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14 美術室で
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それから数日、私たちはかなりぎくしゃくしながらも、三人で過ごした。
凛子が私たちの間に入ってはいるけれど、秋穂と私が口をきくことはまったくなかった。
私は秋穂に話しかける気にはなれなかったし、向こうもそうなのだろう。
放課後はいつも、授業が終わると同時に、美術室に向かった。締め切りも迫ってきていたし、なにより三人でいるのは気まずかった。
美術室にいても、窓から外を眺めることはしない。秋穂と目が合うのは嫌だったし、また『キモい』だなんて言われたくなかった。
「私が……悪いのかなー。そんなことないよね?」
絵に話しかける。
『……う……』
あのときはあんなにはっきり聞こえたのに、最近はまた、かなりか細い声に戻っている。
ため息が漏れる。遅々として、絵は進まない。あんなに楽しく描けていたのに。
「……なんか、嫌な感じだよねえ」
そう話しかけていたときだ。
「あ、いたいた」
突然、背後から声がして、慌てて振り返る。
「せ、先輩っ?」
美術室の入り口、体操服のまま、小倉先輩が立っていた。
私の動揺にはまったく気付かない様子で、にこやかに微笑みながら、中に入ってくる。
……絵!
私は、椅子を蹴倒したり絵の具のチューブをばら撒いたりしながら、イーゼルとキャンバスを一緒に持ち上げて、先輩からは見えない方向に向けた。
絵のモデルとなった人に、こんな絵を見せられない。
私の様子を見ていた先輩は、小首を傾げている。
「……なに慌ててんの?」
「あ、や……、あの、下手っぴだし……」
「ヘンな風に描いてないだろーな? 俺のこと描いてるって聞いたけど」
「だ、誰にっ!」
すると先輩は軽く肩をすくめた。
「一人しかいないだろ?」
秋穂だ。いつの間に。
「……すみません……言おうかどうしようか……迷ってたんですけど」
完成するかどうかもわからないのに、わざわざ言うのもどうかと思ったのだ。
というのは言い訳か。
「いや、それは別にいいんだけどさあ。こないだのデジカメ、貸してくんない?」
本当に何も気にしていないようで、飄々と先輩は言った。
「デ、デジカメですか」
私は蹴り倒した椅子を起こしながら、あたりを見回す。
今、色んなものを落としたので、一緒に落ちたのではないかと心配したけれど、デジカメは落ちることなく、無事に脇の机の上に置かれたままだった。
動揺しながらも、デジカメを手に取り、先輩に差し出す。
「ど、どうぞ」
「ありがと」
手渡すときに、少しだけ手が触れて、飛び上がりそうになる。
先輩は、やっぱり何も気にならない様子で、デジカメを覗き込んでいた。
「あ、あの……。ビデオで撮ってたんじゃ」
「うん、撮ってもらってる」
秋穂に。
「でも調子良かったときのって、ここに入ってるじゃん」
「ああ……」
「比べるなら、どっちも見ないと」
なるほど。今まで気付かなかったけれど、比べるためなのだろう、ビデオを持ってきていた。
凛子が私たちの間に入ってはいるけれど、秋穂と私が口をきくことはまったくなかった。
私は秋穂に話しかける気にはなれなかったし、向こうもそうなのだろう。
放課後はいつも、授業が終わると同時に、美術室に向かった。締め切りも迫ってきていたし、なにより三人でいるのは気まずかった。
美術室にいても、窓から外を眺めることはしない。秋穂と目が合うのは嫌だったし、また『キモい』だなんて言われたくなかった。
「私が……悪いのかなー。そんなことないよね?」
絵に話しかける。
『……う……』
あのときはあんなにはっきり聞こえたのに、最近はまた、かなりか細い声に戻っている。
ため息が漏れる。遅々として、絵は進まない。あんなに楽しく描けていたのに。
「……なんか、嫌な感じだよねえ」
そう話しかけていたときだ。
「あ、いたいた」
突然、背後から声がして、慌てて振り返る。
「せ、先輩っ?」
美術室の入り口、体操服のまま、小倉先輩が立っていた。
私の動揺にはまったく気付かない様子で、にこやかに微笑みながら、中に入ってくる。
……絵!
私は、椅子を蹴倒したり絵の具のチューブをばら撒いたりしながら、イーゼルとキャンバスを一緒に持ち上げて、先輩からは見えない方向に向けた。
絵のモデルとなった人に、こんな絵を見せられない。
私の様子を見ていた先輩は、小首を傾げている。
「……なに慌ててんの?」
「あ、や……、あの、下手っぴだし……」
「ヘンな風に描いてないだろーな? 俺のこと描いてるって聞いたけど」
「だ、誰にっ!」
すると先輩は軽く肩をすくめた。
「一人しかいないだろ?」
秋穂だ。いつの間に。
「……すみません……言おうかどうしようか……迷ってたんですけど」
完成するかどうかもわからないのに、わざわざ言うのもどうかと思ったのだ。
というのは言い訳か。
「いや、それは別にいいんだけどさあ。こないだのデジカメ、貸してくんない?」
本当に何も気にしていないようで、飄々と先輩は言った。
「デ、デジカメですか」
私は蹴り倒した椅子を起こしながら、あたりを見回す。
今、色んなものを落としたので、一緒に落ちたのではないかと心配したけれど、デジカメは落ちることなく、無事に脇の机の上に置かれたままだった。
動揺しながらも、デジカメを手に取り、先輩に差し出す。
「ど、どうぞ」
「ありがと」
手渡すときに、少しだけ手が触れて、飛び上がりそうになる。
先輩は、やっぱり何も気にならない様子で、デジカメを覗き込んでいた。
「あ、あの……。ビデオで撮ってたんじゃ」
「うん、撮ってもらってる」
秋穂に。
「でも調子良かったときのって、ここに入ってるじゃん」
「ああ……」
「比べるなら、どっちも見ないと」
なるほど。今まで気付かなかったけれど、比べるためなのだろう、ビデオを持ってきていた。
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