604 / 1,466
ヒルコ?
しおりを挟む
皇都からほど近い水場の片隅に、その不定形生命体は存在していた。
この世界では、その存在があまり知られていないだけで、かなり古くからその種族は存在していたらしい。
その生命体を構成している成分の、9割以上が水分である。
動物の様な筋組織は持ち合わせていないため、体内組織の水分量を調節し水圧により身体を動かすのだが、その動きは非常に緩慢である。
半球状の身体の裏側には、非常に長い無数の触手を持ってはいるが、触手自体には獲物を捕まえ拘束する様な力は無い。
偶然にも接近してきた獲物に絡みつき、それが持つ唯一の武器である毒針によって、獲物を麻痺させて捕食する。
脳や血管らしきものは、確認出来ない。
寿命は数十年から数百年とも言われてはいるが、定かでは無い。
食性は肉食ではあるが、長期間獲物が取れない場合は、植物などでも食べる事も有るらしい。
ほぼ生物の生存本能のままに生きているらしく、同種族同士であっても、捕食し合う事もあるという。
解剖や標本の為に捕まえた生体は、乾燥に弱く長期間乾燥させると、縮んで小さな蕾の様になる。
だが、水を与えると、また元の姿へと戻る。
繁殖方法は、どうやら自己分裂であると思われるが、実際には確認出来ていない。
餌が無くとも、水分が無くとも、長い期間耐える事が出来るが、体組織を一気に焼き払う様な炎であれば死滅する。
つまり、古の時代より謎に包まれていたこの生物の研究においては、ここに特記すべ新しい発見は無い。
水場の近くや深い森の中、背の高い草に覆われた草原など、地面が十分に湿り気を帯びた場所でこの生物を発見したら迷わず逃げるか、一気に生体を消滅させるほどの強い火力で焼き殺す事しか出来ない。
「多分ですが…私が読んだことのある昔の文献に載っていた生物ではないかと思います」
「何だか弱いのか強いのかわかりませんわね…」
マチルダが持つ知識の中から、該当する生物に元も近い物を引っ張り出してもらったのだが、それを聞いたメリルの感想はますます疑問が深まるばかりだというものった。
「なるほど…半球状の不定形に近い生命体って事か」
俺は、話を聞いた限りだと完全な不定形生物だと思ったんだが、どうもマチルダの分析では違うらしい。
「ええ。もしも不定形な生物…例えばスライムでしたら、確かに色々な姿や形になれますが、大きさには限界があります」
ほむほむ…
「野生のスライムでしたら非常に外皮は薄いので、体内の組織が肥大すると、それを支えきれずに…」
「破裂するのか」
マチルダの話の内容から、俺がそう答えると、
「その通りです。ですから一般的な野生のスライムでしたら、最大高は人の腰ぐらいまでです」
ふむふむ…その程度の大きさなのか。
いや、それでも出合ったら怖いだろうけ…ど…ん?
「野生の?」
「はい。モフリーナさんのダンジョンで改良されたスライムであれば、この限りではありません」
そりゃそうか。
スライムの弱点なんて、きっちりカヴァーしてるはずだもんな。
「んで、そいつって何?」
「文献によりますと、通称は山クラゲとか森クラゲと言われていますが、正式名称はヒルコです」
まさか、両親の名前は伊耶那岐命と伊耶那美命じゃあるまいな?
そうだ、そう言えば…
『モフリーナ? ちょっと来れるかな?』
通信の呪法具で、話題に上ったダンジョンマスター・モフリーナを呼び出す。
『はい、如何なされましたか?』
出るの早いな…待ってたのか?
『いや、ちょっと緊急事態で力を借りたいんだ…さっき別れた所まで来てくれるかな』
『はい、少しお待ちください』
お待ちくださいと聞こえた直後に、目の前にモフリーナが現れた。
いや、全然待ってませんけど!?
「どうなされましたか?」
そう尋ねるモフリーナに、これまでの概略を伝えると、
「ん…確かに、領域を伸ばすと、この街の向こう側に何か大きな異物が…」
目を閉じたモフリーナが、領域を広げているのか、探索の為の何かをしているのかは分からないが、問題の奴を見つけた様だ。
「何でしょう…良く分からないものが確かに居ますね…あ、地中にも身体がある様です…」
地中にも体が隠れてるって事は、予想よりも遥かにデカいかもな。
「ん~…もしかして、そいつをダンジョン領域まで引っ張り出したら、モフリーナが処分できるかな?」
だったら楽なんだけど。
「あれを何処かに飛ばしたとして、その先で何が起こるか予測できないので、出来れば止めたい所なんですが…」
確かにそんな奴を懐に入れたくはないだろうけど。
「例えば、ダンジョン島まで続く海の上の領域に放り出すとか」
「あれは、海で溺れ死ぬんですか?」
………そうだった、死ぬわけ無いよな。
「ええっと…トール様、モフリーナさん。海の上ではまず死なないかと。それよりも分裂して繁殖されたりでもしたら…」
マチルダが言い難そうに言ったが、つまりは海がそいつだらけになるって事か…
「んじゃ、やっぱ俺たちで何とかするしかないって事か…はぁ…」
今度は巨大スライム? クラゲ?
