。調査が終われば領域化を解除すればよい」
「…なら、おけ…」
 ボーディの言葉に、同意をするモフレンダ。
「まあ、本来であれば調査のためとはいえ、勝手に領域化するのも問題ですけどね」
 ふふふっと笑いながらモフリーナがそう言うが、
「それはそうじゃが、今回だけは特別じゃ」
 ボーディが苦笑いで答えた。

 実はこの調査において、トールヴァルドの申し出によりダンジョン領域を目的地に伸ばす事を決めた後、3人は確認の意味も込めて少しだけ話し合った。
 何を話し合ったかというと、ダンジョン領域の拡大時におけるダンジョンマスターとしてのルールの確認だ。 
 とは言っても、ダンジョンマスターがダンジョンを増築や改築すにあたり、そんなに難しいルールは非常に数少ない。
 今回は、その中の1つを周知徹底するための話し合いだった。
 それは、領域を伸ばそうとした時、そこで生活している者がいる場合は、その場所と周囲を勝手にダンジョンの領域に取り込まないという事。
 どういう事かというと、単純に人々の生活圏を守るという事だ。
 人々が生活をしている場所やその周囲を、もしもダンジョンの領域にしてしまうとどうなるか。
 実は特に何も問題はない。
 あくまでもこの3人のダンジョンマスターに限っては、だ。
 まあ、意地の悪いダンジョンマスターであれば、周囲にモンスターを配置し、誰も逃がさぬ様にしたりもするかもしれない。
 生かさず殺さず、延々とエネルギーを絞り取ろうとする奴もいるかもしれない。
 だから、3人は確認の意味も込めて、今回の調査のための領域拡大のルールを作ったのだ。
 まあ、そもそも勝手に何者かの生活圏をダンジョン化するのは、ダンジョンマスターによるダンジョン作成時のルールに反しているので、何らかのペナルティが発生したりもするのだが。
 誰がペナルティを下すのかは、いつか語られるかもしれない。

 さて、実はダンジョンの領域というものは、基本的に己のダンジョンを成長させるための物であり、モフリーナの様な塔型ダンジョンのマスターであれば、その塔を四方に伸ばしたり増改築したりするのが一般的である。
 モフレンダの地下迷宮型、ボーディの迷路型など、ダンジョンには様々なタイプがあるが、基本的にはどのタイプであろうとも、ダンジョンを成長させる為にしかエネルギーは使われない。
 これは、そもそもダンジョンを運営するうえで、一度にそう大量のエネルギー収入が入らないという事も関係している。
 日々のエネルギー収入とモンスターやドロップアイテムなどを造り出すための支出をやりくりし、少しずつエネルギーを溜める。
 そしてある一定までエネルギーを溜める事が出来て、初めてダンジョンの増改築に使う事が出来るのだ。
 なので、普通であればダンジョン領域をこんな形で拡大させる様な事はまずない。
 そんな無駄なエネルギーの使い方などすれば、一気にダンジョンの経営は赤字に転落するのだから。
 いや、そもそも思いつきもしないし、思いついたとしてもできないというのが本当のところだろう。
 だが3人には、そもそも収入のベースとなる巨大なダンジョンが大陸1つ分ある。
 あると言うよりも、ただで手に入れる事が出来た。
 トールが造り出した、例のパンゲア大陸である。
 ダンジョン等は、すなわちそこに滞在する者からエネルギーを搾取している。
 人ではない存在…獣や虫、更にそれよりも小さい生物などは、その対象外。
 勿論、一般的には生命そのものを吸収している。
 だが、トールは生かさず殺さずを基本とし、ダンジョンに人を住まわせることによる、継続的なエネルギー搾取を提唱した。
 それを証明するかのように、パンゲア立陸に大量の移民者をトールが住まわせたことで、日々のエネルギー収支は3人共に大幅な黒字となっている。 
 また、この大陸とパンゲア大陸の海の底をダンジョン領域によって繋ぐことで、転移陣をおくだけで、これまたお手軽に大量の冒険者も大陸間の距離など関係なく呼び込むことが出来た。
 収支的に大幅な黒字のダンジョンマスターとして安穏としていられるのは、トールヴァルドのおかげといっても過言ではない。
 今回の調査のためのダンジョン領域拡大も、それに必要なエネルギーはトールヴァルドが無償で負担してくれている。
 そんなトールヴァルドの許可も無く、勝手に自分達の収支にプラスになるからといって、人族の生活圏を取り込むのは、ダンジョンマスターとしてのルールに抵触するだけでなく、大きな借りのあるトールヴァルドに対して後ろめたい事は間違いない。

 意外と言っては失礼かもしれないが、モフレンダはそれを強く意識していたからからこそ、注意をしたのだが…モフリーナもボーディも、重々それは理解しているので、素直に従ったのだ。
 一時的に人族の生活圏を領域化してしまわねばならない事に関しては仕方がない事ではある。
「仕方がないのぉ。今は領域に取り込んで、調査終了後に元に戻すとするかや」
 なのでボーディのこの言葉には、誰も反対の意を示さなかった。
「そうですね…。取り合えずは調査を続行いたしましょう」
 モフリーナも、今は自らの矜持よりも、調査を優先することにしたようだ。
「…ひよこ…要再調査…」
 もフレンダは微妙に何かがずれている気がしないでもない。
 が、後々でちゃんと領域化を解除する事を再度確認しあった3人は、更に深く深く調査を進めるのであった。
しおりを挟む
感想 725

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

処理中です...