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皇帝の見た物は…
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真なる神とは、斯くも非情であり無情なのか…
遠く空に浮かぶ白い城の様な物が、神々の創りし物であるという事は、頭では理解出来ていた。
だが、そんな物であっても、我が威の前であれば平伏すはずはずであると、疑いもせず信じていた。
父を母を兄を姉を弟を妹を、我に繋がる血筋の者達を、ある者は謀殺し、ある者は毒殺し、ある者は罪を問うて処刑し、そして我自らの手でもって屠った。
そして手に入れた、皇帝の地位。
誰もが我の前に跪き、そして我の言葉に従った。
国教であった大地神への信仰は、その日のうちに廃止した。
教会関係者は、次の日に1人残らず処刑した。
毎夜の様に夢枕に立ち、我を導いて来た暗黒神様のみが、我の心の支え。
暗黒神様の為に、大地神の教会の色を塗り替えた。
それまで真っ白だった壁や床は、全て暗黒神様が喜んでくれるように黒くした。
我には神の加護がある。
だからこそ、この大陸ごとき統一できるはずなのだ。
暗黒神様は、我の男の尊厳を封印された。
この股間の物は、今は排尿にしか役に立たない。
暗黒神様は、この大陸を統一した時、我が運命の女神に出合う事を示唆された。
きっと、その時に男としての尊厳を取り戻せる事が出来るはずだ。
大陸の片隅の平民上りの貴族の息子が、5人もの美姫を娶ったと、暗黒神様は仰った。
何故だ? 何故、何の力も持たない下賤な者に、美姫が5人も嫁いだんだ?
そうか、そ奴はこの世界の敵なのだ。
だからこそ、暗黒神様は兵を挙げよ、あ奴を討てと神託の為に夢枕に立ったのだ。
だからこそ、我の尊厳を封じたのだと、大願を成就した時まで封印したのだと思っていた。
あ奴を倒すため、小国に攻めいり、降し、併呑し、更なる進撃を続けねばならないのに、何故だ!?
進軍すればするほど、兵達は疲弊していくでは無いか。
歩みも遅くなり、降した国々の民は、我を受け入れることは無かった。
そして、とうとうこの地で、我軍は崩壊した。
あの天に浮かぶ美しい4人の女神の言葉によって。
だが、我が暗黒神様からは、何の神託も無い。
なればこそ、あの女神を討たねばならぬというのに、兵達は、我軍は左右に別れていくではないか。
目のまでに真っすぐな道が出来た。
鎧や剣が無数に転がり散らばりながらも、真っすぐ敵へと繋がる道が。
そうか、これこそが暗黒神様の御力なのだ!
真っすぐに敵を討てという、お導きなのか!
神罰を下すだと? 神を詐称する奴らの言葉など、恐れはせぬ!
我に従う者共もまだまだ居るのだ!
いざ行かん! 暗黒神様の御導きに従って、我が怨敵を討て!
我軍のど真ん中に、空から無数の星々が降りそそぎ、多くの兵が下敷きとなり、息絶えた。
我軍の前方に、巨大な光の柱が出現し、大地ごと兵が消滅した。
丸い獣耳を頭に付けた女神とやらが、
『元々は我の力が足りず、暗黒神などと言う紛い物に惑わされた民たちです…どうか…お怒りを御鎮め下さい…』
そう言って神罰を止めてくれた様だが、すでに我軍は壊滅した後だった。
あの恐ろしい神罰がもう来ないのか…と思った時だった。
『うむ、大地神の申す事はもっともである。では、ここから後は人同士で決めさせようぞ。それであれば文句はあるまい』
一際美しい女神がそう言うと、大地神と呼ばれた女神とやらは、
『ネス様の御心のままに…』
決して我が助かった訳では無かった。
待ち構えた敵と戦わねばならなくなっただけだ。
「我らが聖なるネス様の御言葉ぞ! 皆の者、進軍だ!」
遥か彼方に見える敵軍の総大将と思しき男の声が、はっきりと聞こえた。
逃げ場はないのか? 元来た道を引き返せばよいのか?
