システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

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ヤバいかも!

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「おかしいですわね…」
 風に溶け消えそうな小声で、ぽつりと呟いた言葉を拾い上げたのはミルシェだった。
「メリルさん…どうしたの?」
 そう問いかけたミルシェではあるが、やはり彼女自身も違和感に気付いていた。
「…これは確認した方が良いかもしれません…マチルダさーん!」
 後方を振りかえり、イネスと共にゾンビを相手取っていたマチルダへと、メリルは声を掛けた。
 戦闘とは言っても、あくまでも意識も持たず動きも遅いゾンビなので、後の事をイネスに任せたマチルダは、2人の元へと走った。
「どしたのですか、メリルさん」
 小走りで駆けよったマチルダが、小首を傾げながら、自分を呼んだ理由を訊ねる。
「この街に入ってから、どうも違和感…いえ、違いますわね…嫌な予感がするのです。あなたの力で、この街を確認してください」
「なるほど…了解しました。では…【パープルライト・ドミネーター】!」
 その掛け声と呼応するかのように、瞬時にアメジスト色の輝きがマチルダの身体全体を包み込んだ。
 アメジストの光は、マチルダの身体を離れてゆっくりと空へと昇って行く。
「この街を上空から走査いたしますので、しばしお待ちを…」
 マチルダが次に言葉を紡ぐまで、その場でトールの妻達は黙って待っていた。
 …いや、イネスだけは元気に暴れていた。  

 上空のアメジストの光は一定の高度に到達すると、無数の小さな光球へと弾ける様に別れて、街中へと散って行った。
 この光球には実体が無いがゆえに、光りが通りさえすれば、あらゆる場所に入り込む事が出来る。
 ほんの小さな隙間でも、その先まで見る事が出来る。
 光を通す事が出来ても、その向こうを見る事が出来ないのは、水で阻まれた場所だけ。
 川の中、湖の中、海の中…彼女がこの能力で見る事が出来ないのは、そんな場所だけなのである。
 妖精や違い実体がないため、敵が居ようと関係が無く、精霊と違い気分や魔素の濃度に左右されたりもしない。
 そして、この無数の光球が同時に送って来る大量の情報を、瞬時に分析・処理出来る思考能力の加速こそが、能力の真骨頂であり、今まで使う機会が無かったマチルダの掃除の特殊能力だ。

「…これは…」
 マチルダがその膨大な情報の海から拾い上げた物は、マチルダの予想をかるく凌駕していた。 
「何かわかりまして?」
 常に沈着冷静なマチルダの喫驚の声に、何か重要な情報をマチルダが握った事を確信したメリルが問いかけた。
「メリルさん…全員を集めましょう…いえ、トール様やユズキ達とも合流しなければ…」
 マチルダの声が、少しだけ震えている事に気が付いたメリルは、即座に判断を下した。
「全員、集合! 今より、トール様と合流します。場所は…突入した門の外…で、良いですか? まだ時間は有りますか?」
 マチルダに確認する様に顔を向けたメリルに、
「ええ、ゆっくりは出来ませんが、集合する時間は十分にあります」
 そうはっきりと答えた。
「分りました。イネスさん、さっさと戻って来なさい! トール様の元に戻りますわよ!」
 1人でゾンビを相手に剣を振るっていたイネスが、渋々戻って来る。
「マチルダさん。あなたが知り得た情報は、トール様の元に戻った時に聞かせて頂きます」
 そう言うと、メリルは、
「さあ、すぐに戻りましょう!」
 先頭に立って歩き始めた。
 焦るでも慌てるでもなく、ゆっくりしっかりと。
 しかし最短距離で真っすぐに。
 行く手を遮るゾンビは倒しつつ、それでも歩みを止める事なく、トールの妻を率いて門を目指した。


「ねえ、柚希…コレ、おかしくない?」
 調子よく巨大なランスを振りまわして暴れていた柚夏だったが、どうも何かがおかしいと感じ始めていた。
「おかしいって?」
 領の拳に纏わせた真っ赤なエネルギーを、拳を振るう事で衝撃波として飛ばしてゾンビを粉砕していた柚希が答えた。
「敵がさあ…少なくない?」
「そう言えば、確かに…もしかして…チェンジ! ペガサス・モード!」
 柚希の掛け声と共に、灼熱の闘士プロキシマは、ガシャンガシャンと追加装甲が何処からともなく身体を覆い、真っ赤な天馬へと変形をする。
「おお! ひっさびさ!」
 それを見た柚夏は、許可を得るまでも無く、ペガサスになった柚希に飛び乗る。
「ちょ! 乗るなら乗るって言ってよね!」
 いきなり飛び乗られた柚希が文句を言うが、
「そう? なら夜に乗るのは止めようかしら?」
 夜にどう乗ると言うのか…深くツッコんではいけない。
「……ちょっと飛ぶからね?」
「ねぇねぇ、夜に乗るのは止めた方がいい?」
 天馬の首に当たる部分にある、変身した柚希の上半身に抱きつきながら囁く様に訊ねる柚夏に、
「…止めない方が良い…」
 辛うじてそう呟いた。
 その答えに満足したのか、柚夏は、
「そう? それじゃ、またいっぱいしてあげるからね」
 柚希の頭を、ポンポンとやさしく叩いた。
 そんな柚夏に言葉を返す事も無く、柚希は空へと舞い上がった。
 そして、皇都が見渡せる高さまで上がると、
「あ…マチルダさんが、情報端末を飛ばしてるね…って事は、やっぱり何か違和感を…感じてるの…柚夏!」  
 遠くにパープルの無数の光球を見つけた柚希だったが、そのさらに向こうに異変を見つけた。
「柚希! すぐに戻ろう! ヤバいかも!」
 同時に柚夏にもそれは見えたらしく、即座に戻る事を提案した。
「うん! このまま伯爵様の所に行くよ!」
 空中で身をひるがえし、しがみ付く柚夏を気遣いつつも、全力で街門へと柚希は向かった。

 ちなみに…トールの嫁パーティーの後ろにはアーデが静々と歩いて、柚希と柚夏パーティーの後ろのアームは空を飛んで、同じように撤退をしていた。
 吸いとーる君を手に、油の詰まった樽を背負いながら…不憫である。
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