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気付いてしまいましたか

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 色々と踏ん切りをつけた俺は、もう人として大切な何かを失ったかもしれないが、転移者達を切り捨てる事にした。
 そこに逡巡が無かったとは言わない。
 躊躇いが無かったとは言わない。
 感情が揺さぶられなかったなどと言うつもりもない。
 だが、俺はこの世界の為にやったんだ…などと、自分を誤魔化したりもしない。
 俺は人以外の生き物の命を断つ決断をしてしまったのだ。
 確かにこの世界は、彼等には生き辛い世界であるのは間違いない。
 そもそも輪廻転生システムのバグが起きなければ、こんな結果にはならなかっただろう。
 だから、決して俺だけの所為ってわけでも無いかもしれない。
 モフリーナは元々ダンジョンの管理者権限を有するマスターだ。
 ダンジョン攻略に来た冒険者たちの命を狩る側の立場だから、俺から転移者の命を断つように言われたところで、特に感情も動かないかもしれない。
 彼等の命は、魂のエネルギーとなり、巡り巡ってダンジョンのために費やされる事となり、それによってまた冒険者を呼び込む呼び水となる。
 その循環の輪を断ち切り、ダンジョンにとってより良い方策をした俺が、簡単に命を切り捨ててしまう決断が出来たという事実は、何か俺の中にどす黒い物が渦巻いているからなのだろうか…自分自身の事が良く分からない。
 頭の中を何かがずっとグルグルと渦巻いていて、自分の感情が上手く制御できない。
 さっきまでサラとお馬鹿な話をしていたはずなのに、ふとした瞬間に無言になると、最近はずっとこんな事を考えてしまっている。
 もしかすると、この決断をする事を、ずっと以前から俺は考えていたのかもしれない。
 その贖罪のために、転移者の一部を保護しようとか考えたのだろうか?
 考えてみれば、恐怖の大王の欠片を宿した転移者を、あんな手間暇かけて新しいボディーを与えて生かす必要はあったのだろうか? そのまま消してしまえば簡単だったはずなのに…。

 それを思いついた時、ふと何かに気付いた。
 おかしい…俺自身の思考と何かがずれている気がすると。
 何か俺の中に俺以外の者が棲みついていて、俺の思考や行動を誘導しているんじゃないか?
 いや、もしかするとその考え自体が、俺の行動を咎めるために俺自身が生み出した虚像なのか?
 しかし…いや、まさか…サラやリリアさんに読まれない様に、別思考に切り替えて考えてみたが、これはちょっと危険な兆候が見える気がして来た。
 当然、この思考も管理局には筒抜けなのだろう…それは仕方なくないが、仕方ない。
 いや、思い切ってリリアさんに打ち明けるべきか?
 俺の考えが正しければ…俺は…

 深く暗い思考の海で溺れかけていた俺は、リリアさんにその答えを求めていた。
 管理局からやってきた、輪廻転生管理局、現地活動用サイバネティックス・ボディ管理課に所属するリリアさん。
 サラの身体をメンテナンスするためにこの地へとやって来たと言っていたが、もしかして。
「リリアさん、ちょっと話があるんだけど、少し時間良い?」
 ナディア達妖精族と一緒になって転移者叩きをしていたリリアさんを、俺は呼んだ。
 ユリアちゃんは、モフリーナとサラとで遊んでいる様だ。あんまり2人には聞かせたくないから丁度いい。
「はい、どうかされましたか?」
「うん、ちょっと重要な話なんだけど…ちょっとこっちへ…」
 リリアさんを従えたまま、少しだけ皆から離れた。 

「ズバリ聞くんだけど…リリアさんって、サラのボディーの為だけに来たんじゃないよね?」
 ストレートに確認する事にした。
「……どうして、そう思ったのですか?」
 以前から、何かがおかしいと感じてたんだ。
 違和感というか何というか…
「まず第一に、俺の思考は常時監視されて記録されている。これは明らかにおかしいんじゃないかと思ってさ。同じ転生者は多数いるらしいけど、記憶を持って転生したのは俺だけだし、そもそも転生者1号だから仕方ないのかとも思っていたんだけど、違和感がぬぐえない。しかも、それはサラもリリアさんも見放題なんだろ?」
「ええ、見る事は可能です。それで?」
 リリアさんは、無表情のままだが、かえってそれが怪しく感じた。
「って事は、そもそも俺は管理局とアクセス出来ているんじゃね? 管理局長がわざわざ夢の中に出たり、俺が願ったら夢の中にやって来てくれたりしたけど、それってもしかして転生当時から出来た事だろ?」
 無表情を崩してはいないが、リリアさんの額がじんわりと汗で湿ってきたように見える。
「もしかすると、そうかもしれませんね」
「うん、それが1点。もう1点は、ガチャ玉。あれを使う時って、サラがナビしてくれて、管理局に許認可を取っているとか言ってたけど、それって必要なくね? 俺が管理局とアクセス出来るのは間違いないんだから、俺自身がやれば速いはずだろ? 今までだって何回も申請を却下されたり、変更を余儀なくされたりもしたけど…俺の意思でイメージを変えたりはしてないぞ。全部サラの頭の中で行われてた事だ」
 いよいよリリアさんの額にはっきりと汗が浮かんで来た。
「って事は…だ。サラが現地活動用サイバネティックス・ボディであるから、そのメンテにきたリリアさんなら、俺が何が言いたいのか、何を疑問に感じてるのか、もう理解出来たんじゃないか?」
 すると、今まで無表情のすまし顔だったリリアさんが、大きくふぅと息を吐き、少しばかり諦め顔で俺に言った。
「気付いてしまいましたか…。仕方がありません。貴方様に、全てお話ししましょう」
 そう言って、指ぱっちんすると、視界が一瞬で切り替わった。
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