足よ…我の足よ、動け! 動くのだ!
敵軍はわずかばかりの数しか居ない。
しかし先頭を走る、黒光りする鎧の大男は、その手に持つ巨大な剣を軽々と振るい、我軍の兵達を切り裂いていく。
1振りで数名の兵の命が散って行く。
その、暴れ狂う嵐のごとき男は、走る速度を落とす事なく、我軍の真ん中を突き進んで来る。
足よ、動け! 逃げねば!
あの男から、鬼神から逃げねば!
しかし、ついぞ我の足が動くことは無かった。
鬼神が兵を掻き分け、切り倒し目の前までやって来た。
もう逃げる事は出来ない…
「その鎧の紋章…皇国の将とお見受けいたす。いざ、尋常に勝負!」
身体がまるで岩になったかの様に、動かす事が出来なかった。
いや、もしかすると、神罰を目にした時から、この状態だったのかもしれない。
目だけは逃げ場を探そうと、左右に動かせた。
身体は動かせないのに、膝だけはガクガクと揺れていた。
そして口も動かず、言葉も発せ無かった。
「ふむ? 恐怖で身体が動かぬか。我が子、トールとは大違いよな」
すぐ傍までやって来ていた騎士が、苦笑いしながらそれに答えた。
「トールヴァルド卿は別格ですよ。何せ使徒様ですし。そもそも5歳で初陣でしたっけ? こいつ等とは、物が違いますよ、物が」
…使徒だと…そうか、この鬼神は、暗黒神様が仰っていた奴の父親か…
「確かにそうだな。では仕方がない。その首、ヴァルナル・デ・アルテアンが貰い受ける! 覚悟!」
最後に見たのは、迫りくる巨大な剣と、それを振るう鬼神の顔だった。
そこで我の意識は途絶えた。
永久に…。
遠く空に浮かぶ白い城の様な物が、神々の創りし物であるという事は、頭では理解出来ていた。
だが、そんな物であっても、我が威の前であれば平伏すはずはずであると、疑いもせず信じていた。
父を母を兄を姉を弟を妹を、我に繋がる血筋の者達を、ある者は謀殺し、ある者は毒殺し、ある者は罪を問うて処刑し、そして我自らの手でもって屠った。
そして手に入れた、皇帝の地位。
誰もが我の前に跪き、そして我の言葉に従った。
国教であった大地神への信仰は、その日のうちに廃止した。
教会関係者は、次の日に1人残らず処刑した。
毎夜の様に夢枕に立ち、我を導いて来た暗黒神様のみが、我の心の支え。
暗黒神様の為に、大地神の教会の色を塗り替えた。
それまで真っ白だった壁や床は、全て暗黒神様が喜んでくれるように黒くした。
我には神の加護がある。
だからこそ、この大陸ごとき統一できるはずなのだ。
暗黒神様は、我の男の尊厳を封印された。
この股間の物は、今は排尿にしか役に立たない。
暗黒神様は、この大陸を統一した時、我が運命の女神に出合う事を示唆された。
きっと、その時に男としての尊厳を取り戻せる事が出来るはずだ。
大陸の片隅の平民上りの貴族の息子が、5人もの美姫を娶ったと、暗黒神様は仰った。
何故だ? 何故、何の力も持たない下賤な者に、美姫が5人も嫁いだんだ?
そうか、そ奴はこの世界の敵なのだ。
だからこそ、暗黒神様は兵を挙げよ、あ奴を討てと神託の為に夢枕に立ったのだ。
だからこそ、我の尊厳を封じたのだと、大願を成就した時まで封印したのだと思っていた。
あ奴を倒すため、小国に攻めいり、降し、併呑し、更なる進撃を続けねばならないのに、何故だ!?
