システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

文字の大きさ
上 下
630 / 1,466

(番外編) リリアとユズキのこそこそ話

しおりを挟む
 とある日の午後、薄暗い食堂の片隅で、ユズキとリリアがなにやらコソコソと話をしていた。

「ふむふむ…では、ユズキさんの投稿小説の問題点は、特に山も谷も無く、平々凡々とした男のスローライフを題材にしたという点でしょうね」
 リリアはユズキに向かって、何やら気取った女教師の様な眼鏡をクイッと掛け直しながらそう言った。
「やはり、流行り物を題材にした方がウケは良いのでしょうかねえ」
 落ち込んだ様子のユズキがそう返すと、
「いえ、一概にそうとは言い切れません。私もトールヴァルド伯爵のスローライフと言いながら、ぜんぜんスローじゃないライフを題材にして小説を書きましたが、やはりウケは良く無かったですからね」
「なるほどぉ…この世界にも、小説のコンクール的な物があるんですね」
 ここでユズキは決定的な勘違いをしてしまっていたのだが、あえてリリアは間違いを正す様な事はしなかった。
 
 実は、ユズキは転移する前の日本で、こっそりとライトノベルを小説投稿サイトのコンクールや公募に出していたのだ。
 もちろん、ことごとく選から漏れていたのだが、その原因は独自の世界観を綴った物語だからだと思っている。
 もしも流行の追放物やざまあ物、もしくは成り上がり物やチーレム物や覚醒スキル無双物などを描いていたら入選したかもしれないと心の隅で考えていたが、それでも独自路線は譲りたくなかった。 
 どこかで見た様なストーリーや、掃いて捨てる程にありふれた様な設定は、絶対に書きたくなかったのだ。
 これはユズキの心情というか、信念だった。

「まあ…そうは言っても、誰もが理解しやすく憧れる内容というのは、それだけ需要があるという事なのです」
「分ります!」
 まだ女教師モードのリリアは、どうも彼女なりのウケる法則でも見つけたのだろうか、偉そうである。
 本当の事を言えば、ユズキと同じコンクールに投稿して落選しているのだが。
「つまり、大衆が望んでいのは、痛快でエロく分り易く、内容の薄っぺらい設定とストーリーなのです」
「ふむふむ…勉強になります!」
 一体、どんな勉強になるというのだろうか。
「そういう意味では、トールヴァルド伯爵のこれまでの歩みは、見事なまでのチート野郎であり、ハーレム野郎でありますから、ウケる要素は十分にあるはずなのですが…いかんせん、あの人の人生には山も谷も有りません」
「そうなんですか!?」
 まさかの自分達の主人の人生模様を聞いて驚くユズキに、
「ありません! これっぽっちも有りません! 良いですか、よくお聞きなさい。本当のチート野郎は、どんな困難であろうとも困難とは感じない…もしくは感じさせない物なのです。そうすると、読者はそんなチート野郎の物語に何を感じますか?」
「困難が困難でなくなる…つまり、どんな困難でも笑って踏みつぶす…あ! 山も谷も無い!」
 ユズキは、何かに気付いた。
「そうです! まるで無人の野を行くように。数万の敵の中でも歩みを止め無い、それが本当のチートです。強敵が現れてピンチに陥る主人公? それはもはやチートではありません。チート野郎を苦境に立たせる事が出来る敵役とは、それ即ちチート野郎なのです!」
 ドーーーン! とユズキに指を突き付けて、おかしな理論を強弁する女教師。
「お、おお! 確かに!」
 なぜか感銘を受けた様なユズキ。
「思い出してもみなさい、恐怖の大王との戦いを。何の苦労もせず、さくっと終わらせたでしょう?」
「うんうんうんうん!」
「あれが真実のチート野郎なのです!」
 もの凄いドヤ顔のリリア。
「言われてもれば、その通りかも!」
「恐怖の大王は、実際には多くの次元世界で、神をも恐怖させた超難敵なのです。ですが、貴方も見た様に、非常に残念なチョイ役でしかありませんでしたよね?」
 リリアの恐怖の大王への評価が酷すぎである。
「確かに、でっかいキノコのチョイ役でした!」
 ユズキも大概酷い。
「しかも嫁が5人もいて、サービスショットの一つも無い様な物語など、ハーレム物ではありません」
「まあ、奥様方がアレですからねぇ…」
 何故かユズキが遠い目をする。
「主人公がただ搾り取られるだけのハーレム物など、共感のきょの字も得られません」
「いや、まあ…リアルな物語を書いた所で…って事なんでしょうけど…」
「私も馬鹿でした。本物のチーレム野郎の物語など、所詮はこの程度なのです。山も谷も無いのです」
 トールの人生物語は、とことんリリアの中では平坦な物として認識されている様だ。

「それでは、これからどの様に物語を綴れば良いのでしょうかねぇ」
 ユズキ、異世界に転移してまでラノベを書いてどうしようというのか。
「実はですね、高貴なる人だけでなく、一般庶民の女性限定ではありますが、最近流行になっている物語があるのです」
「ほう!?」
 少し風向きが怪しくなって来た。
「さあ、これを読んでみなさい。王都で流行の小説の最新版です」
「随分と薄い本ですねえ…ってぇ!」
「実は奥様方が王都でこっそりとお求めになったものですが、私もとあるルートから取り寄せていたのです」
 ふふふふふ…と、怪しく微笑むリリア。
「こ、これ…て、び…びぃーえる物…」
 愕然としたユズキ。
「そう! 正しくBLです! 今度の題材は、リアルBLです! さあ、ユズキ君。あなたにはトールヴァルド様と愛し合う尊い権利を与えましょう! さあ、さあ、さあさあさあさあさあ!」
「い、いや、いや、いやいやいやいやいや!」

「いや、もう中継しなくていいから…これ以上は聞くに堪えない…っていうか、聞きたくねーわ!」
 トールヴァルドが、自室で絶叫した。
「いや~最初は興味本位で覗き見していたんですけど、だんだん話が怪しくなってきたので、これは是非ともお聞かせしなければならないと思いまして~」
「おまえ、本当にいい性格してるよな」
 はぁ…とため息一つ。
「良い性格だなんて、そんなに褒めても私の処女ぐらいしかさし出せませんよ?」
「褒めてねーわ! ってか、お前の処女なんているか! 一生大事に守っとけ!」
 いい性格と良い性格…まあ、仮名にしたら同じだが…
「本当は欲しくて欲しくてたまらないくせに~! 奥様からも許可は頂いてますから、さっさと据え膳くっちゃいなYO!」
「ぜ~ったいに、食わねーからな! あと、許可なんて取ってねーだろうが! メリルに告げ口すっぞ!」 
 サラは、酷く驚いた顔で、
「え? 大奥様から許可は取ってますよ?」
 などと宣わった。
「え、マジ?」
「大マジです」
 母さん、あんたって人は、何て奴に何て許可を出したんだ…………。

 今夜のアルテアン家も平和だった。
しおりを挟む
感想 725

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...