システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

死んでは駄目です！

　どこかで誰かたちが寸劇を演じている丁度その時、トールの執務室の扉がノックされた。
「あれ？　トールさま、またお仕事に集中しておられるんですか？　ノックしたんですけれ…ど…と、トールさま！？」
　ノックに対する返事が無かったため、メリルがそっと扉を開き覗き見た執務室の中では、トールが机に突っ伏して気絶していた。
「ちょ、トールさま、トールさま！？　だ、誰かーーーー！　トールさまが、死んでるーーーー！」
　この光景をトールが見たら、きっとこう突っ込んだことだろう。
　死んでねーよ！　と。
　その後、メリルの悲鳴に似た叫び声を聞きつけた屋敷中の人々がトールの執務室に殺到した。
　その人々を代表してなのかどうか分からないが、リリアがトールの首筋に指先をあて、手首を取り、
「脈はありますね…正常です。何らかの要因で気を失ったのでしょう。あまり頭を動かさない様に、ゆっくりとベッドへ運びましょう」
　慌てふためく人々を前に、実に冷静に診断を下し、テキパキと指示を出していた。
　その後、どこから持ってきたのか、ドワーフメイドが担架をさささっとトールが気を失っている執務机の横に置くと、イネスとユズキが、そっとそこにトールを横たえて、寝室へとそっと運んだ。
　寝室でベッドに横たえられたトールの服をそっと緩め、楽に呼吸が出来る様にした後、看護のためにメリルを残して、全員が部屋から出た。
　ベッドサイド…と、いうには大きすぎるベッドなので、横になったトールの横に座り込んだメリルは、そっと乱れたトールの髪を指先で整えながら、
「どうされたのでしょうか、トールさま…よほどお疲れだったのでしょうか…それともショックな内容の書類でも見たのでしょうか…」
　などとトール気絶の原因をぼんやりと考えていた。
　だが、自分含めた嫁ーずが連夜トールの精力を搾り取っている事実に関して、これっぽっちもその考えに到らない所などは、実に恐ろしい女だと言えるのではないだろうか。

　陽もとっぷりと暮れた頃、トールはベッドの上で目を覚ました。
　横にはイネスが横になっており、なにやらムニャムニャと寝言を言っている様であった。
「あれ？　何で俺、ベッドで寝てたんだ？」
　辺りを見回したトールは、ふと呟く。
　記憶をたどれば、確か書類の山に埋もれて、必死になってサインをしていた最中だった…ところで記憶が途切れている。
　おや？　っと首を傾げるトール。
　もしかして、あのあと何かが原因で気を失ったんだろう…そう考えたトールは、首を捻ったり頭をブンブンと振ったりしてみたが、特に問題がある様にも思えない。
　いや、むしろ頭も軽く調子が良い。
　トールがイネスを起こさない様、そっとベッドを抜け出して廊下に出ると、ちょうどイネスと看病を交代しようとやって来たミルシェとばったりと出会った。
「と、トールさま！　目覚められたんですね！　というか、お身体は大丈夫なんですか！？　」
　ミルシェが驚いたように…いや、驚いて大声をあげた。
「あ、うん。何だか迷惑かけたみたいでごめんね」
　そう謝ると、涙目でミルシェが、
「トールさま、死んでは駄目です！　死んでは駄目です！」
　めちゃくちゃに涙を流しながらトールに縋りついた。
　縋りつくミルシェにどう対処したものかとトールが考えていると、騒ぎを聞きつけた屋敷中の人々が集まって来た。
　全員が口々に、「今は安静に…」「大丈夫なのですか？」「吐き気はないですか？」「痛い所は…」「気分は…」と、寄って集ってトールに声を掛けるが、いきなりの事で混乱しているのか、「ああ、うん、大丈夫…気分はいいよ…」とだけ返事をする。
　まあ、先程まで気を失っていたのだから、あまり質問攻めなど非常識ではあるがいきなり身近な人が倒れて目覚めればこういった反応する事もあるだろう。
　だが、そこはやはり非常識な事。
　マチルダが、両手をパンパンと叩いて全員の注目を集めると、
「トールさまは目覚められたばかりです。色々と聞きたい事も掛けたい言葉も有るでしょうが、ここは静かにしましょう」
　と、この場の騒動を鎮めた。
　そして、ドワーフメイドの1人が、そっと囁く様にトールに声を掛けた。
「なんが食べるかや？」
　その言葉に、トールは小さく頷くいた。
　そして、何が原因で気を失ったのか、あの時の直前の出来事を思い出そうと、記憶を辿るのであった。