システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

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番外編:使用人はゆず&ゆず?

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 トールヴァルド達が、国王様からお城と言っても過言では無い屋敷をもらい、内部を確認に来た。
 執事のセバスが玄関扉を開けるその瞬間、扉がほんの少し開けられて外の光が差し込んだその時、ホールに出迎えの為に並んだ使用人一同の緊張は極限まで高まった。

 先の大戦において、敵軍の最奥に単騎で突撃し、三人もの将を討ち取り、一躍英雄として名を轟かせた現アルテアン伯爵。
 齢11で、聖なる女神の使徒として隣国との戦に参戦し、たった一人で死者ゼロで戦を収めた新たなる英雄であり、王国史上最年少で独立した貴族家を立ち上げた、神の子である現アルテアン子爵。
 王国の第四王女にして子爵様の婚約者である王女様に、隣国の姫巫女にして同じく婚約者の少女、そして平民でありながら子爵様を幼い時から支えて来た、同じく婚約者の少女。
 この英雄の一家を支える、女傑と名高い美しい伯爵夫人。
 それが己たちの主であるという事実は、誇らしくもあり、恐ろしくもある。
 武に長けた一家である。きっと脳筋だろうし、少しのミスでも厳しく責められるのではないかと恐れるのも仕方が無い事である。

 そんな中、使用人の列の端で、ヒソヒソと緊張感の欠片も無く小声で話すメイド服の少女と執事服の少年の姿があった。
「ねえ…あれが英雄様?」
「う、うん…すごいイケメンだな…あのちょっと赤い金髪、格好いいな!」
 黒髪で黒い瞳の2人は、周囲の緊張感もどこへやら、妙にリラックスしていた。
 いや、単に何も考えていないだけなのだろうか?
「でもさ…このお仕事に合格してよかったね~! 住む所もご飯もお給金もすっごくいいし」
「だよなあ~。僕たちに魔物退治とか出来ないし、商売って言っても手持ちがないもんな~」
「うんうん! 試験も簡単な計算とか礼儀作法とかだけだったから楽勝だったしね」
「礼儀作法か…僕は柚夏がそこで落ちるかとおもったよ」
「ひっどー! 私は柚希が計算で落ちると思ったよ!」
「オイコラ! 足し算と引き算しか問題出てなかっただろ! いくら何でも小1レベルで間違うかよ!」
「つーーーんっ!」
「ぐ…」
 どうも、ヒソヒソのレベルを大幅に上回った声量だったらしく、周囲のメイド達がクスクス笑っていた。
 皆の緊張が霧散し、良い感じにリラックスできたのは良い事だろうが、ハウスキーパーであるメイド長に、ギロリと睨まれてしまったのは、勤務評価としてはマイナスだったかもしれない。
 
 その話題の英雄様一家は…
「トール様、羨ましい、俺も欲しい、とか考えていませんか?」
「トールさま…何か不穏な事を考えていませんか?」
「あ…あの…トールさま、そういう考えは良くないと思います…」
 ものすごい美少女に、少年が責められていた。きっとあれが噂の子爵様と婚約者様達なのだろう。
「あ、あは、あはは、あははははははは……」
 引き攣った笑いの子爵様に、何故だか妙に共感できるものが、少年執事にはあった。
 その後、居間にて伯爵様が奥様に正座で怒られているのを見た時、やはり共感できる何かが確かにあった。
「どこでも女って怖いんだなあ…」
 少年執事は、しみじみと感想を呟いた。

 半年前、柚夏と柚希は、異世界からこの世界に転移してきたようだ。
 ようだと言うのは、良く知る異世界物転移物のラノベなどと違って、神様と会った覚えも、光り輝く魔法陣に吸い込まれたりもしていないからで、全くこれっぽっちも実感が無かったからである。
 ただ、確か自分達は休日にデートと言う程のものでもないが、2人で買い物に出かけた帰りの電車に乗っていたところまでしか記憶が残っていない。
 そんな事から、どうやら不思議な力で異世界に飛ばされたのか、死んでしまってこの世界に来たんじゃないかと考えたのだ。
 気付いた時には、2人はグーダイド王国という国の王都に、なぜか手を繋いでぼへっと立っていた。 
 そこそこ大きな食堂の前でなぜか立ちすくむ2人に声を掛けてくれたのは、その食堂の女将さん。
 2人から事情を聞いた女将さんは、泊まる部屋と給仕の仕事をくれた。
 多分、異世界転移とかわけがわからなかっただろう。よく信用してくれたもんだ。
 その後、この伯爵家の住み込みメイドと執事の公募を知り、試験を受けて、見事に倍率20倍を突破したのだ。
 一見すると頼りない2人だが、意外とやるもんである。

 翌朝、地球では引きこもり体質であった柚夏ではあったが、きちんと日の出と共に仕事を開始していた。
 もちろん朝早くから、「柚夏起きて! 朝だから!」と、起こしに来てくれる幼馴染の柚希のおかげでもあるが。
 2人は簡単に身支度を整えると、執事長のセバスさんの指示の元、それぞれ仕事を開始した。

 ふと庭を柚夏が窓から覗くと、子爵が素手で剣を持った女騎士と手合わせをしていた。
 その姿は、どこか心の中の何かにひっかっかった。
「ん~? なんだっけ…あれ…」
 手に書類を抱えた柚希が通りかかり、
「何、さぼってんだよ?」
「さぼってなんか…いえ…あれ見て?」
 言い訳しようとしたが、それより気になった窓の外の子爵の姿を柚夏に見せようと、指さした。
「お前な…雇い主を指さすな! 何があった…って、あれ空手じゃね?」
 そう、空手! この世界にも格闘技ぐらいは有るかもしれない。けどあの動きは、明らかに空手。
 手合わせの後、子爵は1人で空手の型の練習をしていた。
「もしかして、子爵様も転移? 転生者かも!」
 柚夏は、手に持っていた雑巾を放り出し、窓を開け放ちトールヴァルド子爵に向かって、
「子爵様って、日本人なんですか!?」
 特大の爆弾を投下した。
 あっちゃ~! と、片手で顔を覆った柚希だった。
 聞くにしても、もう少し時と場合を考えないと…本当、こついって後先考えないよなあ…と肩を落としていた。

 腰を落とし、右手を突き出した形で止まった子爵は、こちらを見るとニッコリと笑い、
「君たちは日本から来たのかな?」
 そう言うと、汗をタオルで拭きながら窓辺まで歩いて来た。
「「はい!」」

 私達、この屋敷で雇ってもらって本当に良かった! これが2人の偽ざる本心である。
 右も左も分からない異世界で、同じ日本から転生した子爵様の庇護下に置いて貰える事になったんだから。
「出来れば、将来は結婚して俺の領地と屋敷の管理を見て欲しい」
 妙に気が回る子爵様の言葉に、気恥ずかしくあったが、柚夏はすぐに「ハイ!」と返事をし、柚希はモジモジと返事が出来ず、柚夏のエルボーをわき腹に喰らって悶絶していた。
「2人共、日本の事は内緒だよ?」
 そう言って笑った子爵様を、2人はすごく頼もしく感じていた。
 

*番外編は、コラボ作品となっております。
  
ゆずちゃんねる ~二人の「ゆず」のラジオ番組!?~
作者 :月夜葵様 (カクヨム)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918288474

コラボさせていただいた作品です。楽しい作品ですので、是非読んでみてください。
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