進軍すればするほど、兵達は疲弊していくでは無いか。
歩みも遅くなり、降した国々の民は、我を受け入れることは無かった。
そして、とうとうこの地で、我軍は崩壊した。
あの天に浮かぶ美しい4人の女神の言葉によって。
だが、我が暗黒神様からは、何の神託も無い。
なればこそ、あの女神を討たねばならぬというのに、兵達は、我軍は左右に別れていくではないか。
目のまでに真っすぐな道が出来た。
鎧や剣が無数に転がり散らばりながらも、真っすぐ敵へと繋がる道が。
そうか、これこそが暗黒神様の御力なのだ!
真っすぐに敵を討てという、お導きなのか!
神罰を下すだと? 神を詐称する奴らの言葉など、恐れはせぬ!
我に従う者共もまだまだ居るのだ!
いざ行かん! 暗黒神様の御導きに従って、我が怨敵を討て!
我軍のど真ん中に、空から無数の星々が降りそそぎ、多くの兵が下敷きとなり、息絶えた。
我軍の前方に、巨大な光の柱が出現し、大地ごと兵が消滅した。
丸い獣耳を頭に付けた女神とやらが、
『元々は我の力が足りず、暗黒神などと言う紛い物に惑わされた民たちです…どうか…お怒りを御鎮め下さい…』
そう言って神罰を止めてくれた様だが、すでに我軍は壊滅した後だった。
あの恐ろしい神罰がもう来ないのか…と思った時だった。
『うむ、大地神の申す事はもっともである。では、ここから後は人同士で決めさせようぞ。それであれば文句はあるまい』
一際美しい女神がそう言うと、大地神と呼ばれた女神とやらは、
『ネス様の御心のままに…』
決して我が助かった訳では無かった。
待ち構えた敵と戦わねばならなくなっただけだ。
「我らが聖なるネス様の御言葉ぞ! 皆の者、進軍だ!」
遥か彼方に見える敵軍の総大将と思しき男の声が、はっきりと聞こえた。
逃げ場はないのか? 元来た道を引き返せばよいのか?
足よ…我の足よ、動け! 動くのだ!
敵軍はわずかばかりの数しか居ない。
しかし先頭を走る、黒光りする鎧の大男は、その手に持つ巨大な剣を軽々と振るい、我軍の兵達を切り裂いていく。
1振りで数名の兵の命が散って行く。
その、暴れ狂う嵐のごとき男は、走る速度を落とす事なく、我軍の真ん中を突き進んで来る。
足よ、動け! 逃げねば!
あの男から、鬼神から逃げねば!
しかし、ついぞ我の足が動くことは無かった。
鬼神が兵を掻き分け、切り倒し目の前までやって来た。
もう逃げる事は出来ない…
「その鎧の紋章…皇国の将とお見受けいたす。いざ、尋常に勝負!」
身体がまるで岩になったかの様に、動かす事が出来なかった。
いや、もしかすると、神罰を目にした時から、この状態だったのかもしれない。
目だけは逃げ場を探そうと、左右に動かせた。
身体は動かせないのに、膝だけはガクガクと揺れていた。
そして口も動かず、言葉も発せ無かった。
「ふむ? 恐怖で身体が動かぬか。我が子、トールとは大違いよな」
すぐ傍までやって来ていた騎士が、苦笑いしながらそれに答えた。
「トールヴァルド卿は別格ですよ。何せ使徒様ですし。そもそも5歳で初陣でしたっけ? こいつ等とは、物が違いますよ、物が」
…使徒だと…そうか、この鬼神は、暗黒神様が仰っていた奴の父親か…
「確かにそうだな。では仕方がない。その首、ヴァルナル・デ・アルテアンが貰い受ける! 覚悟!」
最後に見たのは、迫りくる巨大な剣と、それを振るう鬼神の顔だった。
そこで我の意識は途絶えた。
永久に…。
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