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卒業式までのお話
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「一条捕獲!へへっ。タマちゃんに褒めてもらお~。」
三田くんの嬉しそうな声に、蹲った状態から起き上がった蓮琉くんは苦虫をかみつぶしたような顔で三田くんを睨みつけた。
「三田……てめぇ。何しやがる。」
サングラスをした三田くんは、呆れたように蓮琉くんを見ると、気だるげな声をだした。
「はあ?そこは暴走を止めてくれてありがとうって感謝してもらわないと割にあわねえんだけど。タマちゃん家に妹ちゃんを送ったのかと思ったら、家にいねえし。どこかに連れ込んでんのかと思って慌ててバイクで探しに出たら、ここの駐車場に一条の車を見つけたからさあ。この野郎書店デートかよ、羨ましいって急いで店内に入ったら店のど真ん中で獣が発情してっから。びっくりしたわ。マジで。」
三田くんの言葉に我に返った私は慌てて店内を見回した。
少し離れたところでオロオロしている店員さんに、通り過ぎていくお客さんから浴びせられる好奇の視線が改めて視界に入り、私はさらに声にならない叫びをあげた。
(う、うそっ。は、恥ずかしすぎるんですけど。この本屋さん二度と来れないかもっ。いやああっ!)
涙目になった私に、蓮琉くんもやっと今の周囲の状況に気がついたのか、気まずそうに周りを見回すと、コホン、と咳をした。
「……とりあえず移動するか。環はどうするって?」
「今からここに来るって。レンレンといっくんも一緒らしいよ。」
「いっくん……ってことは樹も来るのか。」
首のうしろに手を置いた蓮琉くんは、なにかを考えはじめたのかそのまま黙り込んでしまった。
三田くんはふと気がついたように、そばで震えている三人の女の子に目を向けると首を傾げた。
「あれ?この子達はなに?」
背の高い三田くんに訝しげに見下ろされて、体を固まらせた彼女達だったけど、三田くんがサングラスを外すとはっとした顔で声をあげた。
「モデルのHINATA?……っむぐ。」
「ごめんねぇ?ここで騒ぎになりたくないんだよねえ。いい子だから大人しくしようね?」
三田くんの手に素早く口をふさがれた女の子は、真っ赤になりながら頷いた。
さすが今をときめく人気モデル。
彼女達もいきなり現れた有名人が気になるけど、自分からは話しかけられないのか、ちらちらと三田くんを見ている。すると、三田くんはゆるい笑みを浮かべながら女の子達に声をかけた。
「なに?妹ちゃんの知り合い?それとも一条のセフレ?」
「アホか。マジ潰すぞ。」
「うわあ、怖い。ねえ、あの陰険王子は放っておこうか。でもほんとに君達はこの子とどういう関係?」
「あのっ。斎藤さんとは塾が一緒で……っ。」
彼女達も三田くんの人懐っこい様子に、少し表情をゆるめ、オズオズと答え始めた。観察していると、彼女達はあまり積極的に男の人にせまっていくタイプではないらしく、三田くんが話しかける度にアタフタしている。
蓮琉くんやお兄ちゃんのそばにいた私は今までも嫉妬されて絡まれることがあった。でもその相手はたいてい自分に自信があるタイプで、どうしてあなたみたいな平凡が?って責められることが多かったんだよね。
だから今日男を侍らせてる悪女って言われたことには驚いたし、少なからずショックだったんだ。
注目を集めていた店内を出て、私達はとりあえず駐車場に移動することにした。
ずっと楽しそうに話している三田くんと女の子達の後ろをついて行く。
確かに彼女達からは理不尽な言葉をかけられたのだけど、怯えた目でずっと見られるのはなんだか落ち着かないもので。彼女達の目から怯えがなくなったことに安堵した私はほっとため息をついた。
その様子を冷めた目で見ていた蓮琉くんは、私をじとりと睨んできた。
「なにほっとした顔してるの。」
「え?う~ん。」
「花奈がそんな顔するから、これ以上彼女達にきつく当たることが出来なくなってしまったんだけど。どうしてくれるのかな。」
「ふふっ。心配かけてしまってごめんなさい。守ってくれてありがとう。」
