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第十章 極上の男
第十章⑤ ♡
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一瞬意識が飛んでいた。はっと目を開ければ、息を切らした薫に抱きしめられていた。ふわふわの髪をそっと撫でてやれば、薫は嬉しそうに笑みを零した。
「しゃぶってやろうか」
「え~? な~に、急に。積極的じゃん」
「俺はいつも積極的だろ」
本音は、ただしゃぶりたかっただけだ。薫を口からも摂取したい。ただそれだけ。
「お前、ここだけは立派だかんなァ」
「ここだけって何さ。全部立派でしょ」
「ん……いっぱいかわいがってやんねぇと」
たった今まで己の体内に挿っていたものだとか、そういったことは一切思わなかった。逆に、気持ちよくしてくれてありがとうという、感謝の念が湧いてくる。
「は、っん……♡」
射精したばかりなのに、既に硬度を取り戻しつつある。竿を手で支えて、先っぽを舌先でくすぐってやれば、透明な汁がぷくりと浮き出てくる。精液と混ざって、苦いような塩辛いような味がする。これも薫の味だ。
「んむ……ふ、ンぅ……♡」
「肇……フェラしてるだけでそんなにエロいの反則でしょ」
薫は切羽詰まったように呟いた。肇は上目遣いに薫を見上げた。視線が絡み、ぞくぞくと腰が痺れる。己の痴態を前に薫が興奮している、その事実だけで興奮する。
「っ……そんなにされたら、またすぐしたくなっちゃうよ」
薫の声が熱を孕んでいる。触れているところから薫の熱と鼓動が伝わってきて、肇の胸も熱く高鳴った。
「ちょ、肇……! もう出ちゃうから、放し……」
出してほしい。全部飲みたいのだ。薫の全てが欲しい。胎だけでなく、腹の中も薫でいっぱいにしたい。
「も、マジで出る……っ、出すよ、肇!」
優しく頭を撫でてくれていた手に、ぎゅっと力が入る。頭を固定され、そのまま、喉の奥に熱く滾るものを注がれた。
「んン゛っ……♡」
目の前にチカチカと星が弾ける。口の中、喉の奥、胃の腑に至るまで、全てが灼き尽くされる。雄くさく濃厚で甘美な、男の欲望の迸りに、脳を直接揺さぶられる。神経が灼き切れて、薫の味しか分からなくなる。
「は、ぁ……んく……♡」
一滴たりとも零さないよう舌を遣って吸い上げて、喉に絡み付く白濁をすっかり嚥下した。舌の上から腹の底まで、肇の全てを薫が満たす。うっとりと唇を舐め、頬を染めて愉悦に浸る肇を前に、薫はごくりと喉を鳴らした。
「ねぇ……もう一回、いい?」
肇は、快楽に浮かされて焦点の定まらない瞳を彷徨わせ、しかしはっきりと薫の表情を捉えた。まるで餓えた獣のようだ。その眼に見つめられているだけで、肇の躰は浅ましくも恍惚に震える。けれど、そのことを薫に悟られたくないという最低限の理性はまだ残っている。
「……いいぜ」
精一杯、誘惑のポーズを取った。途端、噛み付くようなキスをされた。
「バックでしたい。いい?」
「鼻息荒くしやがって。何でも好きにしろよ」
「鼻血出してないだけマシでしょ」
「んなのただの童貞じゃねぇか」
ふかふかのベッドの上へ四つん這いにさせられて、獣のように交わった。後背位は嫌いじゃない。挿入が深く、激しく突かれるのは好みだった。
薫の手が前に回り、胸を鷲掴みにされた。痛いほど勃ち上がった乳首を摘まみ上げられ、押し潰されて、捏ね回される。そうしながら荒々しく揺さぶられて、いよいよ頭がおかしくなりそうだった。
「好きだよ、好き……僕だけのものだ」
熱っぽい吐息が首筋を撫でる。舌を這わされ、舐られる。微弱な電気の流れるような甘美な痺れが全身を駆ける。
胎の奥まで満たされて、一旦抜けていって、それが一瞬寂しいけれど、すぐにまた満たしてもらえる。何度でも繰り返し、空白がなくなるまで愛される。果てはなく、愛は尽きないと、何度も何度も教え込まれる。
こんなに幸せでいいのだろうか、と思うことがある。こんなに幸せで、いつか大きなしっぺ返しに襲われるのではないかと、今でも時々不安になる。
かつて心から愛した彼女を忘れたわけじゃない。声も匂いも表情も、あの時に交わした会話だって、一言一句鮮明に思い出せる。
自分だけが生き残って、自分だけが幸せになって、申し訳が立たないと思うこともある。けれど、彼女はそんなことで恨み言を言うような女ではなかった。肇の幸せを心から願ってくれる、まさに聖母のような女だった。母親ってのはきっとこういう人のことを言うのだろうと、肇は何度思ったか知れない。
いつまでも続くと信じていた幸福が突然奪われる絶望を知っているから、今でも時々不安になる。幸せすぎて怖いなんて、馬鹿げた話だと我ながら思う。
けれど、かつて真純の身代わりに死にかけてしぶとく生き残った薫を、肇は信じてみることにした。薫を信じると決めた過去の自分を信じて、肇は今を生きている。一緒にいればきっと大丈夫だという不思議な信頼が薫にはある。
十年の月日は長い。十年の月日を共にして、肇は一度も後悔していない。薫を選んだ自分は間違っていなかったと、胸を張って言える。だから、この先もきっと大丈夫だ。そう信じるに足る積み重ねが、二人の間にはある。
「俺も……愛してる」
幸と不幸は不可分ではない。幸せを享受して罰を当てる神様なんかいない。幸福に上限はなく、いつか磨り減って消えてしまうものでもない。未来に怯える必要なんてないということを、肇は薫から教わった。
「しゃぶってやろうか」
「え~? な~に、急に。積極的じゃん」
「俺はいつも積極的だろ」
本音は、ただしゃぶりたかっただけだ。薫を口からも摂取したい。ただそれだけ。
「お前、ここだけは立派だかんなァ」
「ここだけって何さ。全部立派でしょ」
「ん……いっぱいかわいがってやんねぇと」
たった今まで己の体内に挿っていたものだとか、そういったことは一切思わなかった。逆に、気持ちよくしてくれてありがとうという、感謝の念が湧いてくる。
「は、っん……♡」
射精したばかりなのに、既に硬度を取り戻しつつある。竿を手で支えて、先っぽを舌先でくすぐってやれば、透明な汁がぷくりと浮き出てくる。精液と混ざって、苦いような塩辛いような味がする。これも薫の味だ。
「んむ……ふ、ンぅ……♡」
「肇……フェラしてるだけでそんなにエロいの反則でしょ」
薫は切羽詰まったように呟いた。肇は上目遣いに薫を見上げた。視線が絡み、ぞくぞくと腰が痺れる。己の痴態を前に薫が興奮している、その事実だけで興奮する。
「っ……そんなにされたら、またすぐしたくなっちゃうよ」
薫の声が熱を孕んでいる。触れているところから薫の熱と鼓動が伝わってきて、肇の胸も熱く高鳴った。
「ちょ、肇……! もう出ちゃうから、放し……」
出してほしい。全部飲みたいのだ。薫の全てが欲しい。胎だけでなく、腹の中も薫でいっぱいにしたい。
「も、マジで出る……っ、出すよ、肇!」
優しく頭を撫でてくれていた手に、ぎゅっと力が入る。頭を固定され、そのまま、喉の奥に熱く滾るものを注がれた。
「んン゛っ……♡」
目の前にチカチカと星が弾ける。口の中、喉の奥、胃の腑に至るまで、全てが灼き尽くされる。雄くさく濃厚で甘美な、男の欲望の迸りに、脳を直接揺さぶられる。神経が灼き切れて、薫の味しか分からなくなる。
「は、ぁ……んく……♡」
一滴たりとも零さないよう舌を遣って吸い上げて、喉に絡み付く白濁をすっかり嚥下した。舌の上から腹の底まで、肇の全てを薫が満たす。うっとりと唇を舐め、頬を染めて愉悦に浸る肇を前に、薫はごくりと喉を鳴らした。
「ねぇ……もう一回、いい?」
肇は、快楽に浮かされて焦点の定まらない瞳を彷徨わせ、しかしはっきりと薫の表情を捉えた。まるで餓えた獣のようだ。その眼に見つめられているだけで、肇の躰は浅ましくも恍惚に震える。けれど、そのことを薫に悟られたくないという最低限の理性はまだ残っている。
「……いいぜ」
精一杯、誘惑のポーズを取った。途端、噛み付くようなキスをされた。
「バックでしたい。いい?」
「鼻息荒くしやがって。何でも好きにしろよ」
「鼻血出してないだけマシでしょ」
「んなのただの童貞じゃねぇか」
ふかふかのベッドの上へ四つん這いにさせられて、獣のように交わった。後背位は嫌いじゃない。挿入が深く、激しく突かれるのは好みだった。
薫の手が前に回り、胸を鷲掴みにされた。痛いほど勃ち上がった乳首を摘まみ上げられ、押し潰されて、捏ね回される。そうしながら荒々しく揺さぶられて、いよいよ頭がおかしくなりそうだった。
「好きだよ、好き……僕だけのものだ」
熱っぽい吐息が首筋を撫でる。舌を這わされ、舐られる。微弱な電気の流れるような甘美な痺れが全身を駆ける。
胎の奥まで満たされて、一旦抜けていって、それが一瞬寂しいけれど、すぐにまた満たしてもらえる。何度でも繰り返し、空白がなくなるまで愛される。果てはなく、愛は尽きないと、何度も何度も教え込まれる。
こんなに幸せでいいのだろうか、と思うことがある。こんなに幸せで、いつか大きなしっぺ返しに襲われるのではないかと、今でも時々不安になる。
かつて心から愛した彼女を忘れたわけじゃない。声も匂いも表情も、あの時に交わした会話だって、一言一句鮮明に思い出せる。
自分だけが生き残って、自分だけが幸せになって、申し訳が立たないと思うこともある。けれど、彼女はそんなことで恨み言を言うような女ではなかった。肇の幸せを心から願ってくれる、まさに聖母のような女だった。母親ってのはきっとこういう人のことを言うのだろうと、肇は何度思ったか知れない。
いつまでも続くと信じていた幸福が突然奪われる絶望を知っているから、今でも時々不安になる。幸せすぎて怖いなんて、馬鹿げた話だと我ながら思う。
けれど、かつて真純の身代わりに死にかけてしぶとく生き残った薫を、肇は信じてみることにした。薫を信じると決めた過去の自分を信じて、肇は今を生きている。一緒にいればきっと大丈夫だという不思議な信頼が薫にはある。
十年の月日は長い。十年の月日を共にして、肇は一度も後悔していない。薫を選んだ自分は間違っていなかったと、胸を張って言える。だから、この先もきっと大丈夫だ。そう信じるに足る積み重ねが、二人の間にはある。
「俺も……愛してる」
幸と不幸は不可分ではない。幸せを享受して罰を当てる神様なんかいない。幸福に上限はなく、いつか磨り減って消えてしまうものでもない。未来に怯える必要なんてないということを、肇は薫から教わった。
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