システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

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寂しそうな顔

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 さて、この暗がりにも目が慣れてきた所で、モフリーナが俺達を先導して奥へと進んだ。
 どうやら転送されて来た場所は、ちょっと広いロビー的な場所で、目的地は奥にある廊下の先の様だった。
 モフリーナが歩くたびに、左右の足元に明かりが灯る。
 ポッ…ポッ…ポッ…と順に点灯するライトは、キャンドルのような優しく淡い明かり。
 まるで、転生前に旅先で宿泊した旅館の庭園の様だ。
 確かあの時は…前世で嫁と新婚旅行に行った先のホテルで、ディナー後に庭園を散策したんだった。
 いい思い出なはずだけど、ずっと忘れてたなあ。
 最近、地球での記憶がちょっとずつ薄れてる気がする。
 どこそこに行った記憶ってのは確かに残ってるんだけど、もう顔とか思い出せなくなってきた。
 きっと、もう一度見ればはっきりと思い出せると思うんだけどなあ。

 そんな事をぼんやりと考えてた俺の顔を、メリルが覗き込んでいるのに気が付いた。
「ん? どうした、メリル?」
「いえ、あの…トール様、なんだか寂しそうなお顔をしておられましたので…」
 心配そうな顔でそう言いながら、俺の裾をそっと摘むメリル。  
 俺って、そんなに寂しそうな顔してた?
 心配顔のメリルに向かい、「大丈夫だよ」と、俺はニッコリ笑って小さく呟いた。

 ああ、もしかしたらそうだったかもしれないな。
 転生前の、それも前世での嫁との思い出が薄れて行く事を、俺は寂しく感じてたのかもしれない。
 最後は嫁に見限られて、離婚したってのにな。
 諦めなくてはいけないのに、諦め切れない気持ちを引きずってるらしい。
 もう二度とやり直す事なんて出来ないし、俺が地球で死んだ後も、子供達と健やかに過ごしたと聞いてた。
 だけど、きっと俺の心の中のどこかで未練たらたら引っかかってたのかもな。
 この世界に来てバタバタした日常を送ってたけど、前世の記憶を引き継ぐっていうのは、こんな感情も残しちゃうって事か。
 もう二度と戻る事は出来ない前世…過去なんだから、それはそれとしてもう記録として心の整理しなきゃな。
 今は俺を(多分)愛してくれてる嫁達も居る事だし、前世の様な過ちは犯したくないし、犯さない。
 この5人にしっかり愛情を注ごう…別の物は強制的に注がされてる気もするが…。
 俺って、本来は(性的に)あっさりしてるはずなんだけどなあ…色々とこってり濃厚背脂マシマシな気がする。
 振り返ると、他の嫁ーずもちょっと心配そう。
 ま、無言で歩く俺ってのも珍しいのか? 
 え? 寂しそうな背中してた?
 どこのおっさんだよ! って、前世合わせて60歳越えだから、おっさんかも…。
 大丈夫大丈夫と、軽く手を振って微笑むと、なぜかほっとした顔でにっこり笑ってくれる嫁達に、ちょっと気合を入れ直した。 

 そんな俺達の事など我関せずと…もしかしたら気付いていても、そっとしておいてくれたのかもしれないモフリーナは、無言で廊下を先導してくれていたのだが、やがて突き当りにあつ扉の前で立ち止まった。
「皆様、お疲れさまでした。この扉の先が目的地でございます」
 扉の前で振り返ったモフリーナが、目的地到着を宣言した。
 ごくりっ! とうとうこの時が来た…。
「中は少々明るいので、目が眩む可能性がございますので、目が慣れるまでの間、目を閉じて頂けるなどしてくださいませ」
 どうやら素体を製造している部屋は明るいらしいので、俺は薄目になって両手で目を庇った。
 モフリーナが頷いた所をみると、俺の後ろの全員が同じようにしているらしく、準備完了とばかりにモフリーナは、
「では、扉を開けますね…」
 そう言うと、そっと扉を両手でゆっくりと押し開いた。
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