蓮琉くんの腕にそっと寄り添うと、私は笑顔で蓮琉くんを見上げた。蓮琉くんは私と目が合うと、顔を赤くしてよそを向いてしまった。
その様子は先程までの冷徹な表情は夢だったのかとでもいうように穏やかだ。
そっとつないでくる蓮琉くんの手を握り返していると、三田くんと彼女達の声が耳に入ってきた。
「へえ~。マユミちゃんって子はユカコちゃんの中学生の時の同級生なんだ。」
「はい。マユミは、中学生の頃から可愛くってクラスの中心にいるような子で。彼氏もいつもカッコイイ男の人を連れてました。女の子からは妬まれることも多かったと思うんですけど、不思議とイジメの対象からは外れてて。」
「あ~。マユミちゃんってそんな感じなんだ。」
その様子を何気なく見ていた蓮琉くんは引きつった声をだした。
「あいつ、諜報員の方が向いてるんじゃないのか?」
蓮琉くんが先程入手した情報が、三田くんの話術によってさらに詳しい情報として開示されていく。セクシーすぎるモデルとして一世を風靡している三田くんだが、その気になれば人の懐にするりと入る子犬のような面もあるのだ。
「マユミちゃんって苗字は?」
「神山……確か神山マユミだったと思います。」
その名前を聞いた蓮琉くんのこめかみがぴくりと引きつった。
私も驚きに目を見張る。
その名前は確か、一年生の時に同じクラスだった女生徒の名前だ。可愛らしい外見で、スクールカーストでも上位に位置する女の子だ。同じクラスの時もあまり話したことはないし、クラスの離れた今はさらに彼女とは接点がない。
「ふうん。神山マユミって名前の子なんだ。でもどうしてその子が妹ちゃんが悪い女だなんて意地悪言ったのかな。」
「ええと、確か好きな先輩がいるんだけど振り向いてくれないって言ってました。名前はわからないんですけど。」
「ふうん。罪作りな先輩は誰かなあ。」
三田くんと蓮琉くんの視線が音を立てて交差した。
蓮琉くんは顔をしかめると、ため息をついた。
「確かに在学中、声をかけてきた女生徒の中でその名前に聞き覚えがあるな。……参ったな。樹だけを怒れなくなった。」
「一条にもコナかけてたんだ。その子、俺にも声をかけてきたことあるよ。いいカラダしてたけど、なんだか面倒くさそうな気がしてイマイチその気にならなかったんだよね。」
「ああ。どうも裏がありそうな女だったからな。在学中は警戒してたんだけど。俺が卒業してから動くとはな。しかもこの子達を使うなんてまわりくどい方法で。それにしても今頃花奈のことを陥れていったい何がしたいんだか。」
「一条には手をだせなかったけど、いっくんだったら御しやすいとでも思ったんじゃない?見た目はイケメンだからねえ。今度は確実にしとめようって感じ?そういうギラギラした雌って嫌いじゃないんだけど、妹ちゃんに手を出すのはいただけないなあ。」
蓮琉くんと三田くんの話に、ユカコさんはおずおずと言った様子で、声を出した。
「それって……マユミが斎藤さんのことを私達にわざと悪く話したってことですか?」
彼女達は三人で顔を見合わせた。
三田くんは、肩をすくめると、目を細めて遠くを見た。
「さあね。確証はないよ。俺達の予測だから。でもあながち間違ってはないんじゃないかなあ。とりあえずはっきりしてることは、妹ちゃんが悪女だったら、俺は絶対手ぇだしてるってことかな。」
「……あぁ?」
三田くんの言葉に蓮琉くんが低い声をだした。
「何言ってんだか。どうしてそうなるんだよ。」
「え~?妹ちゃんが男をはべらせる悪女だったら、俺を誘ってくれるんでしょ?……うわ。イイ!すげえイイじゃん。想像しただけで俺のが反応しちゃったんだけど。どうしてくれるの?妹ちゃん。」
三田くんが妖艶な流し目をくれた。
彼女達も三田くんのセクシーフェロモンに顔を真っ赤にさせている。
私はとりあえずため息をついた。
「……はあっ。何言っちゃってるんですか。そういう冗談は私苦手なんですから。やめて下さいよ、ほんとにもう。」
「ええ~?俺はいつでも本気だよ?今から俺の家に来る?」
「男が女を家に誘う時は下心があるんですよね?三田くんが教えてくれたんですよね?私にはその気はないので三田くんの家には行きません。」
「ええ~。」
「ええ~じゃねえっての。お前のその下半身直結な頭どうにかならねえの?」
