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押し通る!

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 晩餐会に集まった人々は、俺の声で一斉に立ち上がり出口へと向かうアルテアン家を呆然と見つめていた。
 我が家の面々は誰も一切振り向かない。着替えもせずに、真っすぐに玄関へと向かう。
 俺が行動を起こす直前、ユズキとユズカに玄関まで車をまわす手配をサラに頼んでいたため、実にスムーズにこの腐れ男爵邸から脱出できた。
 実際の晩餐会の予定では、この後にサロンで酒を交わしながら談笑し、男爵家で宿泊する予定であったが、そんなものは全て無視してやった。
 
 もちろんこの男爵家の治める街も、夜間は街の出入りは原則出来ないのだが、そんな事は知らん!
 蒸気自動車が男爵邸の前から続くメイン通りを突っ切り、街の大きな木製の門まで着くと、俺は窓から顔を出し、
「開門せよ! 私はアルテアン子爵だ! アルテアン伯爵家と子爵家が急ぎ街を出る! すぐに開門せよ!」
 夜の街中に響くほどの大声で門兵に告げてやった。
 あたふたした門兵が詰め所から大量にやって来て、
「子爵様…夜間の街の出入りは、規則で禁止されております。無理に通ろうとされるのであれば、職務上拘束させて頂く事になってしまうのですが…」
 などと眠たい事を言ってきたので、俺は殺気を込めて答えた。
「では押し通るまで!」
 門兵は殺気に反応して、思わず剣や槍を手にして、俺達に向けた…向けてしまった。
「伯爵家と子爵家に対して剣を向けたな? この街は我が家の敵なのだな?」
 俺はそう言って車から飛び降りると、久々に…
「へん…しん…」
 俺の掛け声とともに、腰に我が相棒たる変身ベルトが出現する。
 そして、ベルトのシャッターが、カシャン! と開いて風車が回わる!
 ギュイーーーーーーーン! 俺の周囲に、キラキラとメタリックなエフェクトが舞い降り、身体に纏わりついて集まると僅か0.05秒で変身プロセス完了! 
 15歳になった俺は、今や身長170cmを超えている。本家にちょっとは近づけたかな? 子供の時は、めっちゃデフォルメキャラっぽかったからなあ。
 全身にシルバーに輝く鎧を身に纏った俺は、即座に腰から左手でナイフを引き抜く。
「エネルギーブレード…」
 瞬時にナイフが片手剣へと変わり、その刀身を右手でゆっくりと鍔元から剣先へと撫でると…青く輝く剣へと変わる。
「さて…お前らネス様の神具を賜っているのが俺だけだと思うなよ? コルネちゃん、メタモルフォーゼ! ユズキ、ユズカも来い!」
 車の中でコルネちゃんの『めたもるふぉーぜ!』という可愛い声がしたかと思うと、7色の眩い光が車の窓から溢れだし、純白仮面とドレスアーマーを纏ったコルネちゃんが顕現! 何かポーズ決めてる! めっちゃかわゆぃ! …んん、ごほん!
 ユズカとユズキも車を飛びおり乍ら変身すると、深紅の闘士と朱金に輝く鎧を纏いランスを持った戦乙女が降り立つ。
「ナディア、アーデ、アーム、アーフェン! シールドだ!」
 蒸気自動車の周囲に瞬時に展開される、7色のシールド。

 ゆっくり首を巡らし、全てを確認した俺は、門兵達に向きなおり言い放つ。
「アルテアンを…ネス様の使徒を舐めるなよ? さあ、命が惜しくば、この街の全兵力でかかって来い!」
「ひ…ひぃ!」
 エネルギーブレードで目の前に立つ兵士の槍を真っ二つにしてやった。
「オラー!」
 ユズキがダッシュして兵士の剣に拳を叩きつけ、粉砕する。
「そーれ!」
 ユズカの巨大な槍から飛び出す不可視の衝撃波が兵士の鉄の盾をひん曲げて吹き飛ばす。
 コルネちゃんはナディアに支えられて、車の屋根から可愛らしく魔法を使った。
「火の精霊さん、お願い!」
 コルネちゃんの身長より大きな杖の先から飛び出した火の玉が、集まって来た兵士達の目の前で爆ぜる。
 父さんも隠していた剣を手に、車の前で仁王立ちし、視線で牽制している…まあ、シールドがあるから誰も近づけないけど。 
 
 今回、ブレンダーとクイーンは家でお留守番しているが、ここに居たら…多分、大参事だったろうなあ…
 
 俺が、1歩また1歩と兵達へと向かい歩くと、兵達は1歩また1歩と後退る。
 ユズキとユズカがゆっくりと夜空へと舞い上がると、兵達の視線が俺とユズカ達と行ったり来たり。ん~~~俺も空飛べる装備を今度創ろう…

 人殺しなんざしたくない。ましてや職務に忠実なだけの兵士には何の罪も無い。
 だからこそ、ゆっくりじっくりねっとりと圧を強めて、兵士達の心を挫く。
「どうした、職務に忠実な兵士達よ? 俺達を拘束するんじゃ無かったのか?」
 俺がエネルギーブレードを振り上げ、ユズキの両拳が紅い闘気で包まれ、ユズカのランスの先でエネルギーが渦巻き、コルネちゃんの持つ杖の先が輝き始める。

 さあ、ぶっ放すぞ! っというその時、俺達の後ろから声がかかった。
「お、お待ちください子爵様! 我々に敵対する意思はございません」
 また大勢引き連れてきやがったな…本当に街の兵士を総動員してきたのか?
 振り返った先には、ちょっと豪華な鎧を纏った兵士が、大勢の兵を引き連れ立っていた。こいつが隊長かな?
「そうか? 先に剣と槍を向けたのは、そいつらだぞ?」
 どうやら兵達を引き連れて来たのは、隊長格の兵士のようで、
「誠に申し訳ありません。その責は私が負いますれば、どうか矛を収めて頂けないでしょうか…」
 すぐに膝をつき土下座をした隊長は、なかなか見どころがあるな… 
「どうか、この首でこの場を収めて頂きたく…何卒兵達へのお咎めは…」
 おっさんの首なんていらんよ。欲しいのはクソ豚男爵と取り巻きの首だけ。
「ふむ。我らとて徒らに職務に忠実な兵達の命を奪うつもりはない。ただ街を出たいだけだ。それが叶うならば矛を収めよう」
 するとその隊長っぽい兵士は、大きな声で、
「すぐに門を開けてアルテアン伯爵様とアルテアン子爵様御一行をお通ししろ! 急げ! 急げ!」
 
 俺達のやり取りを呆然と聞いていた門を背に立つ兵士達は、慌てて門の閂を引き抜き、門を開け放った。
 俺、ユズキ、ユズカ、コルネちゃんは変身を解き、蒸気自動車を覆っていたシールドも解除を終え車に乗り込むと、俺達はさっさとこの腐った街を後にする事にした。

 去り際に、先程の隊長格であろう兵士に一言だけアドバイスをしておいた。
「近いうちにこの男爵領と男爵に近しい者の領地に、王都から大規模な監査が入る。その結果が予想できるのであれば、迅速に行動に移す事だな」
 一瞬呆けたような表情をした隊長さんだったが、
「それは…もしや男爵様の行状に問題が…?」
「間違っても咎人に与する様な愚かな真似はしない事だ。監察官達は、徹底的にやるぞ? 言っておくが縁座では無く、連座になる可能性が高いぞ。つまりは主従関係にある者も、男爵と関係のある全ての者共が対象となる。お前に愛する家族がいるのであれば、どうするべきか自ずと答えは出るだろう?」

 隊長さんは、青い顔をしながらも、俺に願い出た。
「…子爵様…もし叶うのであれば、この街の民や兵を子爵様と伯爵様の領で受け入れて頂けないでしょうか…」
 他領の領民の大量引き抜き行為は、かなり法的に問題もあるのだが…
「難民であれば受け入れよう…よいな? 難民であれば…な」
 そう、難民の保護であれば何の問題も無い。
 ま、隣領から戦時でも災害でも無いのに難民なんぞ出る事は無いが、体面的に言い訳は必要だからな。
「なるほど…難民ですね…。では、また後日…どうかお気をつけてお帰り下さい」
 そう言って、隊長さんは兵達の所に戻り、良い笑顔で見送ってくれた。 
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