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それは…
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それは遥かな昔からそこに居た。
まだ、神がこの星を創り出し、この大いなる大地を生み出した時、それの居場所がそこに出来たからだ。
大いなる大地に、それの糧になる生き物は、まだ遥かな未来まで出現しない。
神がそう教えてくれたからだ。
また、神はこうも教えてくれた。
糧となる生き物がこの大地を大手を振って闊歩し、それらが繁栄するまでは、余計な力は使わずに休んでいる様にと。
なので、それは神に与えられた棲家で、休眠する事にした。
やがてこの大いなる大地を自らの糧とする日が来るのを夢に見つつ、永い永い眠りへと…
一体どれほどの時間を寝ていたのだろうか?
それは、不思議な感覚で、不意に目を覚ました。
寝る前に、余計な災害などで起こされぬ様、棲家の入り口を塞いでいたためか、外の様子を知る事が出来なかった。
あれからどれほどの年月が経ったのか、それにも分からない。
ただ理解出来る事は、この不思議な感覚は、己の糧となる物の出す気配だと言う事だけ。
ただ、その糧がどれほどの数なのかが分からない。
気配は微妙に揺らぎ澱み流れている。
それが見つめていたのは、その気配のする方向。
つまり、それの寝床の天井。
土色をした天井が透けて向こう側が見えるなどと言う事は、普通は無い。
しかしそれの力であれば、己の棲家であれば、己の力の及ぶ範囲であれば、その先を見る事も出来るはずだ。
何せ眠りについた時、大いなる大地にはそれしか居なかったのだから、棲家はただの穴であったはずだし、その穴の出入り口を埋めてしまったとはいえ、向こう側は神の創りしこの星の空のはず。
今は蒼天広がる昼なのか、星々の瞬く夜なのか…それは少しだけわくわくした気分で天井の向こうを心に描いた。
そして、それは見てしまった。
天井の向こう側にある世界を。
同じ規格で揃えられた石が綺麗に並べられ敷き詰められていた。
その向こうには、糞尿や汚水、生き物やその臓腑と思われる物が澱み、時折流れて来る水でそれらは押し流される。
そしてまた汚水が澱み溜まり流される…
雄大な蒼天でも、壮大な星空でもない、ただの汚水の流れを見たそれは、絶望した。
神の言葉の通り寝ている間に、己の棲家の上には、確かにそれの糧となる物が繁栄した様だ。
だが、それらがそれに齎した物は、この吐き気を催す様な光景だった。
神は、何故この様な試練を与えたのか。
それが自らの力の及ぶ範囲を広げるべく、四方八方へと力の糸を伸ばそうとしたが、何かに遮られそれは叶わなかった。
原因は、それが住む場所は大きな街の地下にあり、すでに糧達によって広げられてしまっており、四方八方が糧達の範囲となっていたからだ。
その事実を知ってしまったそれは、ただじっと耐えた。
真下であれば範囲を広げる事が出来るかもしないが、それはしたくなかった。
自らの糧を呼び込むための入り口が出来ない以上、下に広げた所で意味は無い。
尤も、この時に大きく地下まで範囲を広げてから、横に伸ばそうと考えていたら、もしかしたら結果は違った物になっていたかもしれない。
だが、それは力を持ってはいるし、生れてからかなりの年月を経ているとは言っても、所詮は経験というものを持たない、赤子の様な物。
ただ、外を、空を渇望する事しか、考える事は出来なかったのである。
それは、耐えて耐えて、その薄暗く悍ましい汚水の底を見続けた。
とある時、とうとうそれは希望となるかもしれない物を見つけた。
汚水の中で糧となる物達の臓腑に喰らいつき、必死に生きようとしている物達を。
ここで、初めて神への通信が途絶えている事に気付く。
確かに神とは通信が出来ていたはずである。
無論、まだ生れてから何の功績も上げた事も無い身では、己から神へと通信を繋げる事など着ない事は承知している。