三田くんは蓮琉くんの肩に手をおくと、ナイショ話をするように蓮琉くんに顔を近づけた。
「まあ聞けよ。むっつり陰険王子。……ほら、想像してみ?タマちゃんの妹だから、俺達に自然に近づくチャンスはあるわけよ。そんでお兄ちゃんのお友達ですか?っとか言いながら媚びる感じですりよってくるわけ。そんで、お兄ちゃんにはナイショね?とか言ってのっかってくんの。」
「……っ。いや、そんなの俺の花奈じゃないから。お前のふざけんな。花奈でそんな卑猥な想像してんじゃねえよ。」
「……お前、絶対今想像したよな。」
「聞こえてますからね?私で勝手に変な想像しないでくださいよ!」
悲しいかなこの場には彼等を止めてくれるであろうお兄ちゃんも柴崎蓮もいない。
私は声を荒らげてつないでいた蓮琉くんの手を離した。蓮琉くんが寂しそうに手を見るけど、視界にいれないようにする。
その時、ふと蓮琉くん達にドン引きしている彼女達と目があった。彼女達は私と目が合うと、泣きそうな顔をして頭を下げてきた。
「あの、ごめんなさい。」
「私達、あなたの噂を鵜呑みにしてしまって。」
「あなたに酷いことを言ってしまった。」
彼女達は口々に謝罪を口にしながら、何度も頭をさげてきた。私は慌てて彼女達に向き合った。
「えっ。あ、あのっ。気にしないでください。樹くんのことホントに好きなんですよね。人を好きになる気持ちは止められないってわかってますから。」
「斎藤さん……。」
さらに泣きそうになった彼女達に焦った私は、さらに言葉を重ねた。
「いやあ、実は私も今回のことで考えさせられたというか。やっぱりお兄ちゃん達にずっと甘えてきてたのは本当のことなので。少し前向きに考えてみようかなと……っ。」
不意に背中に体重がかかった。
甘くてセクシーなフレグランスがふわっと香ってくる。
「へえ?どう前向きに考えるのかなあ。妹ちゃん。」
「え?……んむっ?」
後ろからのしかかかるように抱きついてきた三田くんが、私のあごをとると噛み付くようにキスをしてきた。舌をからめとるような深いキスに力が抜けてくる。ふらりとその場に座りこみそうになったところを蓮琉くんが抱きとめてくれた。
「おっと。……がっついてんじゃねえよ。バカ犬。花奈、大丈夫か?」
はふはふと息をしている私を、蓮琉くんは心配そうにのぞき込んできた。
すると、三田くんがむっとしたように蓮琉くんを睨みつけた。
「はあ?陰険野郎に言われたくねえし。だって妹ちゃん聞いても教えてくれないだろうからさあ。だったら体に聞くしかないよね?」
「……んんっ。三田くん、やめて下さいっ!……やあっ!」
三田くんが、私の耳をねっとりと舐め上げた。その後も周囲ことはお構い無しに私の体の至る所にキスを繰り返している。
彼女達は私と三田くんを顔を真っ赤にして見ていたけど、三田くんのねちっこさに次第に顔色を悪くしていった。今では完全にドン引きした目で私達を見ている。
私は蓮琉くんに助けを求めることにした。
私を抱きとめている蓮琉くんに縋るように手を伸ばす。
「蓮琉くんっ。助けて下さいっ!」
蓮琉くんは、そんな私と目があうと、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね?でも、俺も知りたいんだ。前向きに考えるって……何を考えたの?パンフレットを見た時何を考えた?」
「蓮琉くん。笑顔が黒いです……っ。」
「だって、花奈のことは全部知りたいからね。今日のことだって、まだ詳しく聞いてないし。じっくり聞かせてもらえるかな?ねえ。花奈?」
私は顔を引き攣らせた。
どうやら私は彼等の地雷を踏み抜いてしまったらしい。思わず近くにいる彼女達に助けを求める視線を送る。目があった彼女達はブンブンと音がしそうなほど首を横に振ると、ドン引いた顔をさらに引き攣らせてくるりと後ろを向いた。
「もう、斎藤さんにはかかわりませんからっ。」
「ごめんなさい~っ!」
口々に謝罪を叫びながら彼女達は蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。
その場に残されたのは、呆然と立ち尽くす私と、妖しく微笑む三田くんと蓮琉くん。
私はごくりとのどを鳴らした。
(いや、これどうしろと?)
三田くんの嬉しそうな声に、蹲った状態から起き上がった蓮琉くんは苦虫をかみつぶしたような顔で三田くんを睨みつけた。
「三田……てめぇ。何しやがる。」
サングラスをした三田くんは、呆れたように蓮琉くんを見ると、気だるげな声をだした。
「はあ?そこは暴走を止めてくれてありがとうって感謝してもらわないと割にあわねえんだけど。タマちゃん家に妹ちゃんを送ったのかと思ったら、家にいねえし。どこかに連れ込んでんのかと思って慌ててバイクで探しに出たら、ここの駐車場に一条の車を見つけたからさあ。この野郎書店デートかよ、羨ましいって急いで店内に入ったら店のど真ん中で獣が発情してっから。びっくりしたわ。マジで。」
三田くんの言葉に我に返った私は慌てて店内を見回した。
少し離れたところでオロオロしている店員さんに、通り過ぎていくお客さんから浴びせられる好奇の視線が改めて視界に入り、私はさらに声にならない叫びをあげた。
(う、うそっ。は、恥ずかしすぎるんですけど。この本屋さん二度と来れないかもっ。いやああっ!)
涙目になった私に、蓮琉くんもやっと今の周囲の状況に気がついたのか、気まずそうに周りを見回すと、コホン、と咳をした。
「……とりあえず移動するか。環はどうするって?」
「今からここに来るって。レンレンといっくんも一緒らしいよ。」
「いっくん……ってことは樹も来るのか。」
首のうしろに手を置いた蓮琉くんは、なにかを考えはじめたのかそのまま黙り込んでしまった。
三田くんはふと気がついたように、そばで震えている三人の女の子に目を向けると首を傾げた。
「あれ?この子達はなに?」
背の高い三田くんに訝しげに見下ろされて、体を固まらせた彼女達だったけど、三田くんがサングラスを外すとはっとした顔で声をあげた。
「モデルのHINATA?……っむぐ。」
「ごめんねぇ?ここで騒ぎになりたくないんだよねえ。いい子だから大人しくしようね?」
三田くんの手に素早く口をふさがれた女の子は、真っ赤になりながら頷いた。
さすが今をときめく人気モデル。
彼女達もいきなり現れた有名人が気になるけど、自分からは話しかけられないのか、ちらちらと三田くんを見ている。すると、三田くんはゆるい笑みを浮かべながら女の子達に声をかけた。
「なに?妹ちゃんの知り合い?それとも一条のセフレ?」
「アホか。マジ潰すぞ。」
「うわあ、怖い。ねえ、あの陰険王子は放っておこうか。でもほんとに君達はこの子とどういう関係?」
「あのっ。斎藤さんとは塾が一緒で……っ。」
彼女達も三田くんの人懐っこい様子に、少し表情をゆるめ、オズオズと答え始めた。観察していると、彼女達はあまり積極的に男の人にせまっていくタイプではないらしく、三田くんが話しかける度にアタフタしている。
蓮琉くんやお兄ちゃんのそばにいた私は今までも嫉妬されて絡まれることがあった。でもその相手はたいてい自分に自信があるタイプで、どうしてあなたみたいな平凡が?って責められることが多かったんだよね。
だから今日男を侍らせてる悪女って言われたことには驚いたし、少なからずショックだったんだ。
注目を集めていた店内を出て、私達はとりあえず駐車場に移動することにした。
ずっと楽しそうに話している三田くんと女の子達の後ろをついて行く。
確かに彼女達からは理不尽な言葉をかけられたのだけど、怯えた目でずっと見られるのはなんだか落ち着かないもので。彼女達の目から怯えがなくなったことに安堵した私はほっとため息をついた。
その様子を冷めた目で見ていた蓮琉くんは、私をじとりと睨んできた。
「なにほっとした顔してるの。」
「え?う~ん。」
「花奈がそんな顔するから、これ以上彼女達にきつく当たることが出来なくなってしまったんだけど。どうしてくれるのかな。」
「ふふっ。心配かけてしまってごめんなさい。守ってくれてありがとう。」
蓮琉くんの腕にそっと寄り添うと、私は笑顔で蓮琉くんを見上げた。蓮琉くんは私と目が合うと、顔を赤くしてよそを向いてしまった。
その様子は先程までの冷徹な表情は夢だったのかとでもいうように穏やかだ。
そっとつないでくる蓮琉くんの手を握り返していると、三田くんと彼女達の声が耳に入ってきた。
「へえ~。マユミちゃんって子はユカコちゃんの中学生の時の同級生なんだ。」
「はい。マユミは、中学生の頃から可愛くってクラスの中心にいるような子で。彼氏もいつもカッコイイ男の人を連れてました。女の子からは妬まれることも多かったと思うんですけど、不思議とイジメの対象からは外れてて。」
「あ~。マユミちゃんってそんな感じなんだ。」
その様子を何気なく見ていた蓮琉くんは引きつった声をだした。
「あいつ、諜報員の方が向いてるんじゃないのか?」
蓮琉くんが先程入手した情報が、三田くんの話術によってさらに詳しい情報として開示されていく。セクシーすぎるモデルとして一世を風靡している三田くんだが、その気になれば人の懐にするりと入る子犬のような面もあるのだ。
「マユミちゃんって苗字は?」
「神山……確か神山マユミだったと思います。」
その名前を聞いた蓮琉くんのこめかみがぴくりと引きつった。
私も驚きに目を見張る。
その名前は確か、一年生の時に同じクラスだった女生徒の名前だ。可愛らしい外見で、スクールカーストでも上位に位置する女の子だ。同じクラスの時もあまり話したことはないし、クラスの離れた今はさらに彼女とは接点がない。
「ふうん。神山マユミって名前の子なんだ。でもどうしてその子が妹ちゃんが悪い女だなんて意地悪言ったのかな。」
「ええと、確か好きな先輩がいるんだけど振り向いてくれないって言ってました。名前はわからないんですけど。」
「ふうん。罪作りな先輩は誰かなあ。」
三田くんと蓮琉くんの視線が音を立てて交差した。
蓮琉くんは顔をしかめると、ため息をついた。
「確かに在学中、声をかけてきた女生徒の中でその名前に聞き覚えがあるな。……参ったな。樹だけを怒れなくなった。」
「一条にもコナかけてたんだ。その子、俺にも声をかけてきたことあるよ。いいカラダしてたけど、なんだか面倒くさそうな気がしてイマイチその気にならなかったんだよね。」
「ああ。どうも裏がありそうな女だったからな。在学中は警戒してたんだけど。俺が卒業してから動くとはな。しかもこの子達を使うなんてまわりくどい方法で。それにしても今頃花奈のことを陥れていったい何がしたいんだか。」
「一条には手をだせなかったけど、いっくんだったら御しやすいとでも思ったんじゃない?見た目はイケメンだからねえ。今度は確実にしとめようって感じ?そういうギラギラした雌って嫌いじゃないんだけど、妹ちゃんに手を出すのはいただけないなあ。」
蓮琉くんと三田くんの話に、ユカコさんはおずおずと言った様子で、声を出した。
「それって……マユミが斎藤さんのことを私達にわざと悪く話したってことですか?」
彼女達は三人で顔を見合わせた。
三田くんは、肩をすくめると、目を細めて遠くを見た。
「さあね。確証はないよ。俺達の予測だから。でもあながち間違ってはないんじゃないかなあ。とりあえずはっきりしてることは、妹ちゃんが悪女だったら、俺は絶対手ぇだしてるってことかな。」
「……あぁ?」
三田くんの言葉に蓮琉くんが低い声をだした。
「何言ってんだか。どうしてそうなるんだよ。」
「え~?妹ちゃんが男をはべらせる悪女だったら、俺を誘ってくれるんでしょ?……うわ。イイ!すげえイイじゃん。想像しただけで俺のが反応しちゃったんだけど。どうしてくれるの?妹ちゃん。」
三田くんが妖艶な流し目をくれた。
彼女達も三田くんのセクシーフェロモンに顔を真っ赤にさせている。
私はとりあえずため息をついた。
「……はあっ。何言っちゃってるんですか。そういう冗談は私苦手なんですから。やめて下さいよ、ほんとにもう。」
「ええ~?俺はいつでも本気だよ?今から俺の家に来る?」
「男が女を家に誘う時は下心があるんですよね?三田くんが教えてくれたんですよね?私にはその気はないので三田くんの家には行きません。」
「ええ~。」
「ええ~じゃねえっての。お前のその下半身直結な頭どうにかならねえの?」
三田くんは蓮琉くんの肩に手をおくと、ナイショ話をするように蓮琉くんに顔を近づけた。
「まあ聞けよ。むっつり陰険王子。……ほら、想像してみ?タマちゃんの妹だから、俺達に自然に近づくチャンスはあるわけよ。そんでお兄ちゃんのお友達ですか?っとか言いながら媚びる感じですりよってくるわけ。そんで、お兄ちゃんにはナイショね?とか言ってのっかってくんの。」
「……っ。いや、そんなの俺の花奈じゃないから。お前のふざけんな。花奈でそんな卑猥な想像してんじゃねえよ。」
「……お前、絶対今想像したよな。」
「聞こえてますからね?私で勝手に変な想像しないでくださいよ!」
悲しいかなこの場には彼等を止めてくれるであろうお兄ちゃんも柴崎蓮もいない。
私は声を荒らげてつないでいた蓮琉くんの手を離した。蓮琉くんが寂しそうに手を見るけど、視界にいれないようにする。
その時、ふと蓮琉くん達にドン引きしている彼女達と目があった。彼女達は私と目が合うと、泣きそうな顔をして頭を下げてきた。
「あの、ごめんなさい。」
「私達、あなたの噂を鵜呑みにしてしまって。」
「あなたに酷いことを言ってしまった。」
彼女達は口々に謝罪を口にしながら、何度も頭をさげてきた。私は慌てて彼女達に向き合った。
「えっ。あ、あのっ。気にしないでください。樹くんのことホントに好きなんですよね。人を好きになる気持ちは止められないってわかってますから。」
「斎藤さん……。」
さらに泣きそうになった彼女達に焦った私は、さらに言葉を重ねた。
「いやあ、実は私も今回のことで考えさせられたというか。やっぱりお兄ちゃん達にずっと甘えてきてたのは本当のことなので。少し前向きに考えてみようかなと……っ。」
不意に背中に体重がかかった。
甘くてセクシーなフレグランスがふわっと香ってくる。
「へえ?どう前向きに考えるのかなあ。妹ちゃん。」
「え?……んむっ?」
後ろからのしかかかるように抱きついてきた三田くんが、私のあごをとると噛み付くようにキスをしてきた。舌をからめとるような深いキスに力が抜けてくる。ふらりとその場に座りこみそうになったところを蓮琉くんが抱きとめてくれた。
「おっと。……がっついてんじゃねえよ。バカ犬。花奈、大丈夫か?」
はふはふと息をしている私を、蓮琉くんは心配そうにのぞき込んできた。
すると、三田くんがむっとしたように蓮琉くんを睨みつけた。
「はあ?陰険野郎に言われたくねえし。だって妹ちゃん聞いても教えてくれないだろうからさあ。だったら体に聞くしかないよね?」
「……んんっ。三田くん、やめて下さいっ!……やあっ!」
三田くんが、私の耳をねっとりと舐め上げた。その後も周囲ことはお構い無しに私の体の至る所にキスを繰り返している。
彼女達は私と三田くんを顔を真っ赤にして見ていたけど、三田くんのねちっこさに次第に顔色を悪くしていった。今では完全にドン引きした目で私達を見ている。
私は蓮琉くんに助けを求めることにした。
私を抱きとめている蓮琉くんに縋るように手を伸ばす。
「蓮琉くんっ。助けて下さいっ!」
蓮琉くんは、そんな私と目があうと、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね?でも、俺も知りたいんだ。前向きに考えるって……何を考えたの?パンフレットを見た時何を考えた?」
「蓮琉くん。笑顔が黒いです……っ。」
「だって、花奈のことは全部知りたいからね。今日のことだって、まだ詳しく聞いてないし。じっくり聞かせてもらえるかな?ねえ。花奈?」
私は顔を引き攣らせた。
どうやら私は彼等の地雷を踏み抜いてしまったらしい。思わず近くにいる彼女達に助けを求める視線を送る。目があった彼女達はブンブンと音がしそうなほど首を横に振ると、ドン引いた顔をさらに引き攣らせてくるりと後ろを向いた。
「もう、斎藤さんにはかかわりませんからっ。」
「ごめんなさい~っ!」
口々に謝罪を叫びながら彼女達は蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。
その場に残されたのは、呆然と立ち尽くす私と、妖しく微笑む三田くんと蓮琉くん。
私はごくりとのどを鳴らした。
(いや、これどうしろと?)
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