もう、マジでいい加減にして欲しい…きくらげなら食えたのに…
この世界では、その存在があまり知られていないだけで、かなり古くからその種族は存在していたらしい。
その生命体を構成している成分の、9割以上が水分である。
動物の様な筋組織は持ち合わせていないため、体内組織の水分量を調節し水圧により身体を動かすのだが、その動きは非常に緩慢である。
半球状の身体の裏側には、非常に長い無数の触手を持ってはいるが、触手自体には獲物を捕まえ拘束する様な力は無い。
偶然にも接近してきた獲物に絡みつき、それが持つ唯一の武器である毒針によって、獲物を麻痺させて捕食する。
脳や血管らしきものは、確認出来ない。
寿命は数十年から数百年とも言われてはいるが、定かでは無い。
食性は肉食ではあるが、長期間獲物が取れない場合は、植物などでも食べる事も有るらしい。
ほぼ生物の生存本能のままに生きているらしく、同種族同士であっても、捕食し合う事もあるという。
解剖や標本の為に捕まえた生体は、乾燥に弱く長期間乾燥させると、縮んで小さな蕾の様になる。
だが、水を与えると、また元の姿へと戻る。
繁殖方法は、どうやら自己分裂であると思われるが、実際には確認出来ていない。
餌が無くとも、水分が無くとも、長い期間耐える事が出来るが、体組織を一気に焼き払う様な炎であれば死滅する。
つまり、古の時代より謎に包まれていたこの生物の研究においては、ここに特記すべ新しい発見は無い。
水場の近くや深い森の中、背の高い草に覆われた草原など、地面が十分に湿り気を帯びた場所でこの生物を発見したら迷わず逃げるか、一気に生体を消滅させるほどの強い火力で焼き殺す事しか出来ない。
「多分ですが…私が読んだことのある昔の文献に載っていた生物ではないかと思います」
「何だか弱いのか強いのかわかりませんわね…」
マチルダが持つ知識の中から、該当する生物に元も近い物を引っ張り出してもらったのだが、それを聞いたメリルの感想はますます疑問が深まるばかりだというものった。
「なるほど…半球状の不定形に近い生命体って事か」
俺は、話を聞いた限りだと完全な不定形生物だと思ったんだが、どうもマチルダの分析では違うらしい。
「ええ。もしも不定形な生物…例えばスライムでしたら、確かに色々な姿や形になれますが、大きさには限界があります」
ほむほむ…
「野生のスライムでしたら非常に外皮は薄いので、体内の組織が肥大すると、それを支えきれずに…」
「破裂するのか」
マチルダの話の内容から、俺がそう答えると、
「その通りです。ですから一般的な野生のスライムでしたら、最大高は人の腰ぐらいまでです」
ふむふむ…その程度の大きさなのか。
いや、それでも出合ったら怖いだろうけ…ど…ん?
「野生の?」
「はい。モフリーナさんのダンジョンで改良されたスライムであれば、この限りではありません」
そりゃそうか。
スライムの弱点なんて、きっちりカヴァーしてるはずだもんな。
「んで、そいつって何?」
「文献によりますと、通称は山クラゲとか森クラゲと言われていますが、正式名称はヒルコです」
まさか、両親の名前は伊耶那岐命と伊耶那美命じゃあるまいな?
そうだ、そう言えば…
『モフリーナ? ちょっと来れるかな?』
通信の呪法具で、話題に上ったダンジョンマスター・モフリーナを呼び出す。
『はい、如何なされましたか?』
出るの早いな…待ってたのか?
『いや、ちょっと緊急事態で力を借りたいんだ…さっき別れた所まで来てくれるかな』
『はい、少しお待ちください』
お待ちくださいと聞こえた直後に、目の前にモフリーナが現れた。
いや、全然待ってませんけど!?
「どうなされましたか?」
そう尋ねるモフリーナに、これまでの概略を伝えると、
「ん…確かに、領域を伸ばすと、この街の向こう側に何か大きな異物が…」
目を閉じたモフリーナが、領域を広げているのか、探索の為の何かをしているのかは分からないが、問題の奴を見つけた様だ。
「何でしょう…良く分からないものが確かに居ますね…あ、地中にも身体がある様です…」
地中にも体が隠れてるって事は、予想よりも遥かにデカいかもな。
「ん~…もしかして、そいつをダンジョン領域まで引っ張り出したら、モフリーナが処分できるかな?」
だったら楽なんだけど。
「あれを何処かに飛ばしたとして、その先で何が起こるか予測できないので、出来れば止めたい所なんですが…」
確かにそんな奴を懐に入れたくはないだろうけど。
「例えば、ダンジョン島まで続く海の上の領域に放り出すとか」
「あれは、海で溺れ死ぬんですか?」
………そうだった、死ぬわけ無いよな。
「ええっと…トール様、モフリーナさん。海の上ではまず死なないかと。それよりも分裂して繁殖されたりでもしたら…」
マチルダが言い難そうに言ったが、つまりは海がそいつだらけになるって事か…
「んじゃ、やっぱ俺たちで何とかするしかないって事か…はぁ…」
今度は巨大スライム? クラゲ?
もう、マジでいい加減にして欲しい…きくらげなら食えたのに…
1
お気に入りに追加
1,833
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。
成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?
後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。
目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。
日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。
そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。
さて、新しい人生はどんな人生になるのかな?
※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします!
◇◇◇◇◇◇◇◇
お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。
執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。
◇◇◇◇◇◇◇◇
9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます!
9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる