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第九章 湯煙温泉郷

第九章② ♡

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 一面の銀世界を見下ろす露天風呂。熱い湯を跳ねて、肇は腰を落とす。
 
「ん゛……♡」
「お腹苦しい? 夕飯多かったし」
「あんなんもう消化したし……そもそも、腹いっぱいは食ってねぇ、から……っ」
「真純に色々あげてたもんね」
 
 大人は懐石料理だったが、子供には子供向けのコースが別にあって、真純はそれを食べた。肇と薫の皿にはあって真純の皿にはない料理もあり、それらを真純が欲しがるので、肇は自分の皿から取って分けていた。
 
「あいつ、メロンまでねだってきやがって……」
「代わりにアイスもらったでしょ。冷たくておいしかったよね」
「お前も、真純に結構食われたろ」
「肇ほどじゃないよ。けど、次来る時は大人料金にしてもらった方がいいかもね」
「もう次の話か? 気が早ぇな」
「何回でも旅行したいじゃん。ここでもいいし、別のとこでもいいけどさ。また三人で」
 
 晴れた夜空に丸い月が揺れている。月影に照らし出された冬山は、深く雪が降り積もって真白に輝く。キラキラ光って、まるで星空が落っこちてきたよう。
 水面に映る月は、波に流され姿を変える。肇が腰をくねらすリズムに合わせて、満月から半月に、そして三日月に、新月に、再び満月に戻っていく。
 濡れた肌が重なる。甘い吐息が耳を掠める。肇の両手が背中に回り、薫をしかと抱きしめる。
 
「……こんなに縺れ合って、離れられなくなってるってのにな」
 
 肇が薫の耳を食む。鋭い歯の感触にぞくぞくする。
 
「離れられない?」
「そうだろ。こんなにねじくれた縁は、そうそうねぇよ」
 
 先程渡したお守りのことを言っているのだ、と薫には分かった。
 
「こんなに複雑に絡み合って、縺れ合って……そう簡単には解けねぇって、分かってるのに……」
 
 肇は深く息を吸い、吐息まじりに呟いた。
 
「もっと強い力で結ばれてぇと思っちまうのは、なんでなんだろうな」
「……」
「今更神頼みなんざ必要ねぇのに……やっぱ、いざとなると頼りたくなっちまうもんだな。先のことを、確かなものにしたくて……」
「……肇も僕と同じ気持ちってこと?」
 
 薫が言うと、「さぁな」と肇は揶揄うように笑い、唇を鳴らしてキスをした。赤い舌が暗がりに映えた。
 
「お前、あの場で渡せばよかったろ。なんで今なんだよ」
「だって、真純に先越されちゃったから……」
 
 神社でお守りを買ったのは薫だけではない。真純も、吟味に吟味を重ねてお守りを選んでいた。
 肇が「学業成就か交通安全か金運アップにしろ」などと脇から口を挟むので、「父ちゃんはあっち行ってて!」なんて怒っていた真純だが、結局それは照れ隠しであり、選んだお守りは肇への誕生日プレゼントだった。「ずっと元気でいてほしいから」ともじもじしながら差し出したそれは、健康長寿のお守りだった。
 
「あの時ちょっと泣きそうだったでしょ」
「っせぇな。勝手に見てんじゃねぇよ」
「横暴~」
「お前、真純に遠慮して渡せなかったのか」
「う……まぁ、そう……。親子の時間、なるべく邪魔したくないし。肇もしばらく噛みしめていたかったでしょ?」
「……ふぅん」
 
 肇は悪戯っぽく口の端を吊り上げると、ぎゅ、と意図的にナカを締めた。
 
「ちょっ、急になに!?」
「今は遠慮する必要ねぇんだろ? 俺とお前だけの時間だもんなァ」
「あ、ちょ、そんなにしたら……っ」
「遠慮してんじゃねぇよ。お前だけのために、俺の時間を使ってやるっつってんだ」
 
 誘われるままに、薫は肇を抱きしめた。唇を重ねて、深く舌を絡める。
 
 
 ちゃぷちゃぷと飛沫が上がる。白い湯気が立ち上り、星空に溶けて消える。どこまでも続く大自然。輝くばかりの銀世界が、今だけは二人のものだ。
 
「こうしてるとさ、青姦みたいだね」
 
 肇の尻を掴んで腰を揺らしながら、薫はしみじみ言った。
 
「逆にこういうのこそ青姦っていうのかな? マジに外でやるとか無理すぎだもんね。ねぇ、聞こえてる?」
 
 勢いよく奥を貫くと、肇はビクビクと腰を撓わせた。
 
「んぅ゛♡ ……は、ぁう……っ」
「青姦みたいで興奮しない? 僕はする」
「っ、ぁあ……」
 
 肇は浴槽の縁に手をついて、女豹のように高く腰を突き出す。もっとほしいとねだるように、いやらしく腰をくねらせる。体の半分以上は水の上に出ているのに、冷えるどころかますます熱く昂っていく。
 
「そんなに欲しいの? エッチ」
「ちがっ、も……はやくいけ、って……っ」
「僕はまだいいよ。もっと楽しみたいもん。けど、肇のことはイかせてあげるね」
「はっ? も、ぃ゛やっ……!」
 
 ぐりぐりと前立腺を擦りながら、背後から抱きすくめて乳首を苛めてやれば、癖のついた躰は容易く絶頂する。ナカがきつく締まるが、薫は肇のうなじを噛んで快楽を受け流す。首筋に歯を立てられた肇は、その痛みさえも快楽として敏感に拾い上げ、オーガズムを繰り返す。
 
「んっ、ゃ゛♡ あぁ……♡」
「ふふ、すっごい声。気持ちいね?」
「や゛、もっ、ぃ゛って……っ、いっでぅ゛、から……っ」
「連続絶頂ってやつかな。女の子みたいじゃん」
 
 薫が揶揄うと、肇は肩越しに薫を睨んだ。俺は腐っても男で、一児の父なんだぞ、というプライドが見え隠れする。けれど、愉悦に濡れた瞳では説得力がない。
 
「僕は、どんな肇も愛してるよ」
「は、ぁ゛……♡」
「照れ屋さんなところも、寂しがり屋なところも、快感に弱いくせに優位に立とうとするところも、ぜーんぶね」
 
 好きだよ、と優しく囁けば、肇は激しく躰を震わせた。
 
「エッチなとこももちろん好きだよ」
「ぅ゛、っせ、……だったらはやく、なかによこせよ……っ」
「……っ、言われなくても!」
 
 優しくしてあげようという気遣いが一瞬で崩れるほど、今の台詞はかなり効いた。薫は肇の腰を掴み直し、荒々しく腰を打ち付けた。
 
「あ゛っ♡ は♡ んぁ゛♡ ぁあ♡」
 
 だらしなく緩み切った口から唾液が垂れる。雄大な自然を前に、欲望のままに躰を繋げているなんて、まるで獣のようだ。
 
「けど、声ちょっと抑えようか」
「んん゛……っ!」
 
 薫は肇の口に指を突っ込んだ。今朝早かったし、昼間もよく遊んだから、真純は疲れてぐっすり眠っているだろうけれど、もし声が響いていたら後悔するのは肇だ。そうならないよう手を回しておくのも薫の務めである。
 
「んぅ゛、んっ♡ ふ、んン……っ」
 
 肇は悦んで薫の指を舐る。キスの代わりか、口淫の代わりなのか、丁寧に舌を這わせ、唾液を纏わせてしゃぶる。薫が肇の舌を指で挟んで軽く扱くと、肇はビクビクと身悶えた。
 
「こういうの好き? かわいー」
「ぅん、ん゛っ、んン……♡」
「もう、すごくエッチでかわいくて、ほんと大好き」
 
 夜風に当たっても、火照った躰の熱は冷めない。そっと肌を濡らせば、肇は悩ましげな声を漏らす。つんと尖った乳首から、ぽたりぽたりと雫が滴る。湯気の立つ上気した肌が、この上なく艶めかしい。銀の月明かりに照らされて、全てが惜しみなく曝け出されている。
 雪見の露天風呂、濛々と立ち込める湯煙に紛れて、心も体もたっぷりと満たされるまで、互いの熱を貪り尽くした。
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