しかし、己が目覚めたのであれば、神から通信が来てしかるべきはず。
それが無いのは、もしやこの汚水が原因なのかもしれない。
なれば、何としてでも神と話す事が出来る場所まで移動しなければ。
そして、通信が来れば、神に問わねばならない。
何故、この様な仕打ちをするのか…と。
その為には、何としても範囲を広げなければ。
例え、それが飛び地となっても構わない。
そのためにも、どうにかして、己の力の糸を伸ばす手段を得なければ。
このまま入り口を開けてしまえば、頭上の汚水が棲家に流れ込んでくるだろう。
それから逃げる刻があれば良いが、もしもそれが出来なかったら、何も出来ぬまま汚水の底に沈んでしまう事となる。
絶対にそれだけは嫌だった。
よくよく観察してみると、綺麗に敷き詰められた汚水の底の石にも、少しだけ隙間がある。
それを発見した時、己の中にある力の一端を思い出した。
外を動く糧達に、己の範囲の一部を持たす事が出来れば、範囲を広げる事が出来ると言う事に。
その隙間に、臓腑に喰らいつく物がやって来れば、それに範囲の何かを喰わせて糸を伸ばす事が出来るはずだ。
ただ、範囲の糸が付いた物を手渡すのであれば、範囲を広げるだけでしかない。
しかし、もしも糸をそいつ等の体内にまで入れる事が出来れば、それ自体を操る事も出来る。
だが、伸ばせる糸も広げられる範囲も、現在保有する力ではそんなに広くない。
なので、大きな賭けではある。
もしも何もしないのであれば、この星が朽ちるまで再び休眠するつもりだった。
そして、長い長い時間、汚水の底を見続けていたそれに、転機が訪れる。
石の隙間に、1匹の白い何かが潜りこんで来たのだ。
そして、隙間の底にある、それの範囲へと白い何かは到達した。
白い何かは己の巣を作ろうとしているのだろうか? それの力の及ぶ場所をカリカリと口で掘っていた。
これに賭けるしかないと、そいつが食んでいる場所に糸を付けた。
そして、白い何かは、糸を喰った。
それがこの悲劇の始まりだった。
まだ、神がこの星を創り出し、この大いなる大地を生み出した時、それの居場所がそこに出来たからだ。
大いなる大地に、それの糧になる生き物は、まだ遥かな未来まで出現しない。
神がそう教えてくれたからだ。
また、神はこうも教えてくれた。
糧となる生き物がこの大地を大手を振って闊歩し、それらが繁栄するまでは、余計な力は使わずに休んでいる様にと。
なので、それは神に与えられた棲家で、休眠する事にした。
やがてこの大いなる大地を自らの糧とする日が来るのを夢に見つつ、永い永い眠りへと…
一体どれほどの時間を寝ていたのだろうか?
それは、不思議な感覚で、不意に目を覚ました。
寝る前に、余計な災害などで起こされぬ様、棲家の入り口を塞いでいたためか、外の様子を知る事が出来なかった。
あれからどれほどの年月が経ったのか、それにも分からない。
ただ理解出来る事は、この不思議な感覚は、己の糧となる物の出す気配だと言う事だけ。
ただ、その糧がどれほどの数なのかが分からない。
気配は微妙に揺らぎ澱み流れている。
それが見つめていたのは、その気配のする方向。
つまり、それの寝床の天井。
土色をした天井が透けて向こう側が見えるなどと言う事は、普通は無い。
しかしそれの力であれば、己の棲家であれば、己の力の及ぶ範囲であれば、その先を見る事も出来るはずだ。
何せ眠りについた時、大いなる大地にはそれしか居なかったのだから、棲家はただの穴であったはずだし、その穴の出入り口を埋めてしまったとはいえ、向こう側は神の創りしこの星の空のはず。
今は蒼天広がる昼なのか、星々の瞬く夜なのか…それは少しだけわくわくした気分で天井の向こうを心に描いた。
そして、それは見てしまった。
天井の向こう側にある世界を。
同じ規格で揃えられた石が綺麗に並べられ敷き詰められていた。
その向こうには、糞尿や汚水、生き物やその臓腑と思われる物が澱み、時折流れて来る水でそれらは押し流される。
そしてまた汚水が澱み溜まり流される…
雄大な蒼天でも、壮大な星空でもない、ただの汚水の流れを見たそれは、絶望した。
神の言葉の通り寝ている間に、己の棲家の上には、確かにそれの糧となる物が繁栄した様だ。
だが、それらがそれに齎した物は、この吐き気を催す様な光景だった。
神は、何故この様な試練を与えたのか。
それが自らの力の及ぶ範囲を広げるべく、四方八方へと力の糸を伸ばそうとしたが、何かに遮られそれは叶わなかった。
原因は、それが住む場所は大きな街の地下にあり、すでに糧達によって広げられてしまっており、四方八方が糧達の範囲となっていたからだ。
その事実を知ってしまったそれは、ただじっと耐えた。
真下であれば範囲を広げる事が出来るかもしないが、それはしたくなかった。
自らの糧を呼び込むための入り口が出来ない以上、下に広げた所で意味は無い。
尤も、この時に大きく地下まで範囲を広げてから、横に伸ばそうと考えていたら、もしかしたら結果は違った物になっていたかもしれない。
だが、それは力を持ってはいるし、生れてからかなりの年月を経ているとは言っても、所詮は経験というものを持たない、赤子の様な物。
ただ、外を、空を渇望する事しか、考える事は出来なかったのである。
それは、耐えて耐えて、その薄暗く悍ましい汚水の底を見続けた。
とある時、とうとうそれは希望となるかもしれない物を見つけた。
汚水の中で糧となる物達の臓腑に喰らいつき、必死に生きようとしている物達を。
ここで、初めて神への通信が途絶えている事に気付く。
確かに神とは通信が出来ていたはずである。
無論、まだ生れてから何の功績も上げた事も無い身では、己から神へと通信を繋げる事など着ない事は承知している。
しかし、己が目覚めたのであれば、神から通信が来てしかるべきはず。
それが無いのは、もしやこの汚水が原因なのかもしれない。
なれば、何としてでも神と話す事が出来る場所まで移動しなければ。
そして、通信が来れば、神に問わねばならない。
何故、この様な仕打ちをするのか…と。
その為には、何としても範囲を広げなければ。
例え、それが飛び地となっても構わない。
そのためにも、どうにかして、己の力の糸を伸ばす手段を得なければ。
このまま入り口を開けてしまえば、頭上の汚水が棲家に流れ込んでくるだろう。
それから逃げる刻があれば良いが、もしもそれが出来なかったら、何も出来ぬまま汚水の底に沈んでしまう事となる。
絶対にそれだけは嫌だった。
よくよく観察してみると、綺麗に敷き詰められた汚水の底の石にも、少しだけ隙間がある。
それを発見した時、己の中にある力の一端を思い出した。
外を動く糧達に、己の範囲の一部を持たす事が出来れば、範囲を広げる事が出来ると言う事に。
その隙間に、臓腑に喰らいつく物がやって来れば、それに範囲の何かを喰わせて糸を伸ばす事が出来るはずだ。
ただ、範囲の糸が付いた物を手渡すのであれば、範囲を広げるだけでしかない。
しかし、もしも糸をそいつ等の体内にまで入れる事が出来れば、それ自体を操る事も出来る。
だが、伸ばせる糸も広げられる範囲も、現在保有する力ではそんなに広くない。
なので、大きな賭けではある。
もしも何もしないのであれば、この星が朽ちるまで再び休眠するつもりだった。
そして、長い長い時間、汚水の底を見続けていたそれに、転機が訪れる。
石の隙間に、1匹の白い何かが潜りこんで来たのだ。
そして、隙間の底にある、それの範囲へと白い何かは到達した。
白い何かは己の巣を作ろうとしているのだろうか? それの力の及ぶ場所をカリカリと口で掘っていた。
これに賭けるしかないと、そいつが食んでいる場所に糸を付けた。
そして、白い何かは、糸を喰った。
それがこの悲劇の始まりだった。
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