システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児

文字の大きさ
上 下
84 / 1,466

親子ですね

しおりを挟む
 殺到する敵に半ば囲まれながら、孫三郎まござぶろう血刀けっとうを振るってそれを押し止めている。
 そしてまた一人、寄せ手の首筋を裂いて血煙を散らせたが、赤い飛沫ひまつの舞う空間に突如として黒い影が躍り込んできた。

 黒尽くめの、見慣れぬ甲冑――
 その存在を視認した瞬間、飛来した流れ星が孫三郎の刀を破壊する。
 刀を折り砕いたのは、星のような鉄球の付いた金砕棒かなさいぼうだ。

「クッ、南蛮渡来なんばんとらいのモルゲンステルンか!」
「ほぉ、よく知っておる」
「すると、お主が『明星みょうじょうの六郷』だな」
しかり。一矢万矢いっしばんしの副首領がひとり、六郷典膳信之ろくごうてんぜんのぶゆきだ。息絶えるまでの短い間、見知りおけ」

 孫三郎と同程度に大柄な六郷は、三貫(約十一キロ)はありそうな鉄製の鈍器を小枝のように軽々振り回している。
 頭から爪先まで全身を覆っている漆黒しっこくの甲冑も、武器と一緒に手に入れた南蛮からの品だろう。

 孫三郎の常識外れな驍勇ぎょうゆうに攻めあぐねていた盗賊達は、圧倒的な怪力を振るう六郷の優勢を見て取ると、再び攻勢へと転じ始めた。
 ガラクタと化した刀を捨てた孫三郎は、脇差を抜いて構える。
 勢いに乗った敵勢は、孫三郎の斬撃にも弥衛門の射撃にもひるまずに突出。

 六郷からの攻撃はひたすらに避け、他の連中の攻撃は脇差で受け流して対応するが、これでは先行きは相当に暗い。
 弥衛門の援護射撃はあるが、焦りで狙いが定まらないようで、効果は覚束おぼつかない。
 ここらが限界だと判断した孫三郎は、大きく踏み込んできた坊主頭の槍の柄を斬り飛ばし、つんのめった男の膝を蹴り砕きながら大声で告げる。

「弥衛門、アレの出番だっ! 準備を頼む!」
「りょっ、了解っ!」

 言われた弥衛門は、火縄を手にして少し離れた場所にある岩陰へと走り込む。
 そしてしばらくゴソゴソと作業した後、精一杯の大声で叫ぶ。

「準備完了、だよっ!」
「御苦労!」

 孫三郎は斬りかかってきた相手の腹に前蹴りを突き入れ、後続ごと押し返すと弥衛門の所まで駆け寄る。
 そして刃毀はこぼれの目立ち始めた脇差を鞘に収めると、岩陰に置かれた巨大でいびつな形状の火縄銃を抱え上げた。

 これこそが、かつて孫三郎が静馬に語った秘密兵器の正体で、今回の作戦の不安要素である人手不足への懸念を一掃した代物『野辺送のべおくり』。
 大筒おおづつ石火矢いしびやの類に近い形状だが、束ねられた七つの銃身から時間差で銃弾を放つ連発式のカラクリは、おそらく現在の日本で唯一無二だ。
 盗賊達は、今までに見たことのない奇妙な物体の出現に戸惑い、一瞬動きを止める。

まどうな、ハリボテに決まっている!」

 そう断言した六郷が堂々と進撃するのに励まされ、止まった足は再び動き出した。

「愚か者めが。得体の知れぬ相手に出会えば、野の獣ですら警戒するというに」

 憐れみを含んだ孫三郎の呟きは、野辺送りの発射音に掻き消された。

          ※※※

 荒い呼吸に釣られて千々ちぢに乱れる思考をなだめ、アトリは状況を分析する。
 周囲には少なくとも五人の敵、そして救援は期待できない。
 三人に致命傷を与えたのと引き換えに、四箇所の手傷を負っていた。
 どれも浅いとはえ、戦いの中で自分の血を見るのも数年ぶりだった。

 少なからぬ動揺を抑えつけ、この場を切り抜ける方法を探す。
 残った武器は手にした直刀と懐のクナイ、それと鉤縄かぎなわと――他には何があったか。
 どうにか光明を見出そうとするアトリだが、果てしなく降って来る斬撃と突きと矢弾に対処しながらでは、落ち着いた判断など望むべくもない。

「ふおるぁぁああ――があっ!」

 半端な気合と共に飛び込んで来た、毛むくじゃらな男の腕を斬り上げた。
 大型の斧が、両手に握られたまま空中を回転し、岩場へと突き刺さる。
 まだやれる、まだ大丈夫。
 だがいずれ、集中力は途切れる。
 その時が危ない。

 そんな警戒が心に湧いた瞬間、視界の隅に異物を捉えた。
 反応が間に合って叩き落したが、同じものがまた飛んでくる。
 針――吹き矢か。

 飛び道具は総じて厄介だが、吹き矢は予備動作が殆どなく、相手が仕掛けてくる呼吸が計り辛い上に、近距離から使われるので単純に避け辛い。
 二本目の針を転がるようにかわしたアトリだが、その行動によって更に足場の悪い場所へと追い込まれてしまう。

真行寺久四郎しんぎょうじきゅうしろう……あなたですか」
「ガキのお守りばかりでも、腕はなまってないみたいだなぁ、アトリよ」

 久四郎は兄の右近に似た顔立ちだが、まとっている雰囲気はまるで異なる。
 正に偉丈夫いじょうぶといった風貌ふうぼうの右近は剣の達人だが、久四郎は細面ほそおもてで、武家の出でありながら異形いぎょうの武器や暗器あんきの類を好んで用いる変わり者。
 そしてアトリにとっては、かつて同じ師に学んだ兄弟子でもあった。

「俺のやった刀をまだ使ってるとは、嬉しいじゃねぇか。使い勝手はどうだ?」
「遠からず、切れ味は身をもって知れるかと」

 含み笑いをしながら久四郎は妙な曲刀を抜き、アトリと正対する。
 それは、正確に分類すると刀ではない。
 兜割かぶとわりと呼ばれる、打撃を主とする武器だ。

 乱戦を得意とする久四郎と、この状況で対決するのは自殺行為に等しい。
 強気で応じながらも、その事実を認めざるを得ないアトリは、どうにか打開策を探ろうとするのだが、今は寄せ手への反撃で精一杯だ。

 突き込まれた長巻ながまきを払った直後、足場の岩が崩れて体勢が揺らぐ。
 そこを逃さず、反対側から槍が伸びてくる。
 アトリがそれを察知した時には、既に手遅れの間合いに詰められていた。
 敗北を予感し、反射的に両目を閉じかけた瞬間。

「もらったああああああ、あ? あぱっ――」

 アトリの頭上を飛び越えた矢が、勝利を確信した男の雄叫おたけびを封じる。
 口中を射抜かれた男は斜面を転落し、横腹を貫こうとしていた穂先ほさきは、アトリの左腕に薄い切り傷を負わせるだけに終わった。

「待たせたな、アトリ! 取り急ぎ、雑魚を蹴散らそうぞ」
かしこまりました、姫様っ!」

 ユキの登場で瞳に生気を戻したアトリは、あけに染まった直刀を構え直した。
しおりを挟む
感想 725

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~

はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま) 神々がくじ引きで決めた転生者。 「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」 って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう… まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか

処理中です...