君のためなら親でも殺す

小貝川リン子

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12 悔い

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 今日の体育の授業は持久走らしい。
俺は疲れるからあんまり好きじゃない。
しかも新年一発目の体育なのだ。
やる気が起きない。

でも授業の前に白石が
「持久走か~。なんか小学校の時もあったよねー。大変だけど、一緒に頑張ろう松本君」
と声を掛けてくれたから、頑張る。


 グラウンドに出た。
他の高校がどうなのかは知らないけど、ラッコーの持久走はグラウンドを無限にぐるぐる回るのだ。

授業の始めにみんなで一斉にする準備運動を終えた後、それぞれ自由に屈伸したりその場で足踏みしたりして走る準備を始めた。

俺もみんなと同じように腕を伸ばしてみたり、足首をくるくるしたりしていると、学校のジャージに身を包んだ白石が近くに来た。

粉雪と月酔も一緒だ。
この三人は結構仲良くしているらしい。

この学校には一応学校指定のジャージがあるが、体育祭などの行事でない時は自分の持っている運動用の服装で大丈夫ということになっていて、制服同様に学校のジャージ派と自分の服派で半々くらいに分かれている。
ちなみに俺は学校指定のジャージを着ている。

「やぁ松本君。調子はどうかね」
白石が軽く手を上げながら訊いてきた。

「普通かな。白石は……運動あんまり得意じゃないんだったっけ?」
小学校の頃、白石は体育の授業をよく見学していた記憶がある。

「んー。まあまあだね。二人はどうなの? 燈花ちゃんは動けそうな感じだけど」
白石が粉雪と月酔に訊いた。

粉雪が頷いて、自分のことのように誇らしげに言った。
「燈花ちゃんは文武両道の才女なんだよ。すごいよねぇ」

「そんなことはない」
月酔は表情も変えずにさらりと否定した。

「謙遜するね~」
白石が月酔の脇腹を肘でつつく。

「私は走るの遅いから持久走は苦手だなぁ」
粉雪は自信なさげだ。

「そう? じゃあ一緒に走ろうよ」
白石は粉雪の後ろに回り込んで肩を揉みながら提案した。

「え、一緒に走ってくれるの?」
「もちろん! この学校のやり方だったらゴールとかがあるわけじゃないし、せっかく自分のペースで走れるルールなんだから共に走ろうじゃないか」
「心強いっ」
粉雪は崇めるように白石を見た。

白石は得意げに胸を張って言った。
「ふふん。まぁあんまりネガティブに考えるのもよくないよ。ダイエットになるって考えればいいのさ。脂肪燃焼ォ!」

「ふふふ。天音ちゃん面白い」
粉雪が控えめに笑った。

月酔も少しだけ頬を緩めている。
月酔のこんな顔は初めて見るかもしれない。
まぁ元々あんまり関わりがないっていうのもあるけど。

俺はなんとなく白石が周囲に与える影響を実感した。
白石って太陽みたいな人だなぁ。

つい白石に見惚れていると、真後ろから声を掛けられた。

「まあ。松本君、両手に花どころか、お花畑にいるような状態だねぇ」
眠たげに間延びした声。
眠隊の部長、睡酒だ。

「あんまりお話に夢中になってると、先生から大目玉食らうかもよ~。ほら、見てる」
睡酒が振り返った方向に目をやると、体育の先生がこっちを見ていた。

「やべ、適当に準備運動してるふりしないと」
俺はとりあえず屈伸した。

「そうだねー。んじゃ私も。……にゅー」
「あ、天音ちゃん!? 何してるの!?」
粉雪が驚きの声を上げた。

白石が両膝を地面について、猫のように伸びを始めたからだ。

「んー? 猫的ストレッチだよ?」
白石は立ち上がると、今度は直立して膝を伸ばした状態で手を地面に着いた。

「わぁ。天音ちゃん体柔らかいねぇ」
睡酒が感心したように言った。

「本当だな」
月酔もなかなかやるな、というような目で白石を見ている。

「これは威嚇の運動だよー。シャー」
「あー。確かに猫ってそんな体勢で威嚇するかも。なるほどねぇ」
睡酒が納得したように頷いた。

「よーし。じゃあそろそろ始めるぞー」
体育教師の呼びかけで、俺たちはスタートラインに集